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96話

 ──『フェアリーフォレスト』の外にあった馬車を走らせる事、数日。

 聡太たちは──『イマゴール王国』の目の前に来ていた。


「セシル隊長。到着しました」

「うむ。助かったぞ」


 御者の言葉に、全員が一斉に馬車から降りる。

 ……この御者、セシル隊長たちが『フェアリーフォレスト』に行ってから戻ってくるまでの間、たった一人で馬の世話をしていたらしい。

 何とも頼もしい御者に頭を下げ、聡太たちは『イマゴール王国』に足を踏み入れた。


「うわー……ここが『イマゴール王国』……」

「なんだ、来るのは初めてか?」

「まあ、そうね……ウチが暮らしていたのは、小さな村のような所だったし……『妖精国』以外の国に来るのは、今回が初めてよ」

「へぇ……アルマは?」

「……『イマゴール王国』には、一度だけ来た事がありますよぉ」

「国王の娘として……って事か?」

「そうですねぇ……ま、何十年も前の話ですし、『人王(じんおう)』が覚えているかわからないですけどぉ」


 聡太の前を歩くアルマクスが、過去の出来事を思い出すように血色の瞳を細めた。


「……ソータ」

「ん。どうしたセシル隊長」

「その、だな……悪いが、エクステリオン様と話す時は、敬語を使ってもらえるか?」


 セシル隊長の言葉に、聡太は力強く頷いた。


「当たり前だろ。機嫌を損ねたら、勇輝たちの暮らす場所が無くなるんだし」

「……もしもの話だが、エクステリオン様の機嫌を損ね、勇者たちがこの国を追い出されるような事になったら……どうする?」

「……どういう事だ?」

「お前の事だ。もしもの場合を考えて行動しているだろう?」

「……まあ、一応はな」


 話し合いが上手くいかずに、もしも『人王』が勇輝たちをこの国から追い出したら?

 一応、その対策は考えてある。

 だが……聡太の考えよりも、この国で暮らす方が良い。安全だし、衣食住も整っている。

 ……結局の所、『人王』の機嫌を損ねないようにしなければならない。


「……上手くいくと良いんだが」


────────────────────


 ──『イマゴール王国』の王宮に着いた聡太は、セシル隊長と共に『謁見の間』にやって来た。


「……なあ、まだ来ないのか?」

「仕方がないだろう。エクステリオン様は多忙なのだ。こうして会ってもらえる時間を取ってもらえるだけでも、ありがたいんだぞ?」

「そりゃそうだろうけど……」


 玉座の前に立つ聡太が、退屈そうにアクビを漏らした。

 そんな聡太を囲むようにして、何十人という騎士たちが立ち並んでいる。

 もしも聡太が『人王』に襲い掛かったりしたら、この騎士たちが止めるのだろう──その証拠に、騎士たちは聡太をジッと見つめている。


「……居心地悪いな……」


 警戒心と敵意を持って睨み続けられるのは、決して心地良いとは言えない。

 いつ攻撃されてもおかしくない状況の中、聡太が居心地悪そうに肩を竦め──次の瞬間、玉座の後ろにあった扉がゆっくりと開けられた。


「……………」


 扉から現れた男を見た──瞬間、聡太とセシル隊長は素早くその場に膝を突いた。

 ……金髪に碧眼。外見は『妖精王』によく似ている。

 だが──(まと)っている覇気が違う。

 『妖精王』が強者にしか感じ取れない覇気を(まと)っていたとするのなら、この男は──近づく者全てを傷付けるような、敵意剥き出しの覇気だ。

 コイツがエクステリオン=ゼナ・アポワード……この国を治める『人王』か。


「……ん……?」


 『人王』に続いて、少女が『謁見の間』に足を踏み入れた。

 年齢はハルピュイアと同じ程度。『人王』と同じく金髪碧眼で、どこか冷たい印象を感じる少女だ。

 ……そういえば……かなり前にグローリアと一対一で話をした時に、この国には王様と王女様がいると聞いた。

 ──コイツが、その王女様か。


「……貴様が『大罪迷宮』の深下層へ落ちた勇者か」


 玉座に座った『人王』の言葉に、聡太はゆっくりと顔を上げて答えた。


「はい。自分の名前は古河 聡太。他の十一人の勇者と同じく、『十二魔獣』を討伐してこの世界を平和にするために召喚された者です」


 流れるような自己紹介に、セシル隊長が驚いたように眉を上げた。

 聡太だって人間だ。それなりに敬語は使える。

 それに、中学時代は剣道部に所属していたのだ。礼儀作法や目上の人への言葉遣いなども、少なからず頭に入っている。

 もっとも──それが異世界でも通じれば、の話だが。


「……話は聞いている。他の者に比べ、突出した戦闘能力を持っているらしいな」

「いえ、それほどでも」

「それで……何をしに来たのだ? 私も暇ではないのだ。用件があるのなら、早めに済ませてもらおうか」


 『人王』の問い掛けに、聡太は素早く答えた。


「特に深い理由があるわけではございません。友人たちに食事を与え、住む場所を与えてくださっている方へ挨拶を、と思いまして」

「ほう、立派な心掛けだな……それにしては、挨拶に来るのが遅いと思うが?」

「おっしゃる通りです。挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」

「ふん……まあいい。それで、用件はそれだけか?」

「いえ。もう一つ、お伝えしておくべき話が」


 スッと瞳を細める『人王』を正面から見つめ返し、聡太が続ける。


「先日、『フェアリーフォレスト』にて『十二魔獣』と遭遇しました」

「ほう……また貴様が討伐したのか?」

「いえ、自分ではありません。さらに言えば、討伐する事はできませんでした」

「……なに?」

「途中で別の『十二魔獣』が乱入し、撃退という形になってしまいました」

「……それで、誰が撃退したのだ?」

「勇者の一人、剣ヶ崎 討魔です」


 ──剣ヶ崎 討魔。

 その名前を聞いた──瞬間、『人王』の横にいた王女の顔つきが変わったのを、聡太は見逃さなかった。


「……ツルギガサキ・トウマの話は、シャルロットからよく聞いている。シャルロットの話だと、ツルギガサキ・トウマは勇者の中でも最強だとか」


 ……まあ、今は最強と言われても別におかしくはない。

 前までは聡太の方が強かっただろうが……【大罪技能】に目覚めた今、聡太と剣ヶ崎、どちらが強いのかわからない。

 だが……間違いなく、聡太や火鈴に引けを取らぬ強さを得ている事だろう。


「だが……ツルギガサキ・トウマは、勇者の中で最も強いのは貴様だと言っている。この話、貴様はどう思う?」

「……自分にはわかりません。剣ヶ崎とは、戦った事がありませんから」

「では、戦ってみたらどうだ?」


 ピクッと、聡太の眉が一瞬だけ跳ねた。


「先ほど、ツルギガサキ・トウマが『十二魔獣』を撃退したと話していたが……悪いが、信じられない。私は、自分の目で見た事しか信じないからな」

「……そうですか」

「貴様の実力も、また同じだ。何匹もの『十二魔獣』を討伐したと聞いているが……貴様のような子どもが『十二魔獣』を討伐したとは思えない」


 口元に邪悪な笑みを浮かべ、『人王』が続ける。


「貴様とツルギガサキ・トウマで手合わせをしろ。そこで貴様たちの実力を見極める」

「……申し訳ありませんが、それはできませ──」

「断るのなら、勇者共を王宮から追い出す──いや、この国から追放する」


 『人王』の言葉に、聡太がスッと瞳を細めた。


「貴様らに断るという選択肢は存在しない。時刻は今から十分後、訓練所にて(おこな)う。準備をして、ツルギガサキ・トウマを連れて来るが良い」


 冷たい声で言い残し、『人王』が玉座から立ち上がった。

 そのままクルリと身を(ひるがえ)し、王女と共に背後にある扉の中へと消えていく。

 『人王』の気配が遠くなっていくのを確認し──聡太はその場に座り込んだ。


「──セシル隊長」

「う、む……これは参ったな……」

「……『人王』は、何の目的があって俺と剣ヶ崎を戦わせようとしてんだ?」

「ソータとトウマの実力を見極めるというのは、嘘ではないだろう。それに加えて、『十二魔獣』を討伐する勇者がどれほどの力を持っているのか知りたい、という事もあるだろうな……」

「チッ……面倒臭いが、仕方ない。剣ヶ崎の所に行ってくる」


 剣ヶ崎に何と説明すれば良いだろうか──そんな事を考えながら、聡太は剣ヶ崎を探し始めた。

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