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51話

「……ソータ様。その女の人、誰ですか」


 無言で抱き締め合う聡太と火鈴……その空気が不満だったのか、ミリアが若干(じゃっかん)低い声を出した。

 その言葉で火鈴を抱き締めている事に気づいたのか、慌てて聡太が火鈴を離した。

 だが、火鈴が離れようとしない。聡太の白いローブに顔を埋め、大きな泣き声を上げている。


「えっと……コイツの名前は獄炎 火鈴。何て言うかな……まあ、俺の幼馴染みだ。だから、そんな敵を見るような目で見ないでやってくれ」

「聡ちゃんんんん……! 聡ちゃん、聡ちゃん、聡ちゃん、聡ちゃぁぁぁ……!」

「……なんでその人、そんなに肌を露出しているんですか」

「んなの俺に聞くなよ。なんだ、不機嫌なのか?」

「別にそうではありませんっ」


 ミリアの様子から見て、てっきり不機嫌なのかと思っていたが……どうやら違うようだ。

 女の子の心はよくわからない──そう思いながら、聡太は火鈴の頭をぽんぽんと叩き、離れろと無言で伝える。だが、まだ火鈴は離れようとしない。

 落ち着くまでこうしておくしかないか──と、火鈴を撫でている方とは逆の腕に、軽い感覚。

 見ると、ミリアが聡太の左腕の袖を掴んでいた。


「…………何ですか?」

「いや、なんでもない」


 ムスッとした顔で、ミリアが目を細めて聡太を見上げた。その目には、怒りというより妬みがある。

 これ以上ミリアを不機嫌にするわけにもいかない──とりあえずミリアから意識を外し、聡太は火鈴に問いかけた。


「それで? お前、こんな夜中に何やってるんだ?」


 少しは落ち着いたのか、火鈴が聡太からゆっくりと離れた。

 そして……『ユグルの樹海』にいた理由について話し始める。


「……川上先生以外の十人とセシル隊長で、聡ちゃんの事を探してたんだけど~……こうやってあたしたちが寝ている間にも、聡ちゃんは一人で『大罪迷宮』の中にいるって考えたら……休んでる暇なんてないって思って……」

「そうか……それで、あの『十二魔獣』と戦っていたのは?」

「わかんない……あたしが『大罪迷宮』に行くって言ったら、急に攻撃してきて~……」


 火鈴の言葉に、聡太が何かを考えるように眉を寄せた。

 ──《激流を司る魔獣(ディティ)》は、何が目的で『大罪迷宮』に向かっていた?


「……なあ火鈴、あの『十二魔獣』は、他に何か言ってなかったか?」

「ほ、他に~……? …………あ……」

「何か言ってたのか?」

「う、うん……『大罪人』が残した『力』がどうとか言ってたけど~……」


 『大罪人』が残した『力』……ユグルが残した【特殊魔法】の事だろうか。

 だとしたら、もう『大罪迷宮』の最下層には何も残っていないのだが。

 というのも、聡太がユグルの手記を持ち出してしまったし……ガイコツとなったユグルが身に付けていた服や道具も、聡太が持っていってしまっている。


「……ん……?」

「ソータ様? どうされました?」


 ──《平等を夢見る魔獣(テリオン)》は『森精族(エルフ)』を殺すために行動していた。

 《月に吼える魔獣(パルハーラ)》は『獣人族(ワービースト)』を滅ぼすために動いていた。

 《死を運ぶ魔獣(ヘルムート)》は『吸血族(ヴァンパイア)』を絶滅させた。

 それで……《百の眼を持つ魔獣(フェキサー)》は、『シャイタン大峡谷』にある『大罪迷宮』の洞窟に隠れていた。

 《魔物を従える魔獣(ポーフィ)》は、モンスターの大群を連れて『地精族(ドワーフ)』の国を攻め落とそうとしていた。

 たった今遭遇した《激流を司る魔獣(ディティ)》は、『大罪迷宮』に向かっていた。


「……なんだ……? なんか、違和感が……」


 今の所、遭遇した『十二魔獣』全てが、何か目的があって行動していたように思える。

 ──『十二魔獣』は、本能で動いているわけではない?


「……考えれば考えるほど、わけがわかんねぇな」


 ただ一つ、わかっている事があるとすれば。

 ──全ての元凶は、『魔族(デモニア)』だ。

 おそらく『十二魔獣』は『魔族(デモニア)』の命令で動いていると考えられる。

 だが……結局、『魔族(デモニア)』が半数だけ生き残らされた理由がわからないままだが。


「……ねぇ、聡ちゃん」

「ん、どうした?」

「その……そっちの二人は?」


 不思議そうに首を傾げる火鈴──その視線の先には、二人の少女がいた。


「……ミリア、ハピィ。自己紹介だ」

「はい。私はミリア・オルヴェルグです」

「ハピィは、ハルピュイア・イリスー!」

「あ、えっと……あたしは、獄炎 火鈴だよ~。よろしくね~?」


 時間が経って目が覚めたのか、ハルピュイアがいつものテンションで自己紹介をする。


「それで……聡ちゃん、色々聞きたい事があるんだけど~……」

「まあ、そりゃそうだろうな。安心しろ、俺が答えられる事は答えてやるよ……でも、とりあえず──」


 言いながら、聡太が来た道を引き返し始める。


「馬車に引き返すぞ。『地精族(ドワーフ)』の御者を放置したままだからな……モンスターに襲われてるかも知れない」

「了解しました」

「おー!」

「え、あ……」


 ミリアとハルピュイアもその後に続き……数秒ほど迷うような仕草を見せ、火鈴もその後を追い掛けた。


────────────────────


「──そこで、ミリアに出会った。んで……初めて『十二魔獣』に遭遇した」


 ──翌日の早朝。『地精族(ドワーフ)』の御者が操る、ガタガタと揺れる荷馬車の中。

 向かい合うようにして座る聡太の言葉に、火鈴が食い気味に先を促した。


「そっ、それで〜? どうやって戦ったの~?」

「それで……なんか色々あって、倒した」

「……その、色々って?」

「……ミリア」

「えっ、わ、私に振るんですか?」

「しょうがないだろ。【技能】に呑まれた後は、お前しか見てないんだから」

「そ、そうですけど……え、ええっと……」


 初めて会う人と話すのに緊張しているのか、ミリアが珍しく言葉を詰まらせながら、その時の状況を話し始める。

 ちなみにハルピュイアは──聡太の膝の上に座っている。

 最初は火鈴が何か言いたそうにしていたり、ミリアが離れろと騒いでいたが……話を進めてからは無視しているようだ。


「……なあハピィ」

「んー?」

「そろそろ、膝の上から降りないか?」

「いやー!」


 (かたく)なに降りようとしないハルピュイアに、聡太が大きなため息を吐いた。

 ──火鈴は、聡太たちと共に荷馬車の中で朝を迎えた。

 荷馬車の中にいる人数が増えて、『地精族(ドワーフ)』の御者が驚いた様子だったが……特に何か聞かれる事なく、朝になったら『イマゴール王国』へ馬車を走らせてくれた。


「──そ、それで、えっと……腕をバラバラに斬って……体をズタズタに斬り裂いて……最後に顔を殴って、テリオンを倒しましたっ」

「……え~、っと……どういう事~?」

「あっ、あ! そういえば、私に襲い掛かって来ました!」


 壊滅的なまでに説明がヘタクソだ。

 わたわたと必死に説明しようとするミリアの姿に、聡太が苦笑を浮かべ、火鈴が微笑ましいものを見るような優しい笑みを見せる。


「ん……そろそろ着くみたいだぞ」

「お~。聡ちゃんが帰ってきたら、みんな驚くだろうね~」

「お前も泣いて喜んでくれたしな」

「……ん~……ちょ~っと恥ずかしいから、みんなには内緒にしてて~?」


 そうこう話している内に、馬車は大きな外壁へと近づいていく。

 ──『イマゴール王国』。

 この世界で最も種族人口が多い『人類族(ウィズダム)』が暮らす国で、国自体の大きさ的に言えば──この世界の中でも、かなり大きな部類に入るだろう。


「さ~て……聡ちゃん、ちょっとショートカットして王宮に行こっか~」

「ショートカット?」

「うん。あたしは、空を飛んで国に出入りできる許可をセシル隊長に貰ってるの~。門番の人にも話は通してるし~……いちいち門を通るより早いよ~?」


 早く王宮に行って、みんなに聡太の姿を見せたい──火鈴の目が、そう言っている。


「……そうは言っても、俺らは空を飛べないぞ? ハピィだけは別だけど」

「聡ちゃんの事はあたしが運ぶよ~。ミリアちゃんは……ハピィちゃんが運べるよね~?」

「おー? おー!」

「……はぁ……わかったわかった」


 ハルピュイアを膝の上から降ろし、聡太は御者の女性に話し掛けた。


「悪い、馬車を止めてくれ。俺たちは別の道から国に入るから」

「はい、わかりました」


 『地精族(ドワーフ)』の女性が馬車を止め……聡太たち四人が、荷馬車から飛び降りた。


「ここまで送ってくれて、ありがとな」

「いえ、国を救ってくれた英雄に少しでも力を貸せて光栄でした」

「そうか……それじゃあな」

「はい、お気をつけて」


 馬車が『イマゴール王国』へ向かって行くのを確認し──聡太が、火鈴の方を向いた。


「んじゃ……火鈴、頼む」

「任せて──【竜人化】」

「ハピィ、お願いします」

「任せろー!」


 火鈴の体が赤い鱗に覆われ──(ひたい)から白く濁った短い角が二本と、背中からドラゴンのような翼が生える。

 腕が剛爪へと、歯が牙へと変化し──まるで、人と竜が混ざり合ったような姿になった。

 なるほど……体の一部分を竜に変える【技能】が【部分竜化】で、人の姿を保ったまま竜の力を得る【技能】が【竜人化】という事か。


「それじゃ、行こ~?」

「ああ……頼む」


 聡太の手を握る火鈴が、翼を大きく打ち──大空へと舞い上がり、外壁を越えて『イマゴール王国』の中へと入る。

 ハルピュイアの鳥足がミリアをガッシリと掴み、火鈴の後を追って飛んだ。

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