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105話

「──ガルゥアアアアアアアアアアアッッ!!」

「ふッ! しッ!」


 体からバチバチと放電する土御門が、大きく跳躍して水龍の腹を斬り裂いた。

 『黒刀』を連続で振り抜く破闇が、水龍の尻尾を斬り刻む。

 だが──


『あはっ──きかないよー』


 ──全てすり抜けている。

 それもそうだろう。水龍はディティの作り出した、ただの水なのだから。


「チッ……面倒くせェなァ……!」

「土御門君、まだ動けるかしら?」

「……あァ。左腕は死んでるが、他の場所は問題ねェ。ちっと色ンなトコの骨が折れて、死ぬほど(いて)ェ程度だァ」

「私としては、それでも動けているあなたに驚きを隠せないのだけど……」


 ──嘘だ。

 骨だけじゃない。内臓にもダメージがある。

 おそらく、あの連撃を食らった時だ──と、土御門は舌打ちした。


「はン。今は痛みなンざどうだっていい──アイツをぶち殺すのが最優先だからなァ」


 ──自惚れていた。

 オレは強いと、謎の確信を持っていた。古河に少しでも追い付けていると、確証のない自信に溺れていた。

 だから──雫が傷ついた。

 オレは、自惚れていた。この世界に来て、やっと雫から()()()()()()()を抜け出して、今度はオレが雫を()()()()()()()(おご)っていた。

 ──結局は、何も変わっていない。

 そう……オレは、あの頃と何も──


「土御門君」

「──ッ……なンだァ」

「いえ、別に……なんだか、怖い顔をしていたから」

「はっ……今から戦って相手を殺すンだァ。ニコニコしてる方が変だろうがよォ」

「それはそうだけど……まあいいわ。無理はしないようにね」

「あァ」


 深く息を吐き出し、土御門がダランと体から力を抜いた。


 ──土御門の両親はいわゆるヤンキーだ。幼い頃から髪色を金に染められたり、小学生の頃に耳にピアスの穴を開けられたり、挙げ句の果てには体に入れ墨まで入れられそうになった。

 入れ墨は何とか避けたが──金髪でピアスをつけた小学生なんて、周りから見れば異端だ。

 故に──土御門は、周りから避けられていた。

 たった一人──幼馴染みである水面 雫を除いて。


 水面は、土御門の悪口を言う者を許さなかった。

 昔から背が低く、そこまで力が強くなかった水面は、護身のために合気道を習っており──土御門をバカにする者たちを、たった一人でボコボコにしていた。

 土御門は──そんな水面に、憧れた。

 ──この子みたいに、強くなりたい。


 それから土御門は、父親に強い男になるためにはどうすれば良いかを聞いた。

 その結果が、今の土御門というわけだが。


 ──水面は、喉に障害を持っていた。

 土御門がその事を知ったのは、中学二年の頃。それまでは特に意識した事もなかった。というか、先生と水面が話しているのを聞いて、初めて水面が障害を持っている事を知った。

 話したりする事はできるそうだが、どうしても言葉が途切れ途切れになってしまうらしい。


 ──虎之、介は……なん、で……私、を……気持ち、悪……がら、ない……の……?


 いつだったか、水面にそんな事を聞かれた。

 その時は──なんて答えたのだったか。

 ああ、そうだ。


 ──お前のどこが気持ち悪いンだァ?


 水面の言葉を聞いて、水面の障害の事をバカにしている奴らがいる事を知った。

 ──水面は、オレが独りの時に傍にいてくれた。守ってくれた。

 ならば──次は、オレの番だ。

 水面を守る。独りにしない。

 その決意を胸に己を鍛え続け──いつの日からか、土御門は最強の不良と呼ばれるようになった。


 ……なのに。

 水面が傷ついた。しかも、オレなんかを庇って。

 目眩がした。体が震えた。助けないとって思った。

 それと同時──土御門は、強烈な自己嫌悪感に襲われた。

 ──守ると誓ったのに、守れなかった。憧れの人が、目の前で傷ついた。

 オレのせいだ。オレのせいなんだ──オレが弱いせいなんだよ。

 オレが弱いから……強くないから……オレが……オレ、が…………


 ──だが。

 ()()()()()()()()、雫を──オレの憧れを傷つけたテメェだけは──ッッ!!


「絶対に許さねェ──ッッ!!」


 ──バチバチバチッッ!!

 土御門の体から溢れ出す白雷が、その勢いを増した。

 輝く電光が辺りを白く染め、雷の熱が土御門の体温を引き上げる。

 膨れ上がる闘志を前に、水龍の中にいるディティは目を細めた。


『へぇー……やる気満々だねー』

「土御門君、少し落ち着いて」

「落ち着いてるっつーのォ……あァ、オレァ今、過去最高に冷静だァ」

「本当かしら……」


 (ひたい)に青筋を浮かべる土御門を見て、破闇が呆れたようにため息を吐く。


「ンな事より、今はあのクソガキをどうやって殺すかってのが重要だろうがァ……オレァ難しい事ォ考えンのァ苦手だからなァ。なンかいい作戦はねェのかァ?」

「それを私に聞かれても……」

「チッ……やっぱ星矢がいねェとダメだなァ。アイツだったら最適な作戦を立ててくれっからなァ」


 言いながら、土御門が身を低くして構えた。

 それを見て、破闇も刀を強く握って正面に構える。


『作戦会議は終わったかなー? それじゃ──死んでねー?』

「はァ──ッ!」

「ふぅ──ッ!」


 水龍が体をうねらせ──巨大な尻尾が、二人を吹き飛ばさんと迫る。

 土御門と破闇が短く息を吐き──その場から消えた。


「──ウルァアアアアアアアアアアアッッ!!」


 白雷の軌跡を描きながら、土御門がディティに襲い掛かった。

 ──先ほどまでの攻撃は、全てすり抜けていた。

 だったら──本体であるディティを攻撃する他ない。

 水龍の頭部にいるディティの体を引き裂かんと、土御門が剛爪を構え──


『そんなバカ正直に突っ込んできて──死にたいんだねー?』

「させるとでも?」

『おっとー?』


 水龍の尻尾が土御門を撃ち落とす──寸前、破闇の刀撃が尻尾を斬り落とした。

 もちろん、ディティにダメージはない。

 だが──水龍の動きを止めるのには充分だ。


「死ッ──ねェッッ!!」


 ディティの前に跳躍した土御門が、白雷を纏う剛爪を振り抜いた。

 音すらも置き去りにする一撃が、ディティの顔面を斬り裂く──寸前。


『──残念だけどー』


 ──ディティの体が、まるで滑るようにして真下へと急降下。

 ディティを裂き殺すはずだった一撃は、水龍の頭部を斬り裂くだけに終わる。

 ズバッ! と勢い良く水龍の頭部が斬り離されるが──ダメージを負った様子もなく、瞬く間に再生した。


「ンなッ──」

『あはっ』

「はぁ──【瞬歩“絶”】ッ!」


 水龍が大きく吼え、土御門を飲み込まんと顎門を開いた。

 迎撃の構えを取る土御門に、水龍が迫り──土御門が消えた。


「危ないわね……まさか、水龍の中を自由に移動できるなんて……」

「チッ……(わり)ィな、破闇ィ」

「気にしないで。それより……思っている以上に厄介ね」

「あァ……」


 大きく息を吐き、土御門がディティを睨み付ける。

 ──ディティの本体があるのは、地上から遠く離れた場所。空を飛ぶ事のできない土御門と破闇は、跳んで攻撃を仕掛けるしかない。

 だが──ディティの本体は、水龍の中を自由に動き回れる。

 地上から足を離せば、土御門たちはディティの攻撃を避ける事が難しい。

 さて……ここからどうする。

 深呼吸をする破闇が、現状打破のために頭をフル回転させ──


「はァ……仕方ねェ。これァあンまり使いたくねェンだが──アイツを殺すためだァ。手段を選ンでる場合じゃねェよなァ」


 言いながら──土御門は、着ていた服を脱いだ。


『んー?』

「ちょっ──土御門君?! 何をしているの?!」

「こっち見ンなァ。服が破れるくらいなら、最初っから脱ぐ方がマシだァ。じゃねェと、戦い終わった後に着る服がねェからなァ──【獣化“神雷虎”】ォ」


 全裸になった土御門が、両手を地面に付いた。

 ──ビキビキッ……ミシミシミシッ……

 土御門の体から、骨が軋むような異音が聞こえ始める。


「おッ──がァァァァァ……ッッ!!」


 ──そこにいたのは、巨大な金色の大虎。

 体にはバチバチと白雷を(まと)っており、どこか神々しくも見える。


「土、御門……君……?」

『──あァ、オレだァ』


 大虎の唸り声とは別に、土御門の声が聞こえる。


『まさか、この状態でも意識を保つ事ができるとはなァ……これも【大罪技能】のおかげかァ?』

『あはっ。それじゃあただ的が大きくなっただけだよー』


 水龍の口元に水球が浮かび──渦巻く激流となって放たれる。

 対する土御門は──凶悪な牙が生え揃う顎門を開け、大きく息を吸い込んだ。


『ゥルァ────ッッ!!』


 ──地面を揺らすほどの轟音。

 大虎の口から、天へと伸びる一本の白雷が放たれている。

 激流と白雷がぶつかり合い──白雷が激流を貫通。

 その先にいた水龍へと迫り──その頭部を消し飛ばした。


『……へー? やるねー』

「なんて威力……」

『オイ破闇、背中に乗れェ』

「えっ……背中に?」

『回避と迎撃はオレに任せろォ……その代わり、アイツを殺すのァ任せるからなァ。隙を見てぶっ殺せェ』

「……わかったわ。やってみる」


 大虎の上に跨がる破闇が、上空のディティに視線を向ける。


『準備はいいなァ? ンじゃ行くぞォッ!』

「えぇ!」

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