114:鈴村さんのドタバタとジャパンカップとか?
「うわ~~~、疲れたよ。慣れない事するとすっごく疲れるよ」
競馬協会からの要請という名の圧力で、香織はここ最近ちょこちょことイベントやテレビ番組に出演していた。
秋の天皇賞による集客は、競馬協会の想定以上の結果を齎した。馬券の売り上げは勿論の事、マスメディア関係における収入、競走馬関連のグッズ収入など、近年低迷していた競馬人気をミナミベレディーやタンポポチャ、そして日本の競馬界初となる女性騎手によるGⅠ制覇など話題には尽きない。
マスメディアなどの対応が苦手な香織であったが、有馬記念へ向けて一層のテコ入れを図りたい競馬協会が放っておく訳が無かった。
「平日だって暇な訳じゃ無いんだよ?」
週末はレースへの騎乗で競馬場に缶詰めになる香織であったが、平日は平日で自身のお手馬の調教を行わなければならない。サクラヒヨリも本来は放牧の為に栃木県にある牧場へと移送されるはずだったのだが、武藤厩舎の方針で年明けのアメリカジョッキークラブカップへと出走する事が決まった。
「確かにあんまり放牧期間が長いとレースで走らないよね」
ミナミベレディーは長期放牧後のレースでは勝ちに恵まれていない。もっとも、肝心のGⅠではこれだけ勝てているのだから、そう考えるとレース間隔や長期放牧を警戒するのは判らなくはない。
「でもヒヨリの調教とベレディーの調教、それ以外の馬もレース前はしっかりと自分で手応えは掴みたいし」
そもそも現在、香織のお手馬はミナミベレディーとサクラヒヨリ以外にも3頭に主戦で騎乗している。内の2頭は4歳馬と5歳馬でまだ3勝出来ずにいるが、掲示板には載せる事が出来ている為に馬主からはそれなりの評価を得ていた。残りの1頭は3歳牡馬であり、先日ようやく3勝を挙げる事が出来た。
「真面目にテレビとかそういうのは勘弁してもらいたいなあ」
香織はそんな馬達の調教も行わなければならない為、まさに休みなしの状況が続いている。今までにそういった経験が無い為、手の抜きどころが判らない。香織は肉体的にも精神的にも疲労が積もりに積もって来ていた。
それでも、最優先はミナミベレディーとサクラヒヨリであるのに変わりは無いのだが。
「ブルルルン」
「ブヒヒヒヒン」
最近では疲れた気持ちを癒すために、サクラヒヨリの為に録音していたはずの、ミナミベレディーの労わりの嘶きや、激励の嘶きを家に帰ると流していたりする。
「はあ、何か癒される気がするけど・・・・・・色々と末期な気もするわ」
早く今の状況を何とかしたいと切望する香織であった。
◆◆◆
秋も深まり、東京競馬場では多くの競馬ファンが集まり、外国産馬も交えてのジャパンカップが開催されようとしていた。
今回のジャパンカップでは秋のGIを出走した有力馬プリンセスフラウ、ファイアスピリット、トカチマジックは有馬記念へ直行ということで出走回避しており、外国産馬はもともと競馬ファンに馴染みが薄いこともあって、秋の天皇賞ほどの盛り上がりには到底及ばなかった。
「それでも、例年に比べれば多いけどね」
「競馬人気が少しは回復してきたからな。しっかし、牝馬の出走が此処まで多いとはな、7頭だぞ」
「今年は牝馬強しですから」
自身のお手馬であるファイアスピリットの出走回避で乗鞍のない立山は、苦笑いを浮かべながら引き続きジャパンカップへ騎乗する鷹騎手と騎手控え室で雑談をしていた。
「1番人気はシニカルムールか、外国産馬もこれといって強い馬はいないな。これなら鷹の乗るキタノシンセイでもワンチャンあるな。しっかし、このメンバーだったらプリンセスフラウはジャパンカップに出してもよかったんじゃないかね」
「そうしてくれたら助かりましたけどね、ただプリンセスフラウは念願のGⅠタイトルを獲りましたから間違いではなかったんじゃないですかね。それよりファイアスピリットも出走させれば良かったんじゃないですか?」
「さすがに3連覇の偉業を前に無理はさせられんよ。もっとも、ファイアもこれで引退だがな」
立山騎手の言葉に、先のエリザベス女王杯での負けが現在の複雑な状況になっている鷹騎手は、思わず苦笑を浮かべる。
「で、出るんだろ? 有馬記念に」
決してどの馬でと口にはせず、立山騎手は鷹騎手へと確認を入れる。
「出ることになりそうですね、オーナーはその気ですし、競馬協会がそれを後押ししています。あとはマスメディアや競馬ファン、磯貝調教師が何とか出走を考え直してもらおうとしましたが、無理そうですね」
「人間の都合を馬に強いるのは好きにはなれないが、今回は馬も走りたいといいそうだ。それだけに何が間違いとは言えんが」
「そうなんですよね、逆にあちらが出走しなければ普通のレースで終わりそうですが。まああちらは回避する理由もなさそうですし」
「適距離だからなあ」
鷹騎手の言葉に、立山騎手も苦笑を浮かべる。
もっとも、その立山騎手とてファイアスピリットの3連覇という偉業がかかっている。それ以上に今年一年善戦したとはいえGⅠをひとつも勝たせてやれなかった事に忸怩とした思いがあった。
「まあ、有馬記念は任せておけ、俺が3連覇で締めくくってやるさ」
「それは阻止させてもらいますよ。出るからにはタンポポチャに有終の美を飾ってやりたいので」
二人はそう言ってお互いに視線を合わせ、不敵な表情を浮かべるのであった。
◆◆◆
「各馬ゲートに納まりまして、今スタート! 先頭に立つのは4番プリンセスミカミ、そのすぐ後ろにはアップダウンヒル、そのすぐ外に・・・・・・。
最後の直線、先頭は依然プリンセスミカミ、しかし後方から一気に差をつめてきたラトミノオト! 残り200Mで前を走る馬を一気にかわし先頭に立った! ラトミノオト、そのまま他馬を差しきり先頭でゴール! 1着7番ラトミノオト、2着にパインマスカット、3着・・・・・・」
東京競馬場でジャパンカップが開催される日、阪神競馬場ではプリンセスミカミが牝馬限定芝1600M、白菊賞を走っていた。
そして、ミナミベレディーやサクラヒヨリの人気のおかげもあり1番人気であったが残念ながら6着に沈んだのだった。
「途中までは悪くなかったんだが」
「抜かれたとたん一気に走る気を無くしましたか?」
モニターでレースを見ていた太田調教師は、腕を組んで顔をしかめる。
レース自体は淡々とした感じで進み、タイム自体も早くもなく、遅くもないレースだった。太田調教師としては、プリンセスミカミの持久力で先頭を走らせ、最後の直線でこの馬の持ち味でもある末脚で他馬を引き離してゴールするつもりであった。
「このメンバーなら勝てないまでも勝ち負けは出来ると思っていたんだがなあ」
「調教の感じでは悪くなかったのですが、思うようにいきませんね」
調教助手も想定していた以上の惨敗に首を傾げる。
「芝の1600Mが短すぎるという訳でもないんだがな。見ている限りでは悪くないんだ」
調教で走っている様子を見ても、他馬にそうそうひけを取るようには見えない。それでいてレースではぜんぜん走らないのだ。
「馬がまだ若いという事なんでしょう」
調教助手の言うことに頷かざる得ないが、そこでやはり気になってくるのは美浦トレーニングセンターにいるサクラフィナーレの存在であった。そして、更には今年の当歳であるサクラハヒカリの産駒牡馬を桜川氏が購入し武藤厩舎に預けたという話だ。
サクラハキレイの産駒は牡馬は走らないが通説であったが、武藤調教師が牧場へ訪問した際に気に入り桜川氏に勧めたという。その事を聞いた太田調教師は最初は特に何も思わなかったが、此処にきてサクラフィナーレの様子と、武藤厩舎の事をやたらと気にするようになっていた。
「何でここまで勝てないのか全然わからん!」
思わず声が大きくなってしまうほどに、太田調教師にとって今のレースの結果は不本意であったのだった。
お待たせしてしまって申し訳ありません。
もうしばらく不定期が続くと思います。申し訳ありません><
ジャパンカップといいながら、結果がないw
裏開催の白菊賞・・・・・・プリンセスミカミはまた勝てませんでした。
覚醒イベントが必要?




