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34話・クルズとコルビンは双子だった


 ヴィナールはソファーに腰掛けるなり、すぐに切り出した。


「実は彼は孤児なのです。彼は海辺の村に住んでいたそうなのですが、幼い頃にが両親が亡くなりまして。今は訳あってわたしの元で仕えてくれていますが、この間、あなたのお孫さんにお会いする機会に恵まれて、二人がそっくりなことに驚きました。それであなたなら彼の出生について、何か知っていないかと思いまして……」

「そうでしたか。分かりました。お話し致しましょう。彼は恐らくコルビンの双子の弟です」

「双子?」


「海辺の村に住んでいたと言いましたが、そこはイーロス村ではありませんかな? そして彼の父はメルス。母はテトでは?」

「その通りです。父はメルス、母はテトです」

「二人とも以前、わしの店で働いていた夫婦です。仲の良い夫婦でしたがなかなか子宝に恵まず、そこに

娘が望まれぬ双子を産み堕としました。双子は我々商売人には忌み嫌われています。どちらか処分しなくてはならないと頭を抱えた時に、テトが言ったんです。どちらかを自分の子としてもらい受けたいと。丁度、その頃、メルスの父が倒れて田舎に帰らなくてはならなくなったから、店を辞める相談を受けていたときの事でした。わしはひ弱だった方を自分のもとへ留め置き、元気な赤子を彼らに託しました」


「ではあなたはクルズのお祖父さまなのですね?」

「はい。その後二人とは連絡を取っていなかったので、どうしているかと気にはしていましたが。そうですか。二人は亡くなっていたのですか」


 ロンカーは両手で顔を覆った。


「済まなかった。二人が亡くなっていたとは知らず。悪かった。クルズ」

「謝罪はいりませんよ。今、私はこちらのお嬢さまのもとでお仕えさせて頂いておりますので。特別不便もありませんし」

「そうか。こんなにしっかりして……。ハイク男爵令嬢。感謝致します。孫をこんなに立派な男にして頂いてありがとうございました」


 ロンカーは頭を深々と下げてきた。ヴィナールは両手を横に振った。


「いえ、彼の努力あってのことですから。わたしは全然、大した事はしていませんわ。あの……クルズの父親はやはり大公さまなのですか?」

「はい。大公さまです」


 クルズの出生のことを話したことで、父親のことも隠しておくこともないと思ったのか、ロンカーはあっさり認めた。


「しかし、どうしてこうも違うのか。やはりわしが育て方を誤ったのでしょうね。手元に置いたコルビンは母親を喪い、父親にも捨て置かれて不憫に思って甘やかしてしまった結果、海賊なんて事をしでかしてしまって……」

「今、コルビンさんは?」

「それが牢屋に入れられたままでして毎日、様子を見に行っているのですが……」


 状況は芳しくないとロンカーは言った。


「先ほど何やら公子殿下らしき人とお話しをされていたようでしたけど?」

「ああ。見られていたにですか? お恥ずかしい」

「公子は何と?」

「公子は宮殿が暴徒に襲われている。大公がその連中に囚われたから助けてくれと言ってこられました。でも、何かの間違いではないかと思っています。公都はこのようにいつもと変わりないですし、もし、その話が本当ならばここは宮殿に続く通りですから、怪しい奴らが通ったなら目立ちます。でも、そんな人物なんて一人も通りませんでしたから」


「不思議な話ですね」

「もしもそれが本当だとしても、あちらに従うつもりはありません。こちらとしては、孫が囚われの身でもあるので、言うことを聞かせられると思って来たのでしょうが、あれは孫の自業自得。それにこの国では、大公は嫌われておりますから皆、大公の為に動くようなことはしないでしょう」

「良いのですか? わたしは他国の者なのにそんなことを言ってしまって」

「なあに、構いますまい。誰が聞いたとて、ここには大公に告げ口するような物好きもいませんから」

 

 ヴィナールが心配すると、ロンカーは苦笑した。クルズは懐から懐中時計を取り出し言う。


「ヴィヴィ。そろそろ行きましょう。船に間に合わなくなります」

「ロンカーさん。お話しありがとうございました」


 ヴィナール達は、ここへは民間の船に乗ってやってきた。そろそろ乗船の時間が迫っていると、クルズにせつかれてソファーから立ち上がる。ロンカーはクルズを見て言った。


「いつでも会いに来なさい。わしがあんたの爺ちゃんであることには変わりないんだから。何かあったら頼って欲しい」

「……ありがとうございます」


 ヴィナールは、傍らのクルズを見やる。クルズとしては親を亡くし、天涯孤独の身の上だと思っていたところに、急に祖父を名乗る人が現れて、どう接して良いのか戸惑っているようだ。


「これを持って行きなさい」


 ロンカーは一つの木札をクルズに持たせた。


「これはうちの商会札だ。何か困ったことがあったならこの札をうちの商会の者に見せるだけでいい。力になってくれるだろう」


 その札には何やら花が描かれていた。以前見た、コルビンがしていたペンダントトップの形に似ているような気がした。


「何の花?」

「グロリオサの花。リチュガー商会の紋章だよ」

「ありがとうございます。お祖父さま」

「元気でいなさい。クルズ。ハイク男爵令嬢。我が孫のこと宜しくお願い致します」


 頭を下げる老人に見送られ、二人は商会を後にした。その二人を物陰から見ている人物がいて後を追ってくるなんて思っていなかった。

 ヴィナール達は、そんなことが気にならないほど、迫り来る乗船時間を気にしていたのだ。



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