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65話

「うるぁッ!」

『ふッ!』


 聡太の『紅桜』が獄炎の軌跡を描き、偽者の首を斬り離さんと迫る。

 獄炎を撒き散らしながら迫る刀撃は、だが偽者の刀によって弾かれ──偽者が短刀を突き出した。

 短刀の切っ先が聡太の腹部に吸い込まれるように迫り──聡太が大きく後ろに飛び、短刀を回避する。


「──『嵐壁』」

『チッ──!』


 吹き荒れる嵐が風の刃を飛ばし、偽者を斬り裂こうとするが──偽者が素早く上へと飛び上がり、風の刃を避けた。

 そのまま天井を足場にし、偽者が一気に急降下。

 『剛力』に【憤怒に燃えし愚か者】が発動している状態に、さらに落下の勢いが追加される。

 魔法で偽者を迎撃しようとするが──間に合わない。

 咄嗟に刀を合わせて偽者の攻撃を防ぎ──聡太の肩に激痛。

 どうやら、無理な迎撃をしたため体が悲鳴を上げたらしい。


「ぐ、がっ──ああああああああッッ!!」

『んなっ──?!』


 雄叫びを上げる聡太が、力任せに振り抜き──偽者が吹き飛んだ。

 驚愕したように目を見開く偽者──と、聡太の周りに、青色の魔法陣が浮かび上がる。


「『水弾』ッッ!!」


 虚空に浮かび上がる魔法陣から、無数の水で作られた弾丸が放たれる。


『ぐっ……! 『魔反射』ッ!』


 刀を地面に突き刺し、無理矢理吹き飛ぶ勢いを殺した偽者が、大声で詠唱。

 偽者の目の前に不透明な壁が現れ、迫る『水弾』を跳ね返そうと──


(あめ)ぇッ!」

『は──』


 弾丸は『魔反射』に跳ね返される──事なく、地面を穿った。

 ──瞬間、地面が(えぐ)れ、地面の破片が散弾となって飛び散った。

 偽者の視界を土煙が覆い隠し、体を土の破片が斬り刻む。


『しゃら、くせぇ──!』


 刀を振り、力任せに土煙を払い飛ばし──聡太の姿が消えていた。

 ……後ろ──!


(おせ)ぇんだよノロマッ!」

『がふッ──?!』


 聡太が偽者の右腹部に刀を突き刺し、真横に振り抜いた。

 偽者の右腹部を深々と斬り裂き──聡太の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。


「はっはぁ! やっとまともに一撃入ったなぁ!」

『クソが……!』


 偽者の右腹部から、シュウシュウと煙のような何かが漏れ出している。

 ──この偽者たちは、天井に描かれていた魔法陣から姿を現した。

 つまり、偽者たちの体は──魔力で構成されている可能性が高い。

 だとすれば、あの漏れ出している煙は魔力だろう。


『……ったく……意味のわかんねぇ攻撃しやがって……!』

「はっ。真正面から戦ってもお()には勝てねぇだろ。なら、こういう小細工しないとな」


 『紅桜』を構え、挑発的に笑う。


『……はぁ……怒りの増幅で【憤怒に燃えし愚か者】を強化されたら、俺にゃ打つ手がねぇんだよ……』

「あ?」

『なら、俺も小細工するしかないよな?』


 ニイッと口元を歪め、偽者が邪悪に笑った。

 ──何をする気がわからないが、怒りによって【憤怒に燃えし愚か者】が強化されている今、偽者に負ける可能性は先ほどより低い。

 何が起きても対処できるように身構え──不気味に笑う偽者が、口を開いた。


『──あれは確か、小学二年生の頃だったな』


 ──ピタッと、聡太が動きを止めた。


『今までずっと忘れてたけど……あの日、火鈴に言われて、全部思い出したよな?』

「……何の話だ」

『大人になって、また会えたら……結婚しようって約束してただろ?』


 バッと、近くで偽者と戦っている火鈴が、こちらに視線を向けてくる。


「……そりゃ、子どもの頃の話だろ」

『ま、そうだよな。だけど──お前がその約束を今でも気にしてるのは、事実だろ?』

「そ、そうなの聡ちゃん?!」


 迫る偽者を思い切り殴り飛ばし、火鈴が大声で問い掛けてくる。


「……んなわけねぇだろ」

『嘘()け。お前、チラチラ火鈴の事見てるじゃねぇか。この前なんか、寝てる火鈴に──』

「『蒼熱線』ッッ!!」


 偽者の言葉を掻き消すように、聡太が大声で詠唱。

 迫る熱線を軽々と躱し、偽者が悪意に満ちた邪悪な笑みを浮かべた。


『おいおい。人が話してる途中だろうが。いきなり攻撃してくんじゃねぇよ』

「ねぇ! 寝てる間に何?! あたし、聡ちゃんに何されたの?!」

「何もしてねぇ! お前は自分の戦いに集中しろッ!」


 なるほど──厄介だ。

 偽者は聡太の記憶を有しているのだろう。その中で聡太が恥ずかしいと思う記憶を言って、聡太の集中を途切れさせようとしているのか。

 ちなみに、火鈴が寝ている時に何をしたのかと言うと、頬が柔らかそうだったから指で突いただけだ。別にいやらしい事をしたわけではない。

 攻撃ならぬ口撃──早く倒さないと、さらに恥ずかしい事を暴露されるかも知れない。


「一秒でも早く──殺すッ!」


 脚力を爆発させ、素早く偽者との距離を詰める。

 勢いのままに刀を振るい──甲高い金属音を立てて、刀撃が弾かれた。


「チッ──!」

『ふッ──!』


 右足を軸に、その場で高速回転。

 嵐のような刀撃を──だが偽者は刀と短刀で捌き、距離を取って回避する。


『おいおいどうした? 動きにキレがなくなったぞ?』

「てめぇがペラペラ喋るからだろうが……!」


 ──落ち着け。平静を崩されたら、隙を作ってしまう。

 目の前の敵に集中しろ。怒りを途切れさせるな。次の策を考えろ。生半可な戦法は(おれ)には通用しないぞ。

 さあ──古河 聡太。

 人の嫌がる事を考えるのは──得意だろう?


「………………はぁ……」

『さて……次はどんな話を──』

「──“全てを灰に()す爆発よ」


 邪悪に笑う偽者が、聡太の詠唱を聞いて眉を寄せた。


「今ここに顕現(けんげん)し、その凄まじき力で全てを(ほふ)りて、我が敵を討ち滅ぼせ”」

『なっ……それは──!』

「──『エクスプロージョン』ッ!」


 ──聡太の手から、赤黒い光球が放たれる。

 慌てた様子で偽者が『魔反射』を使おうとするが──その前に、光球が爆発。

 凄まじい爆風が辺りに吹き荒れ、暴力的な光が目を焼いた。

 ──【爆発魔法】、『エクスプロージョン』。

 魔力消費の激しい魔法だが、その分威力には信頼のある魔法だ。

 この魔法が使った騎士たちが、聡太を『大罪迷宮』の深下層に落とした──聡太にとっては、かなり記憶に残っている魔法だ。


『チッ……! それは予想外過ぎんだろ……!』


 砂煙に包まれる偽者が、集中を深めて刀を構える──と、何かが接近してきた。

 反射的に刀を振り下ろし、迫る何かを斬り落とした──瞬間、偽者が驚愕に目を見開いた。

 ──本だ。あの本は……確か……そうだ、ユグル・オルテールの手記だ。


「──良くも悪くも考えすぎる……それが俺だよな」

『──ッ?!』


 ──背後から、『紅桜』の切っ先が迫っている。

 振り向くと同時に『紅桜』を弾き返し──『紅桜』が、軽々と吹き飛ばされた。

 ──その感触に、偽者は違和感を覚えた。

 なんだ……軽すぎる?

 今の()()は……まるで、雑に投げ付けられたかのような──


「──無防備だぜこのドアホがッ!」


 砂煙を裂き、白色の軌跡が虚空に描かれる。

 白の軌跡は偽者の腕に迫り──刀を持っている方の腕が宙を舞った。


「『三重詠唱・剛力』ッ!」


 続いて、黒色の軌跡が偽者に迫った。

 偽者の喉元が斬り裂かれ──苦痛に顔を歪め、偽者がその場を飛び退く。


『ぐ、ふっ……!』


 ──【爆発魔法】の使用で、偽者の硬直を誘った。

 その後、集中していた所にユグル・オルテールの手記を投げ付け……集中していた偽者は、投げ付けられた物を反射的に分析してしまった。

 そして、背後から迫る刀に焦りを感じ、全力で弾き飛ばし──安心してしまった。

 だから、『紅桜』による突きではなく、『紅桜』がただ投げ付けられたという事に気づかなかった。


『く、そが……! くそがああああああッッ!!』


 偽者の聡太が軽く左膝を曲げ──残った左手で短刀を力強く握り、聡太に飛び掛かった。


「──ああ、お()だったらそうするよな」


 フッと、聡太が薄く笑い──偽者の左横を駆け抜けるようにして、偽者とすれ違った。


「……………」

『……ぶ、ふっ……』


 左腹を深々と斬り裂かれた偽者が、その場に倒れ込んだ。


『…………何で、最後……』

「あ? なんで飛び掛かって来るかわかったか、だって?」


 偽者とすれ違う際に、短刀で偽者の左腹を斬り裂いた聡太が、どこか満足そうに笑みを見せた。


「クセなんだよ。相手のメンを狙う時に膝を曲げるの……昔っからのな」

『……ああ……そうか…………また、曲げてたのか、俺……』


 地面に落ちていた『紅桜』を拾い上げ、鞘に収める。


『く、ははっ……試練突破だ……進めよ……』

「お前に言われなくても」


 偽者の聡太がどこか嬉しそうに笑みを浮かべ──少しずつ姿が薄くなり、消えた。


「……はぁ……」

「聡ちゃん」

「火鈴か……お前も、偽者に勝てたみたいだな」

「うん……その、色々聞きたい事があるんだけど~……」

「ああ……ま、アイツらが終わってから、だな」


 そう言うと聡太は──ミリアとハルピュイアに視線を向けた。


「……なるほど……試練か……」

「聡ちゃん? どうしたの~?」

「いや……何でもない」


 聡太の偽者は、試練と言っていた。

 『大罪迷宮』の攻略は、『大罪人』の残した力を得るに相応しいか選定するための試練だ。

 この『大罪迷宮』の試練は……言うならば、過去の自分を越えろ、という感じだろうか。


「……お前らなら、大丈夫だ」


 ミリアとハルピュイアを見る聡太の瞳は──深い信頼に満ちていた。

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