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3話・今までどこにいたのですか?



  ヴィナールは、話題を変えることにした。


「そういえば、お父さまは今までどちらにいらしたのですか?」

「極寒の地に行っていた。そこには力自慢の魔物が住んでいて、それに挑んでいた」

「6年も?」


 ヴィナールの指摘に、ヴァハグンの頬が引き攣る。


「いやあ、その……、初めはアストヒクのもとにいたんだ。そしたら極寒の地に最強の魔物がいると聞いて──」

「なるほど。お母さまのもとから帰る途中で寄り道をして、力試しに向かったと」

「まあ。そうなるかな」


 愛娘の責めるような目に、ヴァハグンは頭を掻きつつ答える。訳あってヴィナールの両親は別居している。別に二人の仲が悪い為ではない。仲は大変睦まじい。ただ、母と父の住む世界が違うだけ。


  父のヴァハグンは「英雄」の加護を持っている。このハヤスタン帝国では、全知全能の神とされるアストライオス神を信仰している為、帝国民は皆、赤子の時に洗礼を受けて何かしらの恩恵を受ける。

大抵は日常生活に関係したもので「無病息災」や、「開運」「金運」「商才」などといった恩恵を受けやすいのに、ヴァハグンは「英雄」という特殊な加護をもらってしまったらしい。そのせいで突飛なことばかりする。父の辞書に「平凡」や「普通」という言葉は存在しないようだ。


幼い頃から武勇に優れ、行動も破天荒だったというヴァハグンは、父親より賜ったこの屋敷に居着くことはなかった。自分より強いものに興味を持ち、己を高める為と称して各地に武者修行に出かけていくことが常だった。


その為、娘が出来ても自称「冒険者」を名乗り、風の吹くまま気の向くまま、あてもなく旅立つ。中身は子供のまま大人になったような人だ。

 ヴィナールは、ため息をつきたくなった。


「それならそれで、連絡の一つも頂きたかったですわ」

「すまん。すまん。そうだ。ヴィヴィ。おまえにお土産があるんだ」

「お土産?」


 お土産と聞いて、今度はヴィナールの顔が引き攣った。ヴァハグンが持ち込む「お土産」は大抵問題ありだ。お土産と言うよりは「拾いもの」に近い。何度かやらかしている父親を前にしてヴィナールは、今度は何を拾ってきた? と、警戒した。

 父は機嫌良く背中に背負っていた袋から、もこもこしたものを引っ張り出した。それは可愛らしい子羊だった。透き通った青い角が珍しい。でも可哀相なことに片方の角がなかった。子羊は見知らぬ場所に来たせいか震えている。

 円らな瞳の存在に惹きつけられたように、ヴィナールは席から離れ子羊の側に寄った。


「まあ、可愛い~。意外と今回はまともですのね? おいで。怖くないわよ」

「可愛いだろう。ん? まともってどういう意味だ?」

「お父さまがお土産と称してわたしに下さった物は大抵問題ありでしたもの」

「そうか?」


 身を屈めて子羊の背を撫でていると、ヴァハグンは首を傾げる。ヴィナールはその態度に苛立った。


「お忘れですか? 初めて頂いたのは4歳の時で白蛇でした。珍しいだろう? なんて言って」

「ああ。そんなこともあったな。初めて見る白蛇に驚いたおまえの顔が愛らしくて、首に巻いたらどんな反応を示すかと思ったら、いきなり蛇の頭を潰しにかかってヒヤヒヤしたな」


 ヴァハグンが思い出し笑いをする。ヴィナールは気まずく思った。


「あれは蛇が噛もうとしたからですわ。立場を思い知らせてやりましたの。そうそう、6歳の時に頂いたタコには!」

「あれもおまえが鍋で塩ゆでにしようとしたんだよな。そんなに食い意地が張っているとは思わなかったぞ」

「別に食べようとしたわけではありませんわ」

「どうだか」


 父はまともに話を聞いてくれない。そこにもヴィナールはイラッとする。


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