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106話

『しつこいねー。いい加減──死になよー』

『おッ──ガァアアアアアアアッッ!!』


 水龍の放つ激流と、大虎の放つ雷撃波がぶつかり合い──激流を無効化。

 だが──その先にいるディティには届かない。

 水龍の体内を自由に泳ぎ回り、白雷を余裕そうに避けている。


『オイ跳ぶぞォッ! しっかり掴まっとけェッ!』

「えぇ!」


 破闇が大虎の首に抱き付き──消えた。

 かと思ったら、ディティの目の前に大虎が現れた。


「【斬撃“絶”】ッ!」

『おっと──危ないねー』


 破闇が刀を振り抜き──凄まじい斬撃が放たれた。

 確実にディティを仕留めたと思われたその一撃は──だが躱され、破闇の斬撃は水龍を斬り裂くだけに終わる。


「くっ──【幻影“夢幻”】ッ!」


 一瞬、破闇の姿がブレ──辺りに、破闇の分身が現れる。

 ──【幻影】のレベルが“夢幻”になった事により、破闇の分身は実体を持っている。

 だが──分身の破闇は、【技能】を使えない。

 故に、分身の破闇では、ディティの相手にはならないだろう。


「だけど──撹乱には、なるッ」

『……鬱陶(うっとう)しいねー。まとめて潰してあげるよー』


 水龍が身をうねらせ、地面へと急降下。

 それを隙と見た破闇の分身たちが、一斉にディティに襲い掛かるが──


『あはっ』


 グルンッ! と水龍が回転し、近寄る破闇の分身を吹き飛ばした。

 ──分身には考える頭脳がない。

 故に、躱したり防御したりするという発想ができず、単純な行動しか取れないのだ。

 やはり、分身では力不足か──と、破闇は大虎の背中で舌打ちした。


『さてさてー。そろそろ飽きてきちゃったねー? ──大人しく死んでねー』


 水龍が上空へと舞い上がり──その口元に、巨大な水球が浮かび上がる。

 ──先ほどよりも強力な攻撃が来る。

 刀を強く握り直す破闇が、迎撃に備えて身構える──と。


『オイ破闇ィ』

「……何かしら、土御門君」

『ちっと作戦考えてみたンだがァ……どうするゥ?』


 予想外の言葉に、思わず破闇は目を丸くした。

 そして──表情を切り替え、真面目な視線を土御門に向ける。


「聞かせてくれるかしら?」

『あァ。かなり無理をする事になるがァ──』


 巨大化していく水球に目を向けたまま──土御門は、思い付いた作戦を口にする。

 それを聞き終え──破闇は不安そうに眉を寄せた。


「……それ、あなたにかなり無理をさせる事になるんじゃないかしら?」

『ンな事言ってる場合じゃねェだろォ──やれるのか、やれねェのか、どっちだァ?』

「……いいわ。あなたの作戦でいきましょう。だけど、死んだらダメよ?」

『当たり前だろうがァ』


 大虎が口元を笑みの形に歪め、低く唸る。

 そして──水球が放たれた。

 直撃すれば即死の一撃を前に──土御門は大きく息を吸い込み、破闇は刀を振り上げた。


『──ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』

「【斬撃“絶”】ッ!」


 大虎の口から雷撃波が放たれ、破闇が刀を振り抜いて斬撃を飛ばす。

 雷撃と水球がぶつかり合った──瞬間、ボシュウッ! と水蒸気が上がった。

 続けて破闇の斬撃が水蒸気に突っ込み──拮抗状態にあった水球を切り裂く。

 もうもうと立ち込める水蒸気──その中から、大虎が飛び出した。


『あはっ──死んじゃえー』


 水龍が体を捻り──土御門たちを打ち落とさんと尻尾が迫る。


『舐めッ──ンなァッ!』


 背中に乗る破闇を振り落とさんほどの勢いで、土御門が剛爪を振り抜いた。

 水龍の攻撃が不発に終わり、土御門が追撃を狙って──


『はっ──』

『あはっ』


 ──大虎を噛み殺さんと、水龍の顎門が開かれている。

 咄嗟に雷撃波を放とうと、大虎が口を開くが──

 ──バグンッ! と水龍が顎門を閉じた。

 大虎の腹部と背部に水龍の牙が突き刺さり──全身を襲う激痛に、土御門は絶叫を上げた。


『がっ──ああああああああッッ?!』

『しぶといねー。まあでも──すぐに楽にしてあげるよー』


 水龍が頭を振り──体から牙が抜け、土御門の体が空中に投げ出される。

 そして──水龍の剛爪が、土御門の体を叩き落とした。

 凄まじい勢いで地面に叩き付けられ、大虎は口から鮮血を吐き出した。

 さらに水龍が体を捻り──土御門と破闇がいる所へ、尻尾が振り下ろされる。

 衝撃で地面が割れ、辺りを砂煙が覆い隠し──やがて砂煙が晴れた時、そこには一人の少年がいた。

 【獣化】を維持できず、人の姿に戻った土御門だ。


『……あれー……?』


 破闇の姿がない事に気づいたディティが、不思議そうに眉を寄せた──直後。


「──背後がガラ空きよ」


 ──ディティの左胸部から、刀の切っ先が突き出した。

 そのまま切っ先が横に移動し──ディティの体が深々と斬り裂かれる。


『うっ──はぁ……?!』


 ディティが振り返ると──そこには、無傷の破闇がいた。

 ──破闇の使う幻を生み出す【異能力】。

 分身は簡単な行動しかできないが、大虎の背中に乗り続ける程度の事なら可能──?


『このっ、クソ『人類族(ウィズダム)』……!』


 ──雷撃波と水球が激突した際、ディティの視界を覆い隠すほどの濃い水蒸気が発生した。

 あの時に、破闇は分身を生み出し──本人はずっと隠れていたのだろう。

 【幻影】は視覚に影響する【異能力】──それを使って自身の姿を幻で覆い、ディティの視界から隠れた。

 だが──致命傷なのは間違いないが、まだディティは動ける。

 土御門の援護がなければ、空中にいる破闇を撃ち落とす事なんて──!


「……何を勘違いしてるかわからないけど」


 剛爪を振り上げる水龍を見て、破闇はどこかバカにしたように嗤った。


「──あなたに(とど)めを刺すのは、私じゃないわ」


 ──何かが、水龍の中に入ってくる不愉快な感覚。

 それを認識した──直後、ディティの頭が、熱い何かに覆われた。

 これは──


「ぶくッ、ごぽッ──ァあああああああああああああああああああああッッッ!!!」

『いっ──?!』


 ディティの頭部を両手で掴んだ土御門が、そのまま力を込めていく。

 【獣化】した影響で、土御門の左腕は万全とまではいかないが、骨はくっ付いている。その他の怪我や骨折も、応急処置程度には回復していた。

 ──頭が締め付けられる。このままじゃマズい。


『こ、のッ──!』


 土御門の腹部に肘を入れ、何とか離れようとするが──頭部を締め付ける力は緩まない。それ(どころ)か、絶対に離さないと言わんばかりに力が増した。


『ぁっ……が、ぁ……』

「ぶッ──るゥうううううううううううううううううァああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 口から泡を吐き出しながら、土御門がさらに力を込め──

 ──ゴギュッという異音が、水龍の中に響く。

 頭部を握り潰されたディティの体から、ぐったりと力が抜け──主人を失った水龍の体が、ただの水へと変化。

 重力に従い、水龍だった水が地面へと流れ落ち──土御門の体も落下を始める。


「──【瞬歩】」


 落ちる土御門の体を、破闇が受け止める。

 華麗に地面に着地し、美しい微笑を浮かべた。


「やるわね、土御門君」

「……お前コラ破闇ィ。オレァ仕留めろっつっただろうがァ。なンで首を斬り落とさなかったァ?」

「あなた、言ってたでしょう。あの『十二魔獣』を殺すのは自分だ、って」

「……あァ……そういや言ったなァ」

「だからよ。私があの『十二魔獣』を討伐したら、後から文句を言われそうだったからね」

「はン……つーかいい加減下ろせェ。自分で歩けるゥ」


 破闇の腕から飛び下り、土御門が絶命したディティに目を向けた。


「……さすがに死ンだよなァ?」

「不安ならバラバラにしておく?」

(こえ)ェ事言うなよォ……」


 戦いの余波で吹き飛ばされた服を着ながら、土御門は破闇の言葉に苦笑を漏らした。


───────────────────


「──あっ……」


 遠くから歩いてくる少年少女の姿を見た水面は、声を漏らして立ち上がった。

 水面の姿に気づいたのか、近づいて来ていた少年は小さく笑いながら手を上げた。


「虎、之介……」

「おう雫ゥ。ケガは治してもらったみてェだなァ」


 痛みを必死に隠し、あくまで余裕そうに振る舞う土御門。

 そんな土御門を見て──水面はポロポロと涙を流し始めた。


「うっ、うぅ……!」

「お、オイ? 何泣いてンだよォ?」

「よか、った……! 無事、で……よかった……!」

「なンだよオイ。オレが負けるとでも思ってたのかァ?」


 泣き続ける水面の頭を撫で、土御門は柔らかく笑った。

 それが切っ掛けだったかのように、水面の瞳から溢れ出す涙の量が増した。

 土御門の胸に顔を埋め、嗚咽を殺して泣き続ける。


「……ったく、泣くな泣くなァ。傷口に響くンだよォ」

「だ、って……!」

「はァ……安心しろォ。お前を置いて死ンだりしねェ」

「……本、当……?」

「あァ。だから離れろォ」

「……や、だ……もう、少し……この、まま……!」

「……チッ……オイ小鳥遊、とりあえず回復を頼ンでいいかァ?」

「あ、うん」


 小鳥遊の手に淡い光が宿り──土御門の傷が修復されていく。

 痛みが引いていく感覚に、土御門は小さくため息を吐いた。


「……オイ雫ゥ」

「な、に……?」

「その、なンだァ……悪かったなァ。オレなンかを庇って、大ケガさせてよォ」

「ん……女、の子……傷、モノに……した……責、任……取、れ……」

「別にオレがケガさせたワケじゃねェだろうがよォ……」


 ポンポンと水面の頭を撫で、土御門が苦笑を浮かべた。


「……この人たち、これで付き合ってないんですか……?」

「えぇそうよ。ミリアさんも不思議に思うでしょう?」

「本当ね。くっつけばいいのに」

「み、見てるこっちがドキドキしちゃうよね!」

「オイ聞こえてるぞテメェらァ」


 好き勝手言う外野に、土御門が青筋を浮かべるが──水面の頭を撫でる手は止めない。

 それだけで、土御門が水面の事をどれだけ大切に思っているかがわかる。


「……とりあえず、何とかなったなァ」


 先ほどの死闘を思い出し、土御門は何度目になるかわからないため息を吐いた。


 『上位魔獣』の《激流を司る魔獣(ディティ)》──討伐。

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