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46話

「──『剛力』ッ! 『付属獄炎』ッ!」


 聡太が全身の筋力を底上げし──『紅桜』と『黒曜石の短刀』の刀身が黒い炎に包まれた。

 デタラメな速度でポーフィとの距離を詰め、緋色の刀と漆黒の短刀を振るう。


「へぇ──!」

「チッ──てめぇ避けんじゃねえッッ!!」


 黒炎の軌跡を描きながら、避けるポーフィを追い掛ける。

 聡太の刀撃をギリギリで避け──ポーフィが拳を放った。

 ──食らった瞬間、殺られる。

 本能的にポーフィの攻撃の危険さを感じ取った聡太。素早く距離を取り、ポーフィの拳撃を躱した。


「ほらほら、どんどん行くよ!」

「クソッ……!」


 連続で放たれる拳撃を避け、カウンターに刀を振るった。

 一気に聡太の(ふところ)に飛び込んで刀を回避し──ポーフィが拳を放つ。


「──ああッ!」


 咄嗟に膝を上げ──ポーフィの拳に膝を当てて、拳撃の軌道を逸らした。

 聡太の真横を撃ち抜いた拳──その結果を見届ける前に、聡太が『黒曜石の短刀』を振り抜く。

 獄炎を(まと)う一撃は──だが寸前で躱され、ポーフィの服を斬り裂いた。


「はあっ、はぁ……!」

「……へぇ……消えない炎か……」


 肩で息をする聡太を置いて、ポーフィが冷静に獄炎の分析を進める。

 このままでは自分も燃やされてしまう──そう判断したのか、躊躇(ちゅうちょ)なく着ていた服を脱ぎ捨てた。


「おもしろい魔法を使うね。何属性の魔法なのかな?」

「知る、かよ……! いいから黙ってっ、殺されとけよ……!」


 ──【憤怒に燃えし愚か者】を使っても、ここまで苦戦するとは。

 テリオンやパルハーラ、フェキサーの場合は、【憤怒に燃えし愚か者】を使えばどうにかなった。

 だが──ポーフィ相手には、【憤怒に燃えし愚か者】に頼りきっては勝てない。

 正直、このままだと──負ける。


「うーん……なるほどね。きみ、強いね」

「ああ……?」

「『下位魔獣』のテリオンたちが殺されたのも、正直納得したよ」


 ニコッと、ポーフィが笑みを深め──

 ──ズンッと、辺りに殺気が充満する。

 息が詰まるほど濃密な殺気──その殺気がポーフィから出ていると気づくのに、多くの時間を必要とはしなかった。


「きみはここで殺しておくべき存在だ。後々(のちのち)成長する前に──ここで、きみという若い芽を刈っておこう」

「はっ。殺れるもんなら殺ってみろ」


 『剛力』と『付属獄炎』を発動させたまま、腰を落として身構える。

 【憤怒に燃えし愚か者】を使っている時の聡太は、三重詠唱をする事ができる。

 だが──『剛力』と『付属獄炎』を使っている今、使える魔法は残り一つ。

 ──この残り一つの魔法が、勝負の鍵だ。


「……ねぇ、何か考えてるようだけど──」


 拳を握ったポーフィが──瞬く間に聡太との距離をゼロにした。


「──考えてる暇なんて与えないよ?」


 放たれる拳撃を身を捻って躱し、捻りを利用して『紅桜』を振り抜いた。

 辺りに獄炎を撒き散らしながら、刀が黒炎の軌跡を描き──


「よっと──!」

「しぃ──ッ!」


 絶対的破壊力を持つであろうポーフィの拳を避け、聡太が獄炎を(まと)う刀撃を返す。

 燃え移ったら消えない獄炎を躱し、ポーフィが怒濤(どとう)の拳撃を放った。

 攻防の余波で地面に亀裂が走り、辺りに暴風が吹き荒れ──ポーフィが支配しているモンスターの群れが、怯えて動けなくなっている。


「──ああッッ!!」


 ──『黒重』と『蒼熱線』は、簡単に避けられた。

 激しさを増す攻防の中、聡太が不自然なほど冷静な思考を加速させる。

 コイツに見せていない【特殊魔法】は──『水弾』に『嵐壁』、そして『雷斬』と『魔反射』の四つだ。


 さあ──ここからどうする?

 一歩間違えば『死』の状況で──聡太は口元に、歪んだ笑みを浮かべた。

 まるで──この戦いを、心から楽しんでいるかのように。


「やっぱり──きみも、()()()()()()()()なんだね」


 聡太の歪んだ笑みを見て、ポーフィも口元を邪悪に歪めた。


「があッッ!!」

「ふっ!」

「ぅ、おっ──?!」


 強烈な足払いを受け、聡太が体勢を崩した。

 慌てて体勢を立て直すが──ポーフィが拳を放つ方が早い。

 咄嗟に顔面と腹部を腕で守るが──


「──こっちだよ」

「ぶッッ──?!」


 聡太の胸部をポーフィの拳撃が撃ち抜き──聡太の体が吹き飛んだ。

 ゴロゴロと地面を転がる聡太──追撃を狙って、ポーフィが勢いよく駆け出す。


「──は土の壁”」


 ふと、そんな声が──否、詠唱が聞こえた。


「『アースド・ウォール』ッッ!!」


 聡太が大きく叫んだ──瞬間、地面が勢いよく盛り上がり、聡太とポーフィの間に土の壁が現れる。


「ふんっ!」


 ポーフィが拳を放ち──土の壁が粉々に砕け散った。

 土の壁が崩れ落ちた先には──刀を構えた聡太の姿が。


「──『雷斬』ッッ!!」


 『紅桜』と『黒曜石の短刀』の刀身が、バチバチと放電を始める。

 白い雷と黒い炎が混ざり合い──黒雷へと変化。

 二本の刀をXに振るい──獄炎を宿す雷の斬撃が放たれた。


「なに──っ?!」


 突然の反撃に、ポーフィが素早く回避するが──右肘から先を斬撃で斬り飛ばされる。

 そして──斬り口から、黒い炎が燃え上がった。


「……なんだ、今の……?」


 黒い斬撃を放った聡太が、不思議そうな声を漏らす。

 ──ポーフィに胸部を()()()()聡太は、地面を転がりながら『剛力』を解除した。

 わざと殴られた理由は──相手に油断を与えるためと、【土魔法】の詠唱を聞かれないようにするためだ。

 顔面と腹部は防具を付けていないため、殴られたらヤバかっただろうが──胸部にはフェキサーの甲殻で作った『碧鎧』を付けているため、ダメージは軽い。

 そして、『付属獄炎』を継続したまま、迫るポーフィの視界を『アースド・ウォール』で塞ぎ──『雷斬』を発動。

 その結果──『付属獄炎』と『雷斬』が混ざり合い、あの黒い斬撃が放たれた。


「これ、は……?!」


 右肘から先を失ったポーフィが、苦痛に顔を歪める。

 ──斬り口から、黒い炎が燃え上がっている。

 パルハーラの時と同様、このままだったらポーフィは獄炎に焼かれて消えるだろう。


「くそ……! さすがに死ぬのはゴメンだね……!」

「はっ。今さら逃がすと思ってんのか?」


 獄炎を纏わせたまま、『紅桜』の切っ先を向ける。

 悔しそうに聡太を見て──ポーフィが大きく息を吸い込んだ。

 何が起きても対処できるように構え──直後に響いた雄叫びに、思わず身を固くした。


「──ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!」


 耳が裂けるような雄叫び。

 聡太が怪訝そうに眉を寄せた──次の瞬間、背後から迫る気配を感じ、刀を振り抜いた。

 そこには──先ほどまで恐怖で動けなくなっていたはずの、モンスターが。


「てめぇッ、邪魔すんじゃねぇッッ!!」


 怒号を上げ、次々に襲い来るモンスターを斬り刻む。


「……悪いけど、ここは退かせてもらうよ。また今度()ろうね、『十二魔獣殺し』」

「待てコラッ──ああクソッ! 邪魔だッッ!!」


 その身を捨てて特攻を仕掛けてくるモンスター──遠くにいるモンスターも、聡太を狙って近寄ってくる。


「てめぇクソッ、逃げんなあああああああああああああああああああッッ!!」


 獄炎を撒き散らしながら逃げるポーフィに、聡太が怒りの咆哮を上げるが──ポーフィばかりに気を取られていては、近寄ってくるモンスターに殺られる。

 先ほどまでとは違い、命を捨てての攻撃──油断すれば、刺し違える可能性もある。


「クソがッ──『黒重』ッッ!!」


 辺り一帯を不可視の重力が覆い──聡太の近くにいたモンスターが地面に沈んだ。


「潰れて死ねッッ!!」


 『黒重』の三重強化。

 足元の黒い魔法陣が、複雑な紋様を描いた──瞬間、辺りのモンスターが一気に潰れた。

 骨と肉が潰れる鈍い音を立てながら、全身から血を噴き出し──その場に残ったのは、お面の下で不機嫌そうに顔を歪める聡太だけだ。


「……くそ……」


 【気配感知“神域”】から、ポーフィの気配が消えた。

 その事を確認し──聡太は『付属獄炎』を解除した。

 『付属獄炎』を発動してても、ポーフィは腕を斬り落とすなりして獄炎を回避するだろう──そう判断したのだ。


「……にしても……」


 まさか、言語を話す『十二魔獣』がいるとは。

 今後、ポーフィのように言語を話す『十二魔獣』と遭遇して──ソイツが『十二魔獣』だと見抜けるだろうか?

 ……ミリアの【鑑定の魔眼】に頼る事になりそうだ。


「──ソーター!」


 と、遠くから近寄ってくるモンスターの中から、一人の少女が飛び出して聡太に近づいてきた。


「お……ハピィ。どうした?」

「なんかねー、モンスターが急に戦うのをやめたのー。それで、みんな同じ方に歩き始めたから、それを追いかけてー……そしたら、ソータがいたのー」

「そうか……ハピィ、こっちに来い」

「お? おー」

「『黒重』」


 おそらく、最後のポーフィの咆哮で、モンスターの大群に聡太を襲わせるように命令したのだろう。

 ハルピュイアを近くに寄せた聡太は──再び『黒重』を三重強化し、遠くにいたモンスターを押し潰した。

 ──モンスターの大群を全滅させるのに、そこまで多くの時間は掛からなかった。

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