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7話

「ここが図書館だ」

「……でかっ」


 円形に作られた部屋に、ただひたすらに本が置いてある空間……と言えばいいのだろうか。

 驚くべきは、本の量だ。

 10メートルほど高さがある天井に、ぎっしりと本が詰まっている。


「……それで、なんでまた図書館に来たいと言い出したんだ?」

「ん……嫌でも世話になる世界なんだ。なら、この世界の知識は身に付けといた方がいいだろ?」

「まあ、それはそうだが……」

「……何だよ。何か言いたい事でもあるのか?」


 何か言いたげなグローリアの返答に、聡太が目を細くして噛み付いた。


「……いや……お前は怖くないのか?」

「何がだ?」

「お前たちにとって、この世界は異世界だ。それも、こちらの事情で戦う事を強制している……」


 心底申し訳なさそうに顔を伏せ、小さな声で続ける。


「お前たちに与えられた【技能】があれば、この国から逃げ出す事だって……何なら、私たちを殺す事だって可能だろう。それでも……それでも何故、私たちに協力してくれるんだ?」


 なるほど。なんでこんなに謝るのか、何を怯えているのか……聡太はグローリアの気持ちがわからなかった。

 だが……今、ようやくわかった。

 (よう)するに、裏切られるのが怖いのだ。

 『十二魔獣』を討伐すべく召喚された12人の日本人。それぞれに強力な【技能】が宿っており……聡太の【技能】だけでも、訓練所にいた騎士を軽く相手にできるほど。

 つまり……12人の【技能】があれば、この国から逃げ出す事だって可能。

 そうなる事が、グローリアにとって怖いのだろう。


「……理由は1つだ。帰る方法がお前らに協力する事以外に思い付かないから、以上」

「それだけ……か?」

「ああ。あんたは女神から神託ってのを受けて俺らをこの世界に呼んだんだろ? なら、目的を達成すれば、俺らを元の世界に帰す神託を授ける可能性が高い……だから協力する」

「そうは言っても……クラリオン様が神託を授けられるのは、ごく(まれ)なのだぞ?」

「……どのぐらいの頻度なんだ?」

「この前の神託は、前回の神託から10年ほど後だったな」

(なげ)ぇな」


 その頃には聡太たちは20代……川上先生なんて40手前だ。

 いくら『十二魔獣』を討伐しても、女神が神託を授けなければ意味がない。

 だとしても、聡太たち12人は、女神が神託を授けるという可能性に賭けるしかないのだ。


「……まあでも、あんたらに協力する以外の選択肢は今の俺らには無いんだ」

「……そうだな。我々もできる限りの支援を約束しよう」

「そうしてくれると助かる……んじゃ、何冊か借りてもいいか?」

「もちろんだ」


────────────────────


「……【魔法適性】の【技能】が無くても、魔法は使えるのか……」


 ──夜。元の世界の時間感覚で言うならば、9時過ぎくらいだろうか。

 聡太は案内された室内で、山のように積み重なった本を読んでいた。


「……詠唱……? ……詠唱……ああ、グローリアがやってたやつか」


 昼間、グローリアが炎を出現させた時の事。あの時グローリアは、何かを呟いていた。おそらく、あれが詠唱だろう。


「詠唱をすれば、【魔法適性】が無くても魔法が使える……試してみるか」


 立ち上がり、聡太が右手を前に出した。


「“燃えろ炎。(われ)が望むは暗闇を照らす灯り”──『フレア・ライト』」


 聡太の手の上に赤色の魔法陣が浮かび上がり──そこから小さな炎が現れる。


「おおっ……なるほどな。魔法は魔法陣から出てくるのか」


 ──【魔法適性】の【技能】を持つ者は、詠唱なしで魔法を使う事ができる。

 例えば、【炎魔法適性】を持っている者は、炎魔法を詠唱なしで使う事ができる……が、それ以外の属性の魔法は、詠唱しなければ使う事ができない。

 例外として、剣ヶ崎の【全魔法適性】がある。

 剣ヶ崎の場合、どの属性の魔法も詠唱なしで使う事ができるのだ。それこそ下級魔法から最上級魔法まで。

 しかし、魔法を使うと魔力を消費する。逆に言えば、【魔法適性】の【技能】があっても、魔力が無ければ威力の高い魔法は使えないという事だ。

 聡太の【無限魔力】は、その名の通り、魔力の無限に有するという【技能】。

 それはつまり、最上級魔法を何発も撃てるという事だ。

 だが……魔法の威力の高さは、詠唱の長さに比例する。つまり、最上級魔法を使うには長い長い詠唱をしなければならないという事。


「……んー……俺に【魔法適性】の【技能】があるのが一番良かったって事か……」


 グローリアが聡太の『ステータスプレート』を見た時にもったいないと言っていたのは、無限に魔力があるのに【魔法適性】がないから、という事だろう。


「……にしても……」


 ため息を吐き、窓の外に目を向ける。

 ……綺麗な夜空だ……そう言えば、元の世界で星を見る事なんてなかった。

 本を読みすぎて疲れた目を癒そうと、本を閉じて星を見上げ──扉をノックする音が聞こえた。


「古河くん……の、部屋だよね~……?」

「……獄炎……?」


 扉の向こうから、獄炎の声が聞こえた。

 なんで獄炎が俺の部屋に? と疑問に思いながら、聡太が部屋の扉を開き──やはりそこには、獄炎がいた。


「……何しに来たんだ? つーか、なんで俺の部屋が……」

「騎士の人に教えてもらったんだよ〜……ちょっとお話ししたいんだけど……いいかな〜……?」

「別に良いけど……何も出せないからな?」

「そこは別に期待してないよ〜」


 異世界の服だろうか。制服とは違った服装の獄炎が、ゆっくりと室内に足を踏み入れる。

 そして、山のように積み重なった本を見て、驚いたように目を見開いた。


「これ、全部読んだの〜?」

「ん、そっち側の本はな。まだ半分も読み終わってないけど」

「夕食にも顔を出さなかったから何してるんだろ〜って思ってたけど……本を読んでたんだね〜」


 そう言いながら、獄炎が近くにあった椅子に腰掛ける。


「それで、何しに来たんだ? こう言っちゃなんだが、俺とお前って2人きりで話すほど仲良くはないと思ってたんだが」

「ん〜……ま、そうだね〜。あたしが勝手にそう思ってるだけだし〜」

「……? どういう事だ?」

「気にしないで〜、こっちの話〜」


 ひらひらと手を振る獄炎の言葉に、聡太は首を傾げるが……聞き流す事にしたのか、黙って話の続きを待つ。


「……古河くんってさ」

「ああ?」

「古河くんって……どうしてそんなに勇敢なの?」


 意図のわからぬ質問に、思わずポカンと口が開いてしまう。


「意味がわからん。俺が勇敢って何の冗談だよ」

「……昼休み、教室に出た魔法陣を見ても少しも驚いてなかったし、いきなり異世界に召喚されても動揺してなかった。帰れないかも知れない状況なのに、少しも絶望しないでみんなに希望を与えて……古河くんがいなかったら、みんな怯えて動けなかったよ〜」


 聡太としては、別に希望を与えたつもりはないのだが。

 ただ元の世界に帰られるかも知れないという可能性を伝えただけで。


「まあでも……元気が出たなら何よりだ」

「ん……古河くん、お腹減ってないの~?」

「……多少は減ってるけど……飯の時間になっても本を読んでたのは俺だし、自業自得だ」

「じゃあさ、厨房にいる人に頼んで、料理作ってもらおうよ~」

「は? ……いや、いい。この時間に飯作ってくれとか、迷惑だろ」

「大丈夫だよ~。というか、厨房の人も古河くんの事心配してたからね~。文句は言われないと思うよ~」


 立ち上がり、聡太を誘うように手を差し出した。

 ……獄炎がここまで言う理由はわからないが……腹が減っているのは事実。


「………………ああ、そうだな。誰もいなかったら──」

「あたしが何か作ってあげるよ~」

「勝手に食材使う気かよ……」


 苦笑し、聡太は先を歩く獄炎の後を追った。

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