23話・ようこそアイギス公子
船を停止させると、イディア公国側は、公子が数名の部下を連れてドガッドガッと中に乗り込んで来た。
「こちらの申し出にご協力頂き感謝する。こちらの指揮官殿と話がしたい。指揮官殿はどちらだろうか?」
「あんた達は? ご用件は?」
「これは失礼した。私はイディア公国公子アイギス。指揮官殿に話があって参った。指揮官殿に会わせてもらいたい」
いきなり乗り込んで来たアイギスにサイガが声をかける。ヴィナールは、久しぶりに元許婚の名乗りの声を耳にしながら、先ほどのマなんとか公爵といい、アイギスといい、どうしてイディア公国の者は自分から名乗らないのかしら?と、思っていた。
サイガが一歩退いてくれたせいで、彼の背に隠れていたヴィナールは前に進み出た。
「ようこそアイギス公子殿下。わたしがこの船の指揮を執るハヤスタン帝国海軍少佐、ヴィナール・ハイクにございます」
「帝国海軍少佐? あなたがこの船の指揮官?」
女性がこのような荒くれ者が集う海軍兵をまとめているのか? と、相手らは訝るように彼女を見た。
その彼女が公国では見たこともない格好をしているのも理由の一つに違いなかった。
──もう何言われようと気にしないけどね。
ヴィナールは早くも開き直った。着る物に一々、ケチつけられて気にしていたら、海軍少佐なんてやっていられない。そんなこと些末なことだ。
公子の後ろの者達は唖然としていたが、公子の反応は違った。
「ヴィヴィ? ヴィヴィなのか?」
「イディア公国アイギス公子。お久しぶりでございますね。どうかハイクでお願い致します」
「ハイク少佐とお呼びすれば良いだろうか?」
「はい」
再会していきなりの愛称呼び。向こうは3年前にしでかしたことなど、綺麗さっぱり忘れ去ってしまったと言うのだろうか?
あの頃のように笑顔を浮かべていた。その態度が信じられなかった。自分がヴィナールに対してしでかしたことはスッカリ忘れてしまったのだろうか?
愛称呼びは止めて欲しい、家名で呼んで欲しいと冷たく返したことで、アイギス公子は、周囲の目もあり言い直したようだ。
「その公子さまがここには何用で?」
「そちらの船に連行している宵闇の海賊の一味をこちらに渡して欲しい」
「宵闇の海賊の一味?」
アイギスの言葉に周囲が殺気立つ。この船に乗るヴィナールの配下は皆、元宵闇の海賊達だ。このようなコルビンのようなへなちょこを「宵闇の海賊の一味」と、一括りにされて面白無く思ったようだ。皆の心情としてはそいつらと一緒にするな!というところだろうか。
ヴィナールの反応が思わしくないことに気付いた公子は、「そのように聞いている」と、言葉を付け足した。
「あなた方が捕らえた者達は、どうやら我が国の者だったらしい。お騒がせして申し訳ない。彼らの処罰の事も含め、こちらにお任せ頂きたい」
「そうですか」
「分かってもらえたか。では──」
「わたしの分かったは、あなた方の言い分についてです。随分とそちらに都合の良い言い分ですね」
「ハイク少佐?」
「確かにこの領域はあなた方の国の物でしょう。でも、この者らはわたし達の船に乗り込んで来たのです。それをどうしようとこちらの勝手では?」
帝国と公国内で海上での取り決めがある為、領域のことを口に出されたら従わざる得ない部分がある。ただ、素直に彼らを渡しては面白くないヴィナールは抵抗してみた。
彼らは自らこの帝国船に乗り込んで来た。その賊を捕まえてどうしようとこちらの勝手ではないか? と、拒んでみせると、公子はガッカリしたように言った。
「あなたは変わってしまったな。残念だ」
「……」