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104:秋の天皇賞 表彰式他

 秋の天皇賞の表彰式は、表彰式を行うウィナーズサークルの内と外では漂っている空気が明らかに違った。天皇賞春秋制覇を為したミナミベレディーを一目見ようと、多くのファンが熱い眼差しを送るのに対し、内側にいるミナミベレディーの関係者達はレース後の状態が良くない事を理解しており、喜びよりも心配する気持ちの方が強い。

 普段は大騒ぎする桜花ですら今日は大人しく、秋の天皇賞のレイを身に纏ったミナミベレディーが連れられてくるのを待ちわびていた。


 う~、早く横になりたいよ~。


 体を綺麗に洗って貰って、脚の状態などを競馬場にいる獣医さんに診て貰って、何かスッとする軟膏みたいなのを塗られながら、私はゴロンと横になりたい欲求と戦っています。


 今日は桜花ちゃんが来ているので、レースに勝てたから桜花ちゃんの喜ぶ顔が見られるかな?

 それだけが今の私の原動力です。そうで無ければさっさと横になって寝たいです。


「トッコ、大丈夫? どこか痛い所は無い?」


「ブフフフン」(わ~い、桜花ちゃんだ~)


 表彰式の会場に来ると、桜花ちゃんがお洒落なワンピースを身につけて待っていました。高校はもう卒業したので制服じゃ無いんですね。ただ、何と言いますか、もう少し日焼けを気にした方が良いよ?


 桜花ちゃんはこんがり焼けて小麦色になっています。


 牧場のお手伝いとかもあるし、仕方が無いのかな?


「ブルルルン」(頑張ったんだよ!)


 桜花ちゃんが久しぶりに来てくれたんだから、やっぱり頑張らないとですよね。


 褒めて褒めてと鼻先を桜花ちゃんに擦り付けました。


「トッコ頑張ったね。おめでとう、無事で良かった」


 普段はギャーギャー抗議してくるはずの桜花ちゃんですが、今日は嬉しそうな表情で、私の鼻先を撫でてくれます。


「ブルルルン」(桜花ちゃん、大人になったね)


 普段は飛び跳ねて喜ぶ桜花ちゃんが、今日はお澄ましさんです。私はいつもと変わらず桜花ちゃんに出会えて、嬉しくて先程から馬なのに尻尾がブンブンと回っていますよ。そして、桜花ちゃんが鼻先を撫でてくれると、思わず目を細めちゃいます。


「本当に今日は頑張ったね。トッコは凄いね」


「ブヒヒヒヒン」(わ~~い、褒められた!)


 私が喜ぶと、桜花ちゃんが首に両手を捲きつけて抱き着いてきます。

 そのまま私の首にお顔を埋めて、小さな声で囁きました。


「居なくなっちゃうかと思ったんだからね、無理しちゃ駄目だよ」


「ブフフン」(うん、気をつける)


 そう言いながら、今日はちょっと無理しちゃったかなと思う。

 あまり無理して怪我しちゃったら意味ないもんね。でも、桜花ちゃんがせっかく来てくれたんだから、今日は勝ちたかったの。


 桜花ちゃんがちょっと顔を離したところで、何となく目元もなのでベロンとお顔を舐めてあげた。


「ちょ、トッコ! まだ表彰式があるのに~~!」


「ブヒヒヒン」(桜花ちゃんは元気なのが良いのよ)


 やっぱり元気に騒いでいる桜花ちゃんが一番ですよね。


◆◆◆


 馬主席でも、スタンド席においても、ミナミベレディーがゴールを駆け抜けた瞬間怒号のような歓声が上がった。まさにこの場に居た人達すべてが、歴史的な瞬間に立ち会ったのだ。


「おおおお! 差した! 差し切った! 牝馬で同一年度の天皇賞春秋制覇だ! 凄い、凄いぞ!」


 馬主席で観戦していた大南辺は、全身で感動を顕わにしていた。


「これ程の馬の馬主になれるなぞ・・・・・・」


 思わず呟いた言葉は、その後の続きが出てこない。大南辺は、ただただ上を向き涙を堪えるのだ。


「大南辺さん、おめでとうございます。まさに競馬史に刻まれる偉業ですわね」


「あ、十勝川さん、ありがとうございます」


 そんな大南辺に声を掛けて来たのは十勝川だった。十勝川所有のトカチマジックを最後は抜き返しての勝利の為、若干バツが悪い思いはあるが大南辺は素直にお礼を言う。


「最後の直線、ミナミベレディーの末脚は思わず背筋が寒くなりました。本当に凄い馬ですわね」


「その、何と言いますか、馬見調教師が言うにはミナミベレディーは少し限界を超えて走ろうとする馬なんだそうです。その為、私としては嬉しい反面ちょっと心配なんですが、何と言っても初めて私にGⅠ勝利を齎してくれた馬ですから」


 大南辺は、心配と言いながらも全身から嬉しさを滲ませている。


「本当に素敵なお馬さんですわ。北川さんともお話を進めていますけど、ぜひ次世代へと引き継いでほしいと思いました。提携の件、更にお話を深めたいですわ」


「そうですな、桜川さんも興味を示されていましたし、私もベレディーに恩返しをしないといけませんから。あとですね、花崎さんも出来れば一口噛みたいと、あそこのタンポポチャ号はミナミベレディーと仲が良いですから、出来れば一緒の牧場でと考えているみたいです」


「あら、でもタンポポチャ号の生産牧場は」


 タンポポチャの生産牧場は、まさに日本を代表する牧場の一つだった。その牧場ではなく北川牧場、または十勝川ファームに関連する牧場へとなると色々と面倒そうではある。


「まあタンポポチャ号の契約では、引退後の事は記載されていないそうですが。ただ、ここまで実績を残していると確かに厄介そうですね」


 そう言って苦笑をする大南辺ではあるが、あくまでも馬主である彼はその先の面倒さが今一つ判っていない。


「まあ、タンポポチャ号の事はもう少し後でも良いですわね。まずはミナミベレディーの事に集中致しましょう」


 そう言って苦笑する十勝川であったが、そこで今日の5Rにミナミベレディーの全妹、サクラフィナーレが出走していた事を思い出した。


「そういえば、5Rの新馬戦でもサクラフィナーレが勝利を収められましたね。桜川さんにお会いできるかと思ったのですが、お見えにならなくて」


「ああ、確かご子息の学校の行事で来れないと、凄く残念そうでした」


 そう言って笑う大南辺だが、まさか十勝川がミナミベレディーの全妹、しかもまだ新馬を気にしていたとは思わなかった。


「桜川さんから、中々にデビューできないとお聞きしていて、5Rにお名前があったのでそれで注目していたんですよ」


 サクラフィナーレは先行策からの粘り勝ちで無事に勝利を収めていた。


「ええ、私も注目してました。聞いていたのと違い、しっかり粘り勝ちしていましたから、やはりベレディー達に似た走りで期待が持てそうです」


 大南辺も自身の持ち馬ではないながらも、同じサクラハキレイ産駒という事でその勝利を素直に喜んでいた。そんな大南辺を十勝川は朗らかに見ながら、話題を変える。


「そういえば、本日は奥様同伴ではないのですね」


「ええ、勝てば歴史的な瞬間だからと誘ったのですが、他の集まりがあるとかで振られまして」


 そう言って苦笑する大南辺に、あの奥さんならそんな事もあるわねと思う十勝川だった。


◆◆◆


「いやぁ、負けた、負けた、あの馬は凄いな」


 騎手控室に帰って来た立山騎手は、同じく戻って来た鷹騎手に声を掛ける。


「いやあ、こっちもベストの騎乗を心掛けたつもりですが、相手にもならなかったですね」


 鷹騎手としては、キタノシンセイの能力から言っても厳しいレースになる事は判っていた。そこで、レース全体をコントロールする為に先頭に立ちスローペースに持ち込むつもりでいた。


「今回は予想外の展開過ぎたな、まさかオーガブラザーが頭をとりに行くとは。もっともあの馬もミナミベレディーの頭を押さえに行ったんだろうが」


 立山騎手も鷹騎手もミナミベレディーを好きに走らせれば一発はあると思っていた。もっとも、立山騎手としては高速レース大歓迎でいたし、逆に鷹騎手としてはスローペースを望んでいた。結局の所は、先行馬の騎手達はスローペースを、追い込み馬の騎手達はハイペースを願ったのだ。


 そこでまさかの頭を押さえに行った馬が2頭、ブラックスパロウとオーガブラザーだった。

 一頭であればミナミベレディーもすんなりと先頭を譲ったのではないだろうか? そう思う立山だった。


「金鯱での負けがここで祟ったんだろうなあ、囲まれる事を極度に恐れた結果だな。ただよ、あれでミナミベレディーは負けたなと思ったんだが、まさか差し返すとはな」


「ですね、ロンメルも吃驚したと思いますよ? どう考えても余力が残っているはず無いですからね」


 二人揃ってミナミベレディーの後ろで決着を見ていたのだ。


「しかし、ありゃあ拙い走りだ。あんな走りをさせちゃ駄目なんだよ。あれは馬の寿命を削ってる」


 今までの口調を一転させ、立山騎手は真剣な表情で鷹騎手に告げる。

 鷹騎手も苦笑というには苦みの強い表情を浮かべた。


「恐らく鈴村騎手もその事は理解していると思いますよ。検量室に来た時の表情は、とても歴史に残る快挙を達成した騎手の表情ではありませんでしたから」


「まあな。ただあの嬢ちゃんも、もうちっと成長しないとだな。馬に助けられすぎだ」


 レースは水物であり、ましてや今日のレースを勝利した騎手に負けた騎手が何かを言うのも烏滸がましいのかもしれない。ただ、立山騎手も鷹騎手も共に今日のレースは明らかに騎手の騎乗ミスであると思っていた。


「そういやあ、話は変わるが日比野は騎手を辞めたそうだな」


 立山騎手がふとミナミベレディー絡みで先日の騒動を思い出した。


「みたいですね、私も伝え聞きですが、筋の良くない所から借金があったみたいです。あとは、やはり鈴村騎手への嫉妬や妬みもあったみたいですが。ただ、最後まで故意とは認めなかったそうですが」


「まあ、認めちまったらってとこだろうが、馬鹿なやつだな」


 溜息を吐く立山騎手だが、どうやら日比野騎手自身がすでに騒動を起こす前から引退も考えていたようだったと聞いていた。


「まあ勝てなきゃどうしようもない世界だしな。同じような立場だったお嬢ちゃんが光を浴びて、魔が差したってのもあるんだろうが、下手すりゃ死亡も有り得たんだ、許される事じゃない」


「ですね、ただ協会はこれ以上追いかけるつもりは無さそうですが」


 鷹騎手の言葉に、立山騎手は顔を顰める。


「それじゃあ駄目なんだがなぁ。後に続くような奴が出ないようにきっちり白黒つけないとな。まあこっちでも協会には注意しておく」


「そうですね、私の方からも意見を述べておきますよ」


「ああ、頼むわ。あんな事がまた起きたら、それこそ競馬が廃れちまう」


 一騎手としてもだが、立山騎手自身も伊達に長く競馬業界で生き抜いて来てはいない。様々な伝手を当たり前に持っているし、競馬界への思いも強い。そして、それは鷹騎手とて同様だった。

フィナーレは無事に新馬戦を勝利していましたw

あそこまでトッコとヒヨリに調教を受けていたら、新馬戦くらいは勝たないとですよねwww

ただ、前話の桜花ちゃん達の会話に出てこないのが不自然なので、どこかで加筆するかもしれません。

うん、作者が感想見るまで忘れてたわけじゃ無いですよ!(ぁ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 観客の人はめちゃくちゃ盛り上がっている分関係者の人は大変そうなのです アプリから競馬に入った人とかが此処に居たら凄そうですね アプリ経由のチューブキングファンの人とか姉妹による桜花賞連覇と…
[良い点]  とうとう、トッコが騎手よりも優秀であることが周りにわかってもらえて嬉しいです。 [気になる点]  104話ではブラックスパロウ、103話ではブラックスパローどっちが正しい? [一言]  …
[一言] >「まあな。ただあの嬢ちゃんも、もうちっと成長しないとだな。馬に助けられすぎだ」 逃げ差し自在のスタミナモンスターだから、囲まれないように外目に位置取って自分のペースで走れば勝てそうな馬な…
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