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62話

「ギャァァァッ!」


 鋭い牙を剥き出しにする蝙蝠(こうもり)のようなモンスターが、その体から炎を撒き散らしながら聡太に向かって飛び掛かる。


「──ふッ!」

「ギャッ──」


 聡太が『紅桜』を素早く振り抜き──迫るマグマバットを真っ二つにし、刀を振って付着した血を飛ばした。

 そして──周りを囲むモンスターの大群を見て、小さく舌打ちした。


「なんだコイツら……暑苦しいな……」

「ん~……『フリード噴火山』に棲息してるからかな~?」


 右腕を【部分竜化】で竜腕に変化させた火鈴が、近寄るモンスターを力任せに薙ぎ払う。

 ──マグマバット。ファイアバード。ワイバーン。フレアベアー。ヘルハウンド。

 どのモンスターも、体に炎を(まと)っていたり、どこからか炎が漏れ出していたり、口から炎を吐いたりしている。

 火鈴の言った通り、『フリード噴火山』で生き抜くために体が進化したのだろう。


「キュァァァァッ!!」

「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「チッ──うるせぇぞザコ共が。『黒重(こくじゅう)』」


 ファイアバードが翼を広げ、羽に炎を(まと)わせて聡太に放った。

 大きな咆哮を上げるフレアベアーが、剛爪を聡太に振るった。

 対する聡太は──複重強化した『黒重』を発動。

 二重強化された『黒重』は、モンスターの大群をあっという間に地面へ沈め──次の瞬間にはモンスターの体が潰れ、全身から血を吹き出しながら絶命した。


「ふぅ──『蒼龍の逆鱗(レイズ・オブ・ドラゴニア)』」


 地面に蒼色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、巨大な蒼炎の龍が現れた。

 炎を(まと)うモンスターに、蒼龍が襲い掛かり──モンスターの大群が一気に焼死し、辺りに肉の焼け焦げる臭いが充満する。


「うわ……炎に耐性がありそうなのに、こんなあっさり死ぬのか……」

「ミリアちゃんの魔法はスゴいね~」

「おー! 燃える燃えるー!」


 一瞬で壊滅したモンスターの大群を見て、三人が感心したように言葉を漏らす。

 モンスターが全滅した事を確認し、聡太が刀を収めて『フリード噴火山』の噴火口を目指そうと──した所で、動きを止めた。


「っと……これは……?」

「聡ちゃん」

「ああ──来るぞ」


 聡太がそう言った──瞬間、空から何かが落ちてきた。

 聡太がミリアを抱え、火鈴がハルピュイアの手を引いてその場を飛び退()いた──直後、先ほどまで聡太たちが立っていた所に、化物が落下。

 落下の衝撃で地面に亀裂が走り、辺りに風が吹き荒れる。

 もうもうと立ち込める砂煙が化物の姿を覆い隠し──砂煙が晴れた時、そこには凶悪な見た目の存在がいた。

 ──ライオンの頭部に、ヤギの胴体。尻尾のようにうねっているのは、見るからに毒を持っていそうな蛇だ。


「グルルル……! ガアアアアアアアアッッ!!」


 ──キマイラ。

 王宮で読んだ本の中に、このモンスターの情報が書かれていた事を思い出す。

 確か、高温地帯に棲息する生き物だ。その実力は、全魔物の中でも上位に位置するだろう。


「火鈴」

「うん」

「『剛力』」

「【竜人化】」


 聡太が全身の筋力を底上げし、地面を蹴った。

 右腕の【部分竜化】を維持する火鈴が、【竜人化】により生えた翼を打って加速を付けた。

 瞬間──風が吹き抜けた。


「ルガッ──」


 身の危険を感じたのか、キマイラがその場から飛び退き──そのライオンのような顔から、血が噴き出した。


「チッ……避けんじゃねぇよ」

「う~ん……浅かったな~」


 いつの間に『紅桜』を抜いたのか、刀の切っ先をキマイラに向けて聡太がそんな事を呟いた。

 鋭い剛爪の先に付いた血を見て、火鈴が邪悪な笑みを浮かべてそんな事を言った。

 ──早い。

 キマイラだけでなく、ミリアとハルピュイアも二人の早さに驚愕していた。


「ゴァッ──アアアアアアアアアアアアッッ!!」


 キマイラが大きく息を吸い込み──灼熱の炎を吐き出した。

 迫る炎の波を前に、聡太は冷静に『憤怒のお面』を付け──炎が魔力で作られていない事を確認する。

 ──魔法ではない。なら、聡太の『魔反射』では跳ね返せない。

 だが──だからなんだ?


「『蒼熱線』」

「『赤竜の光線(ドラゴ・レイズ)』」


 聡太がキマイラに手を向け──蒼い魔法陣が浮かび上がる。

 火鈴の口から炎が漏れ出し──炎が収縮、凝縮されていく。


「──死ね」

「がああああああああああッッ!!」


 蒼色の魔法陣が強く輝いた──瞬間、魔法陣から、螺旋状に渦巻く蒼い熱線が放たれた。

 圧縮された炎が、やがて球体へと変化し──火鈴が咆哮を上げるのと同時に、炎球から紅蓮の光線を放った。

 蒼い熱線と紅の光線がキマイラの吐いた炎を簡単に斬り裂き──その先にいたキマイラに直撃。

 瞬間──衝撃。

 耳を裂くような爆発音が『フリード噴火山』に響き──キマイラの姿が、跡形もなく焼き飛ばされていた。


「……【特殊魔法】と同じぐらいの威力とか、お前どうなってんだよ」

「ん~。あたし的には、聡ちゃんの方がどうなってんだよって感じだけど~?」


 ──規格外。そんな言葉が、ミリアの頭に浮かんだ。

 そう。目の前の少女もまた、この世界を救うべく召喚された勇者なのだ。

 聡太も言っていた。他の勇者は、自分よりもスゴい【技能】を持っていると。

 そして……火鈴は聡太と同じく、感情で発動する【技能】に目覚めているのだ。

 ──スゴいのは、聡太だけでない。

 想像を絶する光線(ブレス)を放った火鈴に、思わずミリアの体が震えた。


「にしても……お前、本当に強くなったな」

「そうでしょ~? あたしスゴ~く頑張ったんだよ~?」

「……ほんと、俺が『大罪迷宮』に落ちる前は、完全に足手まといだったのにな」

「んん~……恥ずかしいから、その話はミリアちゃんとハピィちゃんには内緒にしててね~?」


 二人にしかわからない会話を交わし、聡太がミリアたちの方に視線を向けた。


「んじゃ、とっとと先に進むぞ」

「は、はい!」

「おー!」


────────────────────


「──魔王様」


 ゆっくりと、玉座に座る大男が瞳を開いた。


「ほう……その腕はどうした?」

「……『十二魔獣殺し』を名乗る者にやられました」


 灰色の髪の少年が、黄色と緑色の瞳を悔しそうに細めた。


「だから言ったッス。お前はモンスターを操る能力しか取り柄がないんだから、ここで大人しくしてろって」

「……何だって?」

「最初っからオイラに任せとけば、『吸血族(ヴァンパイア)』と同じで『地精族(ドワーフ)』も簡単に絶滅されられたッスよ」

「……それは、ぼくに喧嘩を売ってるのかな?」

「へぇ……上等ッスね」


 ──二匹の体から、尋常ならざる覇気が放たれる。

 そんな二匹のやり取りを見ていた大男が、スッと手を上に挙げた。

 瞬間──先ほどまでの覇気が嘘だったかのように霧散した。


「して……その『十二魔獣殺し』が、テリオンたちを殺したのか?」

「はい。テリオンにパルハーラ。それにフェキサーも討ったと言ってました」

「ほう……『下位魔獣』とは言え、アイツらも『十二魔獣』。それを討つとは……」


 大男の顔に、邪悪な笑みが浮かんだ。


「《激流を司る魔獣(ディティ)》と《共に生ける魔獣(ルナマナ)》は、まだ戻って来ないのか?」

「ディティは『ユグルの樹海』にある『大罪迷宮』へ、ルナマナは『竜人族(ドラゴニュート)』の国へと向かいました」

「それはわかっている。まだ戻って来ないのか、と聞いているのだ」

「申し訳ありません。現在あの二匹がどうしているのかは、ぼくにはわかりません」

「そうか……ならば、ここにいるのはお前たち四匹だけか」


 そう言って大男は──自分の隣に視線を向けた。

 そこには……金髪碧眼の少女と、ケンタウロスのような男がいた。


「《愛を願う魔獣(アリア)》。お前は今の状況をどう思う」

「そうですわね……ディティは負けず嫌いな所がありますので、ポーフィの言う『十二魔獣殺し』に遭遇すれば、殺すか殺されるまで戦闘を続けるかと。ルナマナは……性格的に幼いので、『竜人族(ドラゴニュート)』を滅ぼす作戦は失敗すると思いますわ」


 アリアと呼ばれた魔獣が、大男の問いに素早く答える。

 その返答に満足したのか、大男はケンタウロスのような男に目を向けた。


「《太陽を射る魔獣(ボルンゲルン)》、お前は?」

「正直、『下位魔獣』が弱すぎる。今残っているコルヴィも、レオーニオも、ハルバルドも……我々『上位魔獣』には遠く及ばないからな」

「──ボルンゲルン。アンタ、誰に向かってタメ口で話してんスか?」


 ──ゾワッ。

 室内の空気が、一気に冷えていく。


「──オイ、ヘルムート。貴様、誰に向かって殺気を向けているつもりだ?」

「アンタにッスよ。わからないんスか」

「ふん。『吸血族(ヴァンパイア)』を滅ぼした程度で、我より上になったつもりか?」

「何の成果も上げていないアンタよりは、間違いなく上だと思うッスけど?」

「そこまでだ」


 大男の言葉に、二匹が殺気を収めた。だが、殺気よりも鋭い目で睨み合っている。


「そう言えば魔王様。『下位魔獣』はどこへ?」

「あの三匹には『大罪人』の隠れ家を……いや、今は『大罪迷宮』だったか」

「……?」

「《夜空を泳ぐ魔獣(コルヴィ)》には『リーン大海』にある『大罪迷宮』を、《天駆ける魔獣(ハルバルド)》には『迷子の浮遊大陸』を探させている」

「《全てを壊す魔獣(レオーニオ)》は、どこへ?」

「『妖精族(フェアリー)』を一匹残らず殺してこいと命じた。当分は帰って来ないだろう」


 それより──


「お前の言っていた『十二魔獣殺し』が気になるな」

「魔王様の言う通りですわね。ポーフィ、その『十二魔獣殺し』を名乗っていた者は、どのような外見だったんですの?」

「……黒髪の『人類族(ウィズダム)』だよ。膝下まである白いローブに、奇妙な模様の入ったお面を付けていた」


 全員の視線が集中する中、ポーフィが続ける。


「ぼくが知らない特殊な魔法を使っていました。それに……ぼくを『十二魔獣』と知ってから……様子が変わりました」

「具体的には、どんな感じにッスか?」

「……肌に、赤黒い模様が浮かんでいたと言いますか……急に殺気が濃くなったと言いますか……」

「武器は何か使っていましたか?」

「緋色の刀と、漆黒の短刀だよ」

「──ふっ、ははっ……ふっははははははっ!」


 突如響いた笑い声に、『十二魔獣』の視線が大男に向けられた。


「そうかそうか! 『憤怒のお面』に『黒曜石の短刀』、それに【憤怒に燃えし愚か者】! これを笑わずにいられるか?!」


 笑う大男の姿に──『十二魔獣』は、ただただ恐怖を覚えた。

 笑顔なのに、殺意がある。それも、尋常じゃない殺意だ。

 そんな『十二魔獣』に気づいていないのか、大男はまるで愛おしい者の名を呼ぶように──呟いた。


「──会いたかったぞ、ユグル・オルテール」

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