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昔苛めていた幼馴染が勇者になって帰ってきたんだが 三人称  作者: ワシワシ/三月ふゆ


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魔法の塔 客員教授 講義


――魔法の塔 客員教授 講義


 業徳カルマポイントというものがある。

 実は、近年知れ渡った概念で、その歴史はそう古くない。

 百年ほど前の人物に、カーシム・シルターンという男がいる。

 『業徳』の概念及び『業徳(カルマ)賭博(ギャンブル)スキル』を世に広く認知させた人物だ。

 己の徳を数値化し、神に奉納することで、人為的に奇跡を起こす。

 ただし、その成功は、確率論でしかもたらされない。

 故にギャンブル。

 しかも、彼特有のスキル『徳の前借り』によって、使役神への負債が莫大に膨れあがった結果、彼は今の世でも神の奴隷を続けているという。

 奴隷というのは誤解だが、いわゆる使役される眷属神、亜神という位置づけだ。

 ちなみに、嘘か誠か、彼の口癖むしろぼやきがこう伝わっている。

『また奇跡を起こしてしまった……せっかく貯蓄した徳が全部消えてしまったよ。また、また神への負債が……ッ』

 間抜けな感じのする、親しみやすいトリックスターとして、寸劇にもよくよく、幕間などに出てくることも多い。

 君たちもこの台詞は演劇などで耳にしたことがあるかもしれないね。

 また、彼は、魔法実験により消失し、時と場所を忘れて世界を彷徨う『アルルヤードの上位魔法の塔』の攻略メンバーとしても有名である。

 この塔の由来は、古代魔法再現実験に失敗した結果、塔自体が時空の迷子となったと言われ、ある時草原に出現したかと思えば、また別のある時王都のど真ん中に現れ、霧が晴れるとともにその姿を消していたとも目撃談が各地に残っている。

 塔内部においても、時間の流れはでたらめで、扉を開けた瞬間、外の時間と連結して内部の人間が蒸発しただの、逆に別の部屋では数百年の時が流れておきながら、ある部屋では一時間しか経っておらず、当時の魔法実験時の教員・学生が脅威に備えて籠城していただの、色々と逸話がある。

 この塔に関する諸説は林の如く乱立しているが、『事故説』の他に運命論者の間では、『運命回帰』や『定め』の結果であると唱える者もいる。この辺りは『占星術論AB』『宿命論』関係の講義をお勧めする。異説の中には、『時空同時存在説』『時空縫合説』や『監視者説』などもあるが……ふむ、その辺はまた博士課程に進めば耳にすることもあるだろう。

 まずは、実際の篭城者の話だ。この注目すべき点は、『塔』内における時間と空間の断裂である。

 すなわち、隣にいながらにして、彼らは見えないし会話もできず、触れることもできないという時空間の断裂にそれぞれ閉じ込められていた。

 あるいは、AからはBが見えるのに、BからはAが見えない、などといった特殊な事例も見られたらしい。この塔における時空間の乱れはめちゃくちゃだったが、外部からCが侵入することで、A=B=Cを同時空間につなげた、これがカーシム・シルターン達の功績だ。

 カーシム・シルターンのパーティメンバーに名前の知られぬ魔道師がいて、『彼らと我々は別の時間の流れにいる。我々は彼らと同じ速さで走らねば接触できない』と興味深いコメントを残しているが……カーシム・シルターンのパーティは、どうも出自不明のメンバーが多くてね。どの氏族にもルーツのないハイエルフのスズキ・イチロー、謎の仮面の魔道師、決して鎧を脱ぐことのなかったという竜騎士、この辺りのリドルも中々にロマンだろう。

 ともあれ、これらの逸話をまとめた『時を翔る教員』は、その著者が救出された当時の塔構成員であるともいわれ、中々鋭い考察に飛んだ一冊となっているので、本件に興味関心があれば一読をお勧めする。

 さて、かの塔の攻略は、その特殊性からSSクラス冒険者をしても困難であり、更に特殊とも言われたカーシム・シルターンの業徳賭博スキルがなければ、後世まで謎を解明することは不可能だったろうというのが定説だ。彼のスキルはある意味反則技であった。 

 自らの領分を超えて、『奇跡』を起こすというのは、本来神官、祭司の領域だ。

 しかし、彼は徳を捧げ、しかもそれを『賭博(ギャンブル)』化する――ベットすることで、本来成しえないレベルで神の恩寵を手にしたわけである。

 ん、そこ、何かね?

 ほう、業についてか。

 これから順に話していくつもりだったが、つまりこうだ。

 徳はすなわち善行、神への供物。

 業はすなわち悪行、悪魔への供物。

 ああ、しかし君達。私から、若人に釘を刺しておこう。

 つまらん悪行を重ねて業ポイントを積み上げようなどとはせんことだ。

 悪魔が好むのは、小悪ではない。巨悪である。

 徳は、小さな善行の積み重ねでたまるものだが、業というのは意外にこれが難しい。

 大量殺人などでも起こさんかぎり、とうてい悪魔の好む業足りえないとされる。

 しかも、ここに落とし穴があって、あまりにも殺人を重ねると、業ではなく英雄ポイントに転化されてしまうことがある。あまりにも異常な個人の突出は、人口に膾炙(かいしゃ)されることで、かえって英雄視されることがあるというわけだ。

 戦争時における大量殺人などが代表的な例だな。

 この辺りもまた、神の領分になるわけだが、一つ気をつけたまえ。

 今の事例のように、善悪というのは、我々の観点によるものではない。

 神々の視点による善悪の区別なのだ。

 それは、我々人間にはとうてい理解の及ばんところにある。

 女神の寵愛を受けたカーシム・シルターンも、当時は彼のスキル名のとおり遊び人で、世間では冷たい目を向けられていたという資料が残っている。得意技は古代謝罪体位『土下座』だったとも伝わっている。

 特にその『スライディング土下座』がいたく女神のお気に召したそうで、この辺りのことは専門課程が別になる。詳しくは古代体位の授業を取ることを薦める。

 さて、繰り返しとなるが、善も悪も神の判断とするところ。

 つまり、普通に生きていても、生まれた瞬間から膨大な業徳を背負った者も時にあり、これは運命論への展開も容易にする。

 そういった者のことを、『宿命の星』もしくは『禍ツ星』『凶星』のもとに生まれた、ともたとえることもある。

 あるいは皮肉から、『神々の戯れ(テンプレ)』という古代用語があるのだが、どうにもこの用語は研究者の間でも解釈が分かれて、諸説が乱立しているところだ。

 ん、そこの君、何か質問か?

 ああ、私の家名か。

 確かに私はゴンザレス家の者だ。カーシム・シルターンとともに冒険をしたといわれる聖騎士エスメラルダ・ゴンザレスの直系の子孫に当たる。

 ご先祖様への興味が高じてこんな場所で教鞭をとるようになったわけだ。

 騎士の家系であるため、学者となった私はどうも異端になるようだが、何、私の双子の兄ほどではない。

 ふむ、そろそろ時間だな。

 今日の講義はここまで。



 


 ――魔法の塔 客員教授 ガスパール・ゴンザレス 講義『カーシム・シルターンにみる業徳(カルマ)の歴史』



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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう一見繋がりが分かりにくいけど後からめっちゃリンクしてきそうな間話はわくわくします
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