さいしゅうわ 2
蛇の足の世界
注意 : 彼らの言葉は、現代語訳となっています。
――あのう、すんません。トーノさん。ちょっと相談があるんですが
――何。レポートなら見ないよ。調停者試験は、次がもう佳境だからね。
――いやあ、そうじゃなくてですね。実はっすね、非常に申し上げにくいんですが
――ごめん、凄くいやな予感がする。聞きたくない。
――いや、聞いてもらう。な、なんかねー、俺の育成宇宙Tとお前の育成宇宙Aがね、がちで連結しちゃってるんです。しかも、世界分岐予定してなかったのに、何故か増殖してんのっ どうしようこれっ どうしよおおおおおおおお
――意味分からん。なにそれ。何だそれええええええええええええええええええええええ!!!
――ごめんねっごめんねっ 首しめないでっ 死ぬから!! しんじゃうううう!! びくんびくん!!
――そ、そもそもなんで俺とお前の育成宇宙が、こんな大規模に連結すんだよっ あっ 因果連結点が……こっからセキュリティ突破したのか!? ある程度各世界は互いに互いを夢見る因縁生起するもんだが、この規模普通ありえねえぞっ
――多分、進化増進存在が暴走してるみたいっ なんかね、やばい方向に暴走してるみたいっ 俺もこんなの想定してませんでした。ヒャッホー! どうしようどうしよおおお。
――もう俺たちの手には負えん。教官に相談する。元々、調停者候補生用の有限メモリーしかないんだ。早晩、増殖に耐え切れずに。
――ぱーん、てなるよね。
――お前の頭がぱーんすればいいのに。
――い、いま。お前の目が本気だった。本気でぱーんすればいいのにって目をしてた……そ、そんな目で俺をみんなっ こっちみんな!!
――反省の色なし、と。
――すみませんすみません。
中略
――アー……これはなかなか……見ない現象だな。
――きょ、教官、どうですかね。もうメモリーパンパンなんですけど。このままだとパーンなんですけど。
――うん。まあ。よし。いいだろう。これ、移し変えるぞ。
――えっ
――ええっ
――珍しい事例だ。有限メモリーから一つ上の階層に移す。世界分岐にも耐えられるだろう。
――ほ、ほんとですかー!? よかったー。俺の最終試験首つながったー
――教官。と、いうことは、この宇宙の果ての限界はなくなるってことですよね?
――ある意味な。本来、候補生に与えられた有限の宇宙ではありえないことだが、これほどの事例はイオウいわくパーンさせてしまうには珍しいサンプルだからな。もう少しこの成長過程を観測してみたい。
――ありがとうございます。
――うほっ 教官愛してますっ
――イオウ。お前は、少し先生とお話しようか。誰が勝手に進化増進存在に強化プログラムを投下していいと言った?
――みぬかれてるっ!? なんで、あっ アーーーーーーッツ
……
取り残された、調停者候補生トーノはふと、生成消滅する宇宙の一つを見やった。
そして、今回の連結におけるデータ参照する。
――なるほど。
データ参照下、因果分水領となった少女の母親は、
――未来軸において、【弥勒】となる可能性あり。人の世に転生しながら艱難辛苦を具になめ、末法の世に現れる存在。宇宙の限界を憂いたか。
ふ、と彼は嘆息した。
今回暴走したイオウの育成宇宙における進化増進存在。
自分の育成宇宙における数々の人格神。
――こいつら、全部『ぐる』だな。
下位存在の、限界を突破しようとするそのあがき、嫌いではない。
――お前らの目論見どおり、宇宙の果てはしばらく遠いぞ。
更に下位の人間たちは、ある日突然、宇宙の寿命が延びたと観測することになるだろう。
理由も原因も分からない。
突然の延命。
彼ら『神々』が更に上位存在に気づいていたとまでは言わない。
それは分からない。
だが。
――それとも、『こいつ』は気づいていたか。
そう呟いて、調停者候補生トーノは育成宇宙を背に、遥かな時空の回廊を歩き出した。




