表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

35話・ヴィヴィも家族の一員ですよ


「ねぇ、あれで良かったの? 乗船時間なんて遅らせても良かったのよ。次の便に乗れば良いだけだし」

「良いんですよ。今更、祖父だという人が現れても、自分にはどうしたら良いか分からなかったですし」


 帝国へと向かう客船の中でヴィナールは、クルズに問いかける。ヴィナールは、別れ際のロンカー老人の、寂しそうな顔が引っかかっていた。


「両親が亡くなって連絡がつかなかったと言っても、自分の存在を気にもしてくれなかったロンカーさんのこと、許せなかったりする?」

「許すも何も何とも思っていません。私は両親に愛されて育ちましたし、その後、両親を失って孤児となった時も、側にはサイガ達がいてくれましたから、両親の死を悲しんでも寂しくはなかったのです。だからあの人にいきなり祖父だと言われても戸惑いしかなくて」


 血縁者が見付かったと言うのに、反応の薄いクルズにはそれなりの理由があったらしい。彼としては期待してなかっただけに、祖父だと言われても、どうそれに反応して良いのか分からなかったと言った。


「まあ、そっか。クルズには、サイガ達が家族のようなものだものね」


 血の繋がりのある親子といえど、共に暮らしているのが幸せとは限らないことを、ヴィナールは身をもって知っている。彼女の場合は、やや特殊ではあるけれど。


「ヴィヴィも家族の一員ですよ」

「ありがとう。わたしも皆を大切に思っている。だからクルズの血縁者が見付かって嬉しく思っているわ」

「ヴィヴィが嬉しいですか?」

「そうよ。クルズは嬉しくない?」

「ヴィヴィが嬉しいなら、わたしも嬉しいですかね?」

「そこでなぜ疑問符?」


 クルズは感情が表情に表れにくいから、心情が分かりにくいけど、ロンカーさんに頼って欲しいと言われた時には、目を見張っていたから心には響いたはずだ。

 不器用なんだから。ヴィナールの呟きが、甲板から望む波飛沫の中に消えていく。


「そろそろ客室に戻りますか?」

「そうね」


 この船には何室か個室がついており、その一室をヴィナールは予約して取っていた。部屋に移動する途中、船員が何人で「いたか?」「いや、こっちにはいない」と、何か探し物をしているようだった。


「何かあったのかしら?」

「さあ?」

「騒々しいわね」


 ふたりで予約していた個室に入ると、そこに黒いローブを着て蹲る者がいるのに気がついた。


「ヴィヴィ」

「誰? 何者?」


 ヴィナールを庇うように、クルズが前に進み出た。


「怪しい者ではない。少し匿って欲しい」

「あなたは……! アイギス公子」


 黒いローブを着た男が立ち上がってこちらを見た時、ヴィナールは凝視した。彼はアイギス公子だった。

 そこにノック音がして、アイギス公子はテーブル下に転がり込む。クルズがドアの前に立つと顔を出したのは船長だった。


「おくつろぎのところ失礼致します。ただ今、船内に不審者が入り込んでその行方を捜しております。もしも、怪しい人物を見かけましたら、我々までお知らせ願えますか?」

「その怪しい者の特徴とは?」

「黒いローブを着た中肉中背の若い男です。目撃した船員の話だと黒髪の男だと聞いております」


 どうするか?と、クルズがヴィナールを振り返る。彼らが捜している人物はアイギスのようだ。ここにいると教えるか? と、目線で問いかけて来る。ヴィナールは船長に言った。


「分かりました。不審な男がいればすぐに知らせますわ」

「ご協力感謝致します」


 一礼して船長は去って行った。扉を閉めクルズは言った。面倒事を増やしてどうするんですか? と、その目は責めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ