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32話・大公らはやり過ぎた


「アイギスさまは行方不明です。行方が分かったなら後で引き合わせましょう」

「あの人、一人で逃げたに違いないわ。きっと、そうよ! なんて人かしら。わたくしをこんな所に置き去りにして酷い人だわ」

「そんなことはないと思われますよ。あの御方は真面目な御方ですから」


 コブリナは酷いと言い出した。アランはアイギスのことを思うと同情したくなった。彼は今頃、助けを求めて動いているに違いないのに。


「なんでわたくしが修道院行きなのよ。何かの間違いよ。アラン、わたくしが結婚してあげるわ。そんな目の見えない女よりも、わたくしを選びなさい」

「黙れ! 痴れ者めがっ。おい、この女に猿ぐつわをはめさせろ」


 コブリナの発言を聞くに堪えないと、アランは憤慨した。コブリナはその態度に驚く。今まで何を言ってもアランは彼女の言いなりになっていた。このように声を荒げる彼を見たことはなかった。アランは近衛兵を呼び、唖然とするコブリナの口を閉じさせた。


「聞くに堪えない。このまま峠の修道院に連れて行き、幽閉しておけ」

「ん……、ん、ん……」


 近衛兵二人に両脇を支えられて抵抗し、ズルズルと引きずられるようにして、コブリナは退出して行った。


「ようやく終わりましたな」

「いや、でもまだアイギスの行方が知れない」

「彼はどうしますか?」


 宰相が呟くと、将軍がまだ配下の者が見つけられないでいると言った。そこへ今まで黙っていたレコウティアの声が上がる。


「アイギスは何も知らないわ。わたしの両親のことは彼が生まれる前のことよ。大公にはしてあげられないけど、市井で暮らせるくらいにはしてあげたいわ」


 新しい大公となったレコウティアは、彼の命まで取ることはしたくないと言った。


「御意。あなたさまの仰せ(おおせ)の通りに」


 玉座の前に公爵や、宰相、将軍が並んで跪く。この簒奪劇は3人で計画したものだ。3人は私兵や近衛兵を使い、暴徒を演出して大公を追い込んだ。もちろん、先に大公の元へ駆けつけて来た貴族らも織り込み済み。宮殿の外では公国民達はそんな事があったとは知らずに、何事もなく普通に暮らしている。


 大公らはやり過ぎた。この18年間、謀略の限りをし尽くしてそれを知った高位貴族には、先にソッポを向かれていた。そこに気がつかず、媚びる一部の低位貴族や商人達からは賄賂を受け取り、彼らの願いを叶えるべく恐喝まがいの事までしてきた。

 夫人は夫が後ろ黒いことをしていると、薄々察しながらも諫めることをしなかった。大公夫人の立場に固執し、頻繁にお茶会を開いては、取り巻きの貴族夫人達に大盤振る舞いして、宝石やドレス、名画等どしどし与えた。


 夫が他人からお金を搾取していく一方で、夫人は取り巻きの心を掴むのに必死で物を買って与えまくった。お金が足りなくなると国庫に手を付け、それはいつしか横領となっていたが本人としては、それは自分達、大公家のお金だと思い込んでいたようだ。

 息子のアイギスは両親とは違い、正義感の強い青年に育ったが、やや融通が利かないのが玉に瑕で、堅実な許婚よりも尻軽な女を選んで結婚した辺りからおかしくなった。尻軽女の言うことを信じこんで、彼女のことを馬鹿にしたという滑稽な理由で、優秀な人材を次々解雇した。そのおかげでマロフ公爵側の手の者を配置することが出来た。


 マロフ公爵はレコウティア個人に執着していたが、宰相や将軍は前大公夫妻を慕っていただけに、大公らのありように不満を抱き、このような結果となった。

 レコウティアが女官の手を借りて退出すると、3人は立ち上がった。レコウティアを正統な立場に戻した後は、速やかに後片付けをしてしまうのに限る。レコウティアの美しき御世に汚点はいらない。3人は結束も新たにうなずき合うのだった。



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