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42話

 ──暗い。

 『アーダンディルグ』の東端に向かう聡太は、辺りの様子にそんな感想を抱いた。

 デカい建物が並んで、太陽の光が入ってこない。それに、ほとんどの店に灯りが()いていない。

 人の姿も少なく……たまに『地精族(ドワーフ)』の姿を見かけても、こちらと視線を合わせようとしない。


「何なんだここは……」


 一刻も早くここから立ち去りたい──その思いから、聡太の歩くスピードが早くなる。


「……ん」


 ピタッと、聡太が歩みを止めた。

 顔を上げ、ボロボロになっている看板を見て目を細める。

 ──『エルグボルグの店』。

 ここにエルレッドの勧める鍛治職人──エルグボルグがいるのか?

 ……何だか、スゴく不安だ。


「……迷ってても、しょうがないか」


 ため息を吐いて、聡太は木製の扉を開き──


「──ぉ……ひひっ……珍しいなぁ、ここに客が来るなんてよぉ……」


 ──そっと閉じた。

 ……なんか、ヤバイ奴がいた。

 どうしよう。もう一度エルレッドの所に戻るか?


「──オイオイ、なぁに閉じてんだよぉ」


 木製の扉が開かれ、中から不気味な男が姿を現した。

 身長は少し聡太より高いだろうか。チビデブの体型が多い『地精族(ドワーフ)』にしては珍しい、高身長の個体だ。

 ただ──細い瞳と目元まで伸びた長い白髪のせいで、スゴく不気味に見える。


「……あんたがエルグボルグか?」

「へぇ……おれの事を知っててここに来たのかぁ?」

「エルレッドから勧められたんだよ」

「おぉ。あのクソ真面目から勧められるとはなぁ……ひひっ。おれも捨てたもんじゃぁねぇなぁ?」


 不気味に笑いながら店の中に入っていくエルグボルグ。

 仕方がないと肩を落とし、聡太もその後に続いて店に足を踏み入れた。


「んでぇ? ひひっ。何しに来たんだぁ?」

「防具を作って欲しい。あんた、天才なんだろ?」

「天才ねぇ……ひひひっ……エルレッドから聞いてんだろぉ? おれぁ金を貰わねぇと働かねぇ主義でなぁ……よぉボウズぅ。いくら持って来たぁ?」


 怪しく輝く細い瞳に、聡太の頰が引き()る。

 バックパックから革袋を取り出し、エルグボルグに投げ渡した。


「おっとぉ……?」

「その中には、魔金貨が二十五枚入っている」

「……ひひひっ! オイオイボウズぅ! お前正気かぁ?! こんな大金渡してぇ、何を作ってもらいてぇんだよぉ?!」

「最初に言っただろ。防具が欲しいんだよ」


 言いながら、今度はフェキサーの甲殻を床にぶちまけた。


「素材はこの甲殻で。できたら一週間以内に作ってもらいたい」

「ひっひひひひひひひっ! オイオイオイオイ、まじかよボウズぅ! こんな甲殻ぅ見た事ねぇぞぉ?!」


 青色の甲殻を拾い、エルグボルグが不気味な笑い声を上げる。


「おもしれぇ、おもしれぇぞボウズぅ! いつもならぁ金が足りねぇっつって追い返す所だがぁ、お前は特別だぁ!」

「……そうかよ」

「あぁ──エルグボルグ・ローガルドの天才ぶりってのぉ久々に見せてやるかぁ」


 にいっと口角を上げ、エルグボルグが近くにあったソファーに腰掛けた。


「まぁ座れよぉ。防具作りってのぁ、客の要望を聞く所から始まるんだからよぉ」

「そうか……」


 エルグボルグの向かい側に座り──エルグボルグが机の上に置かれていた紙と羽ペンを手に取った。


「素材の数が限られてっからなぁ……どこの防具を最初に作ってもらいたいとかあるかぁ?」

「胸当てだな。後は肘当てとか膝当てとか……腕当てと脛当ても欲しい。全部作れそうか?」

「……ひひひひっ……あぁ、できるぜぇ。余った甲殻ぁどうするぅ?」

「お前にやる。好きに使え」

「ひっひひひひひひっ! いいなぁボウズぅ! お前おもしれぇなぁ!」


 何がそんなに面白いのか、エルグボルグが笑い声を上げながら──細長い紙のような物を取り出した。


「そんじゃぁ、採寸すっかぁ」

「ああ……それで、一週間以内に作れそうなのか?」

「ひひひっ……もちろんだぜぇ。久々におもしれぇ客だからなぁ。おれも本気でやったらぁ」

「そうしてくれると助かる」


 肩幅や胸囲を測り──素早く紙にペンを走らせる。

 よく見ると、紙には聡太と思われる人物の絵が描かれていた。

 ──今の一瞬で、この絵を描いたのか?


「次だぁ。肘先の長さを測るぞぉ」

「ひ、肘先の長さ……?」

「そん次ぁ膝下だぁ……ひひひっ。久々に仕事すっとおもしれぇなぁ」


 肘先の長さと膝下の長さを測り、素早く紙に情報を記入していく。


「どうするぅ? ゴツい防具にすっかぁ? それともぉ動きやすさ重視の軽装にすっかぁ?」

「……ゴツい防具ってのは、どんな感じなんだ?」

「騎士が付けてる鎧みてぇなやつだなぁ」

「じゃあ、軽装で頼む」

「ひひっ。了解だぁ」


 防具の見た目を簡単に描き──エルグボルグが近くにあったボタンを押した。

 瞬間──店内に灯りが(とも)る。


「ちなみによぉ、この素材は何から採取ぅしたんだぁ?」

「……『十二魔獣』、って言ったらどうする?」


 一瞬、エルグボルグが大きく目を見開き──顔に手を当てて笑い始めた。


「ひっひひひひひひひひひっ! ひひひひっ、ひひっ! やべぇなぁオイお前最っ高だぜぇボウズぅ!」

「あー……っと……?」

「だとしたらおれぁ今、英雄から防具の依頼をされてるって事かぁ?! あぁやべぇやべぇ、楽しくなってきやがったなぁ!」


 エルレッドは信じなかったが、エルグボルグが聡太の言葉を信じたようだ。


「一週間後にぃまた来いよぉ! そん時までにぁ完成させておくぜぇ!」


 そう言って笑うエルグボルグの顔は──エルレッドと同様、職人の顔だった。


────────────────────


「──思っていたより、遅かったですね?」


 『アーダンディルグ』から遠く離れた草原。

 防具の採寸を終えた聡太は……食料や必要な道具を買い揃え、ミリアたちの元へ帰ってきた。


「ああ。防具の採寸が思ったより時間かかってな……ほら、とりあえず一週間分の食料を買ってきたぞ」

「ありがとうございます」

「んで……ハピィ」

「おー?」


 ミリアにバックパックを返し……聡太が自分のバックパックから、服を取り出した。


「お前の服だ。パルハーラから逃げ回って、お前の服がボロボロになってるみたいだったから……一応な」

「おー! ありがとー!」


 嬉しそうに服を受け取り、その場で着替え始める。


「んー……ねーミリアー。これ、どうやって着るのー?」

「ちょっと待ってください。なんで普通に服を脱いでるんですか」


 相変わらず恥じらいのないハルピュイアに背を向け、着替えが終わるまで無言で待つ。

 ……正直、女物の服なんて何を選べば良いのかわからなかった。

 だから、ハルピュイアの性格に合わせて買ったつもりだ。


「──おー! ソータっ、ソータ!」

「ふぅ……ソータ様、終わりました」


 二人の声を聞き、ハルピュイアの方を向く。


「……うん。悪くはないんじゃないか?」

「えへへー! ソータ、ありがとー!」


 ハルピュイアには翼がある。だから、普通の服は着れないと思った。

 それに加えて、ハルピュイアは肉弾戦を好む。長ズボンや長袖の服は邪魔になるだろう。

 よって、聡太が選んだ服は──白色のタンクトップのような服に、茶色の半ズボン。そして胸部のサラシだ。

 この服ならハルピュイアが戦闘する時、邪魔にならないはずだ。


「……ソータ様、私には何かないんですか?」

「そう言うと思って、一応何か買おうと思ったんだが……何を買えばいいかわからなくてな」


 言いながら、聡太がバックパックに手を突っ込み──中から取り出された物を見て、ミリアが首を傾げた。


「……短剣?」

「護身用だ」


 銀色に輝く美しい短剣を受け取り、ミリアが微妙な表情を見せた。

 聡太から物を貰って嬉しいという気持ちと、女の子っぽい物が欲しかったという気持ちが複雑に入り混じっているのがわかる。


「ソータ、ソーター!」

「どうした?」

「ほら見てー!」

「……似合ってるぞ」

「あははー!」


 服を貰った事がそんなに嬉しいのか、聡太の手を握ってぶんぶんと振り回す。


「……はぁ……」

「なんだ、武器は嫌だったか? 別のを買って来るか?」

「いえ……これはこれで嬉しいんですけど……」


 大事そうに短剣を抱くミリアと、嬉しそうに翼をバタつかせるハルピュイアを見て、どうやら渡す物は間違ってなかったようだ、と聡太は密かに満足感を感じていた。


「それじゃ、しばらくはここで野宿するぞ。何か欲しい物があったら、俺が『アーダンディルグ』に行って買って来るからな」

「はい」

「おー!」

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