表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/117

番外編

 現在、vs『十二魔獣』や『大罪迷宮』攻略の書き溜めをしております。

 本編の続きは、もう少々お待ちください。

 ──《月に吼える魔獣(パルハーラ)》を討伐し、『シャイタン大峡谷』へ向かう道中の話。


「……フルカワ・ソータ……」


 深夜。見張りをしていたミリアは……バックパックを枕にして眠る少年を見て、ポツリとその名前を呼んだ。

 ──フルカワ・ソータ。

 何度聞いても、不思議な名前だ。彼の暮らしていた世界では、普通の名前なのだろうか。


「……フルカワ様……」


 聡太の名字を呼び、ミリアが恥ずかしそうに頬を紅潮させた。

 ──この世界では、名前・家名の順で自分の名を名乗る。

 ミリア・オルヴェルグ。ハルピュイア・イリス──このように、名前が先で、家名を後に名乗るのだ。

 今のミリアは──フルカワ・ソータという名前を、フルカワが名前でソータが家名だと思っている。


「……いつか、名前で……」


 もっと仲良くなって。もっともっと仲良くなって。

 いつか──彼の名を呼びたい。


────────────────────


「うし……今日はこの辺で野宿するか」

「はい!」

「おー!」


 聡太の指示に従って、ミリアとハルピュイアが野宿の準備を始める。


「さて……『嵐壁』」


 聡太が小さく詠唱し──辺りに暴風が吹き荒れる。

 暴風は、地面に転がっていた石ころや草を吹き飛ばし──やがて風が止んだ時、辺りからは石や草が消えていた。


「んで──『黒重』」


 不可視の重圧が辺りを覆い──デコボコだった地面が、重力によって平らに整えられる。

 【特殊魔法】を贅沢に使った整地──【無限魔力】を有する聡太にしかできない、ムダに洗練された技術だ。


「ソータ様。火をお願いします」

「ん。“燃えろ炎。(われ)が望むは暗闇を照らす灯り”──『フレア・ライト』」


 地面に置かれた鉄製の鍋──その下に、赤色の魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣から炎が現れ……鍋の中に入れられていた食材が、熱によりグツグツと煮え始める。


「ハピィ。私のバックパックから食器を取ってください」

「はーい!」

「ありがとうございます」


 鍋の中身が煮えるまで待ち──数分ほど経った後、ミリアが鍋の中身を木製の食器に移し始めた。


「どうぞ、ハピィ」

「おー! ありがとー!」


 ハルピュイアに夕食を渡し、そのままの流れで聡太にも料理を渡そうと──して、ミリアが動きを止めた。


「…………?」


 どうしたのか? と怪訝そうに眉を寄せる聡太。

 そんな聡太の顔と、木製の食器を交互に見て──意を決したように、ミリアが聡太に料理を差し出した。


「ど、どうぞ! フルカワ様!」

「え……? あ、ああ……ありがとう……」


 一瞬、不思議そうに目を開くが……何事もなかったように、ミリアから料理を受け取った。

 ようやく名前(ミリアの勘違い)で呼べたのが嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか、ミリアは顔を(うつむ)かせて頬を真っ赤に染めている。


「……………」


 ──俺、何かミリアに嫌われる事をしたか?

 いきなり名字で呼ばれ、さらに顔を合わせてくれないミリアに、聡太は内心困惑していた。

 もし仮に、聡太がミリアを怒らせたのだとしたら──ミリアほどの優しい人物が怒るような、よっぽどの事をやらかしたのだろう。

 だが……心当たりは全くない。

 というか、先ほどまでは普通だったのだ。こんないきなり怒るなんて……何が原因だ?


「ソーター? ミリアー? どうしたのー?」


 夕食を受け取った状態で固まる聡太と、顔を(うつむ)かせているミリアを見て、ハルピュイアが不思議そうに問い掛ける。

 だが──今の聡太の耳には届かない。

 ──考えろ。頭を回転させろ。

 俺に『フレア・ライト』を頼むまではいつも通りだったんだ。俺に夕食を渡す時に、ミリアの様子が変わった。

 ……名字……名前…………家名?


「……ミリア」

「は、はい!」

「……俺の家名は?」

「え? ソータ様ですけど……」

「俺の名前は?」

「フルカワ様……ですよね?」


 ああ……そういう事か。

 観察眼に()け、人の表情を読む事を得意とする聡太は──何故ミリアが、聡太の事をいきなり名字で呼んだのか理解した。


「あのな……俺の名前は聡太だ。んで、家名が古河だ」

「えっと……どういう事ですか?」

「お前ら的に言うと、俺の名前はソータ・フルカワになるんだよ」


 数秒ほど、ミリアが考え込むような表情を見せ──聡太の言っている事を理解したのか、表情を一変させた。


「え……ソータが名前で、フルカワが家名なんですか……?」

「ああ。俺らの世界では、家名の後に名前を名乗るんだよ。この世界とは逆の順番で名乗るから、勘違いしてたんだろ?」

「あ、え……? という事は、つまり……私は、初対面の方を、いきなり下の名前で呼んでたって事ですか……?」

「まあ、そういう事だろうな」


 再び顔を(うつむ)かせ、耳の先まで真っ赤に染める。


「そこまで恥ずかしがるような事か? 俺だってミリアの事を名前で呼んでるし、今さらだろ?」

「そ、それはそうですけど……」


 初対面の相手をいきなり下の名前で、さらには様を付けて呼んでいた。

 勘違いをしていたと認識した瞬間、ミリアの頭は羞恥に支配される。


「は、ハピィは知っていましたか? ソータが名前で、フルカワが家名だって……」

「んー? 知らないよー? でも、フルカワってなんか変じゃなーい?」

「……試しに、ソータ様の事を家名で呼んでみてくれませんか?」

「フルカワー!」

「なんか違和感がスゴいな」


 ハルピュイアから名字を呼ばれ、思わず聡太が苦笑を浮かべた。


「そ、ソータ様」

「ん、なんだ?」

「その……嫌じゃなかったですか?」


 恐る恐るといった感じで、ミリアが不安そうに問い掛ける。


「嫌って……何がだ?」

「初対面の相手から、ずっと名前で呼ばれてて……」

「……別に、嫌じゃないから安心しろ」


 暗い様子のミリアの頭を乱暴に撫で回し、聡太が──珍しく、優しい笑みを見せた。


「もし嫌な事があったら、俺はちゃんと言葉で『嫌だ』って言う。今まで俺が、お前らに『嫌だ』って言った事あるか?」

「それは……ありませんけど……」

「なら安心しろ」


 言いながら、聡太が持っていた食器をミリアに差し出した。

 中身は入っているし、一度も手を付けてない。

 だが──聡太の態度で察したのか、ミリアが聡太から中身の入った食器を受け取った。

 そして──


「さあどうぞ、ソータ様っ!」


 再び夕食を手渡し、ミリアが美しい笑みを見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ