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11話

「聡太!」

「勇輝か……無事でよかった」


 ドラゴンの腹部を斬り裂いた聡太が、勇輝に目を向け──その隣でうずくまっている少女を見て、眉を寄せた。


「おい、小鳥遊はどうしたんだ?」

「【技能】を使いすぎたんじゃねぇかな、ずっと【障壁】を使ってたからよ」

「そうか……破闇は小鳥遊を見てやってくれ。勇輝と遠藤は……戦えるか?」

「当ったり前だろ!」

「え、あ、うん! ま、任せて!」


 頼りになる勇輝と、あんまり頼りにならなそうな返事をする遠藤が、それぞれの武器を構えてドラゴンと向かい合った。


「セシル隊長、どうする?」

「そうだな……ソータ、お前はどれだけの魔法を覚えた?」

「火を出す魔法と水を出す魔法。あと炎の槍を出す魔法と土の壁を作る魔法だ。全部下級魔法だけどな」

「1週間で4つも覚えたのか……なかなか多いが、全て下級なのがなぁ……」

「しょうがないだろ。全部独学で覚えてるんだから」


 そもそも、聡太とセシル隊長が何故ドラゴンをこんなにも早く見つける事ができたのか。

 それは──聡太の【技能】、【言語理解“極致”】の力だ。

 簡単に説明するならば、この【言語理解“極致”】というのは……ありとあらゆる生き物の言葉を理解する、という【技能】だ。

 この【技能】を使い──空を飛ぶ鳥の声を聞いて、向こうでドラゴンが暴れているという情報を掴み、こうしてセシル隊長と共にやって来たのだ。


「けど……どうするんだセシル隊長? 何か作戦はあるのか?」

「俺は戦いの最中に相手の癖を見つけ、作戦を立てる派だ。知っていたか?」

「後先考えない脳筋タイプだな。勇輝って呼ぶぞ」

「だれが脳筋だよ! ってか状況わかってんのか?! 呑気に話をしてる場合じゃねぇだろ?!」

「落ち着けよ勇輝……大丈夫だ」


 大声を上げる勇輝とは違い、聡太はどこまでも冷静だ。

 その目には何が見えているのか……聡太の顔には、揺るぎない自信が満ちている。


「“燃えろ炎。(われ)が望むは炎の槍”──『ファイア・ランス』ッ!」


 何もない虚空に赤色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、炎の槍が放たれる。

 上空を飛び回って炎槍を避け──聡太目掛けてドラゴンが急降下。

 迫る『死』を前に、聡太は──自分を奮い立たせるように笑った。

 

「さあ、初のお披露目だ──“隆起せよ大地。我が望むは土の壁”『アースド・ウォール』ッ!」

「ルル──ルガァアアアアアアッッ?!」


 地面が盛り上がり──壁となった。

 その数、およそ数十枚。

 突如現れた土の壁を前に、ドラゴンは急停止できず……勢いよく突っ込んだ。

 1枚の厚さはそこまでないが──数十数も集まれば、それなりに勢いを殺す事ができる。


「勇輝、俺をドラゴンに向けて投げろ」

「はっ……はあ?! いきなり何を──」

「いいから! 早く!」

「くそッ、どうなっても知らねぇぞ! 【増強】ッ!」


 勇輝が聡太の腕を掴み──背負い投げのようにしてぶん投げた。

 その勢いは、まるで砲弾のよう。

 土の壁に怯んでいるドラゴンに向かって一直線に突っ込み──無防備な翼に刀を振るった。


「ユーキ! 俺も頼む!」

「セシル隊長もかよ?! チィッ、オラァッ!」


 聡太が傷付けた方とは反対側の翼に向かってセシル隊長が飛び──翼を根本から斬り離した。

 左右の翼を傷付けられたドラゴン。空を飛ぶ事ができずに地面に落ちる。

 空を飛べない事に苛立っているのか、大きく雄叫びを上げた。


「す、スゴい……! 古河君も、セシル隊長も……!」

「ボサッとすんな遠藤! 畳み掛けろ!」

「あ、う、うん!」


 聡太の鋭い声を受け、遠藤が矢を放った。

 聡太の斬り裂いた腹部に、遠藤の矢が深々と突き刺さり──ドラゴンが痛みに絶叫を上げる。


「ルォ……ァァァァァ──!」


 ドラゴンの口元に、紅い魔法陣が浮かび上がる。

 火の玉か、もしくは紅い熱線か。

 どちらにせよ、今の聡太たちには、ドラゴンの攻撃を無効化する方法はない。


「勇輝! こっちだ!」

「あ、ああ!」


 ドラゴンの懐に潜り込む事で炎を回避し、肉質の柔らかい腹部を攻撃する。

 聡太の刀が、セシル隊長の剣が、勇輝の拳撃がドラゴンの腹部を襲い……さすがのドラゴンも痛みを堪えきれないのか、これまでとは比べ物にならないほどの絶叫を上げた。


「“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』ッ!」


 超至近距離から、聡太が炎の槍を放った。

 炎の槍がドラゴンの腹部に突き刺さり──皮膚や内臓が燃える臭いが辺りに充満する。


「ォ──ォォォ…………」

「「【増強】ッ!」」


 力無く倒れ込むドラゴン。その下敷きにならないように、勇輝とセシル隊長が腕力を増強して、倒れ込むドラゴンをぶん投げた。


「セシル隊長も【増強】が使えたのか?」

「ああ……にしても、まさかドラゴンを討伐できるとはな。さすがは勇者、というべきか?」


 動かなくなったドラゴンを横目で見ながら、セシル隊長が剣を鞘に収める。

 そんなセシル隊長の姿を見て──ガクッと、勇輝と遠藤がその場に膝を落とした。


「ぁ……? なんだ、急に力が……?」

「あ、あれ? な、なんで……?」

「張り詰めていた気持ちが一気に緩んだのだろう。大丈夫か?」

「あ、ああ、大丈夫だけどよ……」

「ソータは……大丈夫そうだな」

「まあ……ゴブリンを殺した時よりは、な」


 ゴブリンを殺した時の事を思い出したのか、聡太の表情が不愉快そうに歪む。

 と、何か疑問に思ったのか、勇輝が辺りを見回しながら聡太に問い掛けた。


「そういや聡太、獄炎は?」

「火鈴なら氷室と一緒に遠くで待機してる。さすがにドラゴンがいる所に連れてくるわけにゃいかねぇからな」

「お、おうそうか」


 獄炎の事を下の名前で呼んだ事に驚いたのか、勇輝が若干困惑しながら返事を返す。


「他の奴らは無事か、不安だな」

「あと見ていないのは……トーマとカゲト、それにトラノスケとシズクだな」

「ああ……とりあえず俺は火鈴たちの所に戻っとく。セシル隊長は勇輝たちが歩けそうになったらさっきの場所に来てくれ」

「了解だ。気を付けろよ」


────────────────────


「お、いたいた。かり──」

「古河! 大丈夫だったか?!」


 火鈴と氷室、その2人を守るようにして立つ3人の騎士の姿を見つけ、聡太が歩み寄る──と、火鈴の陰にいた剣ヶ崎が、聡太に気づいて声を上げた。


「剣ヶ崎か……ケガはなさそうだな?」

「ああ──ってボクは良いんだ! セシル隊長と一緒にドラゴンを倒しに行ったと聞いたぞ?!」

「ああ……どうにか、な」


 苦笑する聡太を見て、剣ヶ崎の口から安堵のため息が漏れ落ちる。


「宵闇も……大丈夫そうだな」

「当たり前だ」


 少し離れた所で腰を下ろしている少年──宵闇だ。


「正直、張り合いがないな。俺もドラゴンと戦ってみたかった」

「頼もしいな……まあ、宵闇がいればもっと簡単に倒せただろうけど」


 宵闇は、聡太たち12人の中で、かなり強い部類に入る。

 朝方、セシル隊長が選んだ5人──聡太と勇輝、破闇、剣ヶ崎、土御門に次ぐ実力を持っている。

 というか、【技能】を使っての勝負だったら、宵闇は聡太よりも強い。


「火鈴、氷室の様子はどうだ?」

「ん〜、大分(だいぶ)落ち着いたよ〜」

「そうか……なら良かった」


 火鈴の隣に腰を下ろし、聡太が自分の手を見下ろした。

 ──殺した。

 たくさんの生き物を殺した。

 魔法で殺した。武器で殺した。

 相手も生きるのに必死だった。それを、俺たちは訓練の一環として殺した。

 この世界では、『命』が軽い。まるで使い捨ての道具のようだ。


「総ちゃん?」

「……生きなきゃな」

「え?」

「生きて……生きて、みんなで元の世界に帰らないとな」

「……もちろんだよ〜。急にどうしたの〜?」

「そうだぞ古河! 何を当たり前の事を言ってるんだ!」


 聖剣を抜き、剣ヶ崎が大声を上げる。


「ボクたちは勇者だ! この世界を救うんだ! そして元の世界に帰る!」

「暑苦しい奴だな……もう少し声を小さくしろ」

「古河! ボクはマジメに──」

「モンスターが寄って来るから、声を小さくしろって言ってんだろ」


 低い声に気圧(けお)されたのか、剣ヶ崎が言葉を詰まらせる。


「貴様! 聖剣を扱う勇者に何て言い方をしている!」

「俺も一応勇者なんだが……」

「ふん、他の勇者に比べてパッとしない【技能】しか持っていないクセに、随分と偉そうだな」


 ──聡太は、王宮の騎士たちから嫌われている。

 理由は色々とある。

 聡太の上から目線な話し方(本人は全くそんなつもりはないが)を嫌う者もいるし、他の勇者に比べて【技能】の数が少ないという事もある。

 中でも1番の理由は──まあ、召喚された初日に騎士たちをボコボコにしたという事があるだろう。


「なんだその目は? 文句があるのなら、今ここで斬り合うか?」

「あ? ──()んのか?」


 聡太の体から、セシル隊長と同レベルの覇気が放たれる。

 そんな聡太に怖気(おじけ)付いたのか、騎士の男が表情を強張(こわば)らせた。


「勘違いするなよ。俺たちがお前らに協力してやってるのは、元の世界に帰るためだ。その気になれば、いつでもお前らを殺して逃げる事だってできるんだからな」

「古河!」

「っと……セシル隊長が来たな。続きがしたいなら、俺を訓練所にでも呼び出せばいい。まあ……それができるならイチイチ俺に突っかかっては来ないだろうがな?」


 剣ヶ崎の相手はしたくないと、捨て台詞を吐いて聡太がその場を立ち去る。


「古河は……もう少し言い方があるだろうに……」

「う〜ん……聡ちゃん、どうしたのかな〜……? 昔の総ちゃんなら、あんな言い方はしなかったと思うんだけど……」


 小さな呟きは聡太に届かず、剣ヶ崎と火鈴は深くため息を吐いた。

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