表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/117

34話

「──おっしゃー! 行こ行こー!」

「おい引っ張んな」


 ──早朝。

 朝早く『ビフルズ大森林』を出発した聡太たちは……ハルピュイアに引っ張られるまま、次の目的地である『シャイタン大峡谷』を目指していた。


「行くぞー! 行っくぞー!」

「……落ち着けハピィ」

「落ち着いてるよー!」


 聡太の手を掴んでいる方とは逆の腕を振り回し、ハルピュイアが明るい笑みを聡太に向ける。


「あのな……俺の目的は、『十二魔獣』を殺す事だ。昨日話したよな?」

「うん!」

「お前の家族を探す事はしない。旅の途中で会えればいいなってレベルの話だ。これも説明したよな?」

「うん!」

「…………本当にわかってるか?」

「うん! だから早く行こー! それで、みんなを探すのー!」


 グイグイと聡太の袖を引っ張り、上機嫌に先へと進む。


「ハピィ、ソータ様が困ってます」

「えー? 困ってないよー?」

「困ってますっ、手を放してください!」

「ええー?!」


 ギャーギャーと騒がしい二人に、思わず苦笑が漏れる。

 ……随分と、騒がしくなったものだ。

 『大罪迷宮』の深下層に落ちた時には、考えられないほどに。


「……ほら、あんまり騒ぐな」


 一人じゃないと、こんなに気が楽なのか。

 もちろん、ミリアとハルピュイアに対して完全に心を許したわけではない。

 だが……信用ぐらいはしても大丈夫だろう。


「あ……」

「……なんだ、どうした?」

「……ソータ様がそんなに優しく笑ったの、初めて見ました」


 ミリアの言葉に、聡太が自分の口元へ手を当てた。

 ……笑った? 今? 俺が?


「気が緩んだか……引き締め直さないとな」


 次の目的地は『大罪迷宮』。聡太の中では軽くトラウマだ。

 気を引き締め直さないといけないのはわかっている。

 だけど……少しは、いいだろう?

 独りで『大罪迷宮』を抜け出した。その先にいた『十二魔獣』を討伐した。ついでに『獣人族(ワービースト)』を救って、感情の【技能】に呑まれなくなった。

 これだけ頑張ったんだ。

 ──少しぐらい、気を緩めてもいいだろう?


「ミリア、『シャイタン大峡谷』への道中に人の暮らす場所ってあるか?」

「……いえ。記憶している限りでは、無かったと思います」

「そうか……なら、『大罪迷宮』を攻略するまでは野宿だな」


 白いローブを(ひるがえ)し、聡太が目的地の方向へ視線を向けた。


「さあ──行こうか」

「はい!」

「おー!」


────────────────────


「──はぁッ!」


 美しい聖剣が斜めに振るわれ──三メートルを越すゴーレムの足を斬り裂いた。

 返す刃で再び足を斬り付け、素早く地面を蹴ってゴーレムから距離を取る。


「ォォォ……オ、オオオオオオ……」


 迷宮内に響く重低音。

 奇妙な声を発しながらゴーレムが腕を振り上げ、目の前の獲物を叩き潰さんと──


「させっかよッ! 【増強】、【鉄壁】ッ!」


 少年の前に出た巨漢が両腕を上に向け──振り下ろされる鉄腕を受け止める。

 足が地面にめり込み、迷宮内に亀裂が走るが──完全に威力を殺して受け止めきった。


「うおっ──しゃらぁッッ!!」


 ゴーレムの腕を抱え込み──背負い投げ。

 三メートルを越す鉄の体が簡単に投げ飛ばされ──飛ばされた先には、金髪の少年が。


「はァ──【部分獣化】ァッ!」


 金髪少年の右腕がビキビキと肥大化し──凶悪な変化を遂げていく。

 表面を金色の獣毛が覆い、指先からは命を狩り取る鎌のような爪が生える。

 ゴーレムと比べても引けを取らない大虎のような巨腕を構え──落ちてくるゴーレムに剛爪を振るった。


「がァあああああッッ!!」


 獣のような咆哮を上げながら放たれた剛爪は、ゴーレムの体を簡単に斬り裂き──ゴーレムの左腕を斬り落とした。


「おっしゃあコラァ!」

「下がれ土御門!」


 聖剣を持つ少年が、金髪の少年に声を掛け──聖剣の切っ先を上に向けた。


「シルフ、サラマンダーッ!」

『ああ! やってやろうぜ!』

『……うむ』

「行くぞ──『スピリット・ブレイド』ッ!」


 少年の呼び掛けに従って、聖剣の刀身が紅炎に包まれる。

 それに同時に、刀身から暴風が吹き荒れ──炎と合わさり、まるで巨大な炎の剣のようになった。


「食らえ──【増強】、【斬撃】ッ!!」


 炎風を(まと)う一撃が、斬撃となって放たれた。

 【増強】によって底上げされた攻撃は、ゴーレムの体を簡単に両断し──迷宮を破壊しながら、さらに遠くへ飛んでいく。


「はあっ、はぁ……ふぅ……あれ、獄炎はどこに行ったのかな?」

「あァ? チッ……アイツゥ、また一人で行動してンのかァ?」


 肩で息をする剣ヶ崎の言葉に、土御門が腕を元に戻しながら舌打ちする。

 ──『ユグルの樹海』にある『大罪迷宮』、地下三十層。

 現在、いくつかの部隊に分かれて、下への階段を探している。

 勇輝、剣ヶ崎、土御門、そして火鈴が第一部隊で、一緒に行動していた……のだが、火鈴の姿が見当たらない。

 ちなみに第二部隊は、破闇、小鳥遊、遠藤、三人。第三部隊は宵闇、氷室、水面、セシル隊長の四人だ。

 川上先生はいつも通り王宮で留守番である。


「まったく……焦る気持ちはわかるが、自分の命も大切だろうに……」

「いや……焦るのもしゃあねぇよ。オレだって……獄炎くらい強かったら、一人で聡太を探したくなるしな」


 服装を整える勇輝が、動かなくなったゴーレムを横目で見ながら──己の弱さを悔やむように、強く拳を握った。


「……つーかよォ、アイツ強くなりすぎじゃねェかァ? こう言っちゃなンだがァ、古河がこの迷宮の下層に落ちた時ィ……アイツは完全に足手(まと)いだっただろォ?」

「強くなるために必死なんだろ。聡太に聞いたんだが、アイツらは知り合いだったらしいしな」


 聞いた所によると、聡太と火鈴は幼馴染みだったのだとか。

 ちなみに勇輝と火鈴は面識がない。高校になって初めて会話を交わした。


「──お。そっちも終わったみたいだね~」


 そんな事を話していると──通路の先から、呑気な声が聞こえた。

 視線を向けると──全身を返り血に染めた、火鈴の姿が。


「獄炎! また勝手に行動していたな?!」

「だって、剣ヶ崎くんたちに合わせてたら遅くなるし~……そんなチンタラしてる間にも、聡ちゃんは一人でこんな迷宮にいるんだよ~?」


 にこにこと笑みを絶やさず、だが言葉には底知れぬ覇気を乗せて。

 剣ヶ崎の肩にポンと手を置き、覇気を込めた声で続けた。


「この先に下への階段があったよ~。みんなを呼んでくるから、ちょっと待っててね~」


 ──お前らに任せると時間が掛かるから、大人しくここで待っていろ。

 言外にそう言われているような気がして……だが反論できず、火鈴の後ろ姿を無言を見送った。


「……強くなったのはわかるがよォ、勝手に行動していいってわけじゃァねェだろうがよォ」

「そう言ってもしょうがねぇよ。とりあえず、獄炎の見つけた下層への階段に向かおうぜ」


 勇輝の言葉に渋々従い、三人は火鈴が歩いてきた通路を進んだ。


「……うわ……これ、全部獄炎がやったのか……?」

「だろうなァ……はっ、デタラメすぎンだろォ」

「……まさか、こんな……」


 目の前に広がる惨状を見て、三人の口から思わず驚愕の言葉が漏れる。

 ──何もかもが、原形を(とど)めていない。

 バラバラに斬り裂かれたり、乱暴に体を引きちぎられたり……炎に焼かれて絶命したモンスターも見られる。


「……なあ、鬼龍院」

「なんだ?」

「その……古河って、小学生の頃からあんな感じなのか?」

「……急にどうした?」

「いや……何となく気になって……」


 怠惰で面倒臭がり。なのに生徒に希望を与え、率先して戦おうとする意志を持つ。誰にも関わりたくないという思いがありながら、生徒を守るためにモンスターと戦った。

 ──そんな聡太の在り方に、剣ヶ崎は違和感を感じていた。

 何だか……矛盾しているような気がするのだ。


「……まあ、別に話してもいいか。けど、オレから聞いたとか言うなよ?」

「どういう事だ?」

「中学とか小学の頃の話は……ちょっと、色々あってな」

「……何があったんだ?」


 話の先を待つ剣ヶ崎に──勇輝は、あんまり気が進まない様子で言った。


「──聡太は中学の頃、虐められてたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ