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4話

「着いたぞ。ここが訓練所だ」


 それぞれの部屋に案内された後、聡太たちは訓練所という所にやって来た。

 広さは……かなり大きい。高校のグラウンドと同じくらいだろうか。


「──はっ! グローリア様!」

「セシル隊長か……調子はどうだ?」

「好調であります! ……と、その者たちは、先ほどの報告の?」

「異世界からこの世界を救うべく現れた、12人の勇者だ。この者たちの実力を知ろうと思い、ここに連れてきたのだ」

「グローリア様のご命令とあらば、喜んで」


 ()()れするほど美しい敬礼を見せ、セシルと呼ばれた30代ほどの男が、聡太たちに視線を向けた。

 それに合わせて聡太が──1歩、足を引いた。


「……あ……?」


 自分が後退(あとずさ)った事に驚愕し、大きく目を見開く。

 いや……聡太だけではない。

 勇輝と破闇、そして土御門も、聡太と同じく1歩後ろに退いていた。

 4人とも、何故自分が後退ったのかが理解できていないようで……そんな4人を見たセシル隊長が、どこか感心したように眉を上げた。


「ほう……どうやら、少しは戦えるやつがいるようだな」

「セシル隊長。あんまりイジメないようにな。彼らは救世主、そこを忘れないように」

「わかっております、グローリア様」


 言葉とは裏腹に、セシル隊長はギラギラと瞳を輝かせている。

 セシル隊長の言葉に満足したのか、グローリアはニッコリと頷くと、訓練所から出ていってしまった。

 ──そこでようやく、4人は理解した。

 自分たちが思わず後退ったのは、この男の眼に恐怖を感じたからだ、と。


「お前たちのステータスは、一通り把握している。どいつもこいつもイカれたステータスを持っている事も知っている……だがそれは【技能】の話だ。実際に使用し、実力を磨かねば、折角(せっかく)の【技能】が使いこなせないからな……それでは早速、近距離戦闘の【技能】を持つ者と、魔法の【技能】を持つ者で分かれるとしようか」

「すんません。俺、両方持ってるんすけど」


 セシル隊長の言葉に、手を挙げる男。宵闇だ。

 彼の【技能】には……【槍術】と【闇魔法適性】がある。


「それならボクもです」

「あ、ぼ、僕も……です……」


 宵闇に続いて前に出る2人……剣ヶ崎と遠藤だ。

 剣ヶ崎の持っている【技能】には……【剣術】と【全魔法適性】がある。

 遠藤の持っている【技能】には……【弓術】と【風魔法適性】がある。


「そうか……では、お前たち3人は、俺に付いてこい。魔法だけが使えるやつは……あそこの白いローブを着た女の所へ行け。戦闘系【技能】を持っているやつらは、ここで待機だ」


 そう言うとセシル隊長は剣ヶ崎たちを連れて訓練所の奥へと消えていった。

 小鳥遊や獄炎たちも、白いローブを着た女の所へと歩き始める。

 ……戦闘系の【技能】と魔法の【技能】両方を持つ者は、もう1人いるのだが。


「土御門? お前、【土魔法適性】って【技能】がなかったか?」

「あァ? ……あァ、言われてみりゃァそうだなァ」

「……行かなくてよかったのか?」

「知らン……興味ねェしィ、誰かに指図されンのァゴメンだァ……ってかよォ古河ァ、おめェも感じてンだろォ?」

「感じてるって……何が?」

「この世界に来てからァ、体が(かり)ィンだよォ……何が原因かァわかンねェがァ、とりあえず暴れてェンだよなァ」


 土御門の口元が獰猛に歪み、物騒な笑みを作り出す。

 ──土御門 虎之介は不良だ。

 学校内にいる時は、大抵寝てるか宵闇たちと話しているかスマホを触っているかのどれかなのだが……彼が不良と呼ばれる原因は、学校外にある。

 (いわ)く、中学の頃から喧嘩で負けなし。曰く、1人で他校の生徒20人を病院送りにした。曰く、たった1人で1つの高校を相手にした。曰く、全身に入れ墨がある等々。

 どれもこれも、本当かどうか怪しい……というか、何個かあり得ないような噂があるのだが、これらが原因で不良と呼ばれている。

 ちなみに、遠藤と宵闇とは同じ中学出身らしい。

 この3人いつも一緒にいるけど、どこにも接点が見当たらないんだよな。と、聡太は密かに思っていたりしていた。


「……なら、()るか?」

「鬼龍院……? ンだァ、相手になってくれンのかァ?」

「体が軽いと思ってたのは、オレも同じだ……土御門が相手なら、遠慮する必要もねぇしな」

「はン……鬼龍院が相手ならオレも本気で()れンなァ」


 ──柔道全国経験者と最強の不良が、静かに闘志を燃やし始める。

 だが……体が軽いと思ってたのは、聡太も同じ。

 訓練所内を歩き始めた勇輝と土御門を見送りながら、隣の破闇に話し掛けようと──して、破闇の後ろで縮こまっている女性に気づいた。


「……何してるんですか、川上先生」

「ふ、古河君……私、どうすれば良いのでしょうか?」

「どうすればって?」

「……私の【技能】、浄化って載っているのしかないんですけど……」


 オロオロしながら『ステータスプレート』を聡太に手渡し……何も言わずに、先生へ返した。

 確かに、浄化ってしか載っていない。聡太や破闇のように【刀術】といった武器の【技能】も、魔法適性の【技能】もない。

 聡太自身、自分が一番ザコかと思っていたが……どうやら、そうでもないようだ。


「……まあ、ここにいていいんじゃないですか?」

「そ、そうですね。そうしておきます」


 聡太と破闇の間に入り、散らばった生徒の様子を見ようと、訓練所内を見回し始める。

 そんな先生の様子に、思わず破闇と目が合い……苦笑し合って、訓練している騎士たちに目を向けた。

 木剣や木槍を武器に、模擬戦闘のような訓練をしているようだ。

 ──そんな騎士たちを見て、聡太は首を傾げた。

 いや、聡太だけではない。破闇も同じく、首を傾げている。


「……? 古河君、破闇さん。どうかしましたか?」

「んや……なんか、遅くないですか?」

「遅い……って、騎士の動きの話ですか?」

「奇遇ね古河君。私も今、同じ事を考えていたわ」

「え、え? 破闇さんもですか? ……先生には、速すぎて何が何だかわからないんですけど……」


 聡太の言葉に破闇が同調し──と、2人の声が聞こえていたのか、近くにいた騎士たちが目を細め、2人に鋭い視線を向けた。

 ──なんだこのガキ共。と視線だけで痛いほどに思いを伝えてくる。

 居心地の悪い視線に、2人は肩を(すく)め──カランッ! と木製の軽い音が響いた。

 床に視線を落とし……そこには、投げられたように転がる、1本の木刀が。


「……文句があるのなら、構えろ。勇者だか何だか知らんが……我々をバカにするのなら、こちらも容赦はしない」

「も、申し訳ありません! しっかり注意しますので……!」


 首が取れんほどの勢いで頭を下げる川上先生。

 そんな川上先生の横を通り過ぎ──聡太は、床に転がっている木刀を拾い上げた。


「ほう……我々と、()ると」

「ふ、古河君?!」


 木刀を拾い上げた聡太を見て、騎士の男が不敵な笑みを浮かべた。

 聡太としては、別に、戦うつもりで木刀を持ったわけではない。

 ただ──持て、と。本能が命じたのだ。


「では──行くぞッ!」


 不敵な笑みを浮かべていた騎士が木剣を構え──聡太との距離を詰めた。

 一方の聡太は──木刀を構える事もなく、ダランと両腕を下げたまま、視線を下に向けている。

 川上先生にも騎士の男にも、聡太が木剣で吹き飛ばされる姿が幻視できた。


 ──ゆっくりと顔を上げた聡太は、目の前にまで迫る木剣を見て……はて、と心の中で首を傾げた。

 ……まだ、()()()()()()()()()


 スッと上体を後ろに反らし──直後、先ほどまで聡太が立っていた所に木剣が振り下ろされた。

 まさか避けられるとは思ってもいなかったのだろう。騎士の男は、呆然と自分の振った木剣を見つめている。

 ようやく避けられたと認識した騎士が、二撃目を振らんと構えるが──それより、聡太が木刀を振り上げる方が早い。


 雑に振り上げられた木刀は、真上にいた騎士の顎を打ち上げ──ドシャッ! と、騎士が倒れ込んだ。

 辺りを異様なほどの静寂が包み込み……騎士が負けた。と理解した周りの騎士たちが、武器を構えて突進を始める。


「き、貴様!」

「よくも!」


 憤る騎士たちが、それぞれ木剣や木槍を振るう。

 対する聡太は──流れるような動きで攻撃を回避し、近くにいた騎士の足を蹴り飛ばした。

 バランスを崩した騎士を盾にして、他の騎士たちとの距離を詰め──遅れて放たれる木剣や木槍を弾き飛ばす。

 得物を手放した騎士たちの腹部に木刀を叩きつけ、盾としていた騎士の背中を木刀で殴り付けて──あっという間に、騎士たちが地面に沈んだ。


「ふるっ、古河君! 何やってるんですか?!」

「何って……え?」


 顔を上げた聡太は……ようやく現状に気づいたかのように、倒れる騎士たちを見て目を見開いた。


 ──何が、どうなった?

 俺は確か……木刀を拾って、木剣の振りが遅いと思って……そこから?

 ……よくわからないが、そこからの記憶がない。

 ただ……異様なほどに体が軽かった事だけは覚えている。


「驚いたわ、古河君。あなた、格闘技の経験でもあったの?」

「いや、俺が一番わけわからねぇんだけど……」

「おい……これはどういう状況だ?」


 戻ってきたセシル隊長が、倒れる騎士たちを見て目を細める。

 ──見る者を震え上がらせる、獰猛な瞳。

 その目を向けられていない聡太でさえ、セシル隊長の瞳を見て、思わず身震いしてしまった。


「せ、セシル隊長! こ、これは、その……」

「……俺は言ったよな? 勇者たちには手を出すなと」

「しかしこの者はっ! 我々騎士を侮辱して……!」

「……ほう? 侮辱されて、手を出したと?」

「そ、そうで──」

「それで返り討ちにあったと? ──貴様ら、俺を怒らせたいのか?」


 ──ズンッと、空気が重くなる。

 膨れ上がる覇気を前にして、一般人である川上先生はペタリと地面に座り込み、聡太は思わず木刀を構えた。


「ふん……お前の名前は……ソータ、だったか?」

「ぁ……ああ……」

「……驚いたな……もう【技能】を使いこなしているのか……それに引き換え、俺の部下は……」


 失望したようにため息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。

 ──それと同時、張り詰めていた空気が、嘘のように霧散した。


「……っ……は、あっ……! はぁ……は……」


 無意識の内に止めていた呼吸を、思い出したかのように繰り返す。

 ……殺されるかと、思った。

 それほどまでに濃密で、濃厚な殺気。

 ……ただの人間が、ここまでの殺気を出す事なんてできるのだろうか?


「……さっさと訓練に戻れ」

「「「「「は、はっ!」」」」」


 バタバタと騒がしい足音を立てながら、騎士たちは訓練所の奥へと逃げるように立ち去った。

 再びため息を漏らし、苦笑しながら聡太に話し掛ける。


「すまんかったな。ケガは……なさそうだな?」

「……ああ、大丈夫だ」

「ふむ……俺の【威圧】を受けても立って……いや、武器を構える根性があるとはな。お前、元の世界では手練れの騎士とかだったのか?」

「【威圧】……? って、なんだ?」

「俺の【技能】だ。それで、どうなんだ?」

「いや、普通の学生だったし……根性とかそういうのは、暑苦しくて好きじゃない」


 持っていた木刀をセシル隊長に渡し、川上先生に向けて手を差し出す。

 呆然と固まっていた川上先生が、差し出された手にビクッ! と肩を跳ね上げ……手の主を見て、ホッとしたように手を取った。


「……面白い……ソータだったな。お前の名前は、しっかり覚えておくとしよう」


 よくわからないが、セシル隊長の中で、聡太の評価が上がったようだ。

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