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74話

「うわ?! わあ?!」

「ブモォォォォォンンッッ!!」


 逃げ回る遠藤に向かって、ミノタウロスが勢いよく突進。

 ただでさえ運動神経の悪い遠藤は、あっという間にミノタウロスに追いつかれ──


「【瞬歩】ッ!」

「ブルォッ──」

「チッ! これを避けるか……!」


 一瞬でミノタウロスの前に瞬間移動した宵闇が、紫色の槍──『グングニル』を突き出した。

 だが──ミノタウロスは驚異の回避能力を見せ、宵闇の攻撃は虚空を突いた。


「ご、ごめ、ごめん影人……」

「それは、何に対する謝罪だ? お前の足が遅い事か? 体力が馬鹿みたいに無い事か?」

「うっ……ぜ、全部……」

「ふん、悪いと思っているのなら、早く立て。強くなると決めただろう?」


 槍を構える宵闇が、座り込む遠藤を叱咤する。

 その言葉に、遠藤がキョトンと宵闇を見上げ……グッと唇を引き締め、立ち上がった。


「……うん。やろう、影人」

「ああ……援護は任せるぞ」

「ブォオオオオオオオオッッ!!」


 雄叫びを上げるミノタウロスが、宵闇に向かって駆け出す。


「はあああああああああああッッ!!」


 対する宵闇は、己を奮い立たせるように大声を上げた。

 そして──地面を蹴って、ミノタウロスに正面から突っ込んでいく。


「ふぅ……はぁ──【自動追尾】」


 緑色の弓──『ピナーカ』の弦を引き、遠藤がミノタウロスを正面から見据えた。

 遠藤が弦を引いた瞬間、魔力で作られた矢が三本補充され──遠藤が手を放した瞬間、魔力矢が放たれる。

 首元、右目、左目を貫かんと魔力矢が迫るが──


「ブオッ──ルルルルォオオオオオオオッッ!!


 遠藤の矢を大剣で防ぎ、ミノタウロスが遠藤に向けて咆哮を上げる。

 聞く者全てを萎縮される咆哮を受け、遠藤の顔が恐怖に引き()った。


「──よそ見するなよ。『エンチャント・ダークネス』」


 宵闇の槍が漆黒の闇を(まと)い──宵闇が、腰を落として身構えた。


「──【操影(そうえい)】」


 ──宵闇の影が、まるで意思を持っているかのように動き、宵闇の腕に(まと)い付いた。

 宵闇の腕が黒く染まり──カッと、宵闇が目を見開き、叫んだ。


「貫け──『漆黒の投槍(ゲイボルグ)』ッ!」


 大きく力強く地面を踏み込み──宵闇が『グングニル』を投擲。

 一体どれだけの力が込められていたのか──投擲した槍は、一瞬でミノタウロスの左肩を貫いた。

 ──ボトッと、ミノタウロスの左肩から先が、地面に落下する。


「あ、ぐ……!」

「か、影人!」


 倒れ込む宵闇に、遠藤が駆け寄る。

 【操影】が解除された右腕は──紫色に変色していた。


「く、そ……! まさか、『漆黒の投槍(ゲイボルグ)』が避けられるとは……!」


 宵闇の渾身の一撃は、ミノタウロスの心臓を狙った──はずだったのだ。

 それを察知したミノタウロスが、咄嗟に横に飛び──左肩を槍が貫いた。

 本当だったら、あの一撃で仕留めるつもりだったのに──と、宵闇がミノタウロスを睨んで舌打ちする。

 ──長期戦は不利だからと言って、切り札を使うのは早かったか? クソ、ミノタウロスの左腕はなくなったが、まだ動ける様子だ。俺の『グングニル』は森の奥に投げてしまったし……今の俺は、間違いなく足手まとい──


「影人!」

「っ……星矢……」

「落ち込むのは後だよ! ほら、立って! 走って!」


 宵闇を無理矢理立ち上がらせ、遠藤が森の奥へと駆け出す。


「ォオオオオォオオオオオオオオオンンッッ!!」

「『ウィンド・インパクト』っ!」


 遠藤の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がり──風の衝撃を受け、遠藤と宵闇が吹き飛んだ。

 押し出されるようにして地面を転がる二人──ミノタウロスは獲物を逃すつもりがないのか、その後を追ってくる。


「……星矢」

「な、なに……?」

「助けを呼んでこい。俺がアイツを引き付ける」


 宵闇の言葉に、遠藤が目を見開いた。


「な、何言ってるの……? ほら、早く──」

「行け。虎之介を呼んでこい。剣ヶ崎でも、セシル隊長でもいい」

「だ、ダメだよ……」

「……俺がいきなり『漆黒の投槍(グングニル)』を使ったのが悪かった。もっとタイミングを見て使うべきだった。判断を誤ったから、俺は右腕を潰し……武器まで手放してしまった。頼む、責任を取らせてくれ」


 宵闇の顔に浮かぶのは、諦めたような表情ではない。強い戦意が宿っている。

 数秒ほど、何かを悩むように黙り……遠藤が口を開いた。


「……ねぇ……影人」

「なんだ?」

「……僕に、考えがあるんだけど……影人を置いていくかどうかは、それを試してからでもいいかな……?」

「──ォオオオオオオオッッ!!」


 ミノタウロスが追い付いてきたのか、雄叫びが近くから聞こえる。


「……ああ。お前の考えとやらと試そう」

「じゃ、じゃあ……こっち、付いてきて!」


 ──こういう時の遠藤は、かなり頼りになる。

 元の世界でゲームやアニメを見ている影響からか、遠藤はぶっ飛んだ発想を生み出すのだ。

 聡太を探すために『大罪迷宮』へ潜っていた時も、勇者一行(いっこう)は遠藤の考えに何度も救われている。その作戦立案能力は、剣ヶ崎や火鈴、セシル隊長ですら認めるほど。

 ──いつも、こうなら良いのだが。と、宵闇は苦笑を漏らした。


「た、確か、こっちの方に……」

「星矢、何を探してるんだ?」

「ち、ちょっと待ってね……あ、あった!」


 そう言って遠藤が拾い上げたのは──宵闇の槍だった。


「お前……」

「影人の槍を投げた方角、威力を計算して来たんだけど……見つかって良かった……」


 宵闇に槍を手渡し、遠藤がホッとしたような表情を見せる。


「それで、これをどうするんだ?」

「あ、うん……えっと……」


 弓を地面に突き刺し──遠藤が、思い付いた考えを口にした。


「──(それ)を矢として放つ」

「……『グングニル』を、矢として……?」

「う、うん……影人には、さっきの『漆黒の投槍(ゲイボルグ)』をもう一発頼みたいんだけど……」


 そこまで言って──ミノタウロスの咆哮が、森の木々を揺らした。


「……まだ左腕は残っている。あと一発ならいけるぞ」

「よ、よし……影人、力を貸して……!」

「ああ──『エンチャント・ダークネス』、【操影】」


 宵闇の槍が闇に包まれ──左腕に影を纏う。

 それを矢として弦に引っ掛け、遠藤の方に視線を向けた。


「準備はできた。いつでもいいぞ」

「う、うん……それじゃあ、僕が弦に触れてるから、影人はさっきみたいに、思いっきり投げて……」

「任された」

「──ブォオオオオオオオオオオンンッッ!」


 木々を薙ぎ払いながら、左腕をなくしたミノタウロスが姿を現した。


「今だ、影人!」

「ああ──『漆黒の投槍(ゲイボルグ)』ッ!」


 宵闇が槍をぶん投げた──瞬間、遠藤が弦から指を離した。

 ミノタウロスの心臓を狙って放たれたそれは──だが、先ほどよりも簡単に避けられる。


「ブモッ……ブゴッ……」

「星矢、避けられたぞ?!」

「……………」


 遠藤から返事はない。

 ちら、と視線を動かすと──ミノタウロスをジッと見つめる遠藤が目に入ってきた。

 ──コイツ、何を狙っているんだ?


「ブゴッ──ブモオオオオオオオオッッ!!」


 雄叫びを上げるミノタウロスが、勝利を確信してゆっくりと大剣を振り上げた。

 逃げない獲物を前に、一撃で仕留めんと大剣を振り下ろし──


「ブギッ──ゴ……」


 ──ミノタウロスの左胸部から、何かが突き出した。

 勢いよく飛び出てきたそれは──先ほど放った、宵闇の槍だ。


「……そうか……【自動追尾】……!」


 遠藤の【技能】──【自動追尾】。

 己が投げた物、射った物、放った物──それらが狙った相手を自動で追尾し、当たるまで追い続ける【技能】だ。

 つまり──先ほど『矢』として放たれた槍に【自動追尾】が発動し、ミノタウロスを貫いたという事だ。


「ブ、ォォォ……」


 心臓を貫かれたミノタウロスが地面に倒れ込み──緊張が解けたのか、遠藤がその場に座り込んだ。


「──こ、怖かった……」

「さすがだな、星矢……お前のおかげで、助かったぞ」

「あ、あはは……うまくいってよかったよ……」


 両腕が使えなくなった宵闇に、腰が抜けて座り込んでいる遠藤。

 満身創痍の二人は──だがどこか満足そうに笑い、その場に寝転んだ。

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