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3話

 聡太たち12人は……まだ、王宮らしき所の広間に座っていた。

 ちなみにグローリアは、『勇者様方のステータスを訓練所に持って行き、今後の訓練を考えてもらう』と言って姿を消した。

 ……あの言い方だと、もうすでにグローリアの中では、聡太たちが協力する事が確定しているようだ。


「……先生は、反対……ですよ」


 沈黙を破ったのは、川上先生だった。

 ボソリと、聞こえるか聞こえないか微妙な声量で呟き──ガタッと椅子を押し退け、力強く立ち上がった。


「そうです! 先生は反対です! そもそもどこですかここ! もう我慢できません! あのおじさんに文句言ってきますっ!」


 息巻く川上先生が、そう言いながら建物の奥──グローリアの後を追いかけようと、歩みを進めた。

 不用意に動くのは危険だ。

 そう思い、聡太が先生を止める──前に、剣ヶ崎が先生の前に立ちはだかった。


「落ち着いてください、先生」

「落ち着いてます! というか、剣ヶ崎君が落ち着きすぎなんです!」

「生徒の方が先生より落ち着いているなんてダメですよ。もっと冷静になってください。生徒を導くのが、先生でしょう?」


 (なだ)めるような、諭すような。

 穏やかな剣ヶ崎の声に、先生の憤慨も少しは落ち着いたのか、怒りで顔を赤くしたまま席に座り直す。

 と、何故か剣ヶ崎が座らない。

 何をしてるんだ? と聡太が視線を向けるのと同時、剣ヶ崎が声を大にして生徒全員に話を始めた。


「みんな、聞いてくれ! グローリアさんの言う事が正しいなら……ボクたちは、異世界に来てしまった事になる」

「ンなのここにいる全員わかってンだよォ……なンだァ、ンな事もわからねェとでも思ってたのかァ?」

「と、虎之介……ちょ、ちょっと落ち着いて……」


 金髪の、いかにも不良のような男が、剣ヶ崎の発言に噛みついた。土御門だ。

 そんな土御門を落ち着かせようとしている気の弱そうな少年が、遠藤である。


「ボクは、みんながどうしたいかを聞きたいんだ。いきなり別世界に召喚されて、平常を保つ方が難しいのはわかっている。だけど、みんなの意見を1つにしておかないと、グローリアさんに迷惑を掛ける。だから、みんなの意見を聞きたい」

「そんなのいきなり言われたって……私、どうすればいいのかわかんないよ……」

「……ん……雪乃の、言う通り……」


 いつもはニコニコと明るく笑っている氷室と、物静かな水面が、『まだ判断できない』と遠回しに伝える。


「……ん~……あたしも、ど~すればいいかなんて、まだ決められないよ~」

「獄炎と同意見だ。俺も、決められない」


 甘ったるい口調の獄炎と、眉を寄せながら腕を組む宵闇も、決められないと口にする。

 このままでは何も決められないと、剣ヶ崎が破闇や小鳥遊に意見を聞こうとするが──その前に、静寂を破る者がいた。


「……俺は、戦う事に賛成だな」


 目を閉じ、平然と戦うと言ってのける少年……そんな肝の()わった事を言えるのは、聡太しかいない。

 もちろん、聡太の言葉を理解した瞬間、川上先生が何か言いながら立ち上がったのだが……剣ヶ崎の問い掛けに、先生の声は掻き消される。


「古河……どうしてそう思うのか、聞いても良いかい?」

「……俺が考えたのは、あくまで予想だ……それでも、聞くか?」

「聞かせてくれ」


 これは、あくまで俺の予想なんだが──と前置きし、聡太が話し始めた。


「さっきのおっさん……グローリアは、女神から神託ってのを受けて、俺たちをこの世界に呼んだって言ってただろ?」

「うん、そうだね」

「って事は、用が済めば俺たちを元の世界に帰す可能性が高い……違うか?」

「……つまり、どういう事なんだい?」

「女神とやらが満足すれば……具体的に言うなら、そうだな……グローリアが言ってた『十二魔獣』ってのを討伐して、この世界を平和にすれば……女神が俺たちを元の世界に帰す神託をグローリアに授けるかも知れない」


 まあ、希望観測でしかないが、と苦笑混じりに締めくくった。


「……なるほど……目的を達成すれば、ボクたちは確かに用済みだ。女神がボクたちをこの世界に呼んだ意味がなくなる……そうすれば──!」


 下を向いてブツブツ呟く剣ヶ崎が、バッと顔を上げて聡太を正面から見つめる。

 希望を見つけたようなその表情に、聡太は力強く頷いた。


「さすが古河だ! ボクの思った通り、キミはスゴい人間だよ!」

「過大評価はやめろ……ってなわけだ勇輝。手伝ってくれるか?」

「……そこまで希望見せといて、断れるとでも思ってんのかよ……はぁ。何もかも女神の手の上ってのが気に食わねぇが、しょうがねぇか」


 ニイッと強面の顔を笑顔に歪め、勇輝が聡太に拳を突き出す。

 勇輝の拳に自分の拳を当て……頼りになる親友の存在に、聡太は自然と笑顔になった。


「……なるほどね。一理あるわ」

「か、帰れるなら頑張る! 私も頑張るよ!」


 破闇と小鳥遊も、聡太の『希望』を聞いて意見を決めたらしい。

 と、女子2人が決断したのを見て、他の女子たちも空気に流され始める。

 ヒソヒソと獄炎、氷室、水面が何かを話し合い……結論が出たのか、氷室が手を上げた。


「……みんながやるって言うなら、私もやる」

「………………ん……怖い、けど……がん、ばる……」

「そ~だね~……雪乃と雫がやるなら、あたしも~」


 氷室の言葉に続き、水面と獄炎も賛成の意を示す。

 残るのは、4名。

 土御門、遠藤、宵闇、そして川上先生だ。


「……チッ……鬼龍院の言う通りィ、全部相手の思惑通りってのがムカつくよなァ」

「で、でもさ、虎之介……古河君の言う事も……」

「わかってらァ……オイ影人ォ、おめェはどう思うよォ」

「……やるしかないだろ。みんなやるって言ってんだ。俺だけやらねぇなんて……カッコ悪いだろ。星矢は?」

「も、もちろんやるよ」

「そうか……虎之介は?」

「オレァ元から反対する気はなかったンだァ……やるに決まってンだろォ?」


 これで、11人の意見が『戦う』で決定した。

 残るは……たった1人。


「先生……先生の意見を、聞かせてください」


 剣ヶ崎の視線が──否、生徒全員の視線が、川上先生に集中する。


「……先生の仕事は、生徒を正しい方向に導く事です……」

「先生……」

「しかし、この世界の『正しい』は……先生には、わかりません。もしかしたら戦う事が正しいのかも知れないですし、戦わずに逃げる事が正しいのかも知れないです」


 祈るように手を合わせ、生徒全員を見回しながら続けた。


「……先生は、みんなを信じます。みんなで新しい『正しい』を……作り出してください」

「……もちろんです、先生! よし、みんな、やるぞ! 絶対、みんなで帰るんだッ!」


 全員が顔を見合わせ、頷き合う。

 それと同時、グローリアが戻ってきた。


「すまない、待たせたな。それでは今から、王宮の宝物庫に行こう。そこで勇者様方の装備を整えるとしよう」


────────────────────


「さて……武器の【技能】がある者は、こちらに」


 グローリアの言葉に応じて、7人の男女が前に出る。

 武器の【技能】を持たない者は……5人。小鳥遊、獄炎、氷室、水面、川上先生だ。


「それではまず……トウマ、と言ったか? 君の装備を渡すとしよう」

「ボクの……ですか?」

「うむ」


 そう言うと、グローリアは数ある武器の中から、一振りの剣を取り出した。

 白く美しい刃に、黄色の柄。

 何事にもあまり興味を示さない聡太でさえ、剣の美しさに一瞬見()れて見てしまった。


「……『聖剣 エクスカリバー』……『魔道具(アーティファクト)』と呼ばれる特別な武器だ」

「『魔道具(アーティファクト)』……? って、なんですか?」

「特別な力を持つ武器や道具の事だ。原理はよくわからぬが……その『聖剣』だと、魔法を斬り裂く事ができる。そして……この『聖盾(せいじゅん) イージス』と『聖鎧(せいがい) アイギス』を、君に与えよう」


 ガチャガチャと重たそうな金属の塊を手渡される剣ヶ崎。少し困ったような、少し嬉しいような微妙な表情でこちらに視線を向ける。

 剣ヶ崎を全力で無視して、勇輝と目を合わせ……頷き合い、1歩前に踏み出した。


「さて次は……ソータと、ユーキだったな。【刀術】を持つ君には……これを。【拳術】の君には、この籠手だな」

「……へぇ……こっちの世界にも、刀とかあるのか」

「スッゲェ……! なんだこれ、どうなってんだ……?!」

「ソータに与えたのは、『桜花(おうか)』。『魔道具(アーティファクト)』ではないが、この世界で最も固い鉱石を使っている。ユーキのは『アレスナックル』。これも『魔道具(アーティファクト)』ではないが、最も固い鉱石を使っているため、壊れる事はないだろう」


 刀を受け取った聡太は、早速刀を抜き──現れた刀身を見て、感嘆のため息を漏らした。

 ……白銀の刀身に、桜をモチーフにした桃色の鍔。そして、真っ黒な鞘。

 不覚にも、カッコいいと思ってしまう。

 と、わざとらしい咳払いが聞こえた。

 視線を上げると……ニコニコと笑うグローリアと目が合い、何だか刀に見惚れていた事が恥ずかしく思えて、フイッと顔を逸らして宝物庫から立ち去る。


「さて、君も【刀術】を持っていたな……君には、この刀を」

「……古河君の刀より長いわね」

「『黒刀(こくとう)』という刀だ。ソータに与えた『桜花』に比べれば長いが……重さは、ソータの『桜花』よりも軽い。もちろん頑丈に作られているため、折れたりする事はないはずだ」

「そう……ありがとう」


 刀身も鞘も真っ黒な刀を受け取った破闇……その表情は、どこか強張(こわば)っているようだ。

 無理もない。

 刀を手にしたという事は──()()()()()()を持っているのと同じなのだから。


「……破闇、深く考えるな」

「えぇ……そうね」


 破闇と入れ替わるようにして、今度は土御門と遠藤、宵闇が前に出た。


「セイヤには……この『ピナーカ』をあげよう」

「あ、あり、ありがとう、ございます……」

「カゲトは……『グングニル』だな」

「どうも」

「さて、トラノスケは……いや、君には、武器は必要ないか」

「あァ? そりゃァどういう事だァ?」

「君の【技能】、『獣化』があれば、武器は必要ない……むしろ邪魔になる可能性だってあるからな」


 イマイチ納得できていない土御門を置いて、グローリアがパンッと両手を打ち合わせた。

 流れるように笑みを浮かべ、全員を見回しながら声を掛ける。


「さて、今日はそれぞれの部屋に案内して、その後、訓練を(おこな)おうと思っている。召喚されて初日から訓練はキツいかも知れないが……君たちの現在の実力を知っておきたい。付いてきてくれ」

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