表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/117

35話

「あの、古河が……」

「虐められてたァ……だとォ?」


 勇輝の言葉に、二人が驚愕に声を漏らした。


「何て言うかな……小学生の頃、聡太は天才って呼ばれてたんだよ」

「天才ねェ……」

「何をやらせてもすぐに上手くなる。テストは毎回満点。なんかに応募したら、絶対に賞を貰ってたし……性格も、今と違って明るくて社交的だったからな」


 当時の事を思い出しているのか、勇輝が遠くを見ながら目を細める。


「小学生の頃は、何の問題もなかったんだ。常にリーダー的な存在で、先生からの信頼も厚くて……正直、あの頃のオレは、聡太にずっと嫉妬してた」


 神に愛された人間というのは、聡太の事を言うのだろう。

 そう思えるほど、あの頃の聡太は完璧超人だったのだ。


「けど……中学になって、少しずつおかしくなっていった」


 聡太と勇輝が通っていた小学校の生徒と、それとは別の小学校の生徒が同じ中学校に入学し──聡太を知らない他校の奴らが、妬みや羨みから聡太を虐め始めた。


「オレが柔道をやってて、武道に憧れた聡太が剣道部に入部して──たった半年で、先輩を追い抜いた」

「半年で……」

「ああ……そんな聡太を嫌う奴は、剣道部にも同学年にも多くいたよ。まあ……剣道部に関しては、初心者に半年で抜かされるんだから、気持ちはわからないでもないけどな」


 そんな、ある日の事だった。


「……聡太の母さんが、亡くなったんだ」


 交通事故で即死だったらしい。

 葬式などで一週間ほど中学校に来なかった聡太。

 次に登校した時から──虐めが始まった。


「最初は、教科書を隠されたり、靴を隠されたり……その次は机、体操服、剣道の道具。虐めは日に日にエスカレートしていったよ」


 虐めの現場を見る度に、勇輝が止めようとするが──それを聡太が許さなかった。

 好きにやらせておけ。面倒臭い。

 その頃からだろうか。

 ──今の聡太に変わってしまったのは。


「殴られたり蹴られたり……同学年の奴らも、そろそろ止めた方がいい──そう思い始めたぐらいの時かな」


 中学三年の四月の事だった。

 ──聡太がキレた。

 聞いた話によると、中学に入学してきた聡太の妹に手を出したらしい。

 虐めのグループと殴り合いの喧嘩になった聡太は──竹刀を取り出して何十人という男をボコボコにした。

 その結果……完全に中学生活から孤立した。


「そこからは……まあ、今の聡太と同じだ。俺は誰にも関わらない。俺は誰にも話したくない。だからお前らも俺に関わるな、話しかけるな──ってな」


 剣道部でも孤立し、練習にも全く参加しなくなった。

 だが──それでも神に愛された存在は、全国大会二位という称号を獲得した。

 まさに天才の中の天才。人生の勝ち組。

 ──全国大会に出場した選手の中で、応援してくれる人がいなかったのは、あの場において聡太だけだっただろう。


「そう考えると、昔の聡太と剣ヶ崎って似てるな」

「似てるのか?」

「ああ、よく似てる……アイツがお前に強く当たるのは、昔の自分を見てるみたいでムカつくからだろうな」

「……それは、ボクが悪いのか?」


 だが──少しだけわかった。

 他人と関わろうとしないのは、虐めのせいで他人を信じられないから。

 だけど──自分の命を懸けて、植物型のモンスターと戦ったあの姿。

 あれが虐められる前の──本当の、聡太なのだろう。


「……古河に会ったら、色々と話をしないとな。今なら、もっと仲良くなれそうな気がする」

「ははっ……オレが言うのも変だけど、聡太と仲良くしてやってくれ。アイツは……本当は、めちゃくちゃ良い奴だから」


 そんな事を話していると──勇輝たちの歩いてきた通路から、話し声が聞こえた。

 おそらく、火鈴がセシル隊長たちを呼んできたのだろう。


「……今の話、他の奴らには内緒だぞ?」

「もちろんだ」

「あァ」


 とりあえず今の目的は──古河 聡太を見つける事。

 決意を固め、勇輝たちは──まだ見ぬ三十一層へと足を踏み入れた。


────────────────────


「──『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』っ!」


 地面に蒼い魔法陣が浮かび──そこから蒼炎の龍が現れ、グルリとその身を回転させて近くにいたモンスター全てを焼き払った。


「ミリア! トレントの処理は任せるぞ!」

「はい!」

「ハピィ、ミリアが遠くにいるモンスターを──」

「うりゃりゃー!」


 聡太が何かを言う前に、ハルピュイアが飛び出した。

 脚力を爆発させ、三メートルほどある太ったモンスター──トロールに襲い掛かり、その鳥脚を振るう。

 顔面を蹴り飛ばされたトロールはバランスを崩し、仰向けに地面に倒れ──


「【硬質化】、【豪脚(ごうきゃく)】っ!」

「プギッ──」


 トロールの顔面を踏み潰し──トロールの頭部が爆発四散する。

 ビクンッと大きく痙攣したかと思うと……トロールの体からグッタリと力が抜けた。

 ──パルハーラと戦って、他のモンスターにそこまで恐怖を感じないのはわかるが……殺し方がグロすぎる。


「あのアホ……! 勝手に行きやがって……!」


 『桜花』を抜き、先走ったハルピュイアを追い掛ける。

 パッと見た感じ、この場にいるモンスターは──トレントにトロール、それにオークの三種類。

 トレントの相手はミリアに任せていいだろう。というか、大体のモンスターはミリアの蒼炎でどうにかなる。

 だが……任せっぱなしにはできない。


「『剛力(ごうりき)』──!」


 全身の筋力を底上げし──思いきり地面を蹴って、加速。

 一瞬で多くのモンスターの横を通り抜け──すれ違う度に刀を振るった。

 ──ゴロッと、首が地面を転がった。


「カッ──?!」

「ォ、ア……」

「……まあ……こんな感じか」


 今の一瞬で多くのモンスターの首を斬り離した聡太が、刀に付着した血を振るって飛ばす。

 そして──冷えきった瞳を、モンスターの群れに向けた。

 ──まだ()るか?

 鋭利な刃物で肌を撫で回されているかのような感覚──聡太の身から放たれる、刃物のように鋭い殺気が原因だ。


「──ブモォォォオオオオオンンッッ!!」


 殺気に反応したのか、トロールを掻き分けて一匹のモンスターが姿を現した。

 パルハーラに似た雄叫びに、頭から生えた二本の湾曲した角。身長はトロールより低いが、それでも二メートルは軽く超えている。

 その両手には……旅人か冒険者から盗ったのか、巨大な大剣が握られている。手入れが全くされていないため、鉄塊と呼ぶ方が正しいだろう。

 ──ミノタウロス。地上にいるモンスターの中では、上位に位置するモンスターだろう。


「……少しは、骨のありそうなモンスターだな」

「何言ってるのソーター? モンスターはみんな骨あるよー?」

「おう、お前は黙ってろ」

「ええー?!」


 だが──地上にいるモンスターの中で上位に位置するからどうした?

 あの『大罪迷宮』のモンスターに比べれば。あの『十二魔獣』に比べれば。

 ──ザコにも等しい。


「……『剛力』解除」


 筋力強化の魔法を解き──刀の切っ先をミノタウロスに向けた。


「来いよ。小細工なしで──殺してやる」

「ォォォ──ブモォォォオオオオオオオオオオッッ!!」


 突っ込んでくるミノタウロス。迫る鉄塊とも言える大剣。

 対する聡太は──『桜花』の先を、振り下ろされる大剣に合わせた。

 瞬間──大剣の軌道が逸れ、聡太の隣に振り下ろされる。


「ブ、モォ──?!」

「お前も結局、力でごり押すタイプのモンスターか──とりあえず死ね」


 足、腰、腹、胸──順番に斬り裂き、最後に首を斬った。

 斬り落とすまではいっていないが──動脈を斬ったため、すぐに死ぬだろう。


「弱いな……いや、こんなもんか……比べる相手が強すぎるだけだな」


 出血多量で絶命したミノタウロスが、(うつぶ)せに倒れ込んだ。


「ピギッ……」

「プゴッ……」


 リーダー格のモンスターが殺られたからか、他のモンスターが聡太を見て怯えたように後退(あとずさ)る。


「今さら逃がすと思ってんのか──『水弾』」


 虚空に青色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、水で作られた弾丸が放たれる。

 モンスターを狙って放たれた弾丸は──モンスターの体を簡単に貫き、辺りに血が飛び散った。


「こ、こわー?! ソータ、今のスッゴく怖かったー!」

「当てないようにしてるから安心しろ。にしても……」


 一瞬で全滅したモンスターの群れを見て、聡太が何かを考え込むように顎に手を当てた。


「……無駄撃ちが多いな……もう少し、狙いを絞るべきだったか……?」


 とりあえず数撃ちゃ当たるだろ──今回は弱いモンスターが相手だったため、ミリアとハルピュイアに当てないよう意識する事ができた。

 だが……もし強力なモンスターが群れで襲ってきたら、今回のような余裕はないだろう。

 なら、今の内から精密に『水弾』を撃てるようにしておいた方がいいか?


「ソータ様、お見事です」

「はー……怖かったー……もー、絶対に当てないでよー?!」


 離れた所から魔法を使っていたミリアと、聡太の『水弾』の威力に恐怖を覚えたハルピュイアが、刀を収める聡太に近づく。


「にしても、種類の違うモンスターが群れを作ってるとはな……あのミノタウルスが作ったのか?」

「おそらく、そうだと思います」

「知恵を持つモンスターか……いつか人の言葉を話すモンスターとかも現れるかもな」

「それは……あり得なくはないですけど……」


 顎に手を当て、ミリアが考え込むように表情を固くする。


「まあ、でも──今の俺らには、勝てないだろうけどな」


 真面目に考え始めるミリアの頭を撫で、不敵な笑みを浮かべた。


「さて……もう少し歩いたら、野宿の用意を始めるか」

「そうですね」

「お? おー! モンスター狩るのは任せろー!」


 背負っていたバックパックを下ろし、聡太たちは野宿の準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ