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85話

「──きろ聡太! オイ! 起きろ聡太!」


 乱暴に体を揺すられ、聡太がゆっくりと目を開いた。

 ──体が軽い。熱も引いている。

 体調が戻っている事に気づき、聡太が体を起こした。

 そして──聡太を起こそうと騒いでいた者に視線を向け、眉を寄せる。


「勇輝か……起こすんならもうちょっと優しく起こしてくれよ……」

「それ(どころ)じゃねぇんだよ! 周りを見ろ!」


 勇輝に言われ、聡太が辺りを見回した。

 ──囲まれている。

 勇者一行(いっこう)とセシル隊長、そしてミリアとハルピュイアとアルマクスは……背中からひし形の羽を生やす種族に囲まれていた。


「……は?」


 立ち上がり、もう一度辺りを見回す。

 ──王宮の中……だろうか。

 翡翠色の羽を生やした騎士のような男たちが、聡太たちを睨み付けている。

 聡太が眠る前までは、『フェアリーフォレスト』にいたはずだが──


「おい貴様! どこを見ている!」


 聡太の近くにいた男が、槍の先端を聡太に向けた。

 それに合わせて、周りにいた騎士たちが武器を構えて殺気を放つ──と。


「──ああ?」


 ──広間に殺気が満ち溢れる。

 槍を構えていた男の表情が引き()り、聡太が左腰に下げていた『紅桜』を抜いた。


「落ち着け聡太! 手を出すのはダメだ!」

「……先に殺気を向けてきたのはコイツらだろ。俺に我慢しろってのか?」

「色々と事情があるんだ! とりあえず武器を収めろ! ややこしくなる!」


 勇輝と必死な訴えに、聡太が渋々『紅桜』を鞘に収めた。


「……んで、これはどういう状況だ?」

「何つーか……簡単に言うなら、剣ヶ崎が原因だ」

「剣ヶ崎が……? 何やらかしたんだ?」

「森に火を()けたんだ」

「お前マジで何やってんだよ」

「そ、その言い方は語弊があるぞ! 結果的に木を燃やしてしまっただけで、わざとじゃない!」


 勇輝の説明に、剣ヶ崎がブンブンと手を振る。

 だが……剣ヶ崎以外、誰も否定しない。

 救いを求めるように、剣ヶ崎が破闇と小鳥遊へ視線を向けるが──フイッと、二人が視線を逸らした。

 どうやら、本当に剣ヶ崎が原因らしい。


「うるさいぞ犯罪者共! もうすぐ『妖精王』が来られる、私語は慎め!」


 玉座の横に立つ男が、鋭い声を発した。

 男を睨み付ける聡太が小さく舌打ちし──ここにいる男たちの種族を理解した。

 『妖精王』が治める国、『妖精国 ティターニア』。

 という事は、この男たちは──『妖精族(フェアリー)』だ。


「……森を焼いたから、犯罪者呼ばわりされてるって事か」

「ああ。『フェアリーフォレスト』は『妖精族(フェアリー)』の領土らしくてな。よくわからねぇけど……『フェアリーフォレスト』の木を燃やしたり伐採したりするのは、この国では重罪になるらしい」

「……じゃあなんだ? 俺らは今から、裁判にでも掛けられるのか?」


 冗談っぽく言う聡太に、勇輝は……暗い顔で頷いた。


「剣ヶ崎……」

「……本当に悪いと思っている」

「はぁ……だけど、森を焼いたのは剣ヶ崎だろ? なんで俺たちまで犯罪者になってるんだ?」

「『十二魔獣』が『フェアリーフォレスト』にいただろ?」

「ああ……あの気持ち悪い奴か」

「それが嘘だと思われてる。つまり、今のオレらは──『十二魔獣』がいたと嘘を()いて、『フェアリーフォレスト』の木に火を点けたって思われてんだ」


 ……なるほど。

 『吸血族(ヴァンパイア)』は、たった一匹の『十二魔獣』によって滅ぼされた。

 そんな『十二魔獣』と遭遇して、生き残っている方がおかしい。そう思うのが普通だ。

 よって、今の聡太たちは──『十二魔獣』がいたと嘘を吐いたと思われており、別の目的があって『フェアリーフォレスト』の木に火を点けたと思われている……と。


「ややこしいな……それで、『フェアリーフォレスト』はどうなったんだ?」

「剣ヶ崎と水面が【水魔法】を使って火を消した」

「消したのか……それなら、俺らに害意があったとは思われないはずだけど──」


 そこまで言って──ガンッ! と、『妖精族(フェアリー)』の騎士が槍の持ち手で床を鳴らした。


「『妖精王』の入場である! (ひざまず)き、(こうべ)()れよ!」


 男の言葉に、その場にいた『妖精族(フェアリー)』が(ひざまず)いた。

 合わせてセシル隊長も(ひざまず)き、勇者たちも慣れない様子でその場に膝を突く。

 唯一、聡太だけが突っ立ったままだったが──隣の勇輝が聡太を押し倒し、聡太の頭を無理矢理に下げさせた。


「てめぇ勇輝──」

「さすがに空気を読んどけ!」


 聡太が勇輝を振り払う──直前、玉座の後ろにある大扉が乱暴に開けられた。


「─────」


 現れた『妖精王』を見て、聡太が瞳を細めた。

 ──若い。それこそ、年齢はセシル隊長よりも若いだろう。

 背中からは八枚ものひし形の羽が生えており……どこか神々しさを感じる。

 翡翠色の瞳でゆっくりと広間を見回し……美しい金髪を揺らしながら、『妖精王』が玉座に腰掛けた。


「……顔を上げよ」


 『妖精王』の言葉に、全員が顔を上げた。


「オベイロン=フォール・リグルナッド様! 罪状は、先ほど申し上げた通りでございます! また、この者たちは『十二魔獣』と遭遇したなどという虚言を──」


 スッと、『妖精王』が小さく手を上げた。

 それを見て、騎士の男が発言を中断し、前を向いて背筋を伸ばす。


「……貴様らの(おこな)いは聞いている。何でも、『フェアリーフォレスト』の木を燃やし、『十二魔獣』がいたという嘘を()いたとか……これは(まこと)か?」

「い、いえ違います! ボクはただ──」

「真実か、真実ではないか……どちらだ?」


 『妖精王』の冷たい声に、剣ヶ崎が気圧(けお)されたように表情を引き()らせた。

 ──この『妖精王』、かなり強い。

 『妖精王』の放つ覇気に、聡太は警戒を深めた。

 【大罪技能】に目覚めている聡太や火鈴、剣ヶ崎には及ばないが……それでも、勇輝や土御門を圧倒するほどの覇気。

 もしコイツと戦いになったら──勇輝たちが逃げる時間を稼がなければならない。

 いつでも魔法を使用できるように構え、聡太が『妖精王』を睨み付けた。


「……一部は、真実です……」

「そうか」


 『妖精王』が翡翠色の瞳を閉じ……やがて、ゆっくりと瞳を開いた。


「お前たちは出て行け。コイツらと話がしたい」

「お、オベイロン様! それは危険です! この者たちは──」

当方(とうほう)に危害を加えるつもりなら、とっくに攻撃している……そうだろう? 先ほどから当方を睨み付けている、若い『人類族(ウィズダム)』よ」

「……!」


 聡太に視線を向け、『妖精王』が薄く笑う。


「し、しかし……! 万が一、オベイロン様に何かあれば……!」

「この者たちと当方が戦う事になった時……お前たちが近くにいれば、当方の攻撃に巻き込んでしまう。それは理解しているだろう? 次は言わぬ、出て行け」

「……承知、しました……何かあれば、すぐに呼んでください」


 『妖精族(フェアリー)』の騎士たちが、後ろ髪を引かれるような顔で広間を後にする。

 シン、と静まり返る広間──と、いきなり立ち上がった聡太が、『紅桜』を抜いて『妖精王』と向き合った。


「聡太!」

「悪い、勇輝……武器は持たせてくれ。コイツは……下手したら、何人か殺される」


 聡太ほどの男が、武器を構えていないと落ち着かない──その意味を理解し、全員の体に緊張が走る。


「そう警戒するな。当方は戦うつもりはない……もっとも、貴様が戦いたいのなら話は別だが」

「……悪いな。失礼なのはわかってるが、あんたほどの強者を前にして無防備でいられるほど、俺の肝は据わってないんだ。気にしないでくれ」


 警戒心を剥き出しにする聡太──その隣に、火鈴とハルピュイアが並び立った。

 さらに、聡太の背後にミリアとアルマクスが隠れるように立ち、いつでも魔法を使えるように身構える。


「……『黒森精族(ダークエルフ)』に『吸血族(ヴァンパイア)』……なかなか面白い種族を連れているな?」

「そりゃどうも……んで、俺らと話がしたいと言ってたが、その内容は?」

「なに、難しい話ではない──『フェアリーフォレスト』の中で『十二魔獣』と遭遇したと聞いたが、真実か?」


 瞳を細めて問い掛けてくる『妖精王』に、剣ヶ崎がブンブンと頭を振って肯定した。


「本当です! 『十二魔獣』に遭遇して……ボクが深く考えずに炎を使ってしまいました……」

「……そもそも、森の中で火を使うのは危険だとわからないのか?」

「申し訳ありません……」

「ふん……【審判の魔眼】」


 『妖精王』の瞳に幾何学的な模様が浮かび上がり──消えた。

 何が起きたのかわからない──が、何かをしたのは事実。

 聡太がミリアに視線を向け──ミリアが頷き、その瞳に幾何学的な模様を浮かべて『妖精王』を『視』た。


「…………発言の真偽を見抜く【審判の魔眼】……どうやら、私たちの発言が本当かどうかを見抜くために、魔眼を使ったみたいです」


 ヒソヒソと周りに聞こえないように、ミリアが聡太に耳打ちする。

 数秒ほど、『妖精王』が聡太たちを『視』て──フッと、小さく笑った。


「……そうか。真実か……疑って悪かったな」

「んなら、もう用は済んだろ? 帰してくれないか?」

「いや……悪いが、もう少し話が聞きたい。『フェアリーフォレスト』にいたと言う『十二魔獣』の事を教えてくれ」


 『妖精王』の言葉に、聡太はセシル隊長へ視線を向けた。


「……わかりました。自分の知っている限りの『十二魔獣』の情報をお教えします。その代わり、今回の件は──」

「わかっている。貴様らにも悪気があったわけではないようだしな……この中の代表は貴様か。名は?」

「はっ。『イマゴール王国』騎士団隊長、セシル・ソルドリアと申します」

「そうか……ではセシル、こちらに来い。話を聞かせてもらうぞ」


 『妖精王』が玉座から立ち上がり、背後にある扉に向かって行く。


「……セシル隊長。ボクは……」

「お前たちは『妖精国』の観光でもして来い。夜頃になったら、国の入口に集合だ」

「……了解です。その……すみません。ボクのせいで……」

「気にするな。あの『十二魔獣』を追い払えたのは、お前のおかげでもある。感謝こそあるが、咎めるつもりはない」

「はい……ありがとう、ございます……」


 『妖精王』に続いて、セシル隊長が奥の部屋へと消えていった。


「……ソータ様」

「ま、とりあえず食料の調達に行くか」

「はい!」


 セシル隊長の事を特に気にする様子もなく、聡太たちは『妖精国』の王宮を後にした。

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