表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/117

82話

 ──『聖天』を継続して発動し続ける事で、体調不良を少し和らげる事ができている。どうやら、傷を癒す以外にも使えるようだ。

 戦いの場に現れた聡太が、苦しそうに呼吸をするが──その口元に、獰猛な笑みを浮かべた。

 油断すれば倒れそうになるが──これなら、どうにか戦える。

 『聖天』を継続して発動し続けるため、使える残りは──二重詠唱。

 吹き飛んだ剣ヶ崎と、木の陰に隠れたレオーニオに意識を向け、聡太が刀を握り直した。


「──バカーッ!」

「おうっ?!」


 火鈴の手のひらが、聡太の後頭部を撃ち抜いた。

 ぐわぁんと衝撃が頭に響き、思わず倒れそうになってしまう。

 何とかギリギリで堪え、聡太が火鈴に怒号を上げた。


「てめぇ火鈴! いきなり何しやがるッ?!」

「それはこっちのセリフ! なんで来たの?! 加勢には来させないでってアルマくんに頼んでたのに!」


 本気で聡太の事を心配しているのだろう。火鈴の瞳には涙が浮かんでいる。


「……心配すんな。もう大丈夫──」

「大丈夫ではないでしょう!」


 大声を上げるミリアが、聡太に詰め寄った。


「何を考えてるんですか?! 先ほど倒れたのを忘れたのですか?!」

「だ、だから大丈夫だって。ほら、問題ないだろ?」

「あります! わからないとでも思っているのですか?! 一日二日の付き合いじゃないんです、バカにしないでくださいっ!」


 魔力を感じ取る事のできる『森精族(エルフ)』のミリアは、聡太の周りを覆っている魔力に気づいたのだろう。

 『聖天』を継続して発動する事で、体調をどうにか整えている──その事に気づいたのか、ミリアがさらに顔を真っ赤に染めた。


「はっははははははッ! 珍しいなぁ、聡太が困ってるなんてよ!」


 ミリアと火鈴に責められる聡太を見て、勇輝が爆笑しながら近づいてくる。


「……うるさいぞ勇輝。お前の大声は頭にくる」

「それってどっちの意味だ? 頭が痛くなるって意味か? それともイラッとくるって意味か? お? 言ってみろ」

「どっちもだって気づかないのか? ただでさえ見た目が暑苦しいんだ。これ以上はやめてくれ。頼むから」

「お前本っ当に口悪いよな?! オレ以外にはそんな喋り方すんなよ?! マジで!」


 勇輝が聡太の肩に手を置き──小さく低い声で、聡太に問い掛けた。


「……無理してんのはわかってる。それを承知で聞くぞ──お前なら、やれるよな?」

「……はっ。誰に言ってんだお前。中学一年の頃、インフルなのに部活に行った俺だぞ?」

「それは休め。いや頼むから」


 不敵な笑みを浮かべる聡太から視線を逸らし、勇輝がミリアを見た。


「つーわけだ。こうなった聡太は何を言っても止まらねぇぞ?」

「……いや何言ってるんですか、止めてくださいよ。というか、止める(どころ)かバッチリ煽ってたじゃないですかあなた」

「安心しな。オレが聡太の援護をする。それでいいだろ?」

「お前が俺の援護だと……? ……俺に合わせられるのか?」

「バカ野郎。この場にいる中で、お前の事を一番知ってんのは……間違いなくオレだろ?」

「「むっ」」


 勇輝の言葉に、ミリアと火鈴が何か言いたそうに口を開くが──それよりも前に、聡太が勇輝に拳を出した。


「足引っ張んなよ、親友」

「お前こそ気合入れろよ、親友」


 拳をぶつけ合い、年相応の笑みを浮かべる聡太と勇輝。

 ──と、吹き飛ばされた剣ヶ崎が戻って来た。

 それと同時、隠れていたレオーニオが姿を現す。


「……もう、わかったよ〜。聡ちゃんと鬼龍院くんは、剣ヶ崎くんの相手を任せるね〜」

「なら、『十二魔獣』は任せるぞ」

「うん──アイツにはリベンジしないと、あたしの気が収まらないからね〜……!」

「ミリア、火鈴の援護を頼んだ」

「……この戦いが終わったら、一度じっくりとお話しをしましょうね」


 有無を言わせぬミリアの覇気に、思わず聡太が頷く。


「小鳥遊!」

「な、なに?!」

「悪いが、剣ヶ崎がケガしたら治してやってくれ!」

「う、うん! 古河くんも気を付けてね!」


 そう言った──直後、レオーニオが聡太に飛びかかった。

 その剛爪が聡太を引き裂く──寸前、火鈴がレオーニオの首元を掴んだ。


「──あたしが相手なんだから、無視しないでほしいな〜……!」


 いつの間に【暴食に囚われし飢える者】を発動したのか、レオーニオの首を掴んだ火鈴が森の奥へと駆けていく。

 その後をミリアが追いかけ──聡太が勇輝に声を掛けた。


「勇輝。俺が王宮にいた頃に練習してた()()、覚えてるか?」

「……あー……一応覚えてるけどよ、ここでやんのか?」

「ちょっと内容は変えるが……お前は押し倒すんじゃなくて、タックルをすればいい」

「了解っと。しっかり合わせろよ?」

「お前こそ、失敗すんなよ」


 勇輝が腰を落として身構え、聡太が左手を大きく(かか)げた。


「──『水弾』」


 辺りに青色の魔法陣が浮かび上がり──魔法陣から、水で作られた弾丸が射出される。

 それと同時、勇輝が剣ヶ崎に向かって駆け出した。


「あアああああアアアアアッッ!!」


 迫る『水弾』を聖剣で斬り裂き、聖盾で防ぎ、聖鎧で受け止める。

 ──固い。複重強化していないとはいえ、傷一つ付かないとは。


「──まあでも、避けずに受け止めてくれて助かったぜ」


 勇輝の陰に隠れて、聡太も剣ヶ崎に向かって走り──詠唱した。


「『凍絶』ッ!」


 辺りの気温が一気に下がり──剣ヶ崎の体が凍り付いた。

 聡太や勇輝は凍っていない……なのに、剣ヶ崎だけが凍っている。

 ──『水弾』の影響だ。

 避ければ良いのに、わざわざ盾や鎧で受けたため──体に水が付着した。

 それが凍り、剣ヶ崎の体の自由を奪ったのだ。


「るあアッ──!」


 無理矢理氷を引き剥がし、迫る勇輝に向かって聖剣を振り上げ──バッと、何かが上へと飛んだ。

 聡太だ。勇輝の背中を踏み台にし、上へ飛び上がったのだ。

 勇輝から注意が逸れ、聡太に視線を向けた──瞬間。


「【増強】ッ!」


 勇輝が全身の筋力を底上げし──剣ヶ崎に肩からタックルした。

 注意が逸れていた上に、急な速度上昇。剣ヶ崎が反応できずに、勇輝のタックルをモロに食らった。


「『二重詠唱・黒重』ッ!」

「お、ォおおオお……?!」


 吹き飛んだ剣ヶ崎が立ち上がる──前に、聡太が二重強化の『黒重』を発動。

 不可視の重力を受け、剣ヶ崎が地面に沈んだ。


「よし……ナイスタックル、勇輝」

「おう。思ったより上手くいったな」


 剣ヶ崎が必死にもがくが──二重強化された『黒重』の影響で、思うように体を動かせていない。


「……大丈夫か、聡太?」

「……ああ……」


 ドカッと、聡太がその場に座り込んだ。

 ……(ひたい)には汗が浮かんでおり、呼吸が荒い。

 間違いなく、無理をしている。


「……あ……?」

「どうした聡太?」


 聡太が眉を寄せ──フッと、『黒重』と『聖天』が解除された。

 そして──聡太が倒れた。どうやら、『聖天』が解除された事で、無理をしていた体に熱が戻ってきたらしい。

 ──もう『黒重』を維持する体力も、『聖天』を継続する体力も残っていない、という事だ。


「そ、聡太?! オイ、しっかりしろ!」

「うるせぇ……」


 ──ザッザッと、こちらに歩み寄ってくる足音。

 勇輝が顔を上げると──そこに、紫色の瞳を輝かせる剣ヶ崎がいた。

 聡太を守るために、剣ヶ崎の前に立つ勇輝。

 そんな勇輝をスルーして──聡太が剣ヶ崎に声を掛けた。


「……あっちに『十二魔獣』がいる……悪いが、今回の俺は戦力外だ……火鈴とミリアを頼む、剣ヶ崎……」

「──任せてくれ」


 剣ヶ崎の言葉を聞き、勇者たちが目を見開いた。


「……ごめん、みんな。謝罪は後でさせてもらうよ。今は……あの『十二魔獣』を倒してくる」


 脚力を爆発させ、聡太が指差した方向へと走っていく剣ヶ崎。

 その後ろ姿を見つめ──聡太の声を聞いて我に返る。


「ふ、はは……初めての使用で、もう【大罪技能】を自分の力にするとか……アイツ、やっぱスゴいな……」

「あ? なんて?」

「……悪い、勇輝……少し休む……」


 聡太の体から力が抜け、瞳を閉じた。

 それと同時──聡太の体に浮かんでいた赤黒い紋様が消えた。【憤怒に燃えし愚か者】が解除されたという事だ。


「た、小鳥遊!」

「うん! “我、全ての者に癒しを与える者。優しき光よ、傷付く者の傷を癒し、安らぎを与えよ”『ライト・ヒール』っ!」


 淡い光が聡太を包み込む──が、聡太の体から熱が下がらない。

 荒々しい呼吸を繰り返す聡太を見て、勇輝の顔から血の気が引いていった。


「や、べぇ……! 小鳥遊で無理なら──」

「先生の出番ですね」


 小鳥遊の後ろから、川上先生が姿を見せた。

 そのまま聡太に近づき──手を握って、【技能】を発動する。


「──【地質浄化】【水質浄化】【空気浄化】」


 ──【地質浄化】。

 本来ならば大地に使う【技能】だが──人間にも使う事ができる。

 これを人間に使用すると──人間が大地の判定になり、その者の体に存在する悪い物質を浄化する事ができるのだ。


 ──【水質浄化】。

 本来ならば水に使う【技能】だが──人間にも使う事ができる。

 これを人間に使用すると──人間の血液が水の判定になり、その者の血液中に存在する悪い物質を浄化する事ができるのだ。


 ──【空気浄化】。

 本来ならば空気に使う【技能】だが──人間にも使う事ができる。

 これを人間に使用すると──人間の体内にある空気に反応し、その空気を浄化する事ができるのだ。


「──ふぅ……こ、これでどうですかね……?」


 一気に【技能】を使用した影響か、川上先生が疲れを含んだ笑みを見せる。

 ──聡太の呼吸が落ち着いている。熱も引いており、体調が回復しているのは(あき)らかだ。


「す、げぇ……先生、何をしたんだ?」

「古河君の体を浄化したんです。何が原因かわかりませんけど……これで少しは良くなったはずです」


 パンパンと膝元を払い──川上先生が、その視線を森の奥へ向けた。


「皆さん、獄炎さんと剣ヶ崎君を追いましょう。行きますよ」


 先生の言葉に全員が頷き、森の奥へと消えた『十二魔獣』の元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ