よわよわ斬滅陣
次の日。
キールさんが前のパーティメンバーの結婚式に呼ばれ、朝から出かけて行ったので今日はクエストはナシ。斬滅陣の練習をすることにした。
練習場所は昨日のデルタ草原で良いだろう。あそこはスライムが無限湧きしてくるらしいし。
愛用の剣を持ってデルタ草原へ向かうと先客が一人。
白いローブに金色の髪──シロンだ。
シロンは杖から炎を出してスライムを燃やしている。それのせいか、やけに草原が焦げ臭かった。
一人でクエスト中か、それともレベリングか。
どっちでもいいけれど、まさか昨日の今日で会うとは……。
暴言が少しだけトラウマになっている俺は練習場所を変えようかと思ったが、斬滅陣を練習できるような場所なんて他に思いつかなかったのでシロンが立ち去るまで草むらに隠れていることにした。我ながらベタである。
隠れてシロンが立ち去るのを待ってから30分くらいは経っただろうか。
辺りに散らばっていたスライムをほとんど倒してしまったシロンは疲れたのか地面に座り込んでしまった。まだ立ち去る気はないらしい。
このまま彼がいなくなるのを待つのは時間の無駄だ。仕方がない、別の練習場所を探すか。
──と、立ち上がった瞬間ガサリ、と大きな音を立ててしまった。
その音はシロンにも聞こえていたようで、彼は立ち上がってこっちに向かってくる。
スライムがまだ残っていたのかと勘違いしたのか、杖は構えたままである。
やめろ、こっちに来るな。うわっ間に合わない!
「……そこで何やってんだお前」
「……あ、あはは」
「あははじゃないが」
かくれんぼ終了。あっさりシロンに見つかってしまった。
○
「スキルの練習がしたかったならすれば良かっただろ」
なぜ草むらに隠れていたのか根掘り葉掘り聞かれ、正直に全て話した俺にシロンはそう言い放った。
彼の言う通りである。
「草原は広いから練習スペースなんてどこにでもあるし、スライムはたくさん湧いてくるし、一人先客がいたところで気にすることはない。そうだろ?」
はい。あなたの言う通りです。
言う通りだけれども、よりにもよって先客がお前だから気にしていたんだよ!
「で、でも、シロンは俺を嫌っているみたいだし、一緒の空間にいるのも嫌かなって思って……」
「練習やクエストのためなら別に気にしないよ。やましいことがあるなら別だけど」
「そ、そう……」
なんだよ。こいつのことだから俺が草原に現れたら「何しに来た全身陰茎野郎! ここはお前の来るとこじゃねえ失せろ!」とか暴言吐きながら魔法攻撃してくるんだろうなとか思ってたのに。
「にしても、お前みたいな全身陰茎野郎でも練習とかするんだな」
「しちゃ悪いかよ」
「別に。意外だなって思っただけ。もしかして、昨日の僕の言葉で目が覚めたのか?」
「違う。俺がもっと強くなりたいからやってるだけだ」
「ふーん」
疑惑の目で見てくるシロン。こいつ本気で俺のことを性欲しかない男だと思ってやがる……!
これ以上こいつに舐められるのも癪に障る。さっさと練習を始めよう。
丁度スライムが5体くらい集まってきたし、あいつらを練習台にするとしよう。
深呼吸。
剣をきつく握って、目を閉じる。
スライムが昨日のように塵と化していくイメージ……。
スライムが細切れになって、破片からさらに細かくなって、サラサラの砂のように消えていく……。
そして、意識を剣に集中させて……。
「斬──滅──陣ッ!!」
そう叫んで、剣を横に薙ぎ払う。
ギュオン、と豪快な音を立てて俺の剣から衝撃波が放たれる。やった、成功だ!!
──と思いきや。
「あれ……?」
衝撃波が放たれ、スライムたちを襲うもののなぜか1体も塵にならない。
ただ遠くに吹っ飛ばされ。全員形を保っている。
「なんでだ……? もう一回──斬滅陣!!」
もう一度打ってみるが、さらにスライムたちが遠くに吹っ飛んだだけだった。
でも、一応攻撃は入っているようで、スライムの身体にところどころ傷は付いていた。
「全然ダメだ……これなら普通に斬った方が早い……!」
がっくしと地面に膝をついて自分の弱さに絶望する。
俺の斬滅陣はキールさんの斬滅陣より遥かに弱かった。
5回斬滅陣を放ってやっとスライムが塵になるレベルである。
まったく、こんなんじゃSSRなのに弱キャラ扱いされているシロン以下じゃないか。
ちなみに、シロンは後ろで退屈そうに俺が斬滅陣を放つところを眺めていた。
いやなんでまだいるんだよお前。暇なの?
「くそっ、もう一回……!」
斬滅陣を放ちすぎて身体が疲れてきたが、こんなところでへばっている場合ではない。
俺は立ち上がって、もう一度剣を握った。
俺の斬滅陣の練習は昼過ぎまで続いた。




