斬滅陣
キールさんのパーティ登録を済ませたあと、ミディさんに初心者向けのクエスト──デルタ草原のスライムを30体討伐。報酬は一人500G──を紹介してもらった俺たちは徒歩でそのデルタ草原まで向かった。
風に揺れる木々と草。青っぽい匂いが鼻をついた。
天気も良いし、ここで寝っ転がって日向ぼっこをしたら気持ち良さそう……だけれど、今はそんなことをしている場合ではない。
そう、クエストである。ちょうどちらほら大小さまざまのスライムがぽよんぽよんと間抜けな音を立てながら草原を飛び回っている。
「よし、じゃあ一人15体ずつ倒していくか!」
「はい!」
俺は剣を抜き、じりじりと立ち止まっているスライムに近づいた。
そして、ぷにぷにとした柔らかいその肉体を刃で切り刻む。
まずは1体討伐。登録証からピロピロと音が鳴る。経験値が入った合図だ。
「あれ、経験値がいつもより少しだけ多いですね」
「知らねえのか? 組んでるパーティメンバーの人数によって経験値が変動するんだ。二人なら2%増加、三人なら3%ってな。しかも一人が倒すと他のメンバーにも経験値が入るからソロで戦うより効率がいいんだ」
ふむ、メンバーが多ければ多いほど経験値が稼ぎやすくなるのか。大所帯のところはもっと効率がいいのだろう。
「だからって仲間に戦闘を任せて自分は経験値を啜る穀潰しにはなるんじゃねえぞ? ま、ノゾムはそんな奴にはならんだろうけど」
「やっぱりそういうずるい人もいるんですかね」
「いるいる。俺がお前と同じくらいの歳に組んだパーティのリーダーがそういうやつで……おっと、無駄話をしている場合じゃねえな」
仲間を殺されたことに怒りを覚えたスライムがゾロゾロと集まってくる。
「うひゃー、わらわら来た! これ30体超えてんだろ」
「30体以上殺したらその分も報酬もらえませんかねえ」
「それは受付嬢に相談してみてからのお楽しみだな!」
俺たちは大勢でこちらに突っ込んでくるスライムの大群に突っ込んでいく。
「うおっ」
一体のスライムが俺の腹に体当たりしてきた。身体は柔らかいので痛みはないが、攻撃一つ一つが重い。油断していると吹っ飛ばされそうだ。
「にしても、これ一体一体倒していくの面倒だな……」
「おいおいノゾム、俺がお前に教えたことを忘れたのか?」
「教えたこと……?」
「この状況に最適な剣士のスキルだよ。散々練習したじゃねえか」
スキル。
スパイラルナインにはキャラクターごとに戦闘時に使えるスキルというものがあり、レベルごとに5つスキルが入手できる。それは主人公も例外ではない。
「そういえば、主人公は最初に選んだキャラクターの第一スキルを継承する形で取得するんだったよな……」
襲ってくるスライムのなぎ倒しながらグルグルと考えを巡らせる。
友人から得られるスキルを教えてもらっていたはずだ。たしか、最初に剣士キールを選んだ時に得られるスキルは……全体攻撃スキル・斬滅陣!
しかし、どうやってスキルを使えばいいのだろう。ゲームのようにボタンがあればいいのだが、念じても登録証を見てもボタンは現れない。
「ノゾム、お前まさかスキルの使い方ど忘れしたのか? ったく仕方ねえな! 俺が手本を見せてやるよ。ちっと離れてな」
俺はスライムの群れをかき分け、キールさんから距離を取った。
キールさんは俺が離れたことを確認したあと、目を瞑って力強く剣を握った。
「ここいらにいるスライム全員がぶっ飛んで消えるイメージをしてから、意識を剣に集中させる……そして」
目をカッと見開き、右足で地面を強く踏んで剣を横に薙ぎ払った。
「全員吹っ飛んじまいな……斬滅陣!!」
そして、キールさんの剣から衝撃波が豪快な音を立てて発射された。
その範囲は大きく、スライムの群れを巻き込んで遠くへ遠くへと飛んでいく。
スライムたちは一体残らずものすごいスピードで飛んでいきながら肉体が粉々になっていき、そして、ついには塵となった。
「す、すげえ……」
これがリアル斬滅陣! ゲームのアニメーションとは比べ物にならないほどの迫力だ。
しかも一瞬であれだけいたスライムが塵と化すのだから本当に恐ろしい。キールさんはこんなスキルを持っているのにゲーム内だとレアリティがRだということが本当に信じられない。キールさんがRならSSRのキャラクターなんか世界を滅ぼせるほどの実力を持っているのではないだろうか。
「すげえ、じゃねえよ。これお前も使えるんだぜ?」
そうだった。主人公も選択肢によっては使えるようになるんだった。すごい、主人公もバケモンじゃないか。
「す、すみません。なんか今日は調子悪くて……次回までにはまた使えるように練習しておきます……へへ……」
とは言いつつも、アレだけではスキルの出し方がわからない。それにあんな危険な技をどこで練習すればいいのか。
「ま、いいけどよ。それよりスライム全部倒しちまったな」
「はい……。めっちゃ経験値入ってます。ていうかすみませんキールさん、俺ほとんど何もしてない穀潰しになってしまいましたね……」
「気にすんな! また次頑張りゃいいからよ!」
次こそは斬滅陣を使えるようにしておこう、と決意する俺なのだった。




