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17話・アイギス公子の心情


「アイギス殿下。どうやら例の海賊はミリリー海流付近に生息しているようです」

「忌々しいやつらだ。宵闇の海賊を名乗るとは」

「何でも幽霊船ではないかとの話がありますよ」


 イディア公国のアイギス公子は、側近のネバダを連れて公国の海軍所有の軍船に乗っていた。最近、ドイア王国とイディア公国の間を行き来する商船が海賊に度々、襲われる事態に見舞われ、商人達が安心して暮らせないと「宵闇の海賊」が騒がしく、大公の父からも早急に対処するように命じられて出張ってきた次第だ。


「幽霊船? バカバカしい。幽霊が人間の乗る船を襲うとでもいうのか?」

「でも彼らは死んだはずで……。それに濃霧の中、いきなり古い船が姿を現すと聞いていますよ」

「死んだ? 宵闇の海賊は壊滅したとは聞いたが? 噂話が大きくなっているようだな」

「では殿下はこの件はどうお思いで?」

「恐らく模倣犯の仕業だろう。奴らは宵闇の海賊が以前していたやり方を真似しているようだ。宵闇の海賊はヴァハグンさまが叩き潰したと聞いているからな」


 アイギスはふと、義父になるはずだった人を思い浮かべた。自信に溢れた美丈夫。あの英雄の称号を抱く男に彼は憧れていた。彼には一度命を助けてもらった。あの時の戦いぶりには、目を見張るものがあった。多勢を相手に怯むこともなく一人で対峙し、バッタバッタと敵をなぎ倒していったのだ。興奮して見惚れた。

 大きくなったらああなりたいと思ったものだ。彼には娘がいると聞いたから、その子の友達になりたいと言ったらなぜか婚約が結ばれていた。その方が彼女に会いやすくなると聞き、彼女を通してヴァハグンの話が出来るのが楽しかった。


──いま、彼女はどうしているだろうか? 


 銀髪に青い目をしたお人形さんのように美しい娘だった。あのまま何事もなかったなら今頃、結婚して二人の間に子供ぐらいいただろうな。思わず感傷に浸ってしまうのはここが甲板の上で、キラキラした海面の上をカモメの親子が飛んで行くからだろうか?


「殿下。でも、良かったのですか? 今回、あの一癖あるマロフ公爵を同行させて」


 彼の乗る商船は、後方から着いてきていた。囮役としてつかう予定だ。その船に目を留めてネバダが言う。


「僕の留守中に妻といちゃいちゃされては困るからね」

「もしかして公爵に囮役を申しつけられたのはそのせいですか? 噂はご存じだったのですか?」

「コブリナと彼のことかい? 僕は現場を見たことはないし、コブリナが彼をベッドに引き込んでいるという噂は信じたくないけれど、これ以上、騒ぎになるのも困るからね」


 宮殿内でコブリナの不貞がまことしやかに流れていた。アイギスがそれを耳にしたのは、たまたま女官達が休憩室で話題にしていたからだ。誰かにお茶を頼もうと声をかけようとしたら皆、彼の姿を見てばつが悪そうに目を反らした。


 妻の不貞の噂を耳にして衝撃で目の前が真っ白になったが、落ち着いて考えてみると、公爵はこの国にコブリナが来てから、政務で手が離せない自分に代わって色々と面倒を見てくれていた。

 従兄の公爵には溺愛する妹がいる。他の女性など気に掛けないことから気にしてなかったが、そのせいで二人の距離が近づいたとしたと考えると、自業自得とも言えた。でもまだ憶測の域を出ないところなので、まずはその噂を払拭するべく動き出したところだ。


 二人でいられないようにすればいいと考えて、彼に今回の討伐に同行させた。

 美し過ぎる妻を持ったせいで、心の平安は保たれそうにない。いつもこうしている間にも、妻に言い寄る男が現れたならと心配が尽きないのだ。

 綺麗でもあの勇敢だった元許婚を妻にしたなら、こんな苦労はせずに終わったのかも知れない。


──ヴィヴィはしっかりしていたからな。


 その点、妻のコブリナはどこか危うくていけない。儚げな容姿からいって目が離せない女ではある。

「ま、殿下が決められた事なら僕らには反対する理由はありませんけど……」


「どうした?」

「公爵には気を許されない方が宜しいかと。きな臭い噂も聞きます」

「誰でも嫌な面は一つや二つあるだろう?」

「殿下は甘すぎます」


 アイギスは再び空を見上げる。心はすでに妻の元へ飛んでいる。その耳に忠臣の忠告は風と共に流れていった。


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