表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/117

45話

「なんだ、あれ……?!」


 誰かが、掠れた声でそんな言葉を漏らす。

 ──目の前の光景に、『地精族(ドワーフ)』は言葉を失っていた。


 『黒森精族(ダークエルフ)』の操る蒼龍が、炎の顎でモンスターを呑み込み、炎の尻尾でモンスターを焼き払う。

 その近くで、ハーピー種の『獣人族(ワービースト)』が銀色に輝く脚でモンスターを蹴り殺している。


 だが──特に目を引くのは、不気味なお面を被った黒髪の『人類族(ウィズダム)』だろう。

 手から蒼色の熱線を放ち、遠くのモンスターを焼き殺した──かと思うと、今度は雷の斬撃が飛び、近寄るモンスターを真っ二つにぶった()る。

 少年を囲み、攻撃のタイミングを(はか)るモンスター──と、いきなり暴風が吹き荒れ、風の刃がモンスターを斬り裂き、バラバラにして吹き飛ばした。

 上空にいるモンスターが、少年に向かって攻撃を仕掛けようとするが──いきなり地面に吸い寄せられたかのように激突し、身動きが取れなくなる。

 と、気が付けば空に青色の魔法陣が浮かんでおり──魔法陣から放たれる水の弾丸が、必死にもがくモンスターの体を撃ち抜いた。


「何なんだ、あの『人類族(ウィズダム)』は……?!」

「『黒森精族(ダークエルフ)』と『獣人族(ワービースト)』も化物みたいに強いぞ……?!」


 驚愕の声を漏らす『地精族(ドワーフ)』……と、暴れ回る三人のデタラメな存在を見て、一人の『地精族(ドワーフ)』がバカ笑いを上げていた。


「ひっひひひひひひひひひひひひっ! ひーひひひっひひひひひひひっ! ひー……あぁヤッベェなぁあのボウズぅ! あんな強かったのかよぉ?!」

「笑いすぎだエルグ……と言っても、ワシも笑いしか出てこないがな……」


 笑うエルグボルグの隣で、エルレッドがどこか困ったような笑みを浮かべる。


「あぁ間違いねぇ! あのボウズぁ英雄だぁ! 英雄になる存在だぁ! なぁ、そう思うだろぉアニキぃ?!」

「……うむ……そうかも知れんな」


 再び放たれる蒼色の熱線を見ながら、鍜冶職人の兄弟はそんな事を呟いた。


────────────────────


「『蒼熱線』」


 聡太の手の前に蒼色の魔法陣が浮かび上がり──そこから蒼い熱線が放たれる。

 直線上にいたモンスターが一瞬で焼き消え──手を横に動かし、横にいるモンスターも(まと)めて焼き飛ばした。


「コイツら程度なら、【特殊魔法】だけでどうにかなるな」


 モンスターの大群に囲まれるが、余裕そうな表情を崩さない。

 この程度なら、刀を使う(どころ)か──【憤怒に燃えし愚か者】を使うまでもない。


「──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」


 ──突如聞こえた咆哮に、聡太が鋭い瞳をさらに細めた。

 咆哮だけでもわかるほどの、強者の覇気。

 間違いない──今の咆哮の主が、このモンスターの大群のリーダーだ。


「だが……」


 強い。それこそ──聡太が全力で戦っても、勝率は五分五分だろう。

 ミリアには『地精族(ドワーフ)』の守護を頼んでいる。ハルピュイアは、好きに暴れてリーダー格のモンスターを討伐している。連れて行く事はできないだろう。

 それに──ミリアとハルピュイアを連れて行っても、足手まといになる可能性の方が高い。


「一人で行くか──『剛力』ッ」


 全身の筋力を底上げし──【気配感知“広域”】を発動させる。

 ──気配の主は、かなり遠くにいる。

 何というか……独特的な気配だ。

 本能的に恐怖を感じると言えば良いのだろうか……よくわからないが、『十二魔獣』に近い気配を感じる。

 だが……どこか『十二魔獣』とは違うような……?


「ま、行けばわかるか」


 脚力を爆発させて、モンスターの大群の間を駆け抜ける。

 その後を追い、あるいは進路に立ち塞がり、モンスターが聡太に攻撃を仕掛けるが──


「──『水弾』」


 上空に青い魔法陣が浮かび──水で作られた弾丸が、超高速で放たれた。

 聡太の動きを止めようとしたモンスターは──頭や胸を水の弾丸で撃ち抜かれ、次々に倒れ臥していく。


「チッ──邪魔だ死ね。『黒重』」


 立ち止まり、空を飛ぶモンスターに手を向けて詠唱。

 口から炎や光線を放とうとしていたモンスターは──不可視の重力に襲われて地面に沈んだ。


「潰れろ」


 聡太の足元に浮かぶ黒色の魔法が、複雑な模様を描いた──その次の瞬間、モンスターの群れが重力に押し潰され、身体中から血を噴き出して絶命した。

 フェキサーとの戦いで、『複数術士(マルチ・ソーサラー)』が使える魔法の複重強化を感覚的に覚えた聡太は、複重強化の練習をしながらモンスターを討伐していた。


 簡単に説明をするなら、複重強化というのは──魔力の入る器を大きくする、という事だと思えば良い。

 普通の魔法でも、魔力を多く込める事はできる。

 だが──その魔力を受け止める器には限界が存在する。

 複重強化する事により、魔力の器をさらに大きくする──それにより、魔法の力を上げるのだ。

 もちろん、魔力を多く持っている事が前提である。でないと、そもそも魔力を多く込める事ができないのだから。


「よしよし……感覚的には掴めてきたな」


 息絶えたモンスターを見下ろし──バッと、何かを感じたかのように顔を上げた。

 ──先ほどの咆哮の主が、移動を始めた。

 それも、真っ直ぐ聡太の方に向かってくる。


「……誰も、近くにいないな……?」


 ミリアとハルピュイアが遠くにいる事を確認し──聡太が全身から鋭い覇気を放ち始める。

 ──聡太の【特殊魔法】は、近くにいる者にも影響を与えるほど強力な魔法だ。

 ミリアやハルピュイアが近くにいると、巻き込まないように気を使わなければならないが……近くに誰もいなければ、好きにぶっ放す事ができる。


「さあ……()るか」


 左腰から『紅桜』を右手で抜き、後ろ腰から『黒曜石の短刀』を左手で逆手に構える。


「──あれ? きみ、『地精族(ドワーフ)』じゃないよね?」


 そして──ソイツは姿を現した。

 短くキレイに切り揃えられた灰色の髪に、黄色と緑色の色違いの瞳(オッドアイ)

 頭部の右側から湾曲した大きな角が生えており……幼い外見に似合わぬ角の存在は、かなり異様に見える。


「……誰だ、お前」

「うーん……それなら、きみこそ何者だって話だけど?」


 ポリポリと角を掻き、ソイツは困ったような苦笑を見せる。

 今の聡太の格好は──見慣れぬ者が見れば、間違いなく変な格好に見えるだろう。

 緋色の刀と漆黒の短刀を握り、顔を赤い紋様が描かれた奇妙なお面で隠している。さらに、全身を白いローブで包んでおり、体格すらもわからない。

 ソイツが聡太の姿に疑問を持つのも、無理はないのかも知れない。


「俺の事はどうでもいいんだよ……お前が、このモンスターの大群を操ってる黒幕だな?」

「うん。そうだよ」


 コクンと頷くソイツの言葉に、聡太は警戒心をさらに深めた。


「……否定、しないんだな」

「なんで? だって、きみを殺せば問題ないでしょ?」


 なるほど。聡太に負ける気がないらしい。

 しかも、聡太を殺すと言った。

 つまり──敵。


「失せろ──『黒重』ッ!」

「おっ──」

「『蒼熱線』ッ!」


 不可視の重力を発動させた──瞬間、聡太は『黒曜石の短刀』の切っ先をソイツに向けた。

 『黒曜石の短刀』の前に蒼色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、螺旋状に渦巻く蒼い熱線が放たれる。

 初見の相手なら、間違いなく対処できない凶悪コンボ。

 ──今までは、そうだったのだが。


「──やるね」

「はっ──?」


 『黒重』の影響を受け、ソイツが少し体勢を崩し──その口元に歪んだ笑みが刻まれた。

 そう認識した──次の瞬間、ソイツは軽々とその場から飛び退き、聡太の『蒼熱線』を簡単に回避する。


「危ない危ない……『下位魔獣』だったら、簡単に殺られてたかも知れないね」

「お前……マジで何者だ」


 【憤怒に燃えし愚か者】をいつでも発動できるように構え、驚愕を押し殺して問い掛ける。

 聡太の言葉を聞いたソイツは──ニイッと邪悪な笑みを浮かべた。


「自己紹介がまだだったね。ぼくは『十二魔獣』の一匹、『上位魔獣』の《魔物を従える魔獣(ポーフィ)》さ」


 その自己紹介を聞いた──瞬間、辺りに大きく脈打つ音が響いた。

 ──ドッグンッ! ドッグンッ! ドッグンッ!


「ああ……『十二魔獣』だったのか……」


 露出している肌に、赤黒い紋様が刻まれていく。

 膨れ上がる殺気を前に──ポーフィは心底楽しそうに笑みを深めた。


「スゴいね……! きみ、何者なんだい?」

「お前らに名乗る名前なんてねぇよ……『十二魔獣(ごろ)し』とでも呼べ」

「『十二魔獣殺し』……? ……まさか、テリオンとパルハーラを殺したのは──」

「俺だ……その後に、フェキサーも殺してるからな? 次はてめぇだ」

「いいね……! 久々に楽しそうな相手だよ」


 辺りをモンスターの大群が囲む中。

 『十二魔獣殺し』と《魔物を従える魔獣(ポーフィ)》が。

 ──今、激突した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ