表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/59

57話・好きだよ。ヴィナール


 その晩。

 バスローブを着て、シャワー室から出て来たヴィナールは、寝台の上に蹲っている小羊に聞いた。


「ねぇ、モコ。わたしのドキドキの理由を教えてくれるって言ってなかった?」

「……ああ。あれのこと」


 ベッドから降りたモコは、その場で長身の人の姿に変わった。白金の髪に、透き通った青い角がついた異形の姿をしていても彼は美しかった。蜜を吸い込んだような琥珀色の瞳から目が離せなくなってしまう。


「どういうことかきみにも大体、予想がついているんじゃないの?」

「……」


 呆けているヴィナールに、ミフルは近づく。


「私もきみを前にするとドキドキする。確かめてみるかい?」


 何を確かめるの? と、理解が追いついていないヴィナールをミフルは抱きしめた。


「私の心臓の音はどんな風だい?」


 ミフルに促されて、彼の胸に耳を押し当てたヴィナールにも何のことかようやく分かった。男女の色恋沙汰に疎くとも、前世には一応、夫を持った身だ。

 前世ではよくテレビドラマで運命の恋だとか、本気の恋だとか演出されて放送されていたし、周囲には恋愛にのめり込んだあげく、相手に突如、失恋してその傷心で仕事を休みます。なんて言っている若い子達もいた。


 仕事と恋愛は別物。そんな理由で仕事を休むなんて馬鹿馬鹿しいと思ってもいた。そして恋なんて熱病のようなもの。自分とは無縁だと思い込んでいた。夫にときめくことなんてなかったから。

ドキドキ、そわそわなんてテレビや小説の中だけだと思っていた。ヴィナールは答えを見つけたような気がした。


「これのことね? あなたもドキドキしているのね?」

「そうだよ。こうなるのはきみを前にした時だけだよ。私達は同じ病にかかってしまったようだ」

「まあ、なんてこと。この病に効く薬はなさそうね」

「私はね、きみと特別な仲になりたいと思っている。きみはどう?」

「特別? あの叔父さんと、レコウティアさまみたいな?」


 先ほどのアランと、レコウティアの二人の様子を思い出して、頬を赤く染めたヴィナールを、琥珀色の瞳が愛おしそうに見つめ返してきた。


「好きだよ。ヴィナール」

「わたしもよ。ミフル」


 ミフルの整った顔がすぐ目の前にあって、ヴィナールは静かに目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ