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2話

「──ようこそ『アナザー』へ。勇者様方」


 眩しい光に目を閉じ──次に聞こえてきたのは、老人の声だった。

 光が晴れた事を確認しながら、ゆっくりと目を開き──驚愕。

 聡太たち12人は……どこの国かわからぬ、王宮のような建物の中に立っていた。


「私の名前はグローリア。女神 クラリオンの声を聞く者である……立ち話もなんだ、場所を移すとしよう」


 そう言って、グローリアと名乗った初老の男が、建物の奥へと消えていく。

 そんなグローリアの後を追う者は──誰もいない。まだ固まっているようだ。

 聡太は顔を動かし……自分の背後に勇輝が立っている事を確認する。どうやら、ケガはないらしい。


「……み、皆さん。ケガはないですか?」

「川上、先生……! ここ、どこですか?! 私たち、どうなってるんですか?!」

「おちっ、落ち着いてください氷室さん。大丈夫です。先生が何とかしましゅっ」


 クラスでは元気で明るい笑顔を見せている氷室が、珍しく焦ったように声を荒げる。

 まあ、無理もないだろう。聡太だって、内心焦りまくっているのだから。

 いつもと違う氷室を落ち着かせようと、川上先生が噛み噛みながらも必死に(なだ)めている。

 先生の声を聞いて、勇輝たち冷静組も落ち着きを取り戻したのか、聡太に近づき声を掛けた。


「お、オイ聡太……こりゃ、何がどうなってるんだ……?」

「俺に聞くな……俺だって、何が何だかわからねぇよ」

「……随分(ずいぶん)と落ち着いてるのね、古河君」

「はっ。ポーカーフェイス保つので精一杯だっての……そう言う破闇も、かなり落ち着いてるな?」

「残念。私も平静を装うので精一杯よ」


 肩を(すく)め、おどけたような仕草を見せる破闇。

 ……その手は、震えていた。

 いつもは冷静な彼女も、いきなり知らない場所に瞬間移動して……怖いのだろう。


「んなふざけた事言い合ってる場合か?! どう考えてもこの状況はヤバイだろ?! 早く逃げないと──」

「逃げて、どうする?」

「なっ……は、あ?」

「だから……逃げて、その後はどうする?」


 聡太の冷えきった言葉を聞いて、勇輝が返答に詰まる。

 ──古河 聡太は『キレ者』だ。

 単純に頭が良いとか悪いとかではなく……相手の考えを読んだり、動作や仕草で嘘か真かを判断したり、人間観察に()けていたりと、日常生活ではあまり役に立たない特技を多数所持しているのだ。


「とりあえず、あのグローリアってじいさんから話を聞かないと……話は、そこからだ。もしヤバそうだったらすぐに逃げる。逃げる時間は……勇輝が稼げるだろ」

「オレかよ?!」

「……そう。古河君がそう言うのなら、私は反対しないわ」

「無視すんなよ聡太! いくらオレでも、大人数(おおにんずう)が相手だったら──」


────────────────────


「10、11、12……12名で全員かな?」


 豪華な椅子に腰掛けるグローリアが、聡太たちを見て何やら紙に筆を走らせている。

 現在、聡太たちがいるのは……広間のような所。

 20個近く用意されていた椅子に座って、グローリアの言葉を待っていた。


「さて……それでは、話を始める前に、謝罪をさせてほしい。私たちの勝手な都合で君たちをこの世界に召喚してしまい、本当に申し訳ない。だが、私たちが助かる方法はそれしかなかったのだ」


 謝罪から始まったグローリアの話は……要約すると、こんな感じだ。

 この世界の名前は『アナザー』。地球とは全く違う世界。


 『アナザー』には多種多様な種族が存在しており……聡太やグローリアは『人類族(ウィズダム)』という種族に分類されるらしい。

 他にも『獣人族(ワービースト)』や『森精族(エルフ)』、『地精族(ドワーフ)』などが存在しているのだが……今は置いておこう。

 お互いに協力して共存してきた種族間の平和は……ある日、突如として終わりを告げた。


 『魔族(デモニア)』と呼ばれる種族が、『十二魔獣』という凶悪な魔物を作り出し、世界を征服しようとしたのだ。

 結果は……何も起こらなかった。というか、『十二魔獣』が暴走した。

 十二匹の魔獣は主人である『魔族(デモニア)』を半数以上も殺し、それぞれ世界のあちこちに散らばった。


 そのまま何事もなく平和に終わるのなら、それでも良かった。

 だがもちろん、そう上手くいくはずがない。


 先日、『十二魔獣』の一匹《死を運ぶ魔獣(ヘルムート)》が、『吸血族(ヴァンパイア)』の国を滅ぼしたのだ。たった一匹で。

 『吸血族(ヴァンパイア)』は、弱くはない。むしろ、この世界では上位種族だ。

 その種族が絶滅したとなると……『危機』として認識するしかない。

 しかし『人類族(ウィズダム)』は最弱の種族……『十二魔獣』が現れれば、何の抵抗もできずに死んでしまう。


 いつ襲われてもおかしくない状況の中、このグローリアという男は、毎日毎日女神 クラリオンに祈りを捧げていた。『人類族(ウィズダム)』はどうすれば良いのか? 何か対策はないのか? と。

 そんなある日──女神がグローリアに神託を授けた。


『異世界から現れし勇者、『大罪迷宮』を攻略し『十二魔獣』を討つ手段を得て、世界を平和に導くだろう』


 その神託を受けたグローリアは、女神から召喚方法を聞いて実行した。

 そして召喚されたのが──聡太たち12名だったらしい。


「……待て。その話だと、俺たちが『十二魔獣』とやらを討伐するために『大罪迷宮』って所を攻略しろってなるんじゃないか?」

「理解が早くて助かる……さて、まずは──」

「ふっ、ふざっ! ふざけないでくださいっ!」


 グローリアの言葉を(さえぎ)り、大声が広間に響き渡った。川上先生だ。


「世界平和? 魔獣? 迷宮? 勇者? いきなり何を言ってるんですか?! 最近の高校生でもそんな事言いませんよ!」

「……君たちが信じられないのも、無理はない……実物を見た方が早いだろう」


 そう言うと、グローリアは椅子から立ち上がり、聡太たちの方に歩いてきた。

 聡太たちの前に立ち、右手を出すと──何やら、小さく呟いた。


「“燃えろ炎。(われ)が望むは暗闇を照らす灯り”『フレア・ライト』」


 ボウッ! と、グローリアの手の上に、小さな炎が現れる。

 呆然と炎を眺める聡太たちを見て、満足そうに頷き……話を続けた。


「この世界に召喚される際、君たち12名は特殊な【技能】を手に入れているはずだ。まずは、それを確かめよう」


 そう言うと、グローリアが懐から薄いガラスのような物と小さな針を取り出した。

 薄いガラスの見た目は……元の世界にあったスライドガラスに近い。ただ、大きさはスライドガラスよりかなり大きいが。

 生徒と先生にガラスと針を手渡し、にこやかな笑みを浮かべたまま言った。


「さて……それではこの『ステータスプレート』に、自分の血を塗り付けてほしい」


 どよっと、生徒たちがざわめき立つ。

 グローリアの言葉を聞いた川上先生が、再び噛み付かんと口を開くが──その前に、2人の生徒の声が聞こえた。


「……おっ……なんか浮き上がってきたな」

「グローリアさん、これで良いですか?」

「……ふむ……早いな。もう少し躊躇(ちゅうちょ)するかと思っていたが……」


 聡太と剣ヶ崎だ。

 興味深そうに『ステータスプレート』を眺めながら、1歩グローリアに近づく。


「……それでは、見せてくれるか?」

「はい。どうぞ」


 剣ヶ崎から『ステータスプレート』を受け取り、目を走らせるグローリアが──微笑を浮かべたまま、固まった。

 何だ? と聡太がグローリアの隣に立ち、剣ヶ崎の『ステータスプレート』を見て……やはり、固まった。


====================


名前 剣ヶ崎(つるぎがさき) 討魔(とうま)

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【剣術“最上級”】【斬撃】【増強】【全魔法適性】【空間倉庫】【気配感知】【精霊の加護】


====================


「ほ、う……技能が、8個……」

「……? スゴいんですか? ボクにはさっぱりわからないんですけど」

「……参考までに言っておくと、この国で一番技能が多い者で……4個だ」


 ざわざわと、生徒の大半が剣ヶ崎を尊敬の目で見つめる。

 そんな視線を受け、剣ヶ崎はまんざらでもなさそうにニコニコし始めた。

 ……褒めると、すぐ調子に乗る。

 剣ヶ崎の性格をわかりきっている破闇と小鳥遊は……めんどくさそうにため息を吐いた。


 どこか嬉しそうに笑う剣ヶ崎を見る聡太は……自分の『ステータスプレート』に視線を落とし、自分と剣ヶ崎の差を再認識する。

 ……自分の技能は……4つ。この国で一番技能が多い人と同じ数だ。

 対する剣ヶ崎は、その倍。

 まさかコイツより下なんて……と、聡太は内心、かなり複雑な気持ちだったりする。


「そちらの君は? どうだったんだ?」

「そうだ古河! キミのを見せてくれ!」


 期待した視線を向ける2人……聡太の『ステータスプレート』を見たら、その表情はどう変わるのだろうか。

 そんな事を思いながら、しかし躊躇(ためら)わずに『ステータスプレート』を差し出す。

 剣ヶ崎とグローリアが聡太の『ステータスプレート』を見て……剣ヶ崎の時とは別の意味で固まった。


====================


名前 古河(ふるかわ) 聡太(そうた)

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解“極致”】【刀術“(きわみ)”】【無限魔力】【気配感知】


====================


「……その……なんだ、古河。元気を出せ! この技能ってやつが少なくても、そんなに変わらないさ!」


 にこやかに笑う剣ヶ崎が、ポンと古河の肩に手を乗せながら気遣ったような言葉を掛ける。

 ……無性(むしょう)に殺意が()くのは、気のせいではないだろう。

 気持ちを押し殺すように、聡太が視線をグローリアの方に向け……てっきり失望に満ちた表情だろうと思っていたが、グローリアはどこか悩むように眉を寄せていた。


「……“極”の技能が1つ……しかし他の技能は……いや、『無限魔力』……魔法適性なし……もったいないな……しかし、この“極致”とはなんだ……?」

「なあ、俺のそれってやっぱりショボいのか?」

「いや、そんな事はない。“極”の技能など、この少年ですら持っていない……この【言語理解“極致”】という技能は、私にはよくわからないが……」


 剣ヶ崎の技能は……確かにたくさんあるが、“極”と書かれた技能はない。“最上級”はあるが。

 その後、勇輝や破闇たちも『ステータスプレート』をグローリアに見せた。

 『ステータスプレート』は、以下の通りである。


====================


名前 鬼龍院(きりゅういん) 勇輝(ゆうき)

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【柔術“極”】【拳術“極”】【鉄壁】【増強】【気配感知】


====================


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名前 小鳥遊(たかなし) 優子(ゆうこ)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【治癒術士】【障壁】【高速魔力回復】【気配感知】【光魔法適性】


====================


====================


名前 破闇(はやみ) (ひかる)

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【刀術“最上級”】【瞬歩(しゅんほ)】【斬撃】【幻影】【気配感知】


====================


====================


名前 遠藤(えんどう) 星矢(せいや)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【弓術“最上級”】【自動追尾】【千里眼】【気配感知】【風魔法適性】


====================


====================


名前 土御門(つちみかど) 虎之介(とらのすけ)

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【拳術“最上級”】【獣化】【部分獣化】【気配感知】【土魔法適性】


====================


====================


名前 宵闇(よいやみ) 影人(かげと)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【槍術“最上級”】【瞬歩】【操影(そうえい)】【気配感知】【闇魔法適性】


====================


====================


名前 水面(みなも) (しずく)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【障壁】【高速魔力回復】【気配感知】【水魔法適性】


====================


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名前 獄炎(ごくえん) 火鈴(かりん)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【竜化】【部分竜化】【気配感知】【炎魔法適性】


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名前 氷室(ひむろ) 雪乃(ゆきの)

年齢 16歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【障壁】【高速魔力回復】【気配感知】【氷魔法適性】


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名前 川上(かわかみ) 奈菜(なな)

年齢 27歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【空気浄化】【水質浄化】【地質浄化】


====================


 ──この後、剣ヶ崎が必死に聡太を(なぐさ)めたり、何故か小鳥遊も一緒になって聡太を気遣ったり、川上先生が『ほら! 私も4つしかないですよ!』と聡太に1人じゃないよアピールをしたりと、聡太の(ひたい)にビッシリと青筋が浮かんでいたのだが……3人が気づくはずもなく。


 ──聡太たち12人の異世界生活が始まったのだった。

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