0:あれ? 私って馬になってる?
これは、ほぼ作者の想像で書かれた競馬の世界です。
実在の同名な何かが出ても、きっと勘違い。パラレルワールドあるあるです。
牧場も、競馬場も、もちろん調教施設や育成牧場も、ネットで見た説明や写真で成り立っています。
こんなものかなぁのふんわりとした感じで読んでいただけると幸いです。
「はぁ、不味いなぁ、お父さん達は黙っているけど、相当ヤバいよね。私高校へ進めるのかなぁ」
溜息を吐きながら桜花は牧場の柵に肘と顎を乗せて、ぼ~っと放牧地を眺めていた。
桜花は繁殖用の肌馬が7頭の小さな牧場、北川牧場の一人娘。数年前にはGⅢを勝利した馬も生産した事のある、小規模牧場の跡取り娘であった。本人が望む望まないはともかくとして。
「今年は7頭みんな無事に生まれて来たから、すぐにどうこうは無いと思うけど、やっぱり去年が痛かったなぁ」
昨年、は7頭のうち2頭が不受胎、1頭が死産と散々な年となった。
種付けでは、その馬ごとに不受胎で費用が掛かるものと掛からないものがある。ただ、それなりの馬は不受胎でも費用は帰ってこないが、幸いにして北川牧場では其処迄良い血統の馬を種付けできる財力はなかったのだが。
そして仔馬が無事に生まれたとしても、そもそもその仔馬が無事に売れなければ、破産街道まっしぐらの博打のようなというか、博打そのままの職業が小規模牧場である。
「サクラハキレイがそろそろ繁殖から引退になるし、出来れば功労馬として余生を送らせてあげたいんだけどな」
私の視線の先には18歳の繁殖牝馬、サクラハキレイがいる。なんとGⅢとはいえ、重賞勝ちの馬を2頭も送り出してくれた我が牧場の大黒柱と言っても良い馬だ。
サクラハキレイがいなければ、とっくにうちは潰れていたんじゃないかな?
そんな事を常々思う桜花である。
その桜花の視線の先では、サクラハキレイの今年の産駒が母馬の傍らでのんびり牧草を食べていると思ったら、突然頭を上げて嘶いた。
「ブヒヒ~~~~ン!」
どちらかと言うと大人しい子馬が突然大きな声で嘶いた為、桜花もサクラハキレイもビックリした様子で自分の子供を見つめる事となった。
「ん? どうしたのかな? トッコ、トッコ何かあった?」
その幼駒は、サクラハキレイの産駒で、父はGⅡ1勝、GⅢを2勝、ただ残念ながらGⅠは2着が最高成績ではあったのですが、血統がサンデー系を期待してのカミカゼムテキ。しかもこの全姉は2頭ともGⅢを勝利している。その為、今年生まれた産駒も牝馬であり、高値が付くことを家族全員に期待されている。
期待しているというか、この子馬が高値で売れなければ真面目にヤバい。夜逃げを考えないとという所まできていても可笑しくないと桜花は思っている。
「ブルルルル」
周りを見回して、心配して顔を突き出していたサクラハキレイの顔が真横に合って吃驚したかのように硬直して、また小さく嘶く様子は体調が悪い訳ではなさそうだ。それでも一応はと桜花は父親を呼びに厩舎の方へと戻って行った。
◆◆◆◆
モリモリと牧草を食べている時に、私はふと思ったのです。
「ブヒヒ~~~~ン!」(我思う故に我あり)
うん、なぜ唐突にこんな事をと思ったのですが、それ以前に私って何で馬になっているの? そんな疑問に襲われたのです。
つい数分前までは、今の生活に何の疑問の欠片も思いませんでした。ただ、お母さんから授乳して貰って、最近は飼葉を食べれるようになって、牧場内をテッテケと走り回って、それで幸せだったのです。
「ブルルルル」(馬ですか、そうですか)
恐らくはサラブレッドという競走馬の子馬なのでしょう。
周りを見ようとしたら、真横に母馬の顔がドアップであってビックリしました。改めて思うのですが、馬の顔って大きいですね! というか馬ってこんなに大きいなんて今の今まで知りませんでした。
あと、私は競馬は良く判りません。競馬新聞持っている女子高生って何かねぇですよね? だから競走馬の名前なんて全然知りません。そんな私でもサラブレッドが如何に過酷な運命を背負っているのかくらいは知っています。9割は殺処分なんですよね? 前にネットでそう言った小説を読みましたよ。
「ブヒヒ~~~ン」(死にたくないよ~)
恐らく前世の記憶という物だと思うのですが、普通の女子高生だったような気がします。
何となくなくらいに薄っすらとした記憶しか蘇って来ないのです。自分が何で死んだのか、そもそも前世の自分の名前は何だったのか、そんな事すら思い出せません。
ただそれで動揺するかと言うと、まったくこれっぽっちもそんな感情は湧いてこないで、そうなんだろうなで終わっちゃいます。馬肉は嫌ですけどね!
でもきっと転生チートとかあるから大丈夫だよね? ほら、人間の根性とか、言葉が理解出来てすっごい大活躍とか。今の所、自分にそんな凄い力が眠っているような感覚は無いのですが、その僅かな希望に縋る事にしました。ありますよね転生チート? 無ければ流石に泣きますよ?
「うん、この子馬か」
ん? 何か声がしたよ? 耳を立ててくるくるします。思いの外、遠くの音まで聞こえる優秀なお耳なので、声の聞こえた先を見るとそこにおじさんと女の子がこっちを見ているのに気が付きました。
「ブルルル?」(誰だろう?)
「キュイーン」
母馬が嘶きますが、声の感じからして知っている人かな? 言われてみればおじさんの方は見覚えがあるような気がします。
「とくに大丈夫そうだな、トッコの様子が変だと聞いて吃驚したぞ」
「うん、平気そうだね。たださっきは本当に変な感じだったんだよ。突然嘶くし、サクラハキレイを見てビックリしてる感じだったし」
「ふむ、何か虫とかに驚いたか? そうなると歩行が心配だが、少し歩かせてみるか。母馬が動けばついて行くだろう。キレイ、キレイ~こっちこ~い」
何か呼んでいるみたいだけれど、何となく私ではなく母馬を呼んでいる感じです。
ただ、母馬はそちらをチラ見して、私を見てを繰り返しているだけで、動く気は無さそう?
「ブルルルン?」(呼んでるよ?)
「ブルッ!」
仕方が無いわね、何かそんな感じで駆け足で走って行く母馬。ただ、少し進んで立ち止まり私を見るので私はトコトコと母馬を追いかける事にした。
トコトコトコ
タッタカタッタカ
トコトコトコ
別に母馬に追い付かないといけない訳では無いのでのんびりと付いて行きます。ただ、何故かおじさん達は私の方を凝視していますね。何なのでしょうか?
「何か変な走り方をするねこの子」
「そうだな、馬らしからぬというか、今だけだとは思うが、ちょっと気にしておこう」
「ブルルルルン」(ん? 私の走り方変なの?)
幸いにして、前世の記憶を取り戻したおかげで何を話しているのかが判ります。
ただ、その会話は非常に不穏な内容です。私の今後に大きく影響してくるのです。
走れない馬・・・売れ残り・・・お肉。
不味いですよ。いえ、私のお肉がという訳では無く、私を取り巻く状況がです。
さ、幸いにして今は同い年の子馬がタッタカタッタカ走っているのです。彼らを参考にして少しでも早く走れるように自己鍛錬しないとです!
おじさん達が立ち去ったあと、私は牧場を駆けている馬たちの様子を観察します。
トットコトットコ?
何となくスキップみたいな感じなのかな? という事でお母さんを追いかけるのを止めて、スキップみたいにして走って見ました。
違和感がすっごいですね。何と言いますか、これじゃない感が凄いです。
体が思うように動かないと言いますか、関節が違う? まあ馬ですから当たり前でしょうか?
「ミュヒーーン」(お母さん、走り方を教えて?)
私を心配して追いかけて来たお母さんに走り方を尋ねますが、首を傾げられちゃいました。
何となくこの子何を言ってるの? って感じかな?
馬という物は生まれながらにして走り方を知っているの? あれ? 昨日まではどうしていたっけ?
色々と走り方を試していると、どうやら戻って来た女の子に見られていたようです。
「何か変な走り方してるけど、大丈夫かな? 遊んでいるだけ?」
又もや心配させてしまったようです。
普段から馬を見ている人達には、きっとすっごく変な馬に見えちゃうのかもしれません。
馬の血統ですか? 色々見たんですが、目が滑るだけで考えることを拒否しちゃいました、脳が!
でも、お馬さん小説って面白いので、なろう内で読み漁ったのですが少ないのです><
そこで、先日まで書いていたお話が一区切りしたので、少ないなら自分で書こうの何時ものノリで、書き始めちゃいました。
投稿タイミングを思案中ですが、一応書き溜めが7話あるんですよね・・・・・・
悩みますね。
18:00にも追加投稿しますね!