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29話・こんなことだったらあなた達の婚姻なんて認めなければ良かった


 広場に集められた女性達は皆、身を震わせていた。暴徒がもしここまで入り込んで来たら? と、思うと恐ろしくて平気でいられなかったのだ。

この頃には気を失っていた大公夫人も意識を取り戻し、皆に「大丈夫ですよ。大公や公子が手を打っているのでじきに収まりますから」と、声をかけていた。


「お義母さま。本当に大丈夫でしょうか? 帝国に救援を求めた方が──」

「お黙りなさい。これというのもあなたが招いたことでしょう?」


  そこへコブリナが親切ごかしに、母国のハヤスタン帝国に助けを求めてはと言い出した。その助けに来た救援の兵に取りすがって、自分だけ帝国に逃げ帰ろうとしている魂胆が見え見えだった。

大公夫人はコブリナと仲が悪かった。最初のうちは愛息子が望んだ相手だからと、気に掛けていたが段々と粗が見えてきた。彼女は遊び好きで政務は他人任せ。何もしなかった。


 そればかりか、着飾ることや贅沢が好きで宮殿に頻繁にお抱えの商人を招いて、ドレスやバッグに靴、宝石など買いあさった。金食い虫だった。それを諫めようとする使用人達には気が利かないと冷たく当たり、一年ほど前から義母の大公夫人を見下す態度に出て来た。それを使用人達も感じ取り、コブリナには良い感情をもてなくなってもいた。


 夫人は意識を取り戻してから、宮殿の外で騒いでいる暴徒の声を聞いた。その大概は大公を批難しているものが多かったが、中には聞くに堪えないコブリナのものもあった。


「民衆が言っていたあなたの話はあたっているわね。あなたは、相手は誰でも良いのでしょう?」

「お義母さま?」

「わたしが何も知らないと思っていたの? 公子がいない隙に夫まで寝台に招き入れるとはね」


 普段は大人しくて、人の悪口など滅多に口にしない夫人に「節操のない嫁だわ」と皮肉られ、コブリナは下を向いた。本人は気付かれてないと思っていたらしい。使用人を束ねているのは大公夫人だ。使用人から報告が上がらないはずはない。

 ちなみに今、この場にはコブリナの味方は誰一人いない。皆、揃って冷たい目を彼女に向けた。使用人達は、コブリナが大公といかがわしい仲だと知っていて、それを大公夫人に密告していたのだ。


「あなた達、お義母さまにいらない話をしたの?」

「みな、仕事に忠実なだけです」

「使えない人達ね。皆、お義父さまに言いつけて解雇してもらうわ。覚悟なさい」


 この大公家の使用人はなってないわねと、コブリナは言った。彼女は仕える主人の秘め事を使用人が明かすなんて、あってはならないことと信じ込んでいた。

 帝国でも彼女の貞操の悪さは周囲にバレバレだったが、皆、本人に悟られないように振る舞っていただけのこと。それを彼女だけが知らなかった。


「そのようなこと、わたしが認めません」

「お義母様が認めなくとも構いませんわ。じきにお義父さまにこの宮殿から追われることになるでしょうから」

「どういうこと?」


 太々しく言うコブリナは口角を上げた。夫人は嫌な気がした。


「お義父さまがおっしゃいましたわ。お義母さまとは離縁すると。そしたらわたしを大公夫人にしてくれると約束して下さいました」

「あなたアイギスのことはどうするの?」

「アイギスさまですか? どうもしませんわ。でももしかしたら居たたまれなくなって、お義母さまと一緒に宮殿から出て行くことになるかも知れませんわね」


 顎に指先をあて、こくんと首を傾げたコブリナに、あざとさのようなものを、この場にいた者達は皆、感じた。


「なんて人なの。アイギスとは愛し合って結婚したはずでしょうに」

「仕方ないですわ。その気持ちが失せてしまったのですもの。それにお義父様が言ってらっしゃいましたわ。お義母様はもうババアだから抱く気にもならないって。もてない女のひがみは怖いわ」


 コブリナは馬鹿にしたように笑った。夫人は憤慨し手を上げた。


「この、泥棒猫!」

「きゃあっ!」


 頬をぶたれてコブリナは蹲った。皆、大公夫人に同情的で夫人を止める者はいなかった。コブリナに批難の目を向ける。


「あなたが嫁いで来てから大公家は、この国はおかしくなったわ。暴動なんて起こったのも全てあなたのせいよ!」

と、夫人は八つ当たりぎみに怒鳴った。


「こんなことだったらあなた達の婚姻なんて認めなければ良かった。ヴィヴィだったなら良かったのに……!」

「そんなの今更じゃない。ヴィヴィですって? あんな冴えない女のどこがいいの?」

「これは何の騒ぎですか?」


 険悪となる姑と嫁の間に割って入ってきたのは宰相だった。彼は数名の護衛を連れて広間に姿を見せた。


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