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98:秋華賞

『秋の彩が深く、気温も肌寒くなっているこの京都競馬場、今日まもなく第※※回秋華賞が開催されようとしております。3歳牝馬限定、芝2000mで競われます牝馬3冠レース最後の一戦、今年もファンにとっては残念ながら3冠馬を目指す馬はいないながらも、桜花賞をサクラヒヨリ、オークスをスプリングヒナノが制し、この両馬が制し2冠とするのか、それとも他の馬達が残りの1冠を制するのか。別の楽しみがあります!

 2冠を獲ればそれぞれ最優秀3歳牝馬の称号も視野に入るこの秋華賞。芝の状態は良、オークスでは雨によって2冠を逃したと言われるサクラヒヨリは今日はどういったレースを展開するのか。最優秀2歳牝馬のスプリングヒナノ、オークスに続きこの秋華賞を制し新たな称号を手に入れるのか! まだまだ今年の3歳は・・・・・・』


 テレビでは、秋華賞のレース実況が始まる。その画面を見ながら、騎手控室では各騎手達がパドックの馬達の状態を見ていた。

 そして、画面を見ながらも鷹騎手は鈴村騎手へとそっと視線を向ける。

 その視線の先には、かつて初のGⅠ出走を前にガチガチになっていた姿は既になく、しっかりとモニターへと視線を向けている鈴村騎手の姿があった。


 重賞の勝利数で言っても、GⅠ出走回数でいっても、まだまだ緊張して可笑しくは無い。それが、僅か2年ほどでここまで成長するのかと驚きの思いがある。当たり前だがGⅠで緊張しているのだろう、画面を見ながらも両手を握りしめている。ただ、そこには騎乗する事に対する怯えなど欠片も無かった。


「はぁ、さてどうやって勝つか」


 鷹騎手の騎乗するサイキハツラツ、左程に層が厚くない今年の3歳牝馬であればGⅠの一つも獲れる才能は有ると思っていた。しかし、蓋を開けてみれば桜花賞2着、オークス2着、そしてまさかのローズステークスもスプリングヒナノに負け2着だった。


「シルバーコレクターは勘弁してほしいなぁ。悪い馬じゃないんだけどな」


 それこそ、サクラヒヨリと比較すれば、明らかにサイキハツラツの方が上だと今も思っている。


 それでもサクラヒヨリの紫苑ステークスの勝ち方は、レース後に録画で見た鷹騎手にとって衝撃的であった。明らかに末脚の鋭さが春に比べて数段上になっているように見えた。


 出走メンバーがローズステークスよりも一段下だったのは確かだ。それでも、サクラヒヨリがあの不利な状況で勝てた事は今後のレースにおいて要注意だ。何より、春には無かった末脚に警戒が必要だった。


「ミナミベレディー程に極端な感じは無いんだが、逆に芝2000だと侮れないな」


 スプリングヒナノは大体の傾向が見えてきている。その対策は十分に練っている。もっとも、その通りにレースが進んで終われば苦労は無いのだが。


「GⅠでの1番人気のプレッシャー、鈴村騎手の判断に迷いが出てくれるとありがたいんだが」


 騎手達が呼ばれ、鷹騎手は立ち上がってパドックへと向かうのだった。


◆◆◆


 止まれの合図と共に、香織はパドックへと入っていく。

 目の前には2番のゼッケンを付けたサクラヒヨリが武藤調教師達に手綱を持たれ、立ち止まって香織を待ち構えていた。


「ヒヨリ、調子は良さそうだね」


「キュヒヒン」


 鼻先を撫でながら声を掛けると、特に苛立った様子も無くご機嫌な様子のサクラヒヨリが返事を返してくる。


「今日はやる気十分といった感じだね」


 再度、鼻先を撫でてその後サクラヒヨリへと騎乗する。


「サクラヒヨリの調子はこれ以上ないくらい良いよ」


 武藤調教師も満面の笑みを浮かべている。


「あとは私次第という事ですね。頑張ります」


 秋華賞という事で、当たり前に緊張していた。自身もそれを自覚しているし、手綱を握る手も小刻みに震えている。一昨年は憧れのGⅠに初騎乗し、翌年には勝つ事が出来た。騎乗している馬の能力の御蔭である事は判っている。

 しかし、その肝心の馬であるミナミベレディーとサクラヒヨリの評価は今ひとつであり、その為か香織の騎乗もなぜか先行と逃げに関しては高い評価を受けていた。


 ベレディーの御蔭なんだけどね。


 実績を出せば評価が上がるのは当たり前だが、その評価に実態が伴っていないと香織自身は判っていた。その為に、今も絶えず騎乗経験を積んで少しでも騎乗技術を上げようと努力している。


「ヒヨリ、今日は頑張ろうね」


「キュヒン」


 ミナミベレディーとは違い、サクラヒヨリはちょっと神経質な所がある。どちらかと言えば臆病なのだろう。それでも、ミナミベレディーと香織の事は信頼してくれているのが判る。それ故に、サクラヒヨリを何とか勝たせてあげたいのだ。


 ヒヨリはお勉強が苦手だからなぁ。


 結局、過去のレース映像に基づいた説明を、サクラヒヨリが聞いてくれることは無かった。

 ただ、レース前において香織が毎日のように馬房に訪れ、話しかけた事でサクラヒヨリとの間により強い絆のようなものが生まれたのを香織は感じていた。


「さあ、後は任せた」


「任されました」


 本馬場前で引綱を外され、ヒヨリをゲート前にと走らせる。

 観客席の前から沸き上がる歓声に思わず笑みが零れ、サクラヒヨリの首を優しくトントンと叩いた。


「みんながヒヨリを応援してくれてるね」


 まあ、ヒヨリはベレディーに応援されるのが一番なんだろうけどね。


 香織はゲート前でサクラヒヨリを停止させ、ゆっくりとゲート入りを待つのだった。 



 そして、早々にゲート入りしたサクラヒヨリの首を何時もの様にトントンと叩きながら、香織は他の馬達のゲート入りを確認する。


「うん、ヒヨリ、そろそろだよ」


 声色を変えてヒヨリへと声を掛け、叩いていた手を止めて手綱を握る。


ガシャン!


 大きな音を立て、ゲートが開いた。

 そして、サクラヒヨリはその音に驚く事も無く飛び出し加速していく。


「最高のスタートだよ!」


 思わず香織がそう告げるほどに、ベレディーのお株を奪うぐらいに最高のスタートだった。


 スタート後に上がった歓声すらあっという間に置き去りにして、サクラヒヨリは先頭でコーナーへと突入していく。どちらかというと先行というより若干逃げに近い程に後方の馬とは2馬身から3馬身程の距離が出来る。


「向こう正面の直線で息を入れるからね」


 何時もの様にレースの展開をサクラヒヨリに聞かせながら、香織はカーブを走りながら後方の馬達の様子を窺う。すると、スプリングヒナノもサイキハツラツも、普段ならもう少し前方にいる馬が中団辺りに縦長に展開しているのが見えた。


「中団からの差し? 前よりではなく直線勝負? 何を狙ってるんだろう」


 後方にいる2頭の動きが気になりながらも、早くもサクラヒヨリは向こう正面の直線へと入る。


「ヒヨリ、ここで息を入れるよ」


 香織は、ここでヒヨリの速度を落とし息を入れさせる。

 香織の体感では、ここまでのペースはやや早いくらいだと思っている。ただ、レース自体は単騎逃げになっているサクラヒヨリを余所に、後方で先頭集団を形成している馬達がレース自体のペースを作っているように思えた。


「向こう正面のここで差を詰めて来る?」


 ここまで自由にサクラヒヨリを走らせている理由が今一つ判らない中、サクラヒヨリのペースが落ちた事によって次第に後方から馬の蹄の音が近づいて来るのが判った。


 そして、まもなく3コーナーへと入る所で、驚いたことに後方から一気に前へと進み出る馬が現れた。


「え? ここからスパートするの?」


 4コーナーを出てからの距離は短いとはいえ、まだ3コーナーと4コーナーを含めると1000M近い距離がある。それ故に驚く香織だったが、後ろからの蹄の音にすぐに冷静さを取り戻した。


 すっと併せて来た馬を見ると、16番のタートルラビットだった。


 確かこの馬は外国産馬でどちらかと言えばステイヤーだったよね。一か八かのロングスパートの可能性はある?


 悪路を得意として、この6月以降に勝ち上がって来た馬だったと記憶している。


 ただ問題は、この馬を前に出す事でサクラヒヨリが囲まれる事の方が怖い。後ろから明らかに他の馬達も上がってきているのが判る。


「ヒヨリ、前に行くよ」


 タートルラビットが半馬身程前へと進んだところで、香織はサクラヒヨリの首を軽くトントンと叩き、3コーナー入口からタートルラビットと併せ馬の様に前へと押し出していく。


 香織の指示にサクラヒヨリはすぐに反応し、タートルラビットに抜かせる事無く前へと並びかけて行くが、するとタートルラビットは一転してサクラヒヨリの真後ろへと入る。


「え? あっさり下がるの?」


 サクラヒヨリは速度を上げて3コーナーへ入る。そして3コーナーを抜け、4コーナーへと差し掛かった所で再度後方からタートルラビットが上がって来た。


「もしかして、ヒヨリのペースを崩したい?」


 そう思いながらも、香織は4コーナー出口までの緩やかな下り坂を利用して、先程のスパートなどでは無く、力強くトントンとサクラヒヨリの首を叩く。


 サクラヒヨリは4コーナー中盤から一気に加速がつき、それこそタートルラビットを置き去りにして直線コースへと入った。ここで加速した為に若干外へと膨らむも、芝の状態の良い所を選び更に後続との引き離しにかかった。


 そして、京都競馬場の最後の平坦な直線を一気に駆け抜けたのだった。


「え? うそ? 後続が全然来なかった?」


 掲示板を見ても特にレコードの文字は無い。ただ、審議の文字は点灯している。今回のレースは香織の体感としてもそれ程早いペースには思えなかった。

 それであるのに後続の差し馬達は最後の直線でヒヨリに並ぶ事無く、2着に入ったサイキハツラツですらサクラヒヨリから1馬身後ろでのゴールだった。


「何が起きたの?」


 思わず香織がそう疑問に思うほどに、レースはサクラヒヨリの完勝で幕を閉じる。

 ただ、香織が馬首を返し後方を見ると、直線に入った所で一頭の馬が止まっているのが見えた。


「え? まさか故障・・・・・・」


 レース中の馬がレース途中で止まるのに、それ以外の可能性は無かった。ただ、香織には角度の問題でその馬が何番でどの馬なのかは判らなかった。


展開とかにすっごく悩みました。

色々と悩んでいて、思いっきり思考が明後日に走っちゃいました。

う~ん、そしてこの後の展開も悩むんですよね。


ちなみに、トッコのレースで発生するとトラウマで走れなくなりそうなので、ヒヨリのレースにしたのは内緒なのです。

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― 新着の感想 ―
鈴村にとってべレディは、タッケにとってのスーパークリークだからね 馬券が当たっても、レース中に故障馬が出ると嬉しさが全くなくなる
[良い点] 鈴村さんトッコさんとのレースが濃厚過ぎて成長著しいですな(*´▽`*) というか出走した際の勝率が凄まじそうです 負けても着順そこまで悪くないという 正に飛躍の年ですね サイキハツラツち…
[一言] 100話目おめでとうございます!
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