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50話

「こっちか──!」


 【気配感知】を頼りに、二つの気配の出所(でどころ)を探りながら駆ける。

 木々の間を駆け、茂みを掻き分け──人の姿を見つけた。

 ──白く濁った角に、ドラゴンのような翼。両腕が有り得ないほどに肥大化した、不思議な少女だ。

 その少女と向かい合うように、小さな幼女が立っている。

 禍々しい気配を出しているのは──自分の体と同じくらいのサイズの大きな壺を持った、幼女の方だ。


「──動くなッ!」

「っ?!」


 聡太が大声を上げ──その声に反応して、歪な少女が勢い良く振り向いた。

 黒髪七割、赤髪三割という不思議な髪色。右の瞳は黒色、左の瞳は赤色の()()()()()

 どこかで見た事のあるような顔つきの少女と目が合い──少女がギョッとしたように目を見開いた。

 まあ、夜中に不気味な仮面を付けた奴に出会えば、誰でもそんな反応になるだろう。


「んー? きみ、だれー?」

「……お前、『十二魔獣』だな」

「えー違うよー? ほら、どう見ても『人類族(ウィズダム)』でしょー?」

「なら大人しく俺に付いて来てくれるな? 俺の仲間に『十二魔獣』を見分ける【技能】を持つ奴がいるから、ソイツに見てもらうが構わないよな?」


 聡太の言葉に……幼女は、無言で眉を寄せた。

 ──この反応……間違いない、『十二魔獣』だ。


「……はー……ほんとめんどくさいなー……『大罪迷宮』に行くつもりだったのに、なんでこう何度も絡まれるかなー……」

「ゴチャゴチャうるせぇ──『蒼熱線(そうねっせん)』」


 『剛力』を解除した聡太が幼女に掌を向け──蒼い熱線が放たれる。

 森の中だという事を忘れているのか、それとも木が燃えても別に良いだろと思っているのか。

 まさか森の中で火を使うとは思わなかったのだろう。歪な少女が驚いたように聡太を見つめている。

 いや──もしかしたら、別の理由で驚いているのかも知れないが、今の聡太にはそんな事を考える暇がない。

 完全なる不意討ち。熱線の速度は高速。威力は絶大。

 渦巻く蒼い熱線は幼女を焼き殺さんと迫り──ボシュウッ! と空気が抜けるような音を立てて、水蒸気が上がった。


「──森の中で炎を使うなんて、アホなのかなー?」


 ──幼女の持っていた壺から、真っ青な水が漏れ出し、『蒼熱線』を打ち消している。

 これ以上『蒼熱線』を撃ち続けても意味がない──そう判断し、聡太は『蒼熱線』を解除した。


「自己紹介をしておこっかなー? お察しの通り、わたしは『十二魔獣』の《激流を司る魔獣(ディティ)》。あなたはー?」

「……お前に名乗る名前なんてねぇ。『十二魔獣(ごろ)し』とでも呼べ」

「『十二魔獣殺し』……? ……って事は、テリオンとパルハーラ、フェキサーを殺したのは……」

「俺だ」

「……へー…………あなただったんだー……」


 ──ズンッと、内臓を直接握り潰されているかのような重い感覚。

 聡太の事を敵と認識したのか、ディティの幼い体から、尋常ならざる殺気が放たれている。

 膨れ上がる殺気を前に、歪な少女が竜腕を構え──


 ──ゾワッと。鋭利な刃物で肌を撫で回されているかのような感覚に、少女は聡太へ視線を向けた。

 どこまでも冷たく、どこまでも冷え切った氷のような殺気──向かい合う『十二魔獣殺し』と『十二魔獣』の(まと)う雰囲気に、少女は思わず息を呑んだ。


「──水よ踊れ。絶え間なく踊れ。周りの全てを薙ぎ払い、独りになるまで踊り続けろ」


 ディティが何かを呟いた──瞬間、壺の中から溢れ出していた水が、形を作り始めた。

 ──水の触手。それも、一本二本ではない。何十本もだ。

 うねる触手の先端が聡太の方を向き──勢い良く放たれる。


「舐めんなよ──『雷斬(らいざん)』」


 聡太が『紅桜』を抜き──刀身が、バチバチと放電し始める。

 そのまま横薙ぎに刀を振るい──雷の斬撃が、触手を根本から斬り離した。

 そのままディティを斬り裂かんと迫るが──さすがは『十二魔獣』。その場から大きく飛び上がり、雷の斬撃を回避する。


「バカが──『黒重(こくじゅう)』ッ!」


 反射的に『黒重(こくじゅう)』を使い──不発。

 何事もなく着地するディティを見て──ああそうか、と聡太は一人で納得した。

 今の聡太は『ライト・インサイト』を発動している状態。さらに『雷斬』を解除していない。

 【憤怒に燃えし愚か者】が発動している状態ならば三重詠唱する事ができるが──今の聡太では、二重詠唱で限界。

 すぐに『雷斬』を解除し──森の奥へと飛んでいく雷の斬撃が消えた。


「くそ……めんどくせぇな……」


 バカが──とか言っていたが、どっちの方がバカなのだろうか。


「……けどまぁ、いいか」


 今の攻防だけで、聡太はディティに有効的な魔法を見つけた。

 あの水の触手は、魔力で構成されていた。

 魔法とは異なる攻撃手段なのかも知れないが──魔力が関係する攻撃なら、アレが有効だ。


「水よ渦巻け。ぐんぐん渦巻け。その身を破裂させるほどの回転を続け、目の前の敵を討ち滅ぼせ──」


 壺から漏れる水がぐるぐると回転を始め──勢い良く発射される。

 まともに食らえば──即死だろう。


「まあ、まともに食らう気なんてないけどな──『魔反射(まはんしゃ)』」


 聡太の前に半透明な壁が現れ──渦巻く激流と衝突。

 ググッと壁が押し込まれた──次の瞬間、激流が跳ね返された。


「なに──?!」


 跳ね返ってくる激流に驚愕するディティ──すぐに攻撃を解除し、自分に向かってくる激流を消した。


「危ない危ない……まさか、わたしの攻撃を跳ね返すなんてねー」

「チッ……大人しく死んでろよ……」


 へらへらとした態度を崩さないディティに舌打ちし──頭の中では、相手の分析を続けていた。

 おそらくディティが使うのは、水に関係のある攻撃。それも、魔力で構成されている攻撃だ。

 『魔反射』を使えばどうにかなりそうだが……ディティもバカではない。自身に当たる前に跳ね返された攻撃を解除するだろう。


「……氷室がいてくれたら、状況は違ったのかも知れないが……」


 聡太は【氷魔法】に関係する魔法を取得していないが……確か氷室は【氷魔法適性】を持っていたはずだ。

 それがあれば、ディティの攻撃も簡単に凍らせて、戦闘を有利に進める事ができたかも知れない。

 ユグル・オルテールの残した【特殊魔法】だけじゃなく、様々な魔法を覚えていれば……いや。考えるのは後だ。今は、目の前のコイツに集中しないと──


「ぇ………………ちょっと、待って……今、氷室って……」

「……? ……なんだお前、まだいたのか。ここは危ないから、とっととどっかに行け」


 誰かに似ている顔立ちの少女が、お面を付けている状態の聡太を凝視している。

 ……ああ。誰に似ているのかわかった。だけど、赤の他人だろう。

 だってアイツの髪は、綺麗な黒色だし、瞳だって綺麗な黒色だ。目の前の少女のように、赤と黒が混ざった髪色ではないし、目の色だって──


「聡ちゃん………………なの……?」

「ぇ……は……?」


 歪な少女の言葉に反応して、聡太の喉から掠れた空気が漏れ落ちる。

 少女の顔、少女の言葉、少女の声……様々な情報が繋がり、聡太の目が驚愕に大きく見開かれた。


「お前………………か、りん……?」


 思わず『憤怒のお面』を外し、少女の顔を正面から覗き込む。

 お面の下の顔──聡太の顔を見た瞬間、火鈴の瞳に涙が浮かんだ。

 なんでここにいる? 何故こんな夜中に『十二魔獣』と戦っている? というか、その髪と目はどうした?

 聞きたい事が多すぎて、何から問えば良いのかわからない。

 だが、今は──


「『蒼熱線』」


 手を上に向け──蒼く燃える熱線を放つ。

 どこを狙っているのか? と眉を寄せる火鈴とディティ。

 その場には火鈴がいる。ならば優先するべきは、ディティの討伐より火鈴の安全確保だ。


「え、っと……今、何したの~?」

「応援を呼んだ。ここでコイツを仕留めてもいいが……お前を安全な所に連れて行く方が重要だからな」

「わざわざ聞こえるように言ってくれるなんて優しいねー……何が目的ー?」

「別に。お前を殺すのは、今じゃなくてもいい。それこそ、入念に対策した後でも、な」

「……はー……厄介だねー、あなた。ここで殺しておこっかなー?」


 ──ディティの放つ殺気が、先ほどよりも濃くなった。

 だが──その殺気は、アイツらを呼ぶための目印でしかない。


「──『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』っ!」


 ──突如、夜空に巨大な蒼い魔法陣が浮かび上がった。

 そこから蒼炎の龍が現れ──聡太と向かい合うディティに迫る。


「鬱陶しいなー……!」


 だが──コイツに炎は通用しない。

 炎の顎を開き、蒼龍がディティを呑み込もうとするが──ボシュウッ! と音を立て、水蒸気となって霧散した。


「──ソータ様! ご無事ですか?!」

「ふあ……眠たーい……」


 ミリアが大声を上げながら聡太の隣に立ち、遅れてハルピュイアが森の奥から姿を現す。


「さて……続けるか?」


 聡太の言葉に、ディティが心底不愉快そうに顔を歪めた。


「はあー……今は逃げさせてもらおっかなー。でも、いつか殺すね──『十二魔獣殺し』」

「はっ。殺れるとでも思ってるのか?」

「──わたしのように知能を持つ『上位魔獣』は連携が取れるのー……わたしの言いたい事、わかるよねー?」

「──だから、その程度で俺を殺れるとでも?」


 ──次に来る時は、一匹で来ると思うなよ?

 ──ザコが寄って(たか)った所で、俺に勝てるとでも思っているのか?

 言外(げんがい)に言葉を交わし、両者が放っていた殺気を引っ込めた。


「ほんとムカつく『人類族(ウィズダム)』だねー……わたしが殺すまで生きててねー? あなたの事は、わたしが殺すからー」


 そんな捨て台詞を残し、ディティが森の奥へと消えていく。


「ソータ様、追わなくて良いのですか?」

「今はいい。それより……」


 『紅桜』を鞘に収め、手に持ったままの『憤怒のお面』を右腰に付ける。

 そして──火鈴の方を向いた。


「……本当に、火鈴なのか?」

「あ、は……聡ちゃんだ~……」


 ビキビキと音を立て──火鈴の腕が普通の腕に戻り、生えていた角と翼が消えた。

 だが──髪の色と瞳の色だけは元に戻らない。

 何かあったのか? と首を傾げる聡太に──火鈴が抱き付いた。


「うわああああああああああっ! よかったあああああああああああああああっっ!!」

「…………悪い。心配かけたな」


 ──ようやく、戻って来る事ができた。

 その実感と共に、聡太は火鈴を抱き締め返した。

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