災禍のレギオン ~いずれ訪れる物語~
覇王ゲイリッジ・フォン・ドルヴォイが大陸制覇を目指し、一大帝国を築きながらも道半ばに倒れてから既に半世紀以上。
覇王亡き今も、大小の国々が生命を燃やして相争い、綺羅星のごとく明滅を繰り返す乱世が続いていた。
まるで夢半ばで倒れた覇王の妄執が、大陸に取り憑き、そこに生きとし生けるものを呪っているかのように。
それは誰かが“大陸制覇”の偉業を成し遂げるまで、“祭り”の終わりを許さぬ常軌を逸した呪いであったのかもしれぬ。
少なくとも、多くの者がそう信じた。
だとするならば、この呪いが解かれる日など、本当にくるのであろうか。
大陸中にひしめく国は夜空に浮かぶ星々のごとく存在し、それらの制覇が果て無き夢だからこそ、ゲイリッジは挑み、それに際して自国民に告げたのだ――「『千国時代』を終わらせる」と。
そして後世、それを逆説的に捉えた学者が現れる。
その時より、『戦獄時代』が始まったのだ――と。
文字通り、戦という獄に下った大陸から、昼夜を問わず戦火が絶えることはなくなった。
あれから半世紀以上。
祭りの終わりは、まだ、見えない――。
千国紀74年
ヨルグ・スタン公国国境付近 ユベント森林――
「気を引き締めろっ。この森林を抜ければ、いよいよ“蛮族狩り”のはじまりだ!!」
指揮官の意気軒昂な声音に反し、軍内の士気は著しく低かった。
周囲に鬱蒼と茂る樹々に視線を彷徨わせる兵たちの瞳は、祈るような光を湛え、その表情を不安げに曇らせている。
まがりなりにも大隊1500人を誇る軍兵の態度とは思えぬが、彼らを動揺させるに足る理由は確かにあった。
「……隊長。このまま進んでよろしいので?『戦術のフィリアヌ』に誓って、無策で森林に突っ込むなど自殺行為もいいところかと」
指揮官から遠く離れた第二陣で、先頭を歩む隊長へ副隊長が不満も露わに訴える。
「いくら辺境国を蛮族呼ばわりしようとも、奴らとて、我らの強攻策くらいは事前に察知し、森林の向こうで万全の布陣を敷いているのは明らか――いやそれ以前に、森林で何らかの策を仕掛けてくることも十分考えられます。それに……」
捲し立てるように言葉を連ねておきながら、そこで副隊長が躊躇った理由は続く言葉に表れていた。
「それに、これはまあ、あくまでも噂にすぎませんが…………ヨルグ・スタンの森林には奴らが出るという話しも」
歯切れも悪く、云いにくそうに付け加えられた怪談話の方こそが、本命であるように聞こえたのは気のせいであったろう。
それはともかく、部下達がすぐ近くにいる状況を意に介さず、一介の下士官が公然と指揮に疑義を唱える不敬を、だが、隊長は咎めるどころか同意とばかりに頷いた。
「正直、お前の意見に異論はない」
「え?」
「だからこそ、すべて承知の上で決行された進軍だと考えるべきじゃないか?」
そこで鼻を利かせて身を退くのが古参兵だが、まだ若い下士官には、湧き上がった疑念という名の好奇心を抑えることまではできなかったようだ。
「どういうことです……?」
「こういう話しに首を突っ込まないのが“長生きのコツ”なんだが、な」
「ご冗談を。それなら、はじめから作戦に異議など申しませんっ」
そう食い下がる副隊長に「不器用な奴め」と隊長が口元をゆるめた。ここで唯々諾々と任務をこなすだけの男なら、副隊長になど抜擢することもなかったが故に。
満足できる部下の反応に、思わず歓びがこみ上げた隊長の笑みであったが、前を行く上官の背を見ているだけの副隊長に、その心中を悟ることなどできるはずもない。
「あくまで俺の推論だぞ」と念を押す声は真剣に、隊長は考えをまとめるように顔を上向かせる。
「普通、“隊列が間延びしたこの状況”を敵ならどう捉えると思う?」
「無論、“今が好機”と」
「あるいは、“罠か”と疑う」
隊長が示すもうひとつの可能性にピンとこなかったのだろう。副隊長が眉をひそめる。
「お前、自分で“無防備で進むのはマズイ”と云ったろう」
「ええ、云いましたが……?」
まだ気づかない彼にかすかな苦笑を浮かべつつ、隊長が説明を続ける。
「お前の云うとおり、敵の伏兵がいるかもしれぬ森林へ無防備で突っ込むなんて行為は、まともな指揮官なら実行するはずないのさ。なのに、そんな馬鹿げた用兵が行われれば――」
「わざとじゃないか――確かに、勘繰りたくなりますね」
「なるほど」と得心したように副隊長が言葉を噛みしめる。その様子に「だから」と隊長は次の要点を掲げてみせた。
「ここで鍵となるのは、指揮官たるエルンド様の評判だ。善くも悪くも――いや、主に悪い意味で、エルンド様の用兵は敵にも知れ渡っている」
「『ソリテアの恥辱』――ですね」
「『ル・グァン教会焼滅』もそうだ」
「それなら『ムールグリッド沼の喜劇』も忘れてはいけません」
即座に嘲笑のネタとして名が挙げられるほど不名誉な事案には事欠かぬ指揮官らしい。さらに言い募ろうとする副隊長を「もう十分だ」と隊長が手で制する。
「要するに、この“無謀な進軍”もエルンド様が指揮官であれば、誰もが嘲笑いしつつも納得し、毛ほども疑わなくなるということだ」
「それはつまり……」
「敵が食いつきやすいということだ」
そこでようやく、己の上官が何を考えていたのか副隊長にも理解できたらしい。
「この猪突猛進も策の内だと?」
「それどころか、エルンド様の指揮官任命からすべてが……そう考えれば色々と説明が付く」
要するに、自分達どころか大隊指揮官さえも手の届かない、軍上層部の企図したものであると、そう云いたいわけか。その推論が事実というのなら。
(作戦変更どころの話しじゃないっ。そもそも、まともな用兵を望まれてないなんて――)
まがりなりにも士官候補である以上、戦術論として、時に“囮”が必要となることは副隊長も承知している。
だがいざ、自分がその役目に立たされ、それどころか、兵の損害を度外視しているような作戦の実態を知ってしまえば、さすがに「現場の俺たちを何だと思ってやがるっ」という憤りを、正直、抑えられるはずもない。
「いくら何でも無茶すぎますっ」
八つ当たりなのを承知で副隊長は握り拳をつくりながら、隊長に言葉をぶつけてしまう。
「我が軍にとっては、森林のどこから敵が攻めてくるかも分からず、その上、隊列も延びて大軍の利を活かせない状況です。それに一番肝心なのは……敵をうまく誘い出せたとして、襲われた時の対処法をいまだに聞かされていないのですよ?!」
「当然だ、俺も知らないからな」
「そんな――」
「だが、指揮官殿の傍に“白の貫頭衣”を見た」
その目撃証言がいかなる意味を持つのか、副隊長の眼が大きく見開かれる。
軍人にとって“貫頭衣”といえば『召喚導士』を表す言葉だ。
『召喚導士』とは万物の根源である四大精霊に共感できる力を持ち、精霊の力を借りて超常なる現象を生み出す者をいう。
さすがに神話・伝承に描かれる災厄級の精霊術を使う者は現実には存在しないが、戦局を打開する“戦術兵器”としての力ならば、実際に行使できる高位の術者は実在する。
特に“白”の貫頭衣に身を包む者といえば、大陸広しといえど一人しかおらず、その者一人で『召喚導士』の一部隊に匹敵する力があると畏れられていた。
隊長の話しは、『大陸十指』に数えられるという噂の高位術者が、自軍に参戦しているというものであった。
つまりそれほどに、軍上層部は本作戦に対して本気で取り組んでいることになる。同時にそのことは、本作戦の目標が、森向こうの敵軍にないことを意味していることになるのでは――?
秘められていた作戦の意図に気づいてしまい、顔色を失う副隊長の胸中を十分に察すればこそ、隊長が顔だけ振り向かせ、神妙な顔で頷いた。
「間違いない。いや、いっそ思い違いであってくれればな」
「隊長――」
それ以上言葉が出ない副隊長に、しかし隊長はなおも追い打ちをかける言葉を放つ。
「だが、それが“策”だというならば、俺たちにとってはさらにマズイことになってくる」
「……さらに?」
「分からんか? “囮”といってもこの軍は大隊規模の編成――普通なら、戦力が大きすぎて囮の役目など負えるはずがない」
「でも、実際にそうなのでしょう……?」
「言い出したのは貴方です」と困惑する副隊長に隊長は「そこだ」と指摘した。
「もし、本当に“大軍が囮になり得る”というのなら、それだけの相手が――」
言いかけた隊長が言葉を途切らせた。その視線が捉えるのは、ユベント森林ならばどこでも見られる樹齢50年を越えるミズナラの樹々であり、そこから延びる大振りな枝のひとつ――よく見れば、小枝が打ち払われたような痕跡が。
こんな人も入らぬ自然の森林で――?
「隊長……?」
訝しむ副隊長には答えず、急に緊張感をその身から放ち始めた隊長が周囲に鋭い視線を飛ばす。
(あそこも――こちらも――)
探れば一箇所二箇所ではない。
周囲の樹木に人為的な作業の痕跡――隊長が命令を決断するにはそれで十分だった。
「クルド、ただちに臨戦態勢っ。両脇の樹上に対し、注意を促せ!!」
「え?」
「“勘”だ。いいから俺を信じろっ」
状況が分からず戸惑う若き士官に隊長が焦り混じりの叱咤を飛ばす。
隊長の直感が正しければ、森林の中に放っている斥候の安否も気遣われるが、今も連絡がきてない時点で、彼らの運命を考えても仕方あるまい。
もはや予感は確信に変わり、隊長の胸を強く締め付けてくる。
だが、刻既に遅し。
風もないのに近くの樹冠が軽くざわめくのを隊長だけは気がついた。それも、何者かが揺らしているせいであると。
離れたところから聞こえてくるそのざわめきが風のような速さで近づいてくると察して、隊長の全身が粟立つ。
“脅威”が迫ってくる――戦歴を重ねて身についた“勘”が、脳内で警告の大音声を響かせる。
「来るぞ!!」
「え、まだ――」
慌てる副隊長が命令を発しようと部下へ振り向く前に。
背丈よりも高い、されど樹冠の真下あたりから。
すあっ、と音もなく幾つもの影が飛び出し、宙に舞った。
獣か――いや“人”だ。
つまりはこういうことか――“樹上の小道”を生み出すための、足場を作るための枝打ち――隊長が仕込みの目的に気づいても後の祭り。
「な――」
その場にいる兵にできたことは、驚きを口にすることだけであった。
自分に向かってくるそれが人であると認識する間もなく、その影が振るった一閃で兵達が血飛沫き倒れた。
空中からの襲撃だけではない。
間髪入れずに、下生えを踏み分け森林から現れる者達――その見たこともない装束に、同じく初めて目にする反りのある剣は、打ち合えば折れそうなほど頼りなげな武器に見える。
だが、それが振るわれるたびに兵の首が、腕が斬り飛ばされ、苦痛に塗れた仲間の絶叫が兵達の戦意を恐怖で塗りつぶす。
いずこのものと知れぬ民族衣装。
たおやかな剣。
林野の戦いで躍動する軍団。
3つのキーワードが揃えば、誰もが同じ答えを導き出すだろう。森林に踏み入ってからずっと――敵国よりも怖れていた相手に襲撃されたことをようやく兵達は認識したのだった。
「この――」
「ぐぁあっ!!」
槍を突けば、剣でいなされ。
槍を打ち下ろせば、身を躱され。
甘い攻撃を入れれば、剣で合わされた次の瞬間、四肢のいずれかをぶった切られていた。
とてつもない敵の技倆に、まともに武器を合わせることもできず、瞬く間に兵達が斬り伏せられていく。
これでは一方的な殺戮だ。
「何だ、このデタラメな強さは――」
剣を構えたまま、打ちかかることもできずに隊長は傍観してしまう。
――――っ!!
今も、すぐ近くで兵が斬り捨てられているのに、隊長の耳に斬撃の音はほとんど聞こえてこず、敵はただ黙々と刃を振るい、静かに死体の山を積み上げる。
その身震いするような剣撃の切れ味。
戦歴を積み上げてきた隊長でさえ心胆寒からしめる状況に、一般兵の脆い精神が耐えられるはずもなかった。
「くそ、くそ、くそっ!!!」
「待て――」
隊長の制止も耳に入らず、がむしゃらに突きかかっていった兵が、素手で槍の柄を掴まれ、身体ごと引っ張られた瞬間、血風を上げて倒れた。
「技だけでなく、やけに実戦馴れしている」
隊長は即座に痛感した。
“武器の相性”うんぬんの前に、個々の戦闘力に差がありすぎると。
なにしろ、二度も刃を打ち合わせた者が一人としていないのだ。だが、このまま手を拱いて無策でいるわけにはいかない。
「盾を構えろっ。奴らを勢いに乗らせるな!」
無駄と知りつつ隊長が声を張り上げる。
「クルド、兵に時間を稼がせろ。その間に、後列に“槍の壁”を作らせるんだっ」
「隊長は?」
「前の連中に同じ指示を出す。準備が出来たら、お前と俺とで奴らに挟撃を仕掛けるぞ!」
既に、隊列の横っ腹に食いつかれはしたものの、起死回生の戦術的逆転を狙って隊長が吼える。
「上が何を狙ってるか知らんが、このまま捨て駒にされてたまるかっ」
少しでいい。隊列を整える時間を稼げれば、戦局をひっくり返すことができる。いや、可能性はまだあるはずだ。だが、胸中に芽生えた淡い光明を無残に断ち切る者がいた。
見てもいない。
聞こえてもいない。
だが、裂帛の気合いがその場に疾り抜けたのを隊長はじめ誰もが感じ取っていた。
そして目にする。見えぬ力で視線が引き付けられたように。
茶色の民族衣装に身を包む、一見凡庸ともいえるその姿を。
いつの間に現れたのか、その男は深く腰を落とし、細身の剣を半ば鞘から引き抜く姿勢で止まっているように見えた。いや、澄んだ鍔鳴りを響かせて剣を収めたところをみるに、抜き放った後であったらしい。――その刀身が閃いたのを、目にした者がいないにも関わらず。
それほどの技を体現した成果は、すぐに知ることとなった。
「――う?!」
「こ、これは――」
どよめきは、構えた盾が半ばから断ち切られ、皮鎧が裂けて数名が倒れ伏したことによるものだ。
音もなく。
剣撃すらも見えず。
「――――『静寂』」
誰かの呟きだけが、周囲の喧噪からくり抜かれたようなその場に、はっきりと響く。
戦場に出る者ならば、一度は必ず風聞で耳にするある強者の諱だと全員が理解したはずだ――ジュウザ・カタギリという耳慣れぬ剣士の名と共に。
だからこそ、誰もが恐怖で息を呑み、まるでその諱のとおり、場を静寂が支配したのだ。
その沈黙を破るのもまた、同質の出来事でなければならぬらしい。
「ひっ――――」
引きつけを起こしたような、身も世もない悲鳴は反対側から聞こえてきた。
やはりそこだけ凍り付いたような空間に、人影のオブジェが唐突に削り出されたかのように、兵達が立ち尽くしている。
すぐにドド、と全員が倒れたその中心に、肩まで総髪を伸ばした見目麗しき男がひとり。
こちらは手にする剣どころか武器さえ見えず、だが、紛れもなく兵達を永遠の眠りに誘ったのはその麗人だ。それが証拠に遺体をあらためれば、頭蓋を、喉を、心の臓を何かで砕かれているのに気づくだろう。
「こっちは『誘いの麗人』か――」
品の良い諱とは裏腹に、女性かと思わす美麗な男が誘うは“死出の旅路”。だが無情にも、命がけで断らねばならぬその誘いを、避けられた者は一人としていなかった。
それも当然か。
ジュウザと同様、いやそれ以上にツキノジョウという強者の名は、“最強”の話題には必ず挙げられる剛の者故に。
風の噂では、公国の“三剣士”すら凌駕し、彼の“大剣士”に最も近づく者として大陸西方一帯に知られているほどだ。
(それにしても、どういうことだ? 剣技を使ったようには――いや)
耳にした風聞がふいに思い出される。
奴らは、その斬撃のすべてが『剣技』なのだ、と。
馬鹿げた話しであった。
いや、馬鹿げた話しでなければならなかった。すべてが闘争の神より授けられた剣技という必殺技レベルの攻撃だなどと、そんな都合のいいものがあっていいはずがない。
事実、剣技特有の黄金色の斬線を目にしてはいない。
だが、希望に縋る隊長を嘲笑うように、兵達が数人づつ、まとめて倒されてゆく。
「……本当に、そんなことが……」
それは心のどこかで屈服したことを示していた。そして隊長の声に諦観が滲むのは、一騎当千とも言われ、一人いれば戦局を決定づけられる“諱持ち”が二人も現れたことの意味を正確に理解したからにすぎない。
自然と兵達の間にも、自分達がいかなる者と対峙してしまったのか、今度こそ確信を伴って、その正体が風のように伝わっていく。
「最悪だ。こいつら――『人食い部隊』だっっ」
「そんな――こんな国境付近の小さな森林に?!」
「あり得ん。奴らの巣は公国北方の“魔境”と聞いたぞっ」
「知るかっ。実際にいるだろーが!!」
その一言で兵士達の肉体がびくりと震える。
戦闘中だというのに、誰かの生唾を飲みこむ音がはっきりと耳につく。
確かに予感はあった。
森林に足を踏み入れるのに躊躇いを覚え、入った後も落ち着かずにそわそわしていたのが何よりの証拠だ――それでも、そのことに誰もが目を背けていたのだ。
“森林”というだけで怖れるなんて、どうかしていると。
だが間違っていたのだ――その考えが。
正しかったのだ――臆病であることが。
自分が軍人であることも忘れて、黙って命令に付き従った後悔が兵士達の胸中に広がってゆく。それが身体の隅々まで行き渡ったところで。
「冗談じゃねえ……」
「ああ、化け物なんかとやり合えるかよ……」
それが夢幻ではないと、その正体を認めた途端、兵達が口々に嘆き、諦めて、ついにはうなだれ剣を取り落とす。
それは軍としての崩壊を意味するもの。
(クソッ――終わりだ)
まるで兵達から魂が抜け落ちるがごとく、士気そのものが根こそぎ抜け落ちてしまったのを隊長は感じとっていた。
自分もそうだ。戦わねばならぬと分かっているのに、どうしても腕に力が入らない。
まるで肉体が抗うのを諦めてしまったかのように。己の意志に反して、いや“己の窮地”に気づけぬ愚かな意志を捨て置くように、肉体が勝手に戦うことを放棄していた。
そこで初めて「もしや」と隊長は思う。
だからこそ、上層部は作戦の内容を知らせなかったのではないかと。兵達が知れば士気は水底に沈み込んで、始める前から作戦が成立せぬと分かっていて。
(逆に言えば、上層部はこいつらが森林に潜んでいることを知っていたことになる――まさか、はじめからそれが狙いか?!)
公国と奴らが裏で手を組んでいるという噂は、よく耳にしていた話しのひとつだ。政治の場では「蛮族が蛮族を」と馬鹿にされ議題にすら挙げられなかったというが。
しかし軍部は真剣に“公国攻略”における脅威レベルの検討に取り上げ、「排除すべし」との結論を出していたとしても不思議ではない。
軍関係者ならば無視できぬ、それだけの戦歴を奴らはすでに積み上げているのだから。
『人食い部隊』――
それは一流の剣士を底辺に武器術の達人や鬼才がひしめく恐るべき剣士団の別称。
『戦獄時代』とも謳われて数知れぬ戦いが吹き荒れる中、どこの国にも属さず、さりとて滅せられることもなく異端ともいえる数々の戦場逸話を産み出した奇怪な軍団があった。
『深奥の探求協会』によれば“あえて触れる必要なし”という前提をつけるものの、その取り扱いは“怪物達の暴走”や“小鬼軍団の狂乱”と同列――つまりは一種の“災厄”と見なすべしと高らかに警告する。
下手に関わるな、と。
そんな奴らの軍団においてなお、最強の名を欲しいままにし、子供さえ知っている恐るべき殺戮部隊『人食い部隊』の話しは、今では寝物語りのひとつとなって世で語られていた。
対すれば殲滅必至――。
それが噂話にありがちな誇大妄言であろうとも、確度の高い戦場記録をひとつだけでも目にしていれば、備えなく安易に対峙できるような部隊でないことだけは理解できたであろう。
逆に云えば、入念に策を練り備えてさえいれば、正直、どうとでもできると隊長は高をくくっていた。
いずれ、戦り合う機会を得たいものだとさえ。
無論、根底にあるのは、それだけの力があるという自負だ。
部隊の中には、個人として高い武力を有する元『探索者』の者も少なからず存在し、これまで幾つもの戦場に赴いて誇れるだけの戦果を挙げてきた。
積み上げた実績は十分――そうした叩き上げの部隊だからこそ、今回の蛮族討伐(あくまで指揮官殿の言い回しによれば)にも臆せず参戦し、実際に士気は高くチャンスがあれば武功を挙げるつもりでいたのだ。
それがどうだ――
(確かに油断はあった。国境付近で奴らが現れることはないと、決めつけていた。それに……馬鹿な用兵にも付き合わされた)
だが、それだけか?
それが今、部隊が壊滅に追いやられている理由のすべてか?
(くそっ――)
歯噛みする隊長には十分すぎるほど理解できていた。
自分達が弱いからだと。
奴らと相対するにはあまりに役不足であると。
技も、身のこなしも、実戦への馴れも何もかも。
見よ。
幼子が大人相手に手をばたつかせているように、まったく手も足も出ないではないか。その辺に打ち捨てられている死体の中には、先の元『探索者』も含まれている。
時間稼ぎだなどと、それすら思い上がりもいいところ。
技倆に実戦経験、それだけでも十分な差を見せつけられているのに、さらに、それ以外にも奴らに及ばぬ絶望的な理由があった。
「あの切れ味――やはり、奴らの武具は『精励装具』に匹敵する『翳りの呪具』――あんなのを相手に、どうやって戦えというんだっ」
隊長の嘆きで敵が手心を加えてくれるはずもない。
為す術なく隊列は食いちぎられ、さらに前後へとその毒牙が撃ち込まれていく。隊列を整える余裕などあるはずもなく、隊長は辛うじて死を免れ、ただ押し流されるように退き続ける。
「なぜ、こんな奴らに手を出した――?」
戦闘中であるにも関わらず、上層部に怨嗟の苦鳴を届かせんと隊長は思わず天を仰いだ。それは自軍前衛で部下を激励していた指揮官も同様であった。
*****
「エルンド様、前方に敵影が!!」
第二陣が攻撃を受ける直前、物見の知らせに指揮官は得意げな表情を浮かべた。
「読み通りだな――それで『鬼人』の姿はあるか?」
饗される馳走を期待するように、指揮官が獲物の存在を問えば、部下が指さすまでもなく視界に映る。
前方の広場を塞ぐように居並ぶ人影とそこから頭ひとつ抜けた大男の影が。
「私は『ネステリア国』軍団長エルンドと申すっ。そちらはシノノメ殿と見えるが、いかに?」
指揮官の名乗りに、ゆったりとしていながら、倍する声が音の壁となって叩きつけられた。
「いかにも。儂が貴殿らで言うところの『鬼人』よ」
含まれる笑みさえ感じさせる声に、指揮官どころか兵達も動揺を示す。“蛮族”と侮る相手が、曲がりなりにも“諜報”を使うと知れる一事に、陣営が揺れる。
だが、口上戦で劣れば戦いの趨勢にも関わる。いやせめて、確実にあの鬼人を葬る一手を打たねばならない。
指揮官の口元から微笑が消えた。
「……その武名は我が国でも響いておる。よもや森林に紛れることなぞありませぬな?」
「ずいぶんと分かり易い」
「は?」
独り言のつもりだったのであろうが、大男の声は重く響く。怪訝な顔を見せる指揮官に彼は大葉のごとき手を振るう。
「いや――お望みとあらば、是非もなし」
やけに古めかしい言い回しで返すと、大男があらためて片手を上げた。
何を――?!
思わず緊張が走る指揮官一同。だが、予想に反して蛮族の軍影が前進するどころか、大男をひとり残し、ゆるりと下がり始める。
「何のつもりだ――?」
指揮官の独り言は近くにいた側近にしか聞こえない。その疑問は誰もが同じで、前衛にいる兵達の槍先も乱れている。
「エルンド様……?」
「とにかく、手はず通りだ。槍隊に突撃準備をさせよ」
まるであつらえたように下生えのみで開けた空間に、シノノメと名乗る大男が、悠然と孤立していた。たったひとりきりであるにも関わらず、それでも彼の体躯から放たれる気が、広場を足りぬと圧し、遠近感さえ狂わせる。
聞きしに勝る圧力に、合わせるがごとく虫の声が高まり、そこではじめて槍の穂先が触れ合い、着込んだ金属製の鎧が震えて響く音だと気づいた。
たった一人の男に、戦慣れした兵達が怯えているというのか。
それを知ってか知らずか。
大男の手がおもむろに前へ出され、くいくいと手招く。
「ふ、ふざけ――突撃だっ。あいつを槍でぶち殺せぇっっ」
怒りが恐怖を凌駕して、指揮官が金縛りから解放される。その激しい戦意、焦り、混乱が兵達にも伝播し、狂乱の突撃を敢行させた。
「うぉあああぁあぁあっ!!」
まるで野獣のごとき雄叫び。
どちらが追い詰められているのか分からぬ感じで、ようやく戦いの火蓋が切って落とされる。
林野戦が想定に入っていたのか、兵達が持つ槍は2メートル――5、6メートルが主流となる昨今では珍しい短さだ。
それでも男一人抵抗もさせずに突き殺す十分な針山を形成し、大男に襲い掛かる。場所が場所なら砂塵を舞い上がらせる勢いで。
対する大男の動きは緩やかでさえあった。
自身に集中する針の群れのわずかな隙間を縫い、流れるように巨躯を滑らせて一歩を踏み出す。
槍兵と自身の踏み込みが相まって、一息に距離が縮まったところで大男は攻勢に転じた。
「ふんっ」
小脇に太い槍を抱える感じで、やはり緩やかとさえ見える動きで豪槍一閃。
どきゃ
めき
ぐきゅ
右手の三名が横腹に喰らい、そのまま、まとめて森林の中へ消え去る。返しで大きく腕を広げれば、今度は左手の三名が森林へと吹き飛ばされていた。
いずれも肋骨がへし折れ、内臓破裂で即死、あるいは瀕死の状態であることはいうまでもない。少なくとも本戦闘で二度と前線に戻ってこれないのだけは間違いなかった。
さらに一往復。
あまりの出来事に、ようやく槍兵達の認識が追いつき突撃の勢いを弱めた頃には、仕掛けた第一波の半数以上が戦場から消え去っていた。
「……な、な……なんだ、あの化け物は?!」
指揮官に答える者はいない。
誰もが同じ気持ちで言葉を失っていたからだ。
その間、ほぼ動きを止めたに等しい部隊を、大男はまるで舞うように数歩だけ動いて槍を振るい、まるで庭先の掃き掃除でもするかのごとく、きれいに殲滅してしまう。
「いかがした?」
肩に槍を担ぎ、大男が首を傾げる。その姿に、準備運動にもなっていないのだろうと指揮官はぼんやり考える。
「休ませず兵を掛からせねば、策の意味がないぞ」
承知で受けているとの言動に、呆れを覚えつつ指揮官が部下を叱責した。
「て、敵に諭されてどうするっ。矢を放て! すぐに『重装歩兵』を出陣させるんだ!!」
「恐れながら、エルンド様」
「どうした?!」
もはや最初の余裕がなくなってしまった指揮官に、同じく顔を青ざめさせた副官が必死の形相で進言する。
「『重装歩兵』も小出しにせず、全軍投入すべきかと」
「なら、そうしろっ。あの化け物を殺せるなら、何でもいいから許可してやる!」
「はっ」
必死なのは指揮官も同じだ。世に聞く恐るべき蛮族相手の戦でも、上層部の言葉を信じ、必勝を疑わぬからこそ、任命に応じたといってもいい。負けるどころか命さえ危ぶまれる戦になるとは、あまりに話が違いすぎた。
「くそっ。甘かった……あれが『探索者』たちが言うところの“雲上に至る者”――『銀翼級』という者か。まさか、これほどのものとは……」
生物界における力関係を人の視点で捉えるならば、『人種』<『危険生物』<『深淵を這いずるモノ』というヒエラルキーが浮かび上がる。
それ故、世界のあらゆる地に赴く『探索者』達は、ヒエラルキーの底辺に位置する者として、常に危険と隣り合わせの仕事を強いられていた。
特に、大陸中に点在する危険度の高い遺跡や人里離れた奥地では、通常の危険生物を遙かに超えた存在である『深淵を這いずるモノ』と遭遇する確率が高くなり、万一の場合――逃走や身を隠すなどの万策が尽きた場合――己が持つすべてで以て、抗い、排除せねばならなくなる。
もちろん、腕に覚えのある強者もいよう。
だが、相手は人種と比べれば、多種多様に渡り、かつ、強さの底が知れない『怪物』達。実力差も知らずに相対すれば、悪戯に命を散らすだけなのは言うまでもない。
そこで『深奥の探求協会』が考え出したのが、武力や知力など総合力で判断する『探索者』の“階級分けシステム”であった。
相手にするものが相手だけに、階級の上位者ともなれば、もはや同一種族とさえ思えぬほどの力を持っている。
それは超人的な身体能力や卓越した探索の技術だけでなく、『精霊術』や『魔術』の上級秘術の行使、さらには生まれ持った強力な『異能』を駆使する姿に表れる。
そうした突出した能力を身に付けた、特に世界でも数少ない『銀翼級』を突破した者たちは、ある種至高の存在であったのだ。
その実力は、階級の最高位相当と目されているあの大男――伝聞が真実と知るには、あまりに遅すぎた。
「だからあの男を――? 連中め、私を捨て駒にするつもりか……」
あることに気づき、指揮官は苦みを覚える。
眼前では、雨あれらと降り注ぐ矢の一群をすべて視認しているかのように回転させた槍で打ち落とし、さらには、ひときわ高い音を響かせて、自慢の『重装歩兵』が広場の外へ押しやられる光景が繰り広げられている。
いかなる力が加わったのか、通常の二倍は厚くした鉄板の護りを紙のようにひしゃげさせ、無駄な足掻きと嘲笑う。
切れる札を勿体ぶれば、即座に首を落とされん勢いだ。
「報告!」
「なんだ――?!」
指揮官が苛立ち紛れに伝令を睨めば、肩で息する伝令がかすれ声で告げる。
「第二陣が急襲され……壊滅的打撃を受けました」
「何だと? いや、それよりも、戦っていた話しなど聞いてはおらんぞっ」
血相を変える指揮官に「分かっております」と火に油を注ぐような返事をする。
「信じられぬ話しではありますが、敵のあまりに素早い奇襲と抗戦も許さぬ圧倒的な武力で、瞬く間に、中央部隊が殲滅されたのですっ」
開戦の報告と結果が同時なのは、その通りだからと伝令は訴える。
「私が伝令に走る時点で、後続の第三陣も同様の奇襲を受けたとの報告も耳にしました。第二陣においては隊長格2名が戦死、1名が錯乱による逃亡。すでに本軍は奴らの手によって真っ二つにされています。……援軍はもはや望めないかと」
「…………」
報告を受ける指揮官のこめかみには太い青筋が浮き、握り拳はぶるぶると振るえていた。頬を伝う汗が怒りのせいか恐怖によるものかは分からない。ただ、指揮官が躊躇う理由がなくなったのは確かであった。
「奴を呼べ。それと我らの『召喚導士』も全員投入しろ!」
陣営に指揮官の絶叫が谺した。
*****
「こぉおおっ――」
槍を振るいながら、大男は独特の呼吸を時折挟み込む。消費した『戦気』を戦いながら充填し、まるで無尽蔵に湧き出るかのように“力”を全身に、手に持つ槍に注ぎ続けていた。
故に、ただでさえ尋常ならざる彼の肉体と武器は強力無比な力を発揮する。立ち塞がる敵が消えてなくなるまで。
「小賢しい」
時折、飛来する『火の矢』を『戦気』を纏わせた腕で払い落とし、敵歩兵の剣を奪うや、投擲して術者たる貫頭衣に撃ち込んだ。
伝わる敵陣の動揺は、展開された『貴人の風盾』を糸も容易くぶち抜いて術者を貫く投擲の威力に慄いたためだ。
無理もない。
大男が用いる『戦気』を応用した技は、己の肉体に身体能力強化系の『魔術』を掛けたに等しい効果を発揮し、攻撃をすれば、精霊力を付与したのと同じ効果を発揮する――全身を複数の『魔術工芸品』で強固に堅めぬくか、あるいは上級魔術を幾重にも重ね掛けした兵士をずらりと揃えぬ限り、その暴威を止められるはずもなかった。
何が起きているか理解できぬうちに、敵の貴重な戦力たる『召喚導士』が着実に削られていき、繰り出した『重装歩兵』も磨り潰される。
大男の視界の端で、慌てふためき、あるいは呆然自失となる敵の下級指揮官たちの状態が掴め、そろそろ潮時かと考える。だが――
練習相手としては適度と思われる『重装歩兵』が残り2体となり、一息に突き殺さんと槍持つ手に力を込めたところで、背筋の産毛がぞわりと逆立った。
咄嗟に槍から手を離すのと、空気を灼く轟音が炸裂したのとどちらが早かったか。
凄まじい白光に眼を灼かれた数名の苦鳴が洩れ、誰もが思わず手を翳し目を瞑った。
まるで空気が焼かれたような焦げ臭さが鼻をつく。耳がじんじんと鳴り響き、全身を叩いた音の圧力がいまだに肌を痺れさせている。
大男がいた場所を中心に、何か途方もない力が炸裂したように、窪地が穿たれていた。その最も低い位置に槍が無造作に打ち捨てられているのまで気づいた者はいまい。まして、その槍のおかげで余計な犠牲が出なくて済んだなどと、決して思い至ることはない。
いずれにせよ、それどころではかったからだ。
*****
「――初見で躱されたのは初めてだ」
「え、あ?」
いつの間にか、傍にいた“白の貫頭衣”に気づいて指揮官が目をしばたたかせる。思考の方はまだついてこれないらしい。
だが、事前に知っていたからこそ、状況を何とか把握する。
「――お見事」
「? しくじったと言ったはずだが」
“白の貫頭衣”は見当違いの指揮官の台詞に怪訝な表情を浮かべ、すぐに無駄だと悟ったか、前を向く。いや、動く者の姿があったからだ。
「何だ、今のは――雷か?」
見事言い当てた大男に“白の貫頭衣”は眉一筋動かさず無表情を貫く。まるで目の前で起きている常識外の結果を予期していたかのように。
衣を目深に被ってはっきり見えないが、少しだけ望める白く細い顎に紅を塗ったような赤い唇が女性を思わせる。だが低い声は男のそれであり、一切の動揺を示さず淡々と感想を述べる。
「不意打ちとはいえ、やはり単純な策では嵌められぬか」
「いや、中々の攻撃だったと思うがな。おかげで益々お主がほしくなってきたぞ――『雷鳥』よ」
「誤解を招く――お前はいつもそうだ」
知己の仲なのか? 二人の会話に眉をひそませる周囲に気づき、“白の貫頭衣”がわざとらしく咳払いした。
「指揮官殿。悪いが私はここまでだ」
「……どういう意味です?」
「承知の通り、『雷撃』は『精霊術』でも特殊で高位の攻撃――今の私では二度も撃てる術ではない。残り少ない力では、正直、逃げるので精一杯よ」
「そんな……こんな状況で何を」
もはや失せる血の気もない指揮官に“白の貫頭衣”は冷たく突き放す。
「貴殿も逃げに徹せよ。あれが並の軍隊で抑えられる輩でないことは、もう十分に理解できたはず」
「馬鹿なっ。ここまできて……」
「だが駒は使い切ったろう。公国軍が目当てでない以上、ここで兵を注ぎ込んだ考えは間違っていないが、もはや種切れ。……早く決断しないと撤退に必要な戦力さえ失うぞ?」
「ぐむむ」
あまりに冷静で憎らしい物言いも、的を得ているだけに指揮官も唸り声を洩らすのみ。
「策の失敗を認めろ。正直、ほかの“諱持ち”を狙えばよかったかもしれんが、それも今さらだ。さあ、忠告はしたぞ――互いに武運あらんことを」
「お、おいっ。待て! 誰かそいつを――」
言うや否や、風を巻いて走り出す白き影に慌てて手を伸ばすも届くはずがない。そして、口をあんぐりと開けて呆気にとられる指揮官の肩に、そっと、死に神の手が置かれる。
「もうよいか――そろそろ終わりにしたいが」
既に傍まで近づいていた大男が、剛槍片手に立っていた。
目前にして白髪の多さに初めて気づき、相手が初老に達する者であることに指揮官は驚いた。
その齢でこの強さ。
「なぜに、このような者が――」
乱世に忽然と現れた恐るべき異様の軍団。
大陸において伝聞さえ耳にしない民族衣装あるいは異形の鎧に身を包み、熟練の鍛治師さえ再現叶わぬ細身の剣から繰り出される技は、美麗にしてすべてを断ち切る凄みを持ち、これまで相対した数多の強者を葬ってきた。
それも戦に囚われた『戦獄時代』が故の必然か。
いつしか『災禍』と呼ばれるようになったその軍団の理不尽な強さを目の当たりにして、指揮官はただただ、疑念だけを強くするのだった。
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