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53話

「ミリア、ハピィ。絶対に殺すなよ」

「はい」

「おー!」


 顔を『憤怒のお面』で隠す聡太が、全身から尋常ならざる覇気を放ち始める。

 ……セシル隊長は手を出すつもりはないのか、川上先生とグローリアを守るようにして立っている。

 一触即発の空気……と、鋭い声が静寂を破った。


「【部分獣化】ッ!」

「【瞬歩】」


 土御門の脚部が大虎のように巨大化し、脚力を爆発させて聡太に突っ込んだ。

 破闇が【瞬歩】を発動し、瞬く間に聡太との距離を詰めた。

 そんな二人を見て、聡太は……少し、失望した。

 いきなり突っ込むなんて、バカなのだろうか? もし相手が《月に吼える魔獣(パルハーラ)》だったら、一瞬で殺されているぞ?


「『第二重(ツヴァイ・)魔障(マジック・)結界(バリア)』」


 聡太の目の前に、緑色の結界が現れる。

 破闇と土御門が結界にぶつかり、勢いを殺された──瞬間、ミリアが魔法を解除する。

 なんで魔法を解除したのか──と。


「【豪脚】、【硬質化】!」


 結界が消えると同時、ハルピュイアが土御門に飛び掛かった。

 両足を硬質化させ、土御門を蹴り飛ばさんと足を振り上げ──


「「「【障壁】っ!」」」


 ハルピュイアが土御門を蹴る直前、分厚い結界が現れる。小鳥遊に氷室、水面の【技能】だ。

 土御門を守るようにして現れたそれは──だがハルピュイアの蹴りを受け、粉々に砕け散った。


「ぇ……一撃……?!」

「小鳥遊さん回復の準備! 『ウル・アイス・ランス』っ!」

「『ウル・アクア・ストーム』……!」

「うっ、『ウル・ウィンド・インパクト』!」


 絶句する小鳥遊を叱咤する氷室が、危険を感じて氷の槍を出現させ、勢いよく放った。

 氷室に続いて、水面が水の渦を放ち、遠藤が風の塊を飛ばした。

 ハルピュイアを狙って迫る魔法……急所は避けているだろうが、重傷になる事は間違いないだろう。

 誰もがハルピュイアが血塗れになる光景を幻視した──が。


「『第四重(フィーア・)絶対(アブソリュート)結界(・シルド)』」


 ハルピュイアを囲うようにして現れた黄色の結界が、迫る魔法を無効化した。

 ウル級の魔法をあれほど簡単に無効化するなど……と、氷室の顔が絶望に染まる。


「……私がいる限り、二人には傷一つ負わせませんよ」


 結界を出現させた少女を見て、その場にいた生徒全員が警戒を深めた。

 聡太とハルピュイアを攻撃するには、ミリアをどうにかするしかない。

 誰もがそう思い、一番近くにいた破闇が刀を構えて飛びかかった。

 それに合わせて、ミリアが【蒼炎魔法】を使おうとするが──その前に、聡太が立ち塞がった。


「まあ待てミリア。蒼炎とか使ったら、コイツら死んじまうだろ」

「古河君……退きなさい」

「退くわけねぇだろ……ミリア、お前は蒼炎で身を守れ。攻撃はするな」

「……わかりました。『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』」


 ミリアの唇が魔法名を呟き──ミリアを囲うようにして、蒼炎の龍が現れる。


「ミリアー! 魔法解除してよー!」

「あ、ごめんなさい」

「ふッ! しぃッ!」

「よっ、ほっ」

「古河、悪いがやられてくれ!」


 破闇の刀を避ける聡太……と、聖剣を構えた剣ヶ崎が突っ込んできた。


「シルフッ! サラマンダーッ!」

『ああ! やってやろうぜ!』

『……仕方がない』

「『スピリット・ブレイド』ッ!」


 聖剣に炎が宿り、風と共に放たれた。

 剣ヶ崎の横を通り抜け、宵闇が槍を構えて突っ込んでくるのも見える。

 一瞬、『嵐壁』を使うか考えるが……建物をぶっ壊して生き埋めにしてしまう可能性もある。

 そう判断し、聡太が刀を持っている方と反対側の手を上に向けた。


「『黒重』」

「うっ──?!」

「なっ、ぐぅ……?!」


 剣ヶ崎と宵闇が膝を突き、身動き一つ取れなくなる。

 凄まじい威力を持っているであろう剣ヶ崎の攻撃も、『黒重』の影響を受けて軌道を曲げられ──床に激突し、ボシュッと音を立てて霧散した。


「お前も転がってろ」

「えっ──うっ?!」


 聡太が破闇を蹴り飛ばし──破闇が『黒重』の範囲内に転がった。

 すると当然、破闇にも『黒重』の影響が出るわけで。


「これっ、はぁ……?!」

「ちょっと大人しくしてろ」


 何が起こっているのかわかっていない三人の横を通り抜け、聡太が小鳥遊たちに近づいた。

 歩み寄る強者を前に、小鳥遊たちが助けを求めるように土御門の方を見るが──


「よいしょー!」

「チッ……! クソがァ……!」


 両腕両足を大虎に変えた土御門が、ハルピュイアを相手に苦戦している。


「まだまだー! 【豪脚】!」

「なっ──ぐゥ?!」

「【瞬歩】っ!」

「ぐふッ──」


 軽々と土御門を蹴り飛ばし──壁に激突した土御門との距離を詰め、その腹部を思い切り踏み付けた。

 土御門の肺から強制的に空気が吐き出され──そのままぐったりと動かなくなる。


「さてさて……こんな感じだな」


 重力によって動けなくなった剣ヶ崎、破闇、宵闇。ハルピュイアの蹴撃を受け、激痛で動けなくなった土御門。

 圧倒的な力を持っている前衛の四人が、こうも簡単に無力化されるとは。


「お前らは強い。確かに強いさ。だけどな、俺の方がもっと強い。お前ら程度……数秒あれば、()()()


 聡太の冷たい声に、全員の表情が強張(こわば)る。

 『黒重』を解除し、聡太たちが王宮を後にする──と、勇輝が聡太を呼び止めた。


「──聡太ッ!」


 聞き慣れた親友の声に、聡太は歩みを止めた。

 そういえば、勇輝は俺を止めようとしなかったな──そんな事を思いながら、ゆっくりと振り返った。

 小学時代からの親友は、強面(こわもて)の顔に笑みを浮かべ、グッと親指を立ててきた。


「……生きててくれて、ありがとな!」

「…………!」


 勇輝の言葉に、聡太は驚いたように目を見開き──急に笑い出した。


「ふっ──ははははははっ! ……はぁ……なんでお前が俺に礼を言うんだよ。わけわかんねぇ奴だな」

「う、うるせぇよ! お前も相変わらず笑いのツボが変な奴だな!」

「…………んじゃ、またな、勇輝」

「……おう!」


 お互いに言葉を交わし、聡太たちが今度こそ王宮を出ようと──した所で。


「──聡ちゃん!」

「……火鈴か」


 今までどこに行っていたのか、息を切らしながら火鈴が聡太に近づく。

 ……その手には、バックパックが握られている。


「聡ちゃん……あたし──」

「無理だ」

「えっ…………ねぇ、せめて最後まで聞いてくれないかな~?」

「……じゃあ、最後まで言ってみろ」


 持っていたバックパックを下ろし、火鈴が聡太の手を握る。


「……あたしも、聡ちゃんたちと一緒に連れて行って」

「無理だ」

「な、なんで?! あたし、すごく強くなったんだよ?! 役に立つよ?!」


 聡太の腕を掴み、ぶんぶんと振り回す。

 救いを求めるように、聡太は勇輝の方を見た。

 そんな聡太の視線を受け──勇輝はニイッと笑い、援護射撃を放った。

 ただし、火鈴を助けるための援護射撃だ。


「本当だぜ聡太。獄炎、スッゲェ強くなったんだぜ? それこそ、オレらの中じゃ一番(つえ)ぇ」

「お前に救いを求めたのが間違いだった」

「実際、【技能】有りの戦いだったらオレも勝てねぇしよ。連れて行ってやってもいいんじゃねぇのか?」

「あのなぁ……」


 ガシガシと乱暴に頭を掻き──何かを思い付いたのか、正面から火鈴を見据えた。


「……なら、勝負をしよう」

「勝負?」

「ああ。ルールは簡単だ。俺とお前、一対一で戦う。俺に一撃でも入れる事ができればお前の勝ち。これでどうだ?」


 聡太の提案に、ミリアたち以外は驚愕に目を見開いた。

 ──いくらなんでも、舐めすぎである。

 対象的に、ミリアたちは……同情の眼差しを向けた。

 ああ、聡太は──ここにいる全員に、力の差を見せ付ける気だ、と。


「……あたしの負けは?」

「そうだな……お前が降参したら、お前の負けだ。それでいいだろ?」

「時間制限はないの〜?」

「ない。お前が降参するか、俺が一撃食らうまで……永遠に続ける」


 数秒、火鈴が色違いの瞳を閉じ……やがて、ゆっくりと開いた。


「……いいよ〜。じゃあ、やろっか」

「ああ。セシル隊長、訓練所を貸してくれ」

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