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19話

「──おお……」


 鉄製の扉を押し開け──その先には、小さな小部屋があった。

 真っ白な鉱石で作られた部屋は……そこまで広くはない。大体、直径10メートルほどだ。


「ん……なんだこの魔法陣……?」


 部屋の中央に、魔法陣が描かれている。

 薄緑色で描かれた魔法陣……どこかで見た事のあるような……?


「……ああ、そうか……」


 何かに気づいたのか、聡太が小さく笑った。

 そして──躊躇(ちゅうちょ)なく魔法陣の中央に立った。

 ──瞬間、魔法陣が強く輝き出す。

 淡い薄緑色の光が聡太を包み込み──右腕の痛々しい傷が、みるみる内に塞がっていく。

 やはり……【回復魔法】の魔法陣だ。


「小鳥遊の使っていた【回復魔法】の魔法陣と同じ形だったな……」


 黒狼にやられた右腕を動かし、完全に治っている事を確認する。


「ありがたい配慮だな……これは、あんたが描いた魔法陣なのか?」


 視線を鋭くして、部屋の奥に目を向けた。

 そこには──白いローブを身に(まと)い、椅子に腰掛ける何者かがいた。

 フードを深く被り、赤い模様の入ったお面を付けているため、その顔は見る事ができない。

 だが……長いローブの袖から覗く手は、白骨化している。

 『大罪迷宮』の一層で遭遇したガイコツ──スパルトイソルジャー的な感じで、ガイコツになっても動く奴かと思ったが、完全に死んでいるようだ。


「……死んでる、よな……?」


 お面とローブを剥ぎ取り──動かない事を確認。

 次々にガイコツが身に付けている物を地面に投げ捨て……(ふところ)から、小さな手帳が転げ落ちた。


「……なんだ、これ……?」


 表紙に文字が書かれているが……いつも読んでいた異世界語じゃない。

 まあ聡太には【言語理解“極致”】があるため、余裕で読めるのだが。


『よくここまで辿り着いた。名も知らぬ強者よ。


 我が名はユグル・オルテール。『憤怒』の『大罪人』と呼ばれていた者だ。


 君がこの手記を読んでいるという事は、俺はとっくに死んでいるという事だろう。


 まあ、そんな事はどうでもいい。


 わざわざ俺の隠れ家に来たという事は……再び魔王が現れたのだろう。そして、魔王を倒すために、俺が何か残していないか確かめに来たのだろう。


 俺たち『大罪人』と魔王の関係は、ルーシャかフィオナが教えてくれるだろう。よって、俺からは魔王と戦う力を与える事にする』


「……………」


 いや、別に魔王を倒す方法を探すためにここまで来たんじゃないのだが。

 心の中でそう思いながら、聡太は次のページをめくった。


『以下の魔法は、全て俺が作り出した魔法。いわば【特殊魔法】だ。詠唱は必要としないが、魔力の消費が激しい。並みの人間ならば、1発2発撃てばすぐに魔力切れになるだろう。


 魔力切れには注意して使ってくれ。


 『蒼熱線(そうねっせん)』──掌から、超高温の熱線を放つ魔法。魔法解除しない限り、永遠に放つ事ができる。威力は消費魔力に比例する。


 『黒重(こくじゅう)』──自身の周りの重力を操る魔法。ただし、重力を重くする事はできるが、軽くする事はできない。重力の大きさは消費魔力に比例する。


 『魔反射(まはんしゃ)』──その名の通り、魔法を反射させる事のできる壁を召喚する魔法。蒼熱線と同じく、魔力が続く限り永遠に展開できる。


 『剛力(ごうりき)』──力を増強する魔法。増強の度合いは、消費魔力に比例して大きくなる。より多くの魔力を使えば、より強く増強される。


 『水弾(すいだん)』──水の弾丸を放つ魔法。弾丸の強度は、消費魔力に比例する。より多くの魔力を使えば、より頑丈な水の弾が射出される。


 『付属獄炎(ふぞくごくえん)』──持っている武器に獄炎を(まと)わせる魔法。斬り口から発火する。使用者が魔法解除しない限り、永遠に燃え続ける。


 『嵐壁(らんへき)』──暴力的とも言える嵐を発生させる魔法。嵐の規模や威力は、消費魔力に比例する。より多くの魔力を使えば、より大きな嵐を発生させる事ができる。


 『雷斬(らいざん)』──雷の斬撃を放つ魔法。斬撃の大きさや威力は、消費魔力に比例する。


 俺が教えられるのは、この8つの魔法だ。悪いが、『魔反射』以外は全て攻撃系統の魔法になっている。


 リーシアの所に行けば、補助系統の魔法や回復系統の魔法が得られるだろう。


 ああそれと、俺が残した『憤怒のお面』や『黒曜石の短刀』は好きに持って行って良い。


 『憤怒のお面』には【魔力視認の加護】という加護が付いているから、君たちの力になれるはずだ。


 ここから隠れ家の入口に帰るのは大変だろう。俺の右後ろに扉があるから、そこにある魔法陣から地上に帰ると良い。


 それでは、君たちが魔王を討伐する日を願っている』


 ……手記はこれで終わっている。


「……扉……?」


 ガイコツの背後に目を向けるが──何もない。

 ガイコツから見て右後ろの壁に手を触れ──パリィン、とガラスが割れるような音が響き、石造りの扉が現れた。


「魔法で扉を隠してたのか……?」


 何でもいいが、めんどくさい事をしてくれる。

 そんな事を思いながら、聡太はゆっくりと石造りの扉を開き──その先に、狭い空間があった。

 その空間の中央に、白い魔法陣が描かれている。

 おそらくあれが、地上に戻るための魔法陣だろう。


「……いや。外に出る前に、魔法の練習をしとかないとな」


 ユグル・オルテールが残した8つの【特殊魔法】……ここならモンスターが無限に湧くし、周りに人間もいないから巻き込む事もない。

 魔法が書かれている手帳を拾い、【回復魔法】の魔法陣を踏み越え、聡太は再び『大罪迷宮』に足を踏み入れた。


「……おっ」


 ゴブリンロードを殺したからか、別のモンスターが湧き出ている。

 ──キラービートル。常に群れで行動する、カブトムシのような見た目のモンスター。

 全身が堅い甲殻で覆われており、その強度は『桜花』でも斬る事ができないほど。

 甲殻と甲殻の間を狙う事でダメージを与える事ができたが……キラービートルの恐ろしい所は、そのスピードとパワーだ。

 狭い迷宮内を高速で飛び回り、壁や床を粉砕しながら攻撃してくる──【刀術(とうじゅつ)“極致”】を持つ聡太ですら、このモンスターを殺すのは苦労した。


「んじゃ、早速──」


 右腕を持ち上げ、掌をキラービートルに向けた。


「──『蒼熱線(そうねっせん)』」


 聡太の掌に、蒼い魔法陣が浮かんだ。

 ──次の瞬間、聡太の視界を蒼い光が埋め尽くした。

 光に覆われる目を何とか開き──見えたのは、蒼い炎の熱線だった。

 螺旋状に渦巻きながら放たれた熱線は、キラービートルの群れに突っ込み──キラービートルの甲殻を一瞬で溶かし、跡形も無く焼き飛ばした。


「……マジ……?」


 ……キラービートルの群れが、ほとんど壊滅している。

 『蒼熱線』の影響からか、迷宮の床や壁もドロドロに溶けていた。


「えっと……次の魔法は……」


 手帳を開き、次の魔法を確認する──と、キラービートルの群れが、一斉に聡太へ襲い掛かった。

 再び右腕を持ち上げ、魔法名を詠唱する。


「──『黒重(こくじゅう)』」


 聡太の足元に魔法陣が浮かび上がり──

 ──グシャッと音を立てて、迫っていたキラービートルが地面に沈んだ。

 ジタバタと必死にもがいているが、全く動けていない。

 これが『黒重』……周りの重力を操る魔法。


「もう少し魔力を込めてみるか……」


 『黒重』に使用する魔力を増やした──瞬間、キラービートルの体が生々しい音を立てながら潰れた。

 体は重力でグチャグチャになっており、死んでいるのは明らかだ。


「……なるほど……次だな」


 残る6つの魔法を試すために、聡太はモンスターの姿を探して歩き始めた。


────────────────────


「よし……準備完了だな」


 胸当てを付け、その上から白いローブ羽織る。

 ──服は、ガイコツが着ていた服を貰った。

 とりあえず体が気持ち悪かったので、前まで着ていた服を『アクア・クリエイター』で濡らして体を拭いた。

 手記に書かれていた『黒曜石の短刀』を後ろ腰に身に付け、床に置いておいた『憤怒のお面』を拾い上げる。

 準備は完了。いつでも行ける。


「さて……行くか」


 隣の部屋に移動し、白い魔法陣の上に立つ。

 聡太に反応したのか、白い魔法陣が輝き始めた。


「ぅお──」


 眩しい光に、思わず聡太は目を閉じ──


 ──次に開いた時、薄暗い洞窟の中にいた。


「……は?」


 どう見ても外じゃない。

 眉を寄せ、どこから出るのかと辺りを見回し──何やら、赤い模様が描かれた壁があるのを見つけた。


「……『剛力(ごうりき)』」


 体の力を増強し、拳を振り上げ──壁に叩き付ける。


 ──ドッゴォオオンンッッ!!


 石壁が粉々に砕け散り……明るい光が、洞窟内に射し込んでくる。

 暖かく、綺麗な光……いつぶりになるかわからない太陽の光だ。


「………………は……ははっ……」


 洞窟の外は──樹海だった。

 辺り一面が木に覆われているが……外である事に変わりはない。

 小さく笑みを浮かべ、聡太は両腕を空に突き上げた。


「──戻って来たぁああああぁあああああああああああああああああああああッッ!!」


 大声で叫び、聡太が空を見上げ──フラッと、地面に倒れ込んだ。

 疲労、空腹、安心感──様々な理由で『眠い』を主張してくる体に抗えず、聡太の瞳が強制的に閉じられる。

 ──聡太の意識は、夢の中に引き込まれていった。


────────────────────


「…………ん……?」


 ──何やら、物凄い爆発音が聞こえた。

 白髪灰瞳の少女が辺りを見回し……ちょこちょこと、森の奥へと足を進めた。

 草むらを掻き分け、どんどん進み──やがて、大きな岩のある場所に出た。

 辺りには粉々に砕けた岩が散らばっており……その中央に、黒髪の少年が倒れている。


「あ、あのっ……だ、大丈夫ですかー……?」


 控えめに声を掛けるが、黒髪の少年から返事はない。

 キョロキョロと辺りを見回し……意を決したように、少女が駆け出した。


「……『人類族(ウィズダム)』……? それもこんな小さな少年が、どうやってここに……?」


 そう言って首を傾げる少女。

 ──と、辺りから獣の声が聞こえ始める。


「プギッ、ブモッ」

「プゴプゴッ」


 ──ワイルドボア。

 大人の男性ほどの高さを持つ猪で、モンスターの中で数少ない『食べられるモンスター』である。


「……この少年を食べる気ですか?」


 次々に草むらからワイルドボアが出現し──あっという間に、少女と少年を囲んだ。


「プギッ──ブモォォオオオオオオオッ!」


 雄叫びを上げ、一匹のワイルドボアが少女に向かって突っ込んだ。

 少女よりもはるかに大きな猪。この突進を食らえば、少女は間違いなくぶっ飛ぶだろう。


「──『第一重(アインズ・)守護(ガード)結界(・フォート)』」


 少女の小さな唇が、魔法名を呟いた。

 瞬間──少女と少年を囲うようにして、灰色の結界が現れる。

 突然現れた結界を前に、ワイルドボアは勢いを殺す事ができず──頭から結界に突っ込んだ。


「『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』」


 虚空に大きな蒼色の魔法陣が浮かび上がり──ズズッと、蒼い龍が顔を出した。

 ガパッと蒼炎の顎を開き──ワイルドボアを呑み込んだ。

 蒼龍がグルリと身を回転させ、集まっていたワイルドボアの群れを薙ぎ払う。

 圧倒的な熱を前に、ワイルドボアは一瞬で焼き殺され──残ったのは、幼い少女と眠っている少年だけだった。

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