悔しさと決意と
「あははははははは!! もしかしてノゾムさんシロンさんのこと女の子だと勘違いしてたんですかー!?」
俺がシロンに挙動不審になっていた理由を察したミディさんが腹を抱えて笑い出す。
「う、うるさいなぁ! そこまで笑わなくてもいいだろ!?」
「たっ、たしかにシロンさん女性と見紛うほどの綺麗なお顔してますけど身体つきはしっかり男性ですよ!?」
「だってローブで隠れてて体格よくわからなくてぇ……」
「だからって本当に勘違いする人いるんだ!? マジか! ウケるーー!」
「ウケねえよ!」
前方から不穏なオーラを肌で感じ取ったので恐る恐るシロンの顔を見てみると、すこぶるご立腹だった。
それはもう、綺麗な顔が台無しになるくらい恐ろしい表情をしていた。
「ごっ、ごめんなシロン……くん! 女性と間違われるなんて嫌だったよな! 本当にごめん!」
ペコペコ頭を下げてシロンに謝罪するが、一向に彼の怒りが収まることはなかった。
「帰ります」
「待て待て待て」
謝罪する俺を無視してスタスタと出口へ向かっていくシロンをキールが引き止めた。
「シロン、身内の非礼は詫びるからよ、せめて話だけでも聞いてくれねえか」
「お断りします。こんな下心しかない新米冒険者なんかとパーティなんて組みたくありませんし話もしたくないし視界にも入れたくない」
拒絶のオーバーキルである。中学時代に俺を拒絶していた女子達を思い出して軽く泣きそうになった。
「し、下心って……君に俺の何がわかる?」
シロンはこちらを睨みつけたまま俺の顔を指さした。
「鼻の下伸ばしすぎなんだよお前。思ってること顔に出過ぎ」
可愛い女の子が来てくれたと勘違いして挙動不審になっていたのが相手にも伝わっていたようだ。
いや、思い返してみればわかりやすすぎるな俺の態度。
「どうせ女だけのハーレムパーティでも作ろうとしてたんだろ。美人の女集めてそれで終わり。冒険に行かずに部屋でイチャイチャ三昧でもしたかったんだろ?」
「いや、さすがにハーレムを作ることは望んでない。女の子一人来て俺と喋ってくれればそれで良い……と思ってるよ?」
それはそれで気持ち悪いですね! というミディさんの野次が聞こえてきた。
「なんだ。やっぱり冒険がしたいんじゃなくて女と遊びたいだけじゃないか」
「……そう、かも」
「いるんだよね、そういう出会い目的で冒険者になる意識の低い奴。本当に嫌になるよ」
シロンの言うことが否定できなかった。
というかその通りだった。
「良い案がある。お前みたいなチャラついてる全身陰茎野郎は今すぐ冒険者をやめてキャバクラに入り浸ってろ。そしてお気に入りの嬢にジャバジャバ貢いで彼氏面していればいいさ」
そう吐き捨ててシロンは冒険者ギルドから出て行った。
俺はただ、シロンの暴言に打ちのめされ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「……ったくあいつは。せっかくのチャンスを棒に振りやがって。選り好みしてる場合じゃないだろうに」
「いやー相変わらず見かけによらずキレッキレな子ですねー。大丈夫ですかノゾムさ……うわっ」
「ひぐっ……え゛ぐっ……」
気がついたら俺は嗚咽を漏らして泣いていた。
まさかゲームでハズレ扱いされているキャラクターに泣かされるなんて。けれど、許せないとも屈辱的だとも思えなかった。
悔しいけれど、シロンの言うことは全部当たっていたのだ。
俺は冒険者なのに、冒険よりも女の子と遊ぶことを目的にしていた。
そのことをミディさんは否定しなかったけれど、本気で冒険者をやっている人からしたらそれは許容しがたいことなのだろう。
おそらく、シロンは本気で冒険者をやっている。
だからこそあんな暴言を吐いたのだろう。
それでもここまで言わなくても良いのではないかと思わなくもないけれど。
「ノゾム、もう泣くなって。暴言吐かれたくらいで泣いてちゃこの先やってけねえぞ」
「キール……さんっ……」
涙でぐしゃぐしゃのまま、俺はキールさんを見つめた。
「俺っ……悔しいですっ……暴言吐かれたことよりっ……俺がっ……暴言吐かれても仕方のない動機で冒険者やって……パーティメンバー集めてることがっ……」
「別に良いじゃねえか。女の子と遊びてえが理由でもよ」
「でもっ……」
「俺なんか酒飲むための金欲しさに冒険者始めたしよ。理由なんてそんなもんで良いんだよ。他人にとやかく言われたからって気にするこたぁねえよ」
キールさんがバンッと強く俺の背中を叩く。
「大事なのは何をやったか、だ。明日お前が何してるかわかんねえぞ? 女の子探ししながらドラゴン狩ってたりしてな」
「いやどういうことっすかそれ」
「とにかく実績作ろうぜ実績! こんなところで運命のお姫様待ってるよりクエスト受注したりして実績作った方が注目度上がって仲間集まりやすいぜ!」
「キールさん……」
確かにキールさんの言う通りだ。
ずっと待っているよりも何か行動したほうがいい!
「シロンは断っちまったけど、俺がお前の仲間だ! 安心しな、ノゾム!」
グッと親指を立てて笑うキールさん。
本当にかっこいい。いつか俺もこの人のようになれるだろうか。
──いや、絶対なってみせるぞ!




