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89話

「……………」

「あー……聡太?」

「うるさいぞ」


 『妖精国』の中を歩く聡太が、珍しく切羽詰まったような表情を見せる。


「……まさか、迷子になるなんて……」


 聡太と勇輝のやり取りを見て、剣ヶ崎がそんな言葉を漏らした。

 そう──現在の聡太たちは、迷子になっている。

 どこをどう通ったのか──さっぱり覚えていない。


「……ま、どうにかなるだろ」

「キミはどうにかなるかも知れないが、ボクたちはどうにもならないんだ! 夜になったら国の入口に集合だってセシル隊長が言っていたのを忘れたのか?!」

「お前らの事なんか知らん。そんなに不安なら、近くにいる『妖精族(フェアリー)』に道を聞けばいいだろ」

「……そうだな。よし、そうしよう──」


 ため息を吐き──剣ヶ崎が近くの『妖精族(フェアリー)』に声を掛ける。

 そんな剣ヶ崎を横目で見ながら──聡太は勇輝に話しかけた。


「勇輝」

「なんだ?」

「そもそも最初に聞くべきだったが──お前ら、何してるんだ?」


 そう──聡太は、勇者一行(いっこう)が『十二魔獣』を討伐するために動いていたと知らない。

 そんな聡太の疑問を受け、勇輝が当然のように答えた。


「『十二魔獣』を討伐するためだ。当然だろ?」

「……そうか……ま、【大罪技能】に目覚めた剣ヶ崎もいるし、これからはそこまで心配しなくてもいいか……」


 前までの聡太ならば……俺が『十二魔獣』を討伐するから、お前らは大人しくしてろ──と言っていただろう。

 だが、剣ヶ崎が【大罪技能】に目覚めた事により、『十二魔獣』に負ける確率はグンと低くなった。

 なら、そこまで心配する必要はないだろう。


「……ねーソーター……」

「どうした、ハピィ?」

「ハピィ、眠たーい……」

「……背中に乗るか?」

「おー……ありがとー……」

「『剛力』」


 ハピィを背負い、『剛力』を発動する。

 ──と、話が終わったのか、剣ヶ崎が戻ってきた。


「──聞いてきたぞ!」

「おっ。んじゃ、道案内は頼むぜ!」

「任せておけ! 古河たちも、一緒に行くよな?」

「……途中までは、な」

「途中までって……どういう事だ?」

「元々、俺は食料を買うために外に出てたんだ。それが……なんで戦う事になったんだろうな……」


 何か最近、ずっと戦ってるな──そんな事を思い、聡太がどこか疲れたようなため息を吐いた。

 いや……聡太たち十二人は、『十二魔獣』と戦うために召喚されたのだ。戦うのが仕事とも言える。

 まあ……あれだけ頻繁に戦っていれば、体調も壊すだろう。これからは、体調にも注意して行動するように気をつけよう。


「……なあ聡太」

「なんだ?」

「あの……名前何だったっけ、あの『吸血族(ヴァンパイア)』?」

「アルマか?」

「ああそれだ。『吸血族(ヴァンパイア)』って、オレらが召喚される前に滅ぼされたって話じゃなかったか?」

「ボクも気になっていた。あの子は『吸血族(ヴァンパイア)』の生き残りなのかい?」


 勇輝に続いて、先を歩いていた剣ヶ崎も興味深そうに問い掛けてくる。


「まあ、そうだな……アルマが言うには、ヘルムートに国を滅ぼされて以降、自分以外の『吸血族(ヴァンパイア)』は見た事がないってさ」

「そうか……それで? なんで聡太が『吸血族(ヴァンパイア)』を仲間にしてんだ?」

「目的が同じだからだ。俺は『十二魔獣』を殺す、アルマは『十二魔獣』に復讐する、ってな。それと、俺とアルマは仲間じゃない。一時的に手を組んでいるだけだ」


 聡太の言葉に、勇輝がポリポリと頬を掻いた。


「素直じゃねぇなぁ……一緒の目的を持って行動してんなら、それはもう仲間だろ?」

「敵の敵は味方ってヤツだ。俺はアルマを本気で信頼してない。アルマも俺を本気で信頼してない。お互いの目的と復讐心を信用している。これが仲間か? 手を組んでるっていう方がしっくりくるだろ?」

「んー……何つーか、苦労しそうな性格だよな、お前」

「まだ出会って数日しか経ってないんだ。警戒するのも仕方ないだろ」


 素っ気なく言う聡太の肩に、剣ヶ崎が手を置いた。


「何を言っているんだ! 相手に信頼されたいのなら、まずは自分が相手を信頼する事が大事だろう!」

「無理だ。言っちゃなんだが、アイツはかなり頭がキレる。俺がアイツを信頼したとしたら……アイツに上手く使われる未来しか見えない」


 聡太もかなり頭の回転が速いが──アルマクスもまた、かなりのキレ者だ。

 まだ出会って数日しか経っていないが──正直、アルマクスの方が、聡太よりも頭がキレるだろう。

 そんなアルマクスを、何の警戒もせず信頼したら、どうなるか。

 考えるまでもない。上手いように使われ、用済みになったら手を切られるのがオチだ。


「そんなに怖いのか……」

「怖いって言うか……敵には回したくないな」


 アルマクスの使う【結晶魔法】は、虚を()いたりするのを得意とする。

 《天駆ける魔獣(ハルバルド)》との戦いの時に見せた、四重強化された鎖の結晶──あれと似た魔法が使えるのなら、間違いなく厄介な魔法使いだ。

 それに、アルマクスには【操血】という【技能】もある。血を浴びるだけで、こちらが一気に不利になるのだ。

 そして最後に──【血力解放】という、未知の【技能】。

 アルマクス(いわ)く、切り札だと言っていたが──その能力も、どのような効果があるのかも、聡太は知らない。

 故に──アルマクスは、できるだけ敵に回したくない人物だ。


「……ま、今の所は問題なさそうだけどな」


 聡太が『十二魔獣』に殺すのを目的とし、アルマクスが《死を運ぶ魔獣(ヘルムート)》に復讐を望み続けるのなら。

 互いの性格を信頼せず、互いの目的と復讐心のみを信用した歪な関係は──ヘルムートが倒されるその日まで、続くのだろう。


「……帰ったら、謝るか……」


 冷静に考えて、アルマクスの厄介さと強さをもう一度理解した聡太は──帰ったら裸を見た事を謝ろうと、密かに誓った。


────────────────────


 ──途中で携帯食料を買った聡太とハルピュイアは、宿に戻ってきた。


「んじゃ、また明日の朝な」

「おー! また明日ー!」


 完全に目を覚ましたハルピュイアを見送り、聡太は二人部屋へ足を踏み入れた。


「戻ったぞ、アルマ。それと、さっきの話だが──」

「──残念ですけど、アルマではありませんよ」

「……は?」


 部屋の中にいたのは──何故かミリアだった。


「……あれ? アルマは?」

「部屋を変わってもらいました。裸を見られた上に同じ部屋で寝るなんて嫌ですぅ、って言ってたので」

「アイツ……」

「それより、遅かったですね?」

「……ああ、実は──」


 ベッドの上に座り、何があったのかをミリアに説明する。

 ハルピュイアの『ステータスプレート』が盗まれた事。

 その後を追い掛け、勇輝たちと遭遇した事。

 さらに追いかけた先で──かなり強い『褐女種(アマゾネス)』の女性を戦った事。

 話を聞き終わったミリアは──深々とため息を吐き、聡太に苦笑を見せた。


「何と言うか……お疲れ様でした」

「本当にな……ただの食料の買い出しのはずだったのにな……」


 聡太が苦笑を浮かべ、バックパックを置いて立ち上がった。


「俺はもう一回風呂に入ってくる。一応、食料の確認を頼む」

「わかりました」


 ……仕方がない。アルマクスに謝るのは、明日にしよう。

 三本の刀を外し、憤怒のお面をベッドの上に置き、聡太は風呂場へと向かった。


「……あの『褐女種(アマゾネス)』、マジで強かったな……」


 洗濯機のような『地精道具(ドワーフ・ツール)』に服を入れながら、先ほどの戦闘を思い出す。

 ……本当に強かった。聡太の勘違いでなければ──あの『褐女種(アマゾネス)』は、《月に吼える魔獣(パルハーラ)》と正面から戦えるだろう。

 もちろん、パルハーラは再生能力を持っているし、若干(じゃっかん)褐女種(アマゾネス)』の方がパワーもスピードも劣ってはいたが……それでも、驚くほどに強い。


「……そういや……」


 全裸になった聡太は、ふと疑問に気付いた。

 ──あの『褐女種(アマゾネス)』は、なんであそこにいた?

 『褐女種(アマゾネス)』は『人類族(ウィズダム)』の一種だ。その性質もあって、この世界ではそこまで好まれている種ではない。

 そんな『褐女種(アマゾネス)』が──なんで『妖精族(フェアリー)』の国に?


「……気にしてもしょうがないか」


 風呂に入り──浴槽にお湯が溜まっている事に気づき、聡太が驚いたように目を見開いた。

 ……聡太が入った時は、浴槽にお湯なんて入ってなかったはずだ。

 だとしたら、アルマクスか? いや……アイツは風呂に入って出るまでがかなり早かった。アルマクスではないだろう。

 という事は……ミリアだろうか。


「……本当に、気が利く奴だな」


 風呂から上がったら礼を言おう──そんな事を思いながら、聡太が風呂桶を手に取った。

 浴槽に入ったお湯をすくい上げ、体を洗い流す。

 元の世界にいた時は、体を洗ってから浴槽に入っていたのだが……今日ぐらいは別にいいだろう。

 体をお湯で洗い流した聡太は、そのまま浴槽に入った。


「おっ……おお……」


 肩までゆっくりと浸かり、聡太が気持ち良さそうな声を漏らした。

 ……そうだった。風呂って、こんな感じだったな。

 ずっと入っていなかったから忘れていたが……そうだ、こんな感じだ。懐かしい。


 瞳を閉じ、できるだけ疲れを取ろうと力を抜き──


「──ソータ様」

「はっ……?」


 風呂場の扉が開けられる音に、聡太は勢いよく視線を向けた。

 そこには──タオルで体を隠す、真っ赤な顔のミリアがいた。

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