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パーティメンバーガチャ爆死……と見せかけて?

パーティメンバー募集を始めてからはやくも一ヶ月が経った。

さて、募集の結果は……。


「一人も応募してくれませんでした」


爆死である。素敵な仲間は増えなかった。


「お゛ぼぉぉぉぉ……」


冒険者ギルドの受付で周囲の目も気にせず汚い声をあげながら泣き喚く俺。

応募を待っている間ずっと初心者向けダンジョンでレベリングとお小遣い稼ぎして、今日やっとレベル10になってちょっとした達成感を得た後に冒険者ギルドに行って応募の確認した結果がこれだ。一瞬でレベル10の達成感が死んでしまった。


「ミディさん言ったよな!? 仲間を紹介するって! なのにこの結果はなんなんだよ!!」

「いやーいろんな人に声かけたんですよー? みんな考えておきますって言ってくれたんですけどー」

「考えておきますってお断りですって意味なんだよ!! もういい俺募集やめる!!」

「ノ、ノゾムさん! まだ一ヶ月しか経ってませんし諦めるにはまだ早いですよ!」


ミディさんは必死で泣きながら帰ろうとする俺の袖を引っ張る。


「そうだせ坊主。仲間集めを諦めちゃいかんよ」

「……この声は!」


この渋くてダンディな声には聞き覚えがある。

ガチャを回すと一定確率で聞くことになるこの声は……!


「キールさん!」


ウェーブのかかった黒髪と少しだけ長い前髪。うっすら見える顎髭。猫のような青い瞳。黒と赤を基調にした鎧を纏った中年男性こそ最初に主人公が選ぶキャラクターの一人・剣士のキールだ。

キールは赤い顔のまま、フラフラとした足取りでこちらに向かってくる。


「キール……さん、もしかしてお酒飲んだ?」


いや、もしかしなくても飲んだな。

そういえばキールは重度の酒好きで、真っ昼間からよく酒を飲んでいるという設定だったな。メインストーリーでは酔っ払いながら戦っていた気がする。


「お久しぶりですキールさん! 今日も元気に酔っ払ってますねっ」

「まあな」


ミディさんはキールが酔っ払っていても通常運転だった。さすがミディさん。


「ところで本日はどのような御用件で?」

「ノゾムがパーティメンバー集めてるって言うから俺が入ってやろうかなと思ってな」

「キールさんが!? いいんですか?」

「いいに決まってんだろ。ちょうどやることなくて暇だったし、可愛い弟子の助けになれるんなら俺ァなんだってやるさ」


おお、ガチャで当てた時の自己紹介ボイスと似たようなことを言ってる。

キールさんは基本的に主人公への好感度が高いしかっこいいから人気があるって友人が言っていたな。ゲームではキャラ萌えができなかった俺だけど、こうして実際にこんなことを面と向かって言われるとキールさんのことが好きになってしまう。もちろん人として。


「良かったですねノゾムさん! 初メンバーですよ」

「ははは……一応身内だけど、まあいいか! ありがとうございます、キールさん」

「いいんだぜ。これからは冒険者の師匠として手取り足取り教えてやんよ」


キールさんはグッと親指を立てた。

ゲームのキャラクターのはず……なんだけど親戚のおもしろくて優しかったおじさんを思い出してしまうな。

おっといけない。また生前のことを思い出してしんみりしてしまう……。


「それによ、お前の仲間になりたいってやつは俺以外にもいんだぜ」

「えっ、そうなんですか!」

「おう。昨日掲示板の求人見てどこに応募するか悩んでたやつがいてな。そんで良かったら一緒のパーティなんねーかって誘ったんだよ」


キールさんは後ろを向いて手招きする。

すると、長椅子に座っていた魔法使いが着るような白いローブを着た人物がこちらへ向かってくる。

俺はその人物の顔を見て、衝撃を受けた。


陶器のように白い肌。

肩に付くくらいの長さの金色の髪は光に照らされてキラキラと輝く。

そして、くりくりとした青い瞳。

まさに美少女と言わざるを得ないほどの美しさと可憐さを持った魔法使いが俺の目の前に現れたのだ。

年は俺より下に見えるが、それでも美少女が俺の目の前にいるという事実に震えるしかない。


「おほっ!? おんっ、おっ、おほほっ!?」


絶世の美少女を前にした俺は身体も声も震えまくっていた。スマホのバイブ機能も驚きの震えっぷりである。


「うへぇ、ノゾムさん急に気色悪い声出すのやめてくれません!?」

「だっ、だだだっ、だって、おんっ、おんなのこっ、女の子きたっ……」


そう、女の子。待ちに待った女の子である。

ああ、一ヶ月待った甲斐があった! そのおかげで奇跡のように可愛い女の子が仲間になってくれるかもしれないのだから……!


「こいつはシロン。超名門の魔法学校を卒業した炎魔法の天才だ」

「へー、シロンちゃんって言うんだ……名前もかわいいね……」


……ん?

彼女の名前を聞いて、俺は何かを思い出しそうになる。

なんだ……? 生前友人が言っていたことがじわじわと頭に浮かんでくる。


たしか友人は、育成の参考にってオススメのキャラクターと、逆にオススメできないキャラクターを教えてくれたような……。


「シロン……ちゃん? おいおい、何言ってんだノゾム。こいつは──」

「はじめましてノゾムさん。僕は魔法使いのシロンと言います」


苦笑いするキールさんの言葉を遮ってシロンは俺に挨拶した。

綺麗な顔に似合わない男のように低い声。

ちゃん付けされたことが不愉快だったのか、怒気のこもった表情になっていた。

そして、その声、その表情がきっかけとなって、忘れていた記憶がついに溢れ出した。


それは昼休み。教室で友人たちとスパイラルナインで遊びながら昼食を食べていた時──


「なあタツヤ、このSSRのシロンってやつ出たけどこのキャラは強いの?」

「うわ、シロン引いたのか。こいつよえーぞ」

「マジ? SSRなのに?」

「運営がレア設定と調整間違えたんじゃないかってくらい弱い。使いもんにならん」

「ふーん、キャラデザは可愛いと思うけど」

「たしかにこいつ男キャラにしては可愛くて綺麗な顔してるけど褒められるのそこだけだぞ。性格もあんま良くないし。キャラストもイマイチだし。女性ファンも少ないみたいだし」

「一応シロン強化してって声を出してるシロン推しはいるらしいけど」

「あ、SNSとか検索サイトでこいつの名前検索しないほうがいいぞ。サジェスト地獄だから」

「いや、しないし。弱いならいいや。売却しよ」


そう言って、俺はシロンを売却して彼の存在を忘れていった。


そうだ。俺はこいつの記憶を封じ込めていたのではない。完全に忘れていたのだ。

こいつの名前を、姿を、なにもかも……!


やっぱり爆死でした。残念。

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