プロローグ
久しぶりに書きはじめました。よろしくお願いします。
ガタンゴトンと電車の揺れる音を聞きながら俺は窓の外の風景を見つめていた。
東京と比べればそれほどだけれど、そこそこ都会と呼べる街並み。そして今にも泣き出しそうな空。
──と思っていたらポツポツと雨が降り出した。やはり天気予報の言う通り帰りは雨。念のため鞄に折り畳み傘を入れておいて良かった。
「……ん」
ふと、外が光った後にゴロゴロと嫌な音が鳴る。おいおい、雷まで降るなんて聞いていないぞ。しかもけっこう近いし。
別に雷が怖いわけではないが、先週電車に雷が落ちたというニュースを聞いたばかりなので少しばかり不安になってくる。
俺はその不安感を落ち着かせるように、ポケットからスマホを取り出す。
スマホの時計を見ると時間は18時5分。もうこんな時間か。
俺は慣れた動作でゲームアプリをタップした。もちろん、電車内で音が鳴らないようにイヤホンも忘れない。
課金についての注意事項、制作会社のロゴ、そしてタイトル画面。
ファンタジー感溢れる街並みをバックに「スパイラルナイン」というタイトルロゴが現れる。
俺がプレイしているのは、スマートフォン向け新感覚RPGを謳うソーシャルゲーム「スパイラルナイン」だ。
1ヶ月ほど前に友人に勧められ、今もこうしてプレイしている。
──けれど、それは惰性でやっているにすぎない。
スパイラルナインはいわゆるキャラゲー。推しキャラクターを育ててパーティ編成してクエストで敵を倒して、そして好感度を上げてキャラクターのストーリーを読んだりボイスを聞いたり、たまにメインストーリーやイベントストーリーを読んだり、ただそれだけ。
キャラ萌えという概念がない俺はこのゲームに推しを一人も作れず、ただ性能の良いキャラクターで敵を倒すことに爽快感を見出すことしかできなかった。
けれど、その爽快感も一ヶ月も経てば薄れていく。
はっきり言ってしまうと、俺はこのゲームに飽きかけていた。
それでも、こうやってログインしたり、情報更新の時間になったらアプリを開いてお知らせを読むくらいのモチベーションはあった。
けれど、いつもソシャゲが長続きしない俺のことだ。遅くて来週あたりにはログインすらしなくなるのだろう。
更新情報を見てみると新しいピックアップガチャの告知があった。画面の目立つ場所に今回の新しいSSRキャラクターであろうやけに露出度の高い服を着た青い髪をポニーテールにまとめた女性が表示されていた。
「ふーん、聖騎士・カトリーヌね。どこが聖騎士だよって格好してるけど性能も悪くないし、運試しにちょっとだけ引いてみるか……」
メンバー募集画面──ガチャを引く画面に移動し、「10回引く」ボタンをタップする。
ロードが入った。まずは一発目……封筒が虹色に光っている。これはSSR確定演出! まさかまさかの新キャラクターだろうか。それともすり抜けか。ほとんど飽きているソシャゲとはいえ、やはりガチャの演出はドキドキしてしまう。
そして、一発目のキャラクターの登場演出ムービーが始まった。
荘厳なBGMと共に、青色の長い髪がふわりと揺れる。
「これは……! カト──」
──その時だった。
窓の向こうに閃光が走り、ゲームのBGMとカトリーヌの挨拶をかき消すほどの雷鳴が轟く。
そして、目の前が真っ白になったその瞬間。
俺の意識はブツリと途切れた。