15話・いざ出港
「綺麗なものね」
「時々、帆船でここまで通って来て、整備や清掃に来ていたからな」
翌日。皇帝から命を受けたヴィナールは、動き出した海賊船の甲板にいた。今まで放置されていたという割に、海賊船の外観も内部も思っていたよりも整っていて、今まで無人だったとは思えないほど手入れがされていた。
ヴィナールは父が彼らを連れ帰った時に、宵闇の海賊は壊滅したと聞かされていたから当然、船も解体もしくは大破しているものと思っていた。
それがこうして残されているということは、父は彼らの魂の源である海賊船を大破するのは忍びなく思ったのかも知れなかった。おかげでこうして無事、出港する事が出来る。
船首には帝国海軍旗があげられた。赤字に金の羽を広げたグリフォンが威嚇するような絵が描かれている。
「懐かしい?」
「ああ。この船はオレらの生きた証のようなものだ」
隣に立つサイガは胸を張って言う。それが眩しく感じられた。気のせいか皆も古巣に帰ってきたことで、生き生きしているようにも感じられる。
皆、普段は港街に住居を構える船員達だ。懐かしい船に再び乗れるとは思ってなかったようだからひとしお嬉しいのだろう。
「さあ、これから作戦会議よ」
「おうっ。おまえら手を抜くなよ」
「イエッサ」
サイガが応えると、皆も胸を叩いて応えた。皆、軍服を着ているけれどまるで海賊のようだ。今まで眠っていた海賊船も皆との再会に喜んでいるように感じられた。
今後の計画を練るためにサイガを連れて向かうと、先にクルズが来て待っていた。二人とも今はヴィナールの腹心として仕えてくれている。
「お茶でも入れますか?」
「お願い」
クルズは軍服に身を包みながらも、執事の行動が抜けなかった。それだけ動きが洗練されていた。それを見てサイガはおまえが以前、仲間だったとは思えないよなと言いだした。
「クルズ。おまえほどいや元海賊にしては、垢抜けている奴はいないよな。おまえはもしかしたら良いところのお坊ちゃまだったりしてな」
「ただの貧乏猟師の息子ですよ。孤児になってあなたに拾ってもらったじゃないですか?」
「いや、それはそうだけど……、なんだか勿体ないってかさ。海賊から足を洗って良かったというか、その方がおまえに似合っている」
「ありがとうございます」
何を言い出すのかとクルズはサイガに言ったが、ヴィナールにはサイガの言いたいことが分かるような気がした。クルズには何となく品のようなものが感じられるのだ。庶民とは違う、上に立つ者としての品格のようなものが。
「それよりもヴィヴィ。宵闇の海賊の騙り者ですがあれから調べたところ、彼らはイディア公国とドイア王国に渡る船ばかり襲っているようです」
「なるほど。だから正義感に駆られた公子さまのお出ましなのね。自国に害を及ぼす海賊の討伐の話は狂言ではなさそうね」