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残酷な結末

 この世界の人間は10歳になるとジョブを授かる。

 ジョブというのは職業のこと。

 戦士として戦う戦士職、魔法を扱える魔法職などがある。


 この世に生を受けたからには誰もが一流の冒険者に憧れるはずだ。


 冒険者とは。

 ダンジョンに潜ってモンスターを倒し、ギルドの依頼をこなしたり、アイテムを持って帰る者たちをいう。

 モンスターと戦うための剣と魔法。

 どのようなジョブを授かるか。それは冒険者としての資質に大きく関わってくる。

 いや、そこで全てが決まると言ってよい。


 事実。

 一流の冒険者は全員が戦士職か魔法職だ。

 その中でもほぼ全員がソードマンやウィザード。

 パラメーターが一点に特化している者ばかり。

 攻撃力重視。魔法攻撃重視。

 同じような英雄がズラリと並ぶ。

 頂点には多様性がないのだ。


 ジョブには色々なものがある。

 薬草士やアイテム士、鍛冶屋や料理人といったいわゆる非戦闘ジョブもある。

 けれど彼らの中に一流の冒険者になった者はいない。

 1人もいない。


 戦士職・魔法職以外で冒険者をやっていくことは困難。

 いや絶望的と言っていいだろう。


 さて。

 俺ことディルも10歳。

 とうとうジョブを授かることになった。


 一体どんなジョブを授かるのだろうか?

 ジョブを授かる降誕祭の前夜。

 家族みんなが寝た後も俺の目はパッチリと冴えていた。


 戦士になって戦うのか? 魔法職になって魔法を使いこなすのか?

 眠れないくらいワクワクしていた。

 ワクワクしていたんだ。



 待ちに待った降誕祭当日。


 降誕祭は単にジョブが判明する行事というわけではない。

 ジョブはこの世界をあまねく慈悲で満たすアリヤ神から人間族に授けられるもの。

 降誕祭の日は神からの贈り物が与えられる感謝すべき日。

 盛大に祝うことで、神への感謝を示す。


 そのため、降誕祭は村を上げた大きな祭り。

 観光客も多かった。


 屋台が並び、うまそうな料理が振舞われた。

 

 そして祭壇では。

 トーチに炎が灯され、夜空の中、魂のようにゆらめいた。

 どんどんどん、と打楽器の音がする。



 村人はひとところに集まった。

 車座になって、村長を囲んでいる。

 いつになく厳粛な表情。


 それもそうだ。

 今日判明するジョブで子供のこれから、すべては決まる。

 10歳にして人生の素養の全てがわかってしまうのである。



「……お兄ちゃん、次、リューンだって!」


 俺の隣で妹のルーが言う。

 ルーと俺は同い年の兄妹だ。


 ルーも俺も今日ジョブが判明する。


 俺とルーには夢があった。

 二人で一流の冒険者になること。

 幼い頃からの夢。何度も二人で将来の冒険を語り合ったものだ。


 俺とルーは村でも評判の仲良し兄妹。

 二人でパーティーを組んで活動すると決めている。


 一番いいのはお互いがそれぞれ戦士と魔法に分かれることだ。

 そうしたらバランスが良い。

 戦士は遠距離が苦手。魔法は近距離の戦いを苦手としている。

 補い合って進むことができるのである。


 もし。

 それとは違い、二人とも戦士になったり、魔法になったら?

 その時は二人だけだと厳しい。

 三人目を見つけなければならないだろう。


 先ほどルーが言ったリューンというのは俺とルーの兄妹共通の親友。

 親同士も仲がよい。腐れ縁というやつだ。

 もし必要な時には、三人目になって欲しいとお願いするかもしれない仲でもある。


「……アブラハムの息子、リューン。

お前のジョブはファイターだ。

よくはげめ!」


 おおお、と声が上がる。

 リューンの両親がホッと胸をなでおろす。


 ファイターは戦士職。前衛の花形だ。

 より攻撃力に傾斜したソードマンの方が主流だが、十分上位を狙うことはできる。


「へへ、ファイターかあ……ソードマンが良かったんだけどな」


 リューンは照れながらいう。

 リューンにまず声をかけたのは、赤髪のイケメン先輩薬草士ゼルさん。


「リューン、よくやったな。

これからも頑張れよ。

ディルとルーのところに戻ってやれ、奴ら喜ぶぞ」

「はい! ゼル先輩」


 ゼル先輩は一個上。身長が高く頭も良く運動神経抜群。

 ぜひ一流の冒険者に、と各国からジョブの判明を待たず声がかかっていた。

 ゼル先輩自身、冒険者の仲でも最高位の「勇者」になると言明しており、東の魔王を倒してみせるとまで言っていた。

 気性は激しい人だったけど、優しく、俺たちも可愛がってもらった。


 しかし、去年の運命の日。

 ゼル先輩はジョブが薬草士であることを言い渡される。


 皆はゼル先輩から去って行き、国も一斉にそっぽを向いた。

 先輩は勇者になるとか一切言わなくなり、内向的でふさぎがちになった。

 薬草士になり、年下からも馬鹿にされるようになった。

 薬草士は世界にとって必要な回復・治療を担う職だが、そのことを理解できない子供、ときには大人にまで差別されることがある。

 

 先輩は冒険者になる夢を絶たれた。

 かわいそうだな……と俺は思った。


 先輩が優しいのは相変わらずだったから、俺兄妹とリューンは相変わらず先輩を慕っていたけれど。



「次にトレネイルの息子モスト。

お前のジョブはソードマンだ。

よくはげめよ」


 モストは不服そうに鼻を鳴らした。


 官僚の息子。

 こいつと俺は犬猿の仲だった。


 冒険者を目指すと公言する俺を「夢だけでかい身の程知らずの平民」と馬鹿にしていた。


 ジョブに恵まれても、戦士として教育を受けるには金がかかる。

 そのため、こいつの言っていることは間違いではない。

 俺じゃ、ソードマンになれても教育費が稼げないかもしれない。

 そこは、独学ででも鍛え上げ、補助金の出る国立冒険者学院に入る予定でいた。

 妹ルーやリューンもいる。

 必死でやればなんとかなると思っていた。


「気に入らないな。ソードマンか。僕にはちょっと凡庸にすぎるよ」

「モスト。ソードマンを引けてよかったな」


 ゼル先輩が声をかけると、モストは口角を吊り上げた。


「薬草士とかいうゴミを引いた先輩からしたら、

ファイターもソードマンも同じでしょう。

いい加減なこと言わんといてくださいよ」

「貴様!」


 村長がいきり立つ。

 ジョブは神様から与えられるもの

 その優劣で人を見下すことなどあってはならないのだ。

 建前上は。


「いいんです。いいんです村長。

わかったよモスト」


 建前上はそうでも、世の中はそうじゃない。

 薬草士を冒険者に欲しがる人はいないし、英雄として称えられることはない。


 モストのように人として問題があっても、

 すぐに人をバカにするような、浅い発言をする者でも、

 ソードマンならば英雄の資格はある。

 冒険者として迎えられる。そういう資格があり、未来が待っているのだ。


「おお、誰かと思えば平民三人ッチか」


 モストが優越感に満ちた眼差しをこちらに向けてくる。

 奴は「ッチ」という口癖があって俺はそれが死ぬほど嫌いだった。


「リューン。ファイターを引けてよかったな。

まあせいぜい頑張れよ」

「ソードマンが引けて満足か? モスト」


 リューンが言い返す。


「今はそうやって偉そうにしていろよ。

こいつら兄妹がすごいジョブを引いたら、絶対お前は仲間に入れねえ」

「だな」

「そうよ! リューンもっと言ってやって!」


 リューンに俺たち兄妹も賛同する。


「フン……」


 モストは去って行った。



「次は……ルーか」


 村長がこちらをみる。

 妹がゴクリと唾を飲むのがわかった。

 

 ……。


 妹ルーが祭壇に立つ。

 父さんと母さんが緊張するのがわかった。

(というのも、二人は俺たちの後ろにいた)


「トレピアの娘、ルー。

お前のジョブはヒーラーだ。

よくはげめよ」

「やったあ!!」


 妹ルーは大喜びだ。


 ヒーラーというのは魔法職で回復役だ。

 攻撃魔法も一応覚えはする。

 戦士と相性がいい。


 俺が戦士を引けばすぐにでも一緒に旅を始められる。

 もし、俺が攻撃力最強のソードマンだった場合、防御力でソードマンに勝るファイターのリューンにもきてもらって三人パーティーになるとさらにバランスが取れる。


 準備は整った。

 よくやった。よくやったぞルー。

 俺は心の中で思っていた。


「お兄ちゃん、お父さんお母さん!」


 ルーは満面の笑みで帰ってきた。

 父さんも母さんも泣いていた。

 二人は自分が得をしたから嬉しかったのではない。

 娘であるルーの夢が絶たれなかったことに安堵していたのだ。二人はとても優しい。


「トレピアの息子ディル。こちらへ」


 いよいよ運命の時がやってきた。


「やっとだな。ディル」


 リューンがニヤリと笑う。

 待ってるぜ。そんな表情。もはや言葉は無用だ。


「行ってくる」


 俺は歩き出した。

 頑張って、頑張れ、家族が背中越しにいうのがわかる。


 モストの奴とすれ違う。

「ッチ」とあいつが舌打ちする。

 こんな奴に構うものか。

 俺は俺の未来を受領しに行くのだ。

 一歩。また一歩と踏みしめる。


 ゼル先輩が何かいいかけてやめる。

 余計な言葉をかけるのはかえってよくない。そんな風に思ってくれたのだろう。

 先輩は優しい。


 長老の前に立つ。

 村人の視線全部が俺に集中しているのがわかる。

 俺は冒険者志望を公言していた。


 闇の中。炎が揺らめく。

 岩と岩の隙間から、トカゲが一匹。大急ぎで逃げ出す。


「トレピアの息子ディルよ。

おまえのジョブは……」


 ふう。


 どんな結果でも怯えない。

 俺は息を深く吸い込んだ。



 儀式が終わりに近づいていた。

 トーチの炎がひとつまたひとつと消された。


 パラパラと小雨が降り始めた。

 闇の中。

 俺の体を切り裂くように冷やしていく。


「お兄ちゃん……」

「…………」


 運命の日。

 俺の夢の始まりになるはずだった今日。


 俺に告げられたジョブは薬草士。

 薬草士の中でも黒薬草しか使えないという下位職「黒薬草士」。

 俺の全てはあっけなく決まり、今でも現実感がなかった。



「トレピアの息子ディルよ。

おまえのジョブは黒薬草士だ。

よくはげめよ」


「薬草士……?」

「黒薬草士って言ってたぞ……」

「じゃあディル、冒険者にはなれないってこと……?」


 口々に言う。

 なんなのだ。

 いま村長はなんといった……?


「あの……村長。今なんて……!」

「黒薬草士だ。ディル」


 ゼル先輩が俺の腕を引いた。

 村長は一切俺に口をきかない。

 耳も貸そうとしない。視線を向けてくれないのだ。

 ただ、悲しそうな顔をしているように見える。


 ジョブに対する異議申し立ては一切不可。

 村長はジョブを告げた後は一言も口を聞いてはならず、次のものを相手にする。

 それがしきたりだった。


「あの、ソードマンか、ファイターを夢見ています。

努力してきました。もう一度、もう一度お願いします!」

「ディル……!」


 ゼル先輩が強く俺の腕を掴む。

 俺はそんなこと全然気にならず、ほとんど半狂乱になっていた。


「お願いします! 村長! そんな!

薬草士だなんて……受け入れられません。

俺はこの先どうしたらいいんですか?

俺は何も悪いことしてない。

なんで……こんなんで人生全部決まっちゃうなんておかしいでしょ……!」


 俺はバカで惨めなガキだった。

 泣いて泣いて、頭の中がわんわん鳴っていた。


「冒険者になれさえしたら、どれだけでも人生を捧げるよ!

一生懸命やるよ!

弱音なんか吐いたりしない。

前向きに、誰よりも必死にやるよ!

俺にはそういう覚悟があるよ!

なんだってする。してみせる!

なのに、なのにこんな偶然で、くじびきで、全部決めてしまうんですか……!」


 村の役員が近づいてくるのがわかった。

 俺を取り押さえようとする彼らを、ゼル先輩は片手で制した。


 そして先輩は俺の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。

 痛くはなかった。

 先輩はボロボロ泣いていた。


「ディル。ディル……。」

「先輩……?」


 信じられなかった


 薬草士になったとはいえ、去年までは誰よりも強くて優しくてコワかった先輩が、ボロボロ泣いている。


「ディル。お前は立派だ。誇りに思うよ。

けれど、その覚悟があるなら、別の気持ちもきっと固めてみせろ。

お前に必要になのは、戦士になれたら頑張る覚悟じゃない。

それはもう必要じゃなくなった。

これから必要なのは現実を受け入れる勇気。

これからの人生を一歩ずつ進んでいく覚悟だ。

バカにされても、辛くても、なんでもいい、進むしかないんだ。

それができなければ……死ぬまで苦しみ続けるだけだ」


 先輩……。


 俺は我に返った。

 憑き物が落ちたような気分だ。


 そうだ。先輩は俺の何倍も悔しかったはずだ。

 辛かったはずだ。受け入れられなかったに違いないのだ。


 その先輩もいまでは薬草士として頑張っている。


 俺の精神は本当のところまだ傷つき切ったままだった。

 けれど先輩のこの涙が、一時的に薬となって、俺の心を癒した。


「おいおい、残念だったッチな」


 モストがニタリと笑みを浮かべ、幸せそうに歩いてくる。


「冒険者になるんだって? ええ、ディン?

もういっぺん言ってみな」


 モストに対し非難の視線が集中する。

 けれど、止めに入ろうというものはいなかった。


 モストは将来有力者になる人間。誰だってもめたくはない。

 おいおいやめろよ。そんなぼやきが聞こえる。

 モストはそれすらも心地よさそうに続ける。


「結局、戦士職を引けたのは俺とあのリューンだけか。

魔法職はアイナと、ヒーラーのお前の妹か。

ヒーラーは戦士がいなければゴミだな。せいぜい俺が使ってやるよ」


 俺はカッとなった。

 家族の前で自分と妹を侮辱されたのが許せなかった。


 思いっきりモストの顔面を殴る。

 奴は悲鳴を上げて倒れた。


 暴力か……俺は最低だな……。


 今後、ジョブによって俺とモストの差は開いていく。

 とはいえ、今の身体能力はまだ俺のほうが上だった。


「こら、ディル!」


 母さんが俺を止めた。

 村民はあまり俺を非難する風ではなかった。

 みんな、モストは嫌なやつだとは思っている。


「へ、かわいそうにな。

攻撃力の足りないファイターのリューンとだけつるんでちゃ、妹さんも成長できないだろう。

あわれにもほどがあるッチ!」

「ジョブが何よ! あんたとつるむなんてこっちからお断りよ。

一生顔も見せないで!」


 妹が叫ぶ。


 はいはいもうそこまでだというように役員が両者を止める。

 俺だけが立ち尽くしていた。


「なあ、ゼル先輩……黒薬草士って何なんだ……」


 ほとんど放心状態。

 何か希望はないかと、口から漏れ出た言葉だった。


「ディル。

黒薬草士は薬草の中でも黒薬草という貴重な薬草しか使えない、

ハズレのジョブだ。

この不幸を引いてしまう人はめったにいない。

ここ百年いなかった。

黒薬草は入手できることがほとんどないし、

普通の薬草士でも「儀式の炎」という火で炊けば黒薬草を使える」


 何だよ。

 何だよソレ……!


「ディル。現実は非情だ。

けれど、ジョブは人格の全てじゃない。いいか、お前はいつか幸せを見つけろよ」


 辛い。

 辛すぎる……!


 胸の奥がぐっと熱くなり、今喋ったら泣いてしまいそうだった。


 ただ引っかかることがあった。

 お前はいつか幸せを見つけろよ……?


 みれば、先輩の胸元には黒い薬草が詰まっていた。

 一体これは何なのだろうか……?



「みんなに聞いて欲しいことがある」


 儀式の終わり際。

 先輩はみんなに向かって言った。


 パラパラと降っていた小雨はいつしかやんでいた

 儀式の火はまだメラメラ燃えている。


 俺はというと、先輩の言葉を何度も反芻していた。

 まだ、まだつらい。


 けれどいつかは現実を受け入れられる日が来る。

 それに黒薬草だって何かの役に立つかもしれない。

 こうなってしまった以上、俺はリューンやルートはいけないけれど、考えよう。

 何か考えよう。


 そんなことを考えていた。


 先輩の声に、村がどよめく。

 こんなの段取りにあったっけか? 俺も気になった。


「知っての通り、俺は元々戦士になりたかった。

勇者になりたかったんだ。

けど、その夢は断たれた。去年この日、この場所でね」


 何が言いたいんだよ。

 そんなヤジが飛ぶ。


 あのくそモストも、妹も、リューンも怪訝そうな顔。


 村長の表情が変わる。

 先輩が胸元の黒薬草を取り出したのだ。


「一年ずっと頑張ってきた。

けど、何ていうかやっぱり俺は、ダメみたいだ。

耐えられそうにない。

それで……死ぬことにしたんだ」


 周りが「へ?」と虚脱する中、村長だけが鬼気迫った表情で立ち上がる


「それは黒薬草「魂息め(たまやすめ)だ!

普通の薬草士は儀式の火で炊かないと使えないが、

使った薬草士をしに至らしめるという……!

止めろ! 誰か! ゼルを!」

「遅すぎます……遅すぎますよ村長……」


 いったいなぜ?!

 ゼル先輩が死ぬなんて。

 信じられない。最悪の悪夢だ。


 頑張れと言ってくれたのは先輩だ。

 なのに何でこんなことを……?!


 薬草士として活躍していた。

 戦士にはなれなくても、まともな村民は十分先輩を認めていたではないか……!


 どうして?

 俺や、妹のルーは、先輩の両親は、先輩の心を埋めはしなかったのであろうか。

 ずっとこの気持ちを抱えたまま、儀式の火でしか炊けない黒薬草を使うのを待っていたのだろうか?


「し、死んじまうっチー!

俺ら、全員薬草士に殺されちまうっチー!」


 モストが悲鳴をあげると、先輩は優しく微笑んだ。

 慈悲深い表情。

 ぞくりとするくらい穏やかな声。


「大丈夫だよモスト。

この薬草で死ぬのは薬草を使った薬草士の僕だけだ。

その魂は永遠に苦しむという。僕には、お似合いかもしれないね」


 先輩が黒薬草を儀式の火に投げ込もうとする。

 先輩が死ぬ?

 冗談じゃない冗談じゃない……!


「……ディル?!」


 周りが怯える中、俺は先輩を取り押さえた。

 無我夢中だった。


「先輩、馬鹿な真似はやめてください!」


 取り押さえた。


「よくやったぞディル!」


 村民から称賛が上がる。

 しかし俺は見てしまった。


 止めるのが一瞬遅く、薬草のひとひらが火に入ってしまう。

 そんな……!


 その煙が先輩の口に向かっていく。

 これを吸い込んだら終わりだ……!


 先輩を失いたくない。

 先輩がいなくなるなんて絶対嫌だ。

 先輩によくしてもらった俺の家族だって絶対に悲しむ。


 俺は必死で煙を払いのけようとした。

 黒い煙に俺の白い手がはたきかける。

 けどすり抜けてしまう。意味がない。


 どうしたらいいどうしたらいい?


 方法なら、ある。

 もうなりふり構わっていられるか。


 起死回生の一手。

 俺は自らの手を炎の中に突っ込んだ。


「ディル?!」

「あちちちちちっちちちち!!」


 薬草を取り出す。

 葉っぱを蝕む移り火を手のひらでジュっと消す。


 これで何とか治まったか……

 と思ったのもつかの間。


 すでに出た煙は先輩の口に向かっている。

 薬草の火を消しても同じことだ。


 どうしたら……どうしたら……?


 脳裏をよぎったのは村長の言葉。

 この薬草は黒薬草。

 普通の薬草士は儀式の火で炊かないと使えない。

 使った薬草士を死に至らしめる……。


 俺は薬草を思い切り、炎の中に戻した。


 こんなこと、してもダメかもしれない。

 けれど、もう一度火に突っ込むことで、俺が使ったことにできないか?

 使った薬草士の元に煙が行くなら、俺が更新して、先輩を守るのだ。


 案の定。煙はこっちに向かってきた。

 大成功だ。

 先輩を失うわけにはいかない。先輩は尊敬できる人だ。


 周りの悲鳴と怒声が聞こえた気がするけど、よく覚えていない。


 俺は死んだ。


 そして、薬草の効力は黒薬草士が使ったことにより変化。

 そう。ここ百年引き当てるものがいないほどの不幸は、しかしきちんと理解されていなかった。

 魂を蝕む効果は10000倍に強化され。俺は地獄を味わうことになった。

 死に拒まれ、俺は死ぬこともできなかった。


 そして目が覚めた時、俺は生と死の境界を失い、最悪の死霊術師になってこの世に蘇っていた……!

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