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102話

 ──時刻は少し前へと遡る。

 破闇と小鳥遊、そしてミリアは──『イマゴール王国』東門前に立っていた。


「──しッ!」


 近寄るモンスターを斬り刻み──付着した血を、ブンッと刀を振るって飛ばす。

 そして──美しい顔を歪め、モンスターの群れを睨み付けた。


「全く……キリがないわね」

「『蒼龍の逆鱗(レイズ・オブ・ドラゴニア)』っ!」


 ミリアの詠唱に従い、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がり──そこから蒼炎の龍が現れる。

 吼える蒼龍がモンスターの群れを呑み込むが──何匹かは蒼龍を避け、ミリアに向かって駆け出した。


「──【瞬歩】ッ!」


 一瞬でモンスターの前に移動し──破闇が刀を振り抜いた。

 そのまま連続で刀を振るい──絶命したモンスターの群れを見下ろし、破闇が深く息を吐く。

 ──終わりが見えない。

 新たに進軍してくるモンスターの気配を【気配感知】で感じ取り、破闇は鋭く舌打ちした。

 今はまだどうにか倒せている。と言うのも、相手が一気に攻めてこないのだ。

 まるで様子を見るように、決められた数のみが進軍をしており──数が限られているからこそ、破闇たちは迎撃できている。

 だが──もしも、今【気配感知】に反応のあるモンスターの大群が一気に攻めて来たら、その時は……


「……………」


 最悪の想像に、破闇はブルリと体を震わせた。

 小鳥遊は回復や援護がメインだ。魔法で戦うのには期待しない方がいい。

 ミリアも攻撃をしているが……もしもの時のため、三重詠唱は【守護魔法】に取ってもらっている。よって攻撃に使えるのは二重詠唱のみ。

 なんの制限もなく戦えるのは破闇だけ──だが、戦力としては二重詠唱のみのミリアにも劣る。


「……また、私が足を引っ張っているのね」


 ふっと力なく笑い──ふと、破闇は思い出した。

 ──お前らには、『大罪人』の力が宿っている。

 いつの日だったか──破闇たちに対して、聡太がそんな事を言っていた。


『俺は『憤怒』の【大罪技能】を、火鈴は『暴食』の【大罪技能】を、んで剣ヶ崎は『嫉妬』の【大罪技能】を持っている。って事は、残りの四つの大罪はお前たち四人それぞれに宿ってるって事だ』


 勇輝と土御門、そして破闇と小鳥遊の四人は、聡太の言葉を聞いて首を傾げた。


『んで……小鳥遊、お前の『大罪人』の模様は緑色だったな?』

『う、うん。そうだよ』

『だったらお前は『色欲』の【大罪技能】だな』

『聡太、なんでそんな事わかるんだ?』

『以前『大罪迷宮』を攻略した時に『大罪人』の模様を見た』


 (ふところ)から手帳を取り出し、四人に見せる。

 ──『フリード噴火山』を攻略した時に得た『大罪人』の手帳だ。その表紙には緑色の模様が刻まれている。


『これって……』

『えぇ、優子の模様と同じね』

『ってわけだ。小鳥遊、お前は『色欲』の『大罪人』の力を宿している。んで……勇輝は多分、『強欲』だな』

『あん? それも『大罪迷宮』を攻略した時に見たのか?』

『確証はない。模様自体を見たわけじゃないからな』


 そう──『シャイタン大峡谷』にいた『十二魔獣』を討伐し、攻略済みだった『大罪迷宮』に入った時。

 中はボロボロで、何もかも滅茶苦茶にされている中──聡太は、青色の模様が入った石版を何個か見かけた。

 おそらく、あの石版を組み合わせれば──『強欲』の『大罪人』の模様になったのだろう。

 聡太と小鳥遊の『大罪人』の模様を見ればわかるように、『大罪迷宮』に残っている『大罪人』の模様と、『勇者』に刻まれている模様は同じ色、同じ形をしている。

 『強欲』の『大罪人』の模様は青色──すると必然的に、勇輝が該当する事になる。


『土御門と破闇だが……どっちが『傲慢』で、どっちが『怠惰』なのかわからない。【大罪技能】が発動するか、『大罪迷宮』を攻略すればわかるだろうが……今はまだわからない』


 ──といった内容の会話だ。


「……今、この場を乗り切るためには──」


 ──目覚めるしかない。【大罪技能】に。

 瞳を閉じ、破闇が深呼吸を繰り返す。


 ──聡太は言っていた。

 俺が【大罪技能】に目覚めたのは、異世界人共への怒りが原因だ──と。


 ──火鈴は言っていた。

 よくわかんないけど、強さに飢えていたら発動したよ〜──と。


 ──剣ヶ崎は言っていた。

 ボクは……古河の強さに嫉妬をしていたら、いつの間にか──と。


 そう──全員、『七つの大罪』に関する感情が切っ掛けで【大罪技能】に目覚めている。

 だとすれば、破闇も──傲慢か怠惰、どちらかの感情が切っ掛けで【大罪技能】を発動する事ができるかも知れない。


「……私は……」


 確率は二分の一。

 どちらの感情の【大罪技能】が、自分に宿っているのか。

 わからない……だが──


「私は──怠惰だわ」


 ──ふと、破闇がそんな事を呟いた。

 おそらく、誰も知らないだろう。もしかしたら、幼馴染みの剣ヶ崎と小鳥遊も知らないかも知れない。

 本当の破闇は──誰よりも怠惰であると。

 この世界に来てからの訓練は、多分誰よりもしていない。宵闇や遠藤の方が訓練しているだろう。

 そう──元の世界でも、破闇は怠惰だった。


 破闇は、天才だった。

 頭が良く、運動神経も良い。顔も整っており、誰もが破闇の事を天才だと呼んだ。

 ──何も努力をしてないのに、破闇は常に上位の存在だった。


 何故、破闇は努力をしないのか──否。何故、破闇は努力を()()()()()

 それは──幼い頃に友人たちから言われた一言が原因だ。


『──いつも破闇ちゃんが一番で、つまらない』


 何気ないその一言は──破闇の心を深々と斬り裂いた。

 ──ああ、私が努力すると、みんなが一番になれない。みんなに一番を譲らないと。なら──私は、努力をしてはいけない。手を抜かなければならない。

 幼い破闇はその言葉を間に受け──以来、何事も手を抜き、努力をしないようになった。

 やがてそれはクセとなり──手を抜く事が、努力をしない事が破闇の中で常識となってしまった。


 剣道の大会では、何の努力もしていないのにベスト16に入り、周りは破闇の事を過剰なほどに褒めた。

 その大会で破闇は──彼を見つけた。

 自分と同じく、才能に溢れていながらそれを磨こうとしていない存在──聡太だ。

 破闇は聡太にシンパシーを覚えた。そのため、破闇は聡太の事を知っていたのだ。


 ──破闇は怠惰だ。

 実践的な訓練を全くしていない──だからあの時、《全てを破壊する魔獣(レオーニオ)》の一撃を食らい、みんなの足を引っ張ってしまった。

 今もこうして、小鳥遊やミリアに比べて制限なく戦える──はずなのに、ミリアに比べて劣っている。

 何故か? 理由は単純。

 ──破闇が、手を抜いているから。破闇が、努力をしてこなかったから。


「私は──」


 ──きっと、誰よりも怠惰だ。

 だから──もう、やめよう。

 手を抜くのは、努力をしないのは──もう、やめよう。

 これからは──もっと前に出よう。

 破闇ばかり一番でつまらないと言われても、気にせず努力を続けよう。

 だって──他人のために自分を押し殺すなんて、バカらしいでしょう?

 これだけ我慢したんだもの──もう、一番を取りに行っても良いでしょう?


「──うん……?」


 何かを感じ取ったのか、ミリアが形の良い眉を寄せた。

 直後──ドクン……ドクン……という脈打つ音。

 そして──破闇の体に、黒い線状の模様が浮かび上がった。


「ひ、光ちゃん?!」

「まさか、あれは──」


 破闇の右太ももに刻まれている『大罪人』の模様が黒く輝き始め──瞳の色が、邪悪に濁った禍々しい黒色へと変化。

 ──【大罪技能】だ。


「あ、あれ! ミリアさん、あれ! もしかして、討魔くんとか古河くんと同じっ……?!」

「【大罪技能】の発動……?! でも、いきなりどうして……?!」


 ミリアが驚くのも無理はない。

 今までの者たちは──全員、感情を爆発させる事で【大罪技能】に目覚めていた。

 破闇のように、何の前触れもなくいきなり【大罪技能】に目覚めるのは、ミリアでも予想していなかったらしい。


「ユウコ! 私の後ろへ! あの方が【大罪技能】に目覚めたのなら──暴走します!」

「えっ──うえぇ?!」


 変な声を発しながら、小鳥遊がミリアの背後へと隠れる。

 ──今の所、破闇は動いていない。

 他の三人は、【大罪技能】を発動した瞬間に襲い掛かってきたが……破闇は──


「あっ──ミリアさん、あれ!」


 小鳥遊が遠くを指差し──小鳥遊の言いたい事を理解したミリアは、思わず顔を歪めた。

 ──モンスターの大群だ。それも、先ほどよりも数が多い。

 破闇が【大罪技能】で暴走を始めたら、四重強化の【守護魔法】を使用しなければならない。

 となると、攻撃で使えるのは『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』のみ。

 どうにか切り抜けられるか──と、ミリアはようやく気づいた。

 ──破闇はまだ動いていない。


「……え……あのままだと──」


 動かない破闇に気づいたのか、モンスターの大群がスピードを上げた。

 マズい。あのままだと、破闇が──


「『蒼龍の咆哮(ブレス・オブ・ドラゴニア)』っ!」


 虚空に蒼色の魔法陣が浮かび上がり──そこから蒼龍が現れる。

 蒼龍が雄叫びを上げ、その体から蒼炎を撒き散らしながらモンスターに迫るが──それよりも、モンスターが破闇を襲う方が早い。

 大小様々なモンスターが破闇に飛び付き──あっという間に、破闇の姿が見えなくなった。


「う、そ……ひ、光ちゃんッ、光ちゃ──」


 ──ズルッと、固まっていたモンスターが横一閃に斬り落とされた。

 傷一つなくモンスターを瞬殺した破闇が、涙を浮かべる小鳥遊に笑みを見せる。


「安心しなさい。こんなザコモンスターに負けるほど、私は弱くないわ」

「うっ──うはぁ……もう、心臓に悪いよぉ……」


 涙を拭いながら、小鳥遊が心底安心したように肩から力を抜いた。

 蒼龍の進行方向を破闇から逸らし──ミリアは、驚愕に目を見開く。

 ──呑まれていない。

 一番早く【大罪技能】を使いこなせるようになった剣ヶ崎でさえ、一度は【大罪技能】に呑まれて暴走したのに──破闇は暴走する事なく、感情を制御している。


「……なるほど……これが【大罪技能】」


 懐から『ステータスプレート』を取り出し、破闇が素早くその内容に目を走らせた。


===================


名前 破闇 光

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【刀術“神域”】【瞬歩“絶”】【斬撃“絶”】【幻影“夢幻(むげん)”】【気配感知“広域”】【怠惰に嵌まり嘆く者】


===================


「色々と増えてるわね……それじゃあ試しに──【幻影“夢幻”】」


 破闇の呟きに反応し、辺りに破闇の分身が現れる。

 分身がモンスターに襲い掛かり、その体を斬り裂いた。

 ──どうやらあの分身には、実体があるようだ。


「さて……頑張るなんて私らしくないけど──久しぶりに、本気で頑張りましょうか」


 ──そこからモンスターの群れを全滅させるのに、多くの時間は掛からなかった。

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