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昔苛めていた幼馴染が勇者になって帰ってきたんだが 三人称  作者: ワシワシ/三月ふゆ


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さいしゅうわ 1


「――『かえさない』」


 ぜったい。



 全身に悪寒が走る。

 背筋がぞっとした。



 アリアは。

 アリアは、呆然としていた。

 カエル。

 帰りたい。

 お母さんに会いたい。

 お父さんに会いたい。

 お兄ちゃんに会いたい。

 雪江。雪江に会いたい。

 帰りたい、と選択した。

 しかし、身体の軸が一度ぶれるようにして、その後何かに阻害された。

 もう一度、もう一度!!!!


 ――エラー。


 ――大沢明日香の帰還選択は不可能です。


 かたかたと身体が震えてくる。


「な、なんで。どうしてだっ」


 帰して。私を、帰して!!


 両手を天に伸ばし、すくいあげてと絶叫する。

 答えない。

 答えは、ない。

 沈黙だけがその答えだった。

 何かは、遠ざかった。去ったのだ。

 もう、二度と。

 あ。

 ああ。


「あ、あああああ」


 気がつけば、ユーリーがぼろぼろの姿でアリアの目前に立っていた。

 その姿は、本当に酷いものだ。

 砕けた鎧は、自己修復機能がついているにもかかわらず、中々再生できないでいる。

 肉が弾け、肋骨がのぞく。

 髪は生乾きの血糊がべったりとつき、頬の裂傷はあまりに無残で目を背けたくなる。

 右腕は、ぶらんと不自然に垂れて、恐らく、腱が切れている。右足もびっこを引きずっているのか、そもそも変な方向に捩れている。

 他にも、数え上げればきりがないほどに――酷い、ひどすぎる姿だった。


 アリアを見つめるユーリーの目は、多分、もう、見えていない。

 焦点を結ぶことができずにいる。


 だから、アリアが泣いているのも、きっと見えないはずだ。


 それなのに。


「ごめんね。あーちゃん、帰してあげられない。それだけは、俺の勝手で、俺のわがままで、ぜったい、ゆるせない」


 無言でいるアリアに、ユーリーが左手の指先を震えながら伸ばす。

 その指に、指輪が光っている。

 息を呑んだ私に気づいたのか、奴は静かに笑った。


「指輪、なんのために無理やりはめたか分かる? これね、神様の名のもとに、二人を分かつことはできないってアイテムなんだよ」


 嫌悪と恐怖で心が捩じ切れる。

 感謝が憎悪へと変わっていくその動きが、手に取るように分かる。


「帰れないよ、あーちゃん。俺が絶対帰さない。そのためなら、なんだってする。できるんだよ、俺は」


 ごめんね、さいあくだ。ほんとうにごめん。ごめんなさい……迷子の子どもが手をつきかねたよう、その震える指先が、アリアに届く前に。

 アリアは、その手を、思い切り振り払った。


「触るなあっ!!!!!!!!」


 絶叫した。

 帰れない。

 帰れない。

 帰りたい。

 なんにも。

 なんにも、言ってない。

 何一つ、やってない。

 何も納得せずに、こちらに来てしまった。

 もう、二度と、言うことができない!!!!!!


 おかあさん。おかあさんに会いたい。お父さんに会いたい。お兄ちゃん、雪江っ もう、もうっ 本当に会えない。なんにもなんにもなんにも納得してない!!!! 同意なんか一度だってしてない!!!!!!


 ユーリーは、アリアの非力な一押しにも耐えられなかった。

 彼は、バランスを崩し、無様に倒れる。


 アリアは、そんな彼を見てぎりぎりと心臓を締め付けられながら、それでも逃げ出した。


「うあ、ああ。あああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」


 喉も裂けよと絶叫し、地面を殴打する。爪が柔らかな手のひらをえぐり、拳の隙間から赤い血があふれだす。

 どうしたらいい。

 どうすればいい。

 ひとは、ひとを、憎悪できる。

 ひとは、ひとを、愛しながら、憎悪できる。

 矛盾をはらむままに存在できる。


 今度はユーリーを憎むのか。

 彼を?

 嘘つきだ。

 アリアは、彼が帰ってくるのなら、何を捧げてもいいと思った。

 じゃあ、自業自得じゃないか。

 これでいい。

 これでいいのに。

 許せないと思うのか。

 どうして、ひとは、ひとは、ちがう、わたしは。納得できないの? 相手を踏みにじっておいて、相手に踏まれて、それで。

 うあ。

 あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!


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