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コバルトブルーの季節

作者: みむも

わたしは海の色が好き。

そしてそれをわかってくれるあの人を待つの。

ザアーーッ

波の音が聞こえる。

そっと目を開けて視界に飛び込んできたのはコバルトブルーの空に白く煙のように広がる雲。

その下に同じ色の海が180°目の前に大きく広がる。

水面が波打って光が反射してきらきらと輝く、まるで宝石のようだ。


海と空が大きく見えるこの景色を目の前にして、わたしは今崖の上に立つ。

ざぁぁぁぁと強く風が吹いてきてわたしの髪を大きくたなびかせ揺らす。

気持ちいい。

目を閉じて風を感じる。

まだ湿り気のある暑さに体を強く吹き抜けるこの風の涼やかさはとても心地が良くて、自分も一緒に大気に溶けて流れているような気持ちになる。


わたしはここから見る海が好き。

9月の彼岸の季節、この季節の海の色が好き。

深い海の青い色はわたしの人生で悲しいことを全部包んでくれる気がするから。

この青に自分も溶けて消えてしまいたい、と何度も思ったこともあった。

そういえば、彼に出会ってからはそう思うこともなくなったな。

彼もこの景色が好きで一緒に見に来るようになってからは、いつの間にかこの海の色が好きな理由が変わった。


死んでから分かったの、この海の色が好きなもう一つの理由。

この海の色に溶け込んで頭の中いっぱいに海が広がることであなたと心が交わる気がするから


きぃん、と耳鳴りがする。

少しずつ音が大きくなって、脳裏に思い出がよみがえってくる。

「ぉーーぃ」薄く声が聞こえる。誰だろう、陽炎で姿が見えずらい。

「おーい」近くまでやってくる声と姿がはっきりして、癖のある髪が風にそよいで優しい目元が見える。

・・・ああ、あれはわたしの愛しい彼。


大学生の時に彼に出会った。

同じゼミで知り合い仲良くなってそして同じサークルだと知って合宿中に告白された。

わたしは彼の優しいまなざしが好きだった。

ふわふわと踊るその軽やかな髪の毛も愛しいし、迷いすぎておどおどするところも優しすぎて自分では決められない情けないところも含めて全部全部いとおしかった。

まぁでも、さすがにだらしなさすぎるところやわたしに言いたいことを言えずにうじうじするところなんかはイライラしたから喧嘩だって何度もしたけれど。

それでも大好きで、大好きで、それで結婚してってわたしから言った。

「先に言われちゃった、、ちょっと恥ずかしいな。その・・俺で良かったらぜひお願いします!」

なんて顔を左斜め下に向けて照れながらもじもじして彼は答えた。

・・お前は女子かっ!って言いたくなるくらい照れてたなぁ。


後からちゃんと俺からも言わせてって、そうこの崖の上で指輪をくれた。

思い出しながらわたしは左薬指にはめている指輪を右手で触る。


わたしが床に伏している時に、彼はここの崖から海の写真を撮ってきてはわたしに見せてくれた。

あの時はごめんね。

一人でここから写真を撮っている時の彼は一体どんな気持ちでいたんだろう。

ここから見える海の深い青色はどれだけの悲しい思いをさせたんだろう。

この崖からの景色はわたしの人生。大切な場所だった。

ここの海の色はわたしの大切な色だった。

でも彼にとってこの海の色はつらい思い出の色になってしまったのかしら・・・


閉じていた目を開けて、またまっすぐ前を見る。

大きな海の深い青色がわたしを抱き込むみたいにザアッと目の中に飛び込んできた。

風が強くごうごうと吹いてきてわたしの体が飛ばされそうになる。


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