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103話

「……んー……なかなか抵抗してるなぁ」


 頭部から生えた歪な角を触りながら、ポーフィは退屈そうにアクビを漏らした。

 ──ディティは『イマゴール王国』を滅ぼしに、ヘルムートは騒ぎに乗じて『大罪迷宮』を探しに行った。

 ポーフィは現在、『イマゴール王国』から遠く離れた所でモンスターの指揮をしている。

 今の所、戦況は五分五分。

 そろそろぼくが参加して場を掻き回すか──そんな事を思っていると、ピリッと空気が張り詰めるような覇気を感じた。


「──やっと見つけたぞ。キミがモンスターの大群を操っている『十二魔獣』だな?」

「……ぼくの事を知ってるんだね。『十二魔獣殺し』から聞いたのかな?」

「お〜。聡ちゃんの言う通り、曲がった角が生えてるね〜」


 ポーフィが声のした方へと顔を向けると──そこには、少年と少女が立っていた。

 ──どちらも強い。それこそ、一人一人があの『十二魔獣殺し』に匹敵するほどに。


「……自己紹介をしておこうかな? ぼくは『十二魔獣』の一匹、『上位魔獣』の《魔物を従える魔獣(ポーフィ)》さ。きみたちは?」

「ボクは剣ヶ崎 討魔。『十二魔獣』を討伐し、この世界を平和にするために召喚された勇者の一人だ!」

「……あたしはパス〜。敵に名前なんて教えたら、何に利用されるかわからないからね〜」

「なっ……た、確かにそうだ……すまないが、ボクの名前は聞かなかった事に──」


 何かを言いかける剣ヶ崎──その頭部に、ポーフィの右腕が振り下ろされる。

 黒く禍々しい剣が、剣ヶ崎を真っ二つにせんと迫り──ガギッ! と音を立てて聖盾に受け止められた。


「人が話している時に攻撃してくるとは感心しないな」

「へぇ……ただの間抜けかと思ったけど、ちゃんと戦えるみたいだね」

「間抜けっ……?!」


 ポーフィを聖盾で押し飛ばし、剣ヶ崎がショックを受けたような表情を見せる。


「──悪いけどさ」


 ──ポーフィの腹部に迫る、濃厚な殺気。

 反射的に後ろに飛び退き──直後、先ほどまでポーフィのいた所を、火鈴の剛爪が斬り裂いた。


「あたしってばあんまり気が長くないの〜──剣ヶ崎くん。そろそろ真面目にやろっか〜?」

「い、いや、ボクは至って真面目なつもりなんだが……」


 ──ドッグンッ! ドッグンッ! ドッグンッ!

 火鈴と剣ヶ崎の体から脈打つ音が響き始め──警戒心を深めるポーフィが身構えた。

 脈打つ音が響くのに合わせ、火鈴の体に茶色の模様が浮かび上がっていく。

 火鈴の瞳が茶色に染まり、腹部に刻まれている『大罪人』の模様が明るく輝き始めた。

 剣ヶ崎の体に紫紺の模様が浮かび上がり──瞳が紫色に染まった。

 そして──左腕に刻まれている『大罪人』の模様が、紫色に輝き始める。

 ──【暴食に囚われし飢える者】と【嫉妬に狂う猛き者】だ。


「……これは……」

「『イマゴール王国』を防衛してるみんなが心配だし〜──悪いけど、すぐに終わらせるよ」

「そうだね──油断も手加減もしない。全身全霊を(もっ)て、キミを倒そう」


 一変した雰囲気に、ポーフィは思わず息を呑んだ。


「【竜人化“厄災竜”】──『厄災竜の咆哮(ディザスト・レイ)』」


 ──ビキビキッ……メキメキメキッ……!

 歪な音を立てて、火鈴の体が変化を始める。

 皮膚を茶色の竜鱗が覆い隠し、臀部から茶色の竜の尻尾が生えた。

 歯は鋭い牙へと変貌し、指先からは獲物の命を狩り取る凶悪な剛爪が生える。

 頭頂部からは二本の白く濁った角が伸び、背中から生えた竜翼をバサッと広げた。

 そして──キィィィィィ……という甲高い音。

 見ると、火鈴の口から白色の光が漏れ出しており──光が少しずつ固まり、やがて小さな光球が作られた。


「がぁああああああああああッッッ!!!」


 火鈴が大きく吼えた──それと同時、光球が光線となって放たれる。

 地面を溶かし、空気を焼きながら迫る光線──対するポーフィは、あえて距離を詰めた。

 素早く横に飛んで光線を避け、勢いを殺さずに火鈴へと迫る。

 火鈴が顔を横に動かし──光線が剣のように振るわれ、辺りの地形が変化。

 ──それすらも躱し、ポーフィが火鈴に斬り掛かった。


「──ボクを無視しないで欲しいな」


 ──ガキィンッ! と金属音が響く。

 いつの間にそこにいたのか──ポーフィと火鈴の間に割り込んだ剣ヶ崎が、ポーフィの剣腕を弾き返していた。


「ウッ──ヴヴヴォォォォォオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!」


 一対二では勝てない──そう判断したのか、ポーフィが雄叫びを上げてモンスターを呼び寄せた。

 だが──


「剣ヶ崎くん。右半分は任せたよ〜」

「ああ、任せてくれ」

「『厄災竜の咆哮(ディザスト・レイ)』」

「シルフ、サラマンダー」

『おうよ! やっちまえ!』

『うむ』

「『スピリット・ブレイド』」


 再び火鈴の口に光球が生まれ──光線が放たれる。

 顔を動かして光線を振り回し──左側から迫るモンスターの大群を一瞬にして壊滅させた。

 剣ヶ崎の聖剣に炎が宿り──続いて剣から暴風が吹き荒れ、炎の剣が巨大化。

 巨大な炎剣を横薙ぎに振り抜き──炎の斬撃が放たれる。

 その大きさ──モンスターの大群を殺してもお釣りがくるほど。

 右側から迫るモンスターの大群が炎の斬撃の餌食となり──同じく一瞬にして全滅した。


「なっ──」

「──警戒しておけばいいのは『十二魔獣殺し』だけでいい、とでも思っていたのかな? 残念だけど──ボクも、彼と同じくらい強いんだ。【増強“絶”】」


 全身の力を強化し、剣ヶ崎が聖剣を振り抜いた。

 咄嗟に剣腕を合わせるが──威力負けし、ポーフィが吹き飛ばされる。


「くっ──」

「もうわかっただろう? キミではボクたちには勝てない──大人しく降伏しろ」


 聖剣の切っ先を向ける剣ヶ崎に、剛爪を構える火鈴。

 そんな二人を見て──ポーフィは笑った。


「あっ、は──あっはははははははっ!」

「……なんだ、何がおかし──」

「ヴヴヴォォォォォ────────ッッッ!!!」


 ──先ほどまでとは比べものにならない、地面を揺らすような雄叫び。

 雄叫びに反応するように──地面を突き破り、ポーフィの足元から二匹の化物が飛び出した。


「……さすがは魔王様。ぼくがこうなる事を見越して、この試作品を付けてくれたんですね」

「……なに、あれ……」


 現れたソイツらを見て、火鈴が思わず口元を押さえた。

 隣の剣ヶ崎も、驚愕に──否。酷い嫌悪感に襲われた。


 ──片方は、見た目最悪の化物だ。

 二メートルを越す体には、至る所に人の顔のようなものが貼り付いている。それも、一つ一つが生きているかのように呼吸をしており、それぞれ異なる表情を浮かべている。

 化物の顔らしき部分には、二つの大きな赤い瞳が付いている。それ以外は、どこ見ても顔だ。

 普通の人がコイツを見たら、間違いなく失神してしまうだろう。


 ──もう片方は、下半身が人の足、腰から上は触手の何かだった。

 うねる白い触手の個数は八本で、触手の先端には黒い刃物が付いている。

 筋肉の付き方を見るに、下半身は女の足だろうか。

 そんな事を考えていると、触手の先端に付いた刃物を擦り合わせ始めた。おそらく、威嚇のつもりなのだろう。


 そんな化物二匹の隣に並び立ち、ポーフィがどこか自慢気に言った。


「魔王様の作った試作魔獣、《絶望を呼ぶ番外魔獣(グロウス)》に《破滅を招く番外魔獣(ビアルド)》だ。魔王様が言うには、特殊な攻撃方法はないけど、『上位魔獣』に匹敵するほどの力を持っている、試作魔獣の中でも成功品だって言ってたね」


 ポーフィの口元に歪んだ笑みが浮かび──火鈴たちを指差し、命令した。


「さあ。あの『人類族(ウィズダム)』共を殺──」


 ──サクッという、軽い音。

 ポーフィが自分の体を見下ろし──ゲボッと、血を吐き出した。

 そして──ズルリと、上半身と下半身が斬り離される。

 ──《破滅を招く番外魔獣(ビアルド)》が、ポーフィを斬り殺した。

 予想外の出来事に、ポーフィだけでなく剣ヶ崎と火鈴まで驚愕に固まる。


「が、ぁ……なに、をぉ……?!」

「「「「「「「俺たちは、お前の命令なんて聞かない。魔王様に造られたのが俺たちより早かったからって、調子に乗るなよ」」」」」」」


 体に付いた一つ一つの顔が、全く同じ言葉を口にする。

 《絶望を呼ぶ番外魔獣(グロウス)》の言葉を聞き、ポーフィは最後の力を振り絞って剣腕を振り上げた。

 だが──その剣腕が、グロウスに届く事はなかった。

 ──ドスドスッ! と、ポーフィの体に触手が突き刺さる。

 ズルズルとポーフィの上半身が地面の上を滑り──持ち上げられた。


「なっ──ビア、ルド……何、を──」


 口のないビアルドは、ポーフィの問い掛けには答えない。

 そのままポーフィの上半身を引き寄せ──自分の下半身の上に乗せる。

 ──ビクビクビクッッ!!

 数秒ほど、ポーフィの体が痙攣を繰り返し──ズボッ! とポーフィの上半身の背中を突き破り、ビアルドの触手が生えた。


「──ふぅ……やっと上半身を得たと思ったら、まさか男なんて……困ったわぁ」


 流暢(りゅうちょう)に話し始めるポーフィの上半身を見て──火鈴と剣ヶ崎の頭に、一つの可能性が浮かんだ。

 ──ビアルドは、他人の上半身を乗っ取る事ができる?


「あら、女の子がいるじゃない。なら、早速乗り換えようかしら──」


 ──ブワッと、ビアルドの背中から生える八本の触手が、一斉に火鈴へ放たれる。

 後ろに飛び退きながら触手を弾き返し──だが全ては避けられず、一本が火鈴の頬を撫で切った。


「あら……避けちゃったの?」

「獄炎!」

「大丈夫、(かす)り傷だよ〜……!」


 頬から流れ出る血を拭い取り、火鈴は顔を歪めた。

 ──完全に見切ったと思ったのに、当てられた。

 間違いない──ビアルドは、ポーフィよりも強い。


「……剣ヶ崎くん、グロウスを任せても大丈夫かな〜?」

「それは問題ないが……獄炎こそ大丈夫か? あのビアルドとかいう化物……強いぞ」

「わかってるよ〜……ま、死なないように頑張るよ〜」


 身構える火鈴と剣ヶ崎──そんな二人を見て、グロウスの体に付いている顔が全て嘲笑の形に変わった。


「「「「「「「問題ない……か。どうやらお前も、調子に乗っているようだな」」」」」」」

「とりあえず、早く女の子の体が欲しいわぁ。男の人のだと、声が太くて気持ち悪いのよ」


 《絶望を呼ぶ番外魔獣(グロウス)》vs【嫉妬に狂う猛き者】。

 《破滅を招く番外魔獣(ビアルド)》vs【暴食に囚われし飢える者】。

 誰も予想していなかった戦いが──今、始まった。

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